リンクして跳んだ先は異世界だった!?幸せを願う者にもらった未来~

すずなり。

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聖女とは。

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「・・・はい!?」


一体何を言い出すのかと思ってカーマインさんを見つめると、彼は後ろ手に頭をかきながら話し始めた。


「俺たちは・・・マオが『聖女』なんじゃないかと思ってここまで来たんだよ。」

「!?!?」

「ケルセンに来るまでの間、いくつか町に寄っただろ?お前が寄ったところ、通ったところが・・・豊かになっていたんだよ。」


カーマインさんの話では、私が通って来たであろう町や道でおかしなことが起こっていたらしい。

枯れそうになっていた川に澄んだ水が湧き出て、作物が実るようになっていたのだとか。

乗り合い馬車が通るような道は緑が生え、まるで道を作ってるかのようになっていたみたいだ。


「それは・・・雨とかで水が増えたりとか・・その雨で草が生えただけなんじゃ・・・」

「それはない。雨なんて降ってないんだから。」


作物や川の水が増えただけでなく、町の人たちの健康状態も良くなっていたらしく、その変化にカーマインさんたちは驚いたらしい。

出稼ぎに出て行った女性たちは呼び戻され、生まれ育った町で仕事ができるようになったのだとか。


「それに加えてマオが寄った城下町の店に新しい商品を売りに来た奴がいたんだ。そいつは隣の国から仕入れて来たらしいんだけど、その国、外との交流を持たない国で有名でさ・・仕入れれたこと自体が奇跡に近いんだよ。」

「えぇぇぇ・・・・」

「だから俺たちはマオが『聖女』なんじゃないかと思ってるんだけど・・・お前はどう思う?」

「どう思うって・・・・」


突然『お前が聖女か?』なんて聞かれて『。そうかもしれませんねー。』なんて答えれるものじゃない。

今川先生が立候補をして、それを国が認めたし、元より私が聖女なんて大役を賜るはずないんだから・・。


「・・・あ!今川先生は!?聖女として動いてるんですよね!?」

「いまがわせんせい?・・・あ、キララのことか?」

「そうです!」

「確かにキララが聖女ということで勤めてもらってるが・・・その成果は俺たちは知らないんだよ。ここは馬でも結構遠いから・・・」


カーマインさんがそう言ったとき、森の方からトープさんたちが来るのが目に入った。

どうも私たちを追いかけて来たようだ。


「あ・・・!カーマイン!」

「マオー!」


手を振りながら走ってくる二人。

ほどなくして私たちの前までやってきた。


「マローは?」


カーマインさんがトープさんたちの後ろを見るようにして聞くと、二人は笑顔を見せていた。


「もう城に戻ったよ。あいつは方向音痴だからしばらく時間かかるだろうし。」

「うん。『城に戻ります!』って言った後、隣の国に向かって歩き出したから僕たちが正しい方向教えてあげたくらいだしね。」

「あー・・・。で?報告はなんだったんだ?」


『報告』という言葉を聞いて、私は下ろしていた腰を上げた。

聞かないほうがいいかと思って、子供たちの様子を見にいく。


(私が『聖女じゃないか』って・・・それは無いよねぇ・・・。)


ケルセンに来るまでの町が豊かになったのは、きっと何か別の要因がある。

今川先生がこの世界に来ただけで何かしら影響がでてるのかもしれないし、彼女の近くにいたであろうカーマインさんたちが、その『聖女の力』のようなものを引き連れて歩いたから出た効果なのかもしれないのだ。

一概に私が聖女だと思うのは間違ってる。


(前の世界に戻れないことは寂しいけど、ここでゆっくり生きて行くって決めたんだし・・私は私の人生を・・・)


そう考えていた時、草原の向こうから子供たちが走ってくるのが見えた。

二人とも息を切らしながら、楽しそうに私を目指して駆けて来る。


「あ!!マオーっ!!」

「向こうまで走って来たよーっ!」


まるで『体育の授業』のような光景に、私は手を口元に軽く当てて笑ってしまった。

思わず前の世界を懐かしく感じるけど、こうやって少人数の学びも悪くない。


「ふふ。・・・カーマインさんたちの話が終わったら帰ろっか。道がわからないから教えてもらわないといけないし。」

「はーい!」

「またここに来ような!」


私は片手ずつ二人と手を繋ぎ、カーマインさんたちのところに戻った。

でも彼らはまだ話をしていたようで、その内容が聞こえてきてしまったのだ。


「キララが干ばつを解消した・・・!?」


大きな声で聞き返したカーマインさんの言葉。

やはり今川先生が聖女としての仕事を着実にこなしてくれてるようだ。


(前の世界の仕事っぷりじゃあどうなるか不安だったけど・・まぁ、よかったかな。)


雑務という雑務はほぼしてくれなかった今川先生。

生徒をランク付けしたり保護者に手を出そうとしたりと大変だった記憶が蘇ってくる。


「さっきマローが目の前で見たって言ってたんだ。やはりキララが聖女で間違いないだろう。」

「でもケルセンに来るまでの町のことはどう説明する?あの変わりようは天候くらいじゃ説明つかないぞ?」

「それは・・・わからないけど・・・」


3人は腑に落ちないところがあるのか、悩みに悩んでるようだ。

腕を組み、じっと『私』を見てる。


「---っ!?」

「・・・聖女が二人とかって・・考えられないことなのか?」

「いや、それはないだろ。」

「うん、文献にも『呼べるのは一人』って書かれていたみたいだし・・・。」


その言葉を聞いて、私は疑問に思ったことがあった。

一体『誰』が『呼べるのは一人』と言ったのかと。


(最初にそう言った人が必ずいるはず・・・。もしくは伝言ゲームみたいにどこかで言葉がズレたとか・・・。)


そう考えはするものの、今川先生が仕事をしてくれてるのならそれでいいと思っていた。

私は巻き込まれたけど、こうやって自由にさせてもらってるのだから不満なんてないし。


「干ばつが解消されたならよかったじゃないですか。きっと今川先生・・・キララさんがこの世界を元に戻してくれますよ。」


笑顔でそう言うと、カーマインさんたちはお互いに顔を見合わせた。


「まぁ・・。」

「そうだね。」

「なんか引っかかるけど・・・まぁいいか。」


そう言う3人に、私は子供たちの手を軽く引っ張って見せた。

そろそろ戻りたい合図を送る。


「帰り道、教えてください。そろそろ戻らないと・・・。」

「あ・・・!悪い!すぐ戻ろう!」


太陽を見上げたカーマインさんが慌てて立ち上がった。

そしてトープさんとセラドンさんと目を見合わせて・・・


「セラドン、乗り物頼んだ。」

「はいよ。」

「トープ、風で浮かせてくれ。」

「了解。」


カーマインさんの指示で二人は右手をスッと前に差し出した。

親指と中指をぐっと押さえ合わせ、パチンっ・・!と、指を弾く。

するとどこからともなく枯れ枝と大きな葉がたくさん飛んできたのだ。


「へ・・!?」


飛んできた枯れ枝と大きな葉は合わさるようにして絨毯のような形になっていった。

ふわふわと浮いてる様子から、まるで未来のような乗り物。

それを見て子供たちは大興奮だ。


「うわぁぁ・・!!」

「すっげぇ・・!!」

「トープはメイズと、セラドンはコパーと乗れ。マオは俺とな。」


子供たちは言われた通りトープさんたちの元に駆け寄っていく。

私は未知の乗り物を見て足が竦んでしまっていた。


「マオ?」

「むっ・・無理無理・・・っ!」


子供たちは嬉しそうに葉っぱに乗って座ってるけど、木と葉っぱだけの乗り物なんて不安要素がたくさんありすぎて私は乗れそうにない。

もし落ちたりしたらと考えてしまうのだ。


(そもそも乗れるの!?浮いてるんですけど!?)


思わず後ずさりをしてしまう私。

どうにかして歩いて帰ろうと思ったとき、カーマインさんが私に近づいて来た。

そして真ん前に立ったかと思うと、私の背中に手を回して膝裏反対の手をあてひょいと抱えたのだ。


「ひゃぁ!?」

「絶対落ちないから大丈夫だって。」

「無理無理無理無理・・・っ!!」


いろんなことが無理過ぎた私を、カーマインさんは浮いてる葉っぱの上にそっと座らせてくれた。

まるで高級ソファーに座ってるかのようなふわふわ感に、私は『浮いてる』ということを一瞬忘れてしまうほどだった。


「わ・・・すごい・・・」

「スピードは出さないから。ほら、行くぞ。」


そうカーマインさんが言ったのを合図に、絨毯のような乗り物は進み始めた。

横向きに進む乗り物の進行方向にカーマインさんが横向きになるように座ってる。


(・・・二輪車の後ろに座ってるみたい。)


先頭にあたるカーマインさんも横向きなのは変な感じだけど、椅子に座ってるような感覚はまるでバイクの後部座席。

行きと違ってゆっくり流れる景色に私は少し興奮気味になってしまう。


「すごい・・・!風が気持ちいいですね・・・!あっ・・あんな向こうまで見える・・・!」


初めての体験にきょろきょろと辺りを見回してると、カーマインさんの手が私の腰を掴んだ。

ぐっと引き寄せられ、カーマインさんと体がくっついてしまう。


「ほら、落ちるなよ?」

「~~~~っ。」


子供みたいにはしゃいでしまったことを後悔しながら、私は俯き気味に正面を見た。

歩くよりも走るよりも早いスピードだけど、車よりは遅い。

頬にあたる風は心地よく、私の髪の毛をなびかせていた。


「・・・カーマインさんも何か『力』があるんですよね?」


見上げると目に入るピアスのような五角形の耳飾り。

子供たちの前では見せてくれなかったけど、何かの力を持ってることは間違いない。


「・・・あるよ。」


そう言っただけでそのあとは口を開こうとしないカーマインさん。

これ以上は聞いてはいけないことだと瞬時に判断した私は、そのままじっと前を見ることしかできなかった。

そしてしばらくその乗り物に揺られたあと、私たちは町と森の境目に到着したのだった。











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