国のために好きな恋人と別れて大嫌いな皇太子殿下と結婚〜殿下が浮気して妹が妊娠?殿下は土下座して泣きながら許してくれと…

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第41話 美しい令嬢は消える命を王子様のような優美な青年に救われる

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「ん……!?暗い。私疲れてそのまま眠って…」

ヴィオラ令嬢が目を覚ます。辺りは真っ暗で闇が深い海のように広がる森の奥。いつのまにか眠ってしまっていたことに気がつく。

立ちっぱなしで足は棒のようになりひどい疲労から3時間ほど意識を失っていた。この間、獣に襲われなかったことは不幸中の幸いで最悪の自体には至らなくてよかった。

「グルゥオオオオオオオオオオオオオオ!!」

思いがけない獣の遠吠えにビクンと体が震え寝ぼけていた意識が急速に切り替わる。身の危険を感じたヴィオラ令嬢は真っ青な顔で立ち上がって突き動かされるように全力で駆け出す。

低めで威圧するような恐ろしい獣のおたけびが風のように耳に響いてくる。現在自分がいかに危うい状況なのか何の曇りも無くハッキリと理解した。

地獄のような闇に閉ざされた視界の中をとにかく逃げることを考えて走っているがどこに向かっているのかも分からない。

恐怖が雪崩のように襲ってきて孤独で不安な気持ちが越えてはならない一線を突破する。

「キャァ!」

暗くて前方がよく見えなく体のあちこちに疲労が溜まってしまっていたので小石につまづきバランスを崩し転倒した。

手足などに激しい痛みが生じて美しい顔は苦痛にゆがみ右膝を押さえた。痛みで足に力が入らず直ぐに立ち上がることができないヴィオラ令嬢は絶望した表情でただただ無力感に苛まれる。

「ここで諦めたら終わる…頑張らないと…」

涙を耐えるのに我慢してゆっくりと立ち上がる。大きな澄んだ瞳は闇を見つめながら弱々しくて聞き取れない声でつぶやく。

それから風のように凄い勢いで走っていく。だがいくら走っても闇に埋もれた森を抜けられない。顔色はひどく沈んで心もじわじわと暗く沈んでいくのを感じる。

「なんで森の外に出られないの…」

ヴィオラ令嬢は気づいていない。獣の長い大きい叫び声に慌てていたので脇目も振らずに駆けた。だが入口とは逆の森深くのほうに向かってしまう。

一向に出口が見えず完全に誰にも見つけてもらえない迷子になってしまい走り疲れてしゃがみ込む。バタっと倒れ込んで仰向けになるとそのまましばらく動けなかった。

「私はもう駄目なの?このまま消えるの?そんなの嫌だ…レオナルド助けて…」

疲れきり望みの失った美しい顔は助けを信じて恋人の名前を小声で呼ぶ。

その時、近くの草むらからガサゴソと音がした。思いもよらない事態にヴィオラ令嬢はドキッと驚いて不安に胸が落ち着かない。声も出せずに唇が震える。

気持ちが静まり返り微動だにせず草むらをジッと見つめる。狼が顔を出した。見た瞬間怖くて心が激しく動揺したが見つかれば命はないので唇を噛み我慢する。

草むらから獣の体全体が姿を現れる。体長2メートルを超える狼でした。ヴィオラ令嬢との距離は10メートルほどで狼がその気になれば一足飛びで襲われます。

狼はクンクンと鼻を鳴らし周りの匂いを嗅ぎ始める。そしてピタッと止まると狼と目線が合う。見つかってしまい狼は大きく長い舌を出し舌なめずりしヴィオラ令嬢を獲物と認識した。

「近づかないで!向こうへ行って!」

狼がゆっくりと距離を縮める。

ヴィオラ令嬢は俊敏に立ち上がり周りをキョロキョロと見て落ちていた木の枝を拾い凛とした声で狼を威嚇するように構える。

今はいつも自分の前で盾のように守ってくれる護衛は誰一人いない。守れるのは自分だけ。しかし狼は気にせず近づいてくる。自分なら目の前にいる者などどうとでもなるとでも言うように。

「ガルゥーーーーーーーーー!!グルゥーーーーー!!」

突然狼は狂ったように何度か吠えた。今からお前を食べるぞと挨拶するように吠えたあと突風のごとく飛びかかってきた。

身も縮む思いで恐怖で立ちすくむ。恐怖の冷や汗が背中に流れヴィオラ令嬢の上品な顔は固くなって追い詰められる。怯えが走り足が震え心をぐちゃぐちゃに乱す。

「キャア!」

ヴィオラ令嬢の持っていた木の枝など狼の大きく開けた口の牙であっさりと折られてしまう。衝撃で突き飛ばされ追い打ちをかける狼。

体当たりされ後ろに吹き飛ばされた世にも美しい淑女に狼は覆いかぶさり口を開けダラダラとよだれを垂らす。ヴィオラ令嬢は狼に乗られて身動きができない。

「グギャッ!」

狼が綺麗で透明感がある細い首にかぶりつこうとした時に狼がなにかに攻撃され強い衝撃を受けて吹き飛ぶ。狼の体には矢が刺さっている。

ヴィオラ令嬢は意識がかすんで昏睡状態になった――


暖かさを感じてヴィオラ令嬢は眠りから覚めうっすらと目を開ける。体には毛布がかけられていて何となくぬくもりが伝わってくると思いそばには焚き火がある。

「気がついたみたいだね」

傷ついた神経を癒す柔らかく撫でられるような声。輝く瞳につやがある髪。王子のような優美な青年に思わず見惚れ鼓動が速くなる。

「あなたは?」
「僕はミカエル。美しい君の名前は?」
「私はヴィオラ」
「素敵な名前だ。ヴィオラが狼に襲われているところでね。僕がもう少し気づくのが遅れたら危なかった」
「助けてもらったのにお礼も言わないでごめんなさい」
「そんなことは気にしないで。お姫様のようなとっても綺麗なヴィオラを救えて僕は嬉しいよ」

ミカエルという名前の青年は丁寧に品位を感じさせる口調でヴィオラ令嬢に名前を聞いた。

少し赤くなり恥ずかしそうな顔をするヴィオラ令嬢。ミカエルが助けてくれなかったら自分は命が尽きていたと思いを巡らすと純粋な感謝しかない。

先ほどまでの地獄から抜け出して思いがけない出会いに気持ちが躍るヴィオラ令嬢は、感謝の涙と言葉を伝えるとミカエルは反射的に微笑み白い歯がこぼれる。

「ミカエルはあんな大きな狼をやつけるなんて強いのね」
「鍛えてるからさ。それとあれはただの狼じゃない。街で暮らす普通の人が出会ってしまったら生き残れる可能性はゼロに近いほどの凶暴な奴だった」

その話を聞いて背筋がゾッとし顔が凝り固まったヴィオラ令嬢。もう少しで自分は再生不能になるところだった。生命が消えかけた怯えで瞳が揺れている。

「私は運がよかったね」
「そうだね」
「ミカエルが助けてくれなかったらと思うと…」
「今は僕がいるから何にも心配いらないよ」
「ありがとう」

温かい気持ちが沸きあがってきて安心感で顔がうっとりする。美青年の癒しの声で体中の緊張がほぐれるように大きな心地よさが体を包む。

「それより何でこんな森の深くにいるの?」
「…街で突然連れ去られて。それから逃げ出してあちこち走り回ってたんだけど帰る道が見つからなくて…」

ミカエルの質問に少しの間があり、命を助けてもらったこの人は信用できると感じてヴィオラ令嬢は胸中を打ち明ける。

「ヴィオラ苦しくて辛かったね…」
「もう駄目かと思った。私はあの世に逝くんだなって…」
「僕が守るからもう大丈夫だよ」
「うん」

胸の中に流れ込んでくる色男の心からの気遣いに自分の心の中を優しく理解するような一筋の熱い瞳。溶けてしまいそうな甘い言葉に心の底でひそかに心臓が跳ねる。

瞳には星のように輝く涙が泉のように溜まり、最初の涙がこぼれ始めると流れ続けて止まらない。

まるで恋人のように強く抱きしめると、耳もとで言葉をささやき絶世の美女は彼のいとおしさに胸の高鳴りはもう抑えられない。

ヴィオラ令嬢は子供のように大きな声をあげてミカエルの胸の中でいつまでも泣いていた。
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