上 下
30 / 44

第30話 本気で恋して好きになった人を殺した女性の心の苦しみ

しおりを挟む
ジュエリー店主の老婆。正確には老婆に変装した若い女性で本名ルイーズ年齢は20代後半。

彼女はアンドレ殿下の手ごまのドミニク辺境伯に雇われた暗殺者だった。詳しく言えばドミニク辺境伯の更に息のかかった者に依頼される。

ドミニク辺境伯がこのような得体のしれないそれも殺し屋に直接会うわけもなく、自分の命が脅かされるような者に好んで会う必要もない。

「色男なのに殺してしまって残念だよ。でも自分の男じゃないからどうでもいいか…」

つい先ほどまで、老婆の声を出していたが標的が死んでもうその必要がなくなったと思ったのかルイーズは身勝手な言葉まで口にする始末。

だが実のところ最初にレオナルド令息が視界に入った瞬間に、胸がドキッとして一遍に頭がのぼせる。

自ら殺し屋という光の当たらない闇で生きる修羅な道を選択した女性。その時に捨てて忘れていた本能が芽をふき始めたように気がついたら一目惚れしてした。

依頼者からターゲットの写真を見せられた時も女性の心は少女の初恋のようにときめいたが、直接顔を見るとそれ以上に興奮して胸の高鳴りはもう抑えられない。

それでも自分は暗殺者でこの目の前にいる男を殺さなければならないのだと言い聞かせて、ひたすら唇を噛みしめて耐え抜く。

女性も暗殺者としてこれまで数多くの男性を毒牙にかけてきた。その中にも目鼻の整った顔の男はたくさんいたと記憶の中にある。

自分の好みの顔の男性は殺すのを惜しく思ったことも何度かあった。でも仕事なので依頼者から引き受ければ後戻りはできず結局殺すしかない。

そうしないと自分の存在がなくなるどころか、依頼者から話が色々な裏の人間に伝わり自分が平然と始末される側に転落する。

女性も今までの殺しでかなりの蓄えがある。それでも目の玉が飛び出るような高額すぎる報酬を提示されればその場で依頼を了承した。

だがレオナルド令息に恋をしたルイーズは後で思い直す。彼女の心はレオナルド令息から離れることがどうしてもできない。

こうなったら依頼者に大声で自分はこの人を好きになったから殺したくない!と泣いて訴えたかった気持ちが出てきました。

もちろん暗殺者のプライドにかけて、そんなみっともなく恥ずかしいことはどんな苦難があろうともできるわけがありません。

いくら恋い焦がれる相手でも自分は暗殺者で今は目がくらんでいるだけなんだ!と苦しい胸の内で思い、これは宿命で憎い相手だと必死に言い聞かせた。

とどのつまり殺す決断をして今足元には自分が首を絞めて殺した美青年が倒れて死んでいる。

「レオナルドごめんね…好きだったよ…」

自分が勝手に彼を好きになり夢中になって恋をした。本音は殺したくなかった想い人に暗殺者の女性ルイーズは独り言をつぶやく。

その瞳は濡れていたが決して泣いてはいなかった。でも寂しそうな顔をしてうつ伏せで倒れている愛しい人を慈しむような眼ざしで見つめていました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気づいたときには遅かったんだ。

水無瀬流那
恋愛
 「大好き」が永遠だと、なぜ信じていたのだろう。

[完結]離婚したいって泣くくらいなら、結婚する前に言ってくれ!

日向はび
恋愛
「離婚させてくれぇ」「泣くな!」結婚してすぐにビルドは「離婚して」とフィーナに泣きついてきた。2人が生まれる前の母親同士の約束により結婚したけれど、好きな人ができたから別れたいって、それなら結婚する前に言え! あまりに情けなく自分勝手なビルドの姿に、とうとう堪忍袋の尾が切れた。「慰謝料を要求します」「それは困る!」「困るじゃねー!」

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?

りこりー
恋愛
公爵令嬢であるオリヴィア・ブリ―ゲルには幼い頃からずっと慕っていた婚約者がいた。 彼の名はジークヴァルト・ハイノ・ヴィルフェルト。 この国の第一王子であり、王太子。 二人は幼い頃から仲が良かった。 しかしオリヴィアは体調を崩してしまう。 過保護な両親に説得され、オリヴィアは暫くの間領地で休養を取ることになった。 ジークと会えなくなり寂しい思いをしてしまうが我慢した。 二か月後、オリヴィアは王都にあるタウンハウスに戻って来る。 学園に復帰すると、大好きだったジークの傍には男爵令嬢の姿があって……。 ***** ***** 短編の練習作品です。 上手く纏められるか不安ですが、読んで下さりありがとうございます! エールありがとうございます。励みになります! hot入り、ありがとうございます! ***** *****

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

一体だれが悪いのか?それはわたしと言いました

LIN
恋愛
ある日、国民を苦しめて来たという悪女が処刑された。身分を笠に着て、好き勝手にしてきた第一王子の婚約者だった。理不尽に虐げられることもなくなり、ようやく平和が戻ったのだと、人々は喜んだ。 その後、第一王子は自分を支えてくれる優しい聖女と呼ばれる女性と結ばれ、国王になった。二人の優秀な側近に支えられて、三人の子供達にも恵まれ、幸せしか無いはずだった。 しかし、息子である第一王子が嘗ての悪女のように不正に金を使って豪遊していると報告を受けた国王は、王族からの追放を決めた。命を取らない事が温情だった。 追放されて何もかもを失った元第一王子は、王都から離れた。そして、その時の出会いが、彼の人生を大きく変えていくことになる… ※いきなり処刑から始まりますのでご注意ください。

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...