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第7話

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「はぁ……はぁ……」
「大丈夫か?そばにいるからね」

不意に思い出して悪寒が背中を走り抜けた。意識的に深呼吸をしながら静かに心を整えていると、彼が本当に心配そうな気を病む顔色で一生懸命にウェンディの体を両手で覆い引き寄せこれでもかとしっかりと抱きしめる。

「もう気分は和らいだかい?」
「うん……ありがとう……」

数十秒間、部屋の中が静寂につつまれる。息が詰まるほどしんとしているが二人は心地良い雰囲気になっていく。

激しく打っていた心臓の鼓動が徐々に落ち着いてくる。まろやかな声で慰められると気味の悪い気分が胸から洗い流され安らいだ表情で彼と調和したくつろぎを感じていた。

しかし嵐の前の静けさけでこの後二人はいがみ合う。

「さっきは驚いたよ。ウェンディがあんな可愛い声を発するなんてね」
「頭の中で怖い記憶を思い出して動揺して……」
「怖い事?」
「うん」
「エリーゼの家で何かあったの?」

ほのかに笑いを含んだ口元に冗談のように語り出す。ウェンディは幼馴染のエリーゼに会いに行って生涯忘れることのできない身の毛もよだつ経験をした。

エリーゼの家で恐怖を感じたと心情を吐露するが、納得ができない態度で首をかしげるアルスは不意に閃く。

大方ネズミが住み着いて二人で話している時に部屋に突然出てきて鉢合わせしたんだろうな思う。もしくはウェンディは虫が苦手で極端に怖がるからそれが原因になり恐怖を感じたのかなと頭を回転させてイメージする。

「実はね……彼女の顔が心の底から怖かったの……」
「はっ?」

心苦しい口調のウェンディはエリーゼの顔の印象が不気味で不安にさいなまれたと腹を割って話す。

その瞬間アルスは間抜けな声を出し遠いところを見る目をして放心する。重大な精神的ショックを受けて数秒間頭の中身が崩壊していた。

「アルスとの関わり合いを質問されて婚約者って答えた時に劇的に変化して……」
「そ、そうなの?婚約って聞いて少しびっくりしただけじゃないの?」
「違う!嫉妬に狂った瞳で睨まれて怨念のオーラが凄かった。心の中に悪魔飼ってるのかって……」
「ふざけるな!」
「えっ?どうしたの?」
「エリーゼの可愛いところや魅力的なところを一緒に語りたかったのに!僕の命より大切に思ってる幼馴染のエリーゼが悪魔ってどういうことなんだ!」

最初アルスはひたすら心を静め平常心を保ち決して態度を崩さないように、目を泳がせながらウェンディの語り口にじっと聞き入って切り返す。

しかし、あっけなく冷静さを失う。憎悪のこもった瞳?怨念のオーラ?心の中に悪魔を飼っていた?と言われては正気でいられず心に残ったゆとりが粉々に消滅しキレてしまう。

エリーゼに出会ってから今に至るまで天使のように可愛いと思っていたアルスにとって気持ちを爆発させるには十分すぎるほどの返答だった。
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