リンクして跳んだ先は異世界だった!?幸せを願う者にもらった未来~

すずなり。

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気にしない。

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「『逃げる』?どうしてですか?」


俺の話を聞いてきっとマオは離れていくと思っていたのに、マオは何とも思わなさそうな顔でカバンからさっきの食べ物を取り出していた。


「え・・だってほら・・俺が触れて何かしたら・・とか思わないのか?」


自分の意思とは関係なく、内緒にしておきたいことこを聞き出されたり言わされたりする力だ。

こんな力、知った途端に敬遠されてもおかしくないのだ。

今までだって力のことを知った人たちは俺から離れていった。

騎士団の中でも俺のことを遠巻きに見てる奴は多く、トープやセラドンみたいなのは少ない。

マローは俺を遠巻きに見る顕著なタイプだ。

なのにマオは俺に驚くような言葉を言ったのだ。


「カーマインさんはそんなことしない人ですよ。」

「!・・・なんでそう思う?」


俺はマオをずっと見ていたからどんな人間なのかはある程度わかってるつもりだ。

でもマオは俺のことをそんなに知らないはず。

町で会うことは多々あるけど、ちゃんと会話したのなんて昨日が初めてなくらいだ。


「うーん・・子供たちと接する態度とか、周りを気遣ってるとこか・・・あ、笑ってる顔とか?素すぎて悪いことができないタイプですね。」

「~~~~っ。」

「ふふ、こう見えて私、年間で何百人も子供と保護者を見てきてるんでだいたいわかるんですよ。カーマインさんは私利私欲のために力は使わないと思います。使うときは『どうしても』で、『相手を傷つけないように』使うんじゃないですか?」

「!!」


確かに俺はこの『力』を『人』に使うことはあまりない。

使うときはその人が困ってるのかもしれないと思ったときに聞き出すくらいで、聞き出しても本気で困ってなかったら何も行動を起こさないようにしてるのだ。


(言い当てられた・・・。)


自分よりも遥かに幼いマオに言い当てられたことにも驚いたけど、その観察力に驚きだった。

そんなにじろじろ見られていた気はなかったのに、結構見られていたらしい。


「はい、おかわりどうぞ?」


くすくすと笑いながらパンを差し出してくるマオ。

俺よりも人を見透かす能力があるんじゃないかと思いながらそれを受け取った。


「・・・ありがとう。」

「いえ。・・・ふふっ。」

「~~~~っ。」


俺は受け取ったパンにかぶりついた。

隣ではそよそよと吹く風がマオの髪を揺らし、その髪を耳にひっかけながらパンを頬張るマオがいる。

その姿を横目で見ながら、俺の頭の中はマオに言われた言葉が支配していた。


『カーマインさんはそんなことしない人ですよ』


(あんな言葉・・トープたち以外に初めて言われた・・・。)


俺のことを深く知ってないはずなのに、マオは俺を信用してくれてる。

現にほんの少しも動く気配はなく、それどころかこの時間を楽しんでるかのように草原の空気を感じてるみたいだ。

風を感じるマオの横顔が・・・とてもきれいに見える。


「うん?どうかしました?」

「~~~~っ!・・・なっ・・なんでもない・・・っ。」

「?」


胸がぎゅっと締め付けられる感覚に襲われた俺は、持っていたパンをばくばくっと口に放り込んでいった。


「とっ・・ところでこんなとこに何しにきたんだ?よく場所がわかったな。」

「あー・・やっぱり『桜』なんじゃないかと思ってゆっくり見たかったのと、なんだか呼ばれたような気がして・・・」

「『呼ばれた』?この木に?」

「うーん・・・わからないですけど。」


そう言うとマオはぱくぱくっとパンを食べ、おもむろに立ち上がった。

カバンを置いて、木の幹を手で触りながらゆっくり歩いて行く。


「この世界に最初からある木・・・あなたはどうして枯れちゃったの?」


そう問いながら歩いて行ってしまった。




ーーーーー



木の幹を触りながら歩いていた私は、この木の枝や根元を見て回っていた。

植物系に詳しくはないけど何かわかるかもしれないと思ったのだ。


「根はちゃんと生えてるみたいだし、どこも腐ってるような場所はなさそう・・・でも新芽はないねぇ。」


一本一本見える限り枝を確認していくものの、新しく芽吹いてるものの気配はない。


「できればまた咲いてくれたら・・またこの国は豊かになるかもしれない。でも・・・」


それは今川先生の仕事でもある。

彼女が呼ばれたことからこの木にその任はない。

なら・・・


「純粋に咲いてくれたいいな。あなたが花を満開に咲かせてるとこ、私・・見たいの。」


小さいころに連れて帰った『折られた桜の枝』を思い出し、今度こそ咲いてもらいたいと思ったのだ。

あの時の枝はいつの間にかどこかに行ってしまってて、もう一度咲かせることができなかったから。


「あの時の子はどこに行っちゃったんだろう・・。」


母の記憶にもなく、私の記憶も曖昧だ。

小さかった頃のことだからそれは仕方ないのかもしれないけど・・・気になって仕方ない。


「マオ、俺そろそろ戻るから一緒に行こう。」


歩きながら木を見て一周回り切った時、カーマインさんが立ちあがりながらそう言って来た。

空を見上げると太陽が傾き始めてるのがわかる。


「私はゆっくり帰るんで、お先にどうぞ?」


もう少ししてから帰っても、暗くなったころに家に着く。

暗くなってもまだ森を抜けれなかったとしても、町の灯りを頼りに進めば何となく帰れそうだと思ったのだ。


「いやいやいや、暗くなったら何も見えないぞ?足元だって危ない。」

「・・確かに。」


考えてなかった『足元』のこと。

ここに来るまでも大きくて太い幹に足を取られていたことを思い出した。


(乗り越えないといけないくらい大きなものもあったような気が・・・)


明るいうちに戻らないといけないことに気づき、置いておいたカバンを手に取って肩にかけた。


「私、歩くの遅いんで先に帰ってください。今からならギリギリ明るいうちに戻れると思うので。」


そう言ってカバンについた土を払うと、カーマインさんはがスッと私の隣にやって来た。

そして私の腰の辺りに手を置き、膝裏に手をあててぐぃっと抱きかかえたのだ。


「!?!?」

「よっ・・と。しっかりつかまってろよ?」

「へっ!?」

「『風よ、少し力を分けてくれ』。」


そうカーマインさんが言った瞬間、彼はものすごいスピードで走り始めた。


「ふぁっ!?」


枯れた木のある草原を駆け抜け、森の中に入っていく。

たくさんある木をすり抜けるようにして走っていった。


「目、閉じときな?一気に抜けるぞ。」

「!?!?」


言われた通り目をぎゅっと閉じると、カーマインさんは私の体をぎゅっと抱きしめなおした。

逞しい腕の中に閉じ込められ、『落ちる』という心配なんて微塵も感じないまま私は風を感じていた。


(すごいスピードなはずなのに風が穏やかなのはどうしてなんだろ・・・。)


不思議に思いながら目を開けてみるかどうか悩んでると、感じていた風がどこかにいってしまったように思った。

代わりにざわざわと人の声が耳に入ってくる。


「マオ、ついたぞー。」

「へ・・・?」


カーマインさんの言葉に目を開けると、ケルセンの町並みが広がっていた。

どうやら昨日よりもすごいスピードで森を抜けたようだ。


「もう着いたんですか!?」

「早い方があんまり怖くないかと思って。」


地面にゆっくり下ろしてもらった私はあまりのスピードに森と町を交互に見ていた。

一体どれだけのスピードで駆け抜けたのかを考えると身震いしてしまう。


「え・・カーマインさんって風の力も使える・・んですか?」


平衡感覚がおかしくなってふらつきながら聞いた。


「おっと・・・。風は言霊の力が使えるんだよ。火と植物は目の前にあるものなら使える。水もな。」

「すごい・・・」


ふらつく体をカーマインさんが支えてくれていた。

がっしりした体つきを肌で感じてしまい、無性に離れたくなってしまう。


(き・・・筋肉が・・・・・)


男の人とこんな近距離にいることが無かった私は免疫がなく、少しずつカーマインさんから距離を取っていった。


「もうふらついてないか?大丈夫?」

「へっ・・・平気です・・・っ。ありがとうございます・・・。」

「?」

「か・・帰ります・・・ありがとうございました・・・。」

「おぅ・・・。」


カーマインさんの顔が見れず、私は地面を見ながら足を家に向けた。

いろいろあったことを思い返しながら帰路についたのだった。






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