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第42話 男性がひと目で惚れる上品で愛らしい淑女は自分の食い意地に驚く
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絶体絶命の状況を魅力に溢れた紳士のミカエルに助けられたヴィオラ令嬢は話し合って今日はもう暗いので森で野営することになり、明日の朝早くに出発して街まで送ってもらうことになった。
「美味しい!」
「こっちもうまいよ」
「風味もいいし感動するくらい美味しい!」
「野営だからたいした食事じゃないけど喜んでくれてよかった」
野営の時に食べる食事といえば粗末で味もひどく不味い料理で一般的にカチカチの硬いパンに干し肉に乾燥させたフルーツで暖かいが味の薄く具が少ないスープ。
このスープもあればましなほうでスープがない場合は硬いパンを自分の歯で噛み切らなければならなくなり、顎が弱い人は食べるのに苦労する。あまりにも硬すぎて逆に自分の歯が欠けることも珍しくはなかった。
疑う余地もなく食べたら顔がゆがみ気持ちが悪くなる料理で、日常的に贅沢の極みのような上品で豊かな味わいの食事を召しあがる貴族の令嬢の口に合わない。
「美味しくていくらでも食べられる」
「よっぽどお腹が空いていたんだね」
「こんなに食べたら太ってしまいそう…」
「ヴィオラならかわいいから問題ないさ」
「ほんとに?」
「大丈夫だよ何も心配ない。僕が保証しよう」
「じゃあこれも頂くわ」
「あはは…ヴィオラは本当に食いしん坊だな」
幸いなことにミカエルが手際よく支度をしてくれた食事は街の食堂と変わらないどころかそれ以上の食事だった。焼きたてのような柔らかくふわふわなパンに肉と野菜の炒め物に肉や野菜にチーズがたっぷり入った濃厚なシチュー。
それにデザートにたった今採れたてのような瑞々しい果実を手慣れたようにナイフで皮をはぎ切り分けて出してくれた。ミカエルが口にした野営だからたいした食事じゃないというのは明らかな謙遜だった。
予想だにしなかったヴィオラ令嬢の大食にミカエルは愉快な顔して驚きで目を見張る。
たちまちのうちに食事を平らげておかわりまでする美人の細い体のどこにあの量が入ったのか美青年は瞬きすら忘れた表情をして見当もつかない。
二人は微笑んで心地のいい至福の時を過ごす。
「ヴィオラ寒くない?」
「大丈夫。とても暖かいわ」
「ゆっくり休んでね」
「ありがとう」
季節は冬になりかけで言葉が白い息になる気温。夜の森は冷えると言い暖かな毛布をもう一枚出して渡してくれた。ヴィオラ令嬢は冷たい風から身を守るように毛布をかぶりテントで休む。
ミカエルはその隣で焚火の前に座り火の番兼見張りをしている。目を閉じて周囲の警戒を怠らないようにしながらも睡眠はしっかりとる。
精神と肉体で経験して身についている野営の技術だ。この状況で獣が襲ってきたとして気がかりなのはヴィオラ令嬢だが、問題なく撃退できるほどの強さが十分に備わっていた。
その時不意にガサっと音がした。風によってただ木々が揺れて葉っぱや草の擦れ合う音だなと普通の人なら思うほどのとくに気にしないか、音がしたのかさえ気づかないほどの自然で小さな音。
「どうやらお客さんみたいだな」
閉じていた瞳を開けるミカエルは獣だと瞬時に判断した。
わずかな物音しか立てず気配を消して接近する身のこなしはミカエルのことを獲物だと認識して用心深く接近する。
これまでの経験からある程度相手の強さが分かるミカエルは、まだ相手の姿は見てないがなかなか強い敵だと直感する。大事なお姫様もいることだしさっさと始末するためすぐに行動した。
ミカエルは素早く胸のあたりからナイフを取り出すと相手の気配を探りながらヒュッ!と息を殺して草むらに潜む獣にナイフを飛ばす。
「グギャーーーー!」
苦痛に悶える鳴き声がしたのはミカエルの投げたナイフが見事突き当たった証拠だろう。草むらから転げ回りながら飛び出してきたのは体長3mを超える大きくて長い牙が特徴の虎だった。
「なかなか大物が出てきたね」
もがき苦しんで飛び出してきたがよろめきながらもすぐに態勢を整えた獣。背には深々とミカエルの投げたナイフが刺さっている。
ヴィオラ令嬢を襲っていた狼よりもひと回り大きくて、並の人間なら見た途端に体が震えて青ざめた顔でなりふり構わず逃げ出すのは間違いない。
とはいえミカエルに悲観するような表情はなく余裕そうにつぶやく。ミカエルと虎との向かい合う距離はわずか5mほど。
「グギャ!」
その時不意に激痛が生じた。思わず悲鳴を上げてよろめきながらも背に目をやるとまたナイフが刺さっていた。先ほども感じた鋭い痛み。
獣は獲物と決めた目の前にいる人間を襲うのに草むらで息を殺して潜み、獲物が隙を見せたところで不意打ちを食らわせてやろうと様子をうかがっていた。
それがどうしてこうなった?まさか自分が潜伏していたことに真正面にいる人間は気づいていたというのか?この人間と交戦して勝てるか?否、攻撃を感知できずなにも対応できなく突かれたのが裏付けか。
この人間は予想外に強くて到底勝てないと獣は本能的に考えて不本意ながら逃亡という決定をする。逃げるというのは恥ずかしいが肉体が滅びるよりはましだと判断した。
知性が乏しい獣と違って学習能力があった。この場合は逃げるのが賢い選択で早速とんずらしようと後ずさりをして何かに追われるように全力を尽くして尻尾を巻いて逃げる。
「ふぅ…逃げたか」
背中を丸めて逃げる獣を棒のように突っ立ったまま力のない瞳で見つめる。
容姿や雰囲気が優れている青年はため息をしてキョトンと気の抜けた表情をした。
森の朝は霧が出ていた。深く広がる霧はとても神秘的で美しい光景に見える。ヴィオラ令嬢はテントの中で目を覚ますと眠気を振り払うように座ったまま気持ちよく背筋をしっかりと伸ばす。
ミカエルに渡された毛布のおかげで風邪を引くこともなく体の調子が良く活気あふれる。パチリと目が開いたら狭いテントの中でじっとしていられない。
花のような清らかで上品な淑女は以外におてんばな性格だった。テントの隙間から顔だけ出して子供のようなあどけない表情で外の様子を探る。
「キャァーーーーー!」
それを見て反射的に絶叫した。衝撃は凄まじく驚くのも無理もない。顔を出すとすぐ目の前に数体の狼が転がっているのだから。
「ヴィオラなにかあったの!」
その叫びを聞いたミカエルは素早く駆けつけて大声で呼びかける。遠くから見知った声が耳に入りヴィオラ令嬢は肩の荷が下りて柔らかな顔になり心の安らぎに浸る。
「一体どうしたんだ?」
ガバッと勢いよくテントの入口を開けるミカエル。ヴィオラ令嬢は丸まるように小さく屈んでいる。
「そんなに震えてどこか調子が悪いの?」
「足元に獣が…」
縮こまっているヴィオラ令嬢が切なそうな瞳をして今にも消え入りそうな声でつぶやく。
「獣?これのことか。夜に見張りをしてたら気配を感じてね。襲ってきたから返り討ちにしたよ」
「そうなんだ…心臓が止まりそうだった」
虎が逃亡した後にしばらくすると狼も襲ってきてその結果でした。
彼は優しいだけじゃなくてとっても強くて逞しい。憧れを感じて胸がドキっと突き上げられるようなときめきを覚え美しい顔は初恋のように恥ずかしそうに顔を赤らめる。
**********
新作『突然両親からお見合いして結婚しろと言われた令嬢は全力で拒否して、学園でイケメンに囲まれる青春生活を送る成功者に』の連載を始めました。
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このスープもあればましなほうでスープがない場合は硬いパンを自分の歯で噛み切らなければならなくなり、顎が弱い人は食べるのに苦労する。あまりにも硬すぎて逆に自分の歯が欠けることも珍しくはなかった。
疑う余地もなく食べたら顔がゆがみ気持ちが悪くなる料理で、日常的に贅沢の極みのような上品で豊かな味わいの食事を召しあがる貴族の令嬢の口に合わない。
「美味しくていくらでも食べられる」
「よっぽどお腹が空いていたんだね」
「こんなに食べたら太ってしまいそう…」
「ヴィオラならかわいいから問題ないさ」
「ほんとに?」
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「あはは…ヴィオラは本当に食いしん坊だな」
幸いなことにミカエルが手際よく支度をしてくれた食事は街の食堂と変わらないどころかそれ以上の食事だった。焼きたてのような柔らかくふわふわなパンに肉と野菜の炒め物に肉や野菜にチーズがたっぷり入った濃厚なシチュー。
それにデザートにたった今採れたてのような瑞々しい果実を手慣れたようにナイフで皮をはぎ切り分けて出してくれた。ミカエルが口にした野営だからたいした食事じゃないというのは明らかな謙遜だった。
予想だにしなかったヴィオラ令嬢の大食にミカエルは愉快な顔して驚きで目を見張る。
たちまちのうちに食事を平らげておかわりまでする美人の細い体のどこにあの量が入ったのか美青年は瞬きすら忘れた表情をして見当もつかない。
二人は微笑んで心地のいい至福の時を過ごす。
「ヴィオラ寒くない?」
「大丈夫。とても暖かいわ」
「ゆっくり休んでね」
「ありがとう」
季節は冬になりかけで言葉が白い息になる気温。夜の森は冷えると言い暖かな毛布をもう一枚出して渡してくれた。ヴィオラ令嬢は冷たい風から身を守るように毛布をかぶりテントで休む。
ミカエルはその隣で焚火の前に座り火の番兼見張りをしている。目を閉じて周囲の警戒を怠らないようにしながらも睡眠はしっかりとる。
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わずかな物音しか立てず気配を消して接近する身のこなしはミカエルのことを獲物だと認識して用心深く接近する。
これまでの経験からある程度相手の強さが分かるミカエルは、まだ相手の姿は見てないがなかなか強い敵だと直感する。大事なお姫様もいることだしさっさと始末するためすぐに行動した。
ミカエルは素早く胸のあたりからナイフを取り出すと相手の気配を探りながらヒュッ!と息を殺して草むらに潜む獣にナイフを飛ばす。
「グギャーーーー!」
苦痛に悶える鳴き声がしたのはミカエルの投げたナイフが見事突き当たった証拠だろう。草むらから転げ回りながら飛び出してきたのは体長3mを超える大きくて長い牙が特徴の虎だった。
「なかなか大物が出てきたね」
もがき苦しんで飛び出してきたがよろめきながらもすぐに態勢を整えた獣。背には深々とミカエルの投げたナイフが刺さっている。
ヴィオラ令嬢を襲っていた狼よりもひと回り大きくて、並の人間なら見た途端に体が震えて青ざめた顔でなりふり構わず逃げ出すのは間違いない。
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