リンクして跳んだ先は異世界だった!?幸せを願う者にもらった未来~

すずなり。

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物置部屋。

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「・・・ちょっとバラバラにしまいすぎじゃない?雑巾と絵を一緒にしまうとか・・何考えてんの・・。」


片づけをしてるうちに気づいてきた乱雑なしまい方。

わかりやすく取りやすいようにまとめていく。


「掃除用具は結構使用頻度が高いよね。絵はたぶんしまってるだけだから・・・あ、なんか裁縫道具出てきた。」


何かを片付けようとしたら新しい何かが出てくる。

破れたシーツや解れた掛布団なんかも出てきて、寝るには少し厳しそうな様子に私は首をかしげていた。

水があれば拭き掃除もできるのにとか思いながら、あっちこっちに移動しながら頭の中も整理していく。


「とりあえずここは異世界。私は邪魔者。元の世界には戻れない。殺されるかもしれない。」


逃げると追われて殺されるのがオチなのはよめていた。

だからここで解放されるチャンスを待たないといけないのだ。


「何か聞かれたら『関係ない』と『勝手に生きて行く』ってことをアピールかな?」


そんなことを考えてると、ガチャガチャと外鍵が開けられる音が聞こえてきた。

じっと扉を見ると扉は開けられ、メイド服を着た人が二人入って来た。


「服と食事です。」


そう言って二人は折りたたまれた服とトレイに乗った食事を近くの棚のようなところに置いた。


「あ・・ありがとうございます。」

「それでは。」


出て行こうとする二人だけど、私は声を上げて止めた。


「あ・・!待ってください・・・!」


二人は足を止め、少し怪訝な顔をしながら私を見た。


「あの・・ここにある道具って使わせていただいてもいいですか?」


そう言って雑巾を指さすと、二人は静かに頷いてくれた。


「どうぞ。」

「ありがとうございます。」


そのあと二人は部屋から出て行き、また外から鍵をかけられる音が聞こえてきた。

私は用意された服を手に取り、ばさっと広げてみる。


「・・・ワンピースみたいな?」


レースがあしらわれたワンピースドレスのようなデザインの服だ。

グレーな色味でロングタイプなのか丈がものすごく長く、私の身長じゃ裾を引きずりまくってしまう。


「!!・・・さっき裁縫道具見つけた!」


縫い直せばいいことに気がついた私は見つけた裁縫道具を取りに行き、埃のかぶった椅子を手で払って座った。

裁縫道具の箱を開け、ワンピースと同じ色味の糸を探していく。


「これが一番近いかな?」


いい色の糸を見つけた私はその糸を避けて置き、服の上からワンピースを着た。

足元がすっぽり隠れてしまい、床で生地が重なってるのが見える。


「10センチくらいかな?」


着たワンピースを脱ぎ、床を雑巾で乾拭きしてからきれいに置いた。

そして鋏で裾を切り落としていく。

鋏が入ったことでギザギザになってしまった裾を1センチ幅で二回折り、針で固定していった。


「まち針が無いのか、この世界・・・。」


抜けてしまわないように注意しながら固定していき、長針に糸を通す。

そして私は裾をまつり縫いしていった。


「こういう時、幼小中高の教員免許持っててよかったと思うわ・・・。」


中高の免許は家庭科で取得していた私。

将来のことを考えて家庭科を選んだけど、まさかな将来を迎えて微妙な気持ちに陥った。


「この時の為ではないと思うんだけどー・・・。」


そんな独り言をつぶやきながら縫っていき、私はワンピースのまつり縫いを終わらせることができた。

着ていたスーツっぽい服を脱いで着替えていく。


「うん、裾の長さはちょうどいい!」


ちょうど足首くらいの長さになってくれたワンピース。

鏡がないのが残念だけど、私は体を左右に振ってひらひらと動く裾を見つめた。


「ふふ。・・・そう言えばオシャレなんて大学の時以来だなぁ・・・。」


髪の毛は新卒新任の時からずっと染めてないし、服だってスーツっぽいのしか持ってない。

こんなひらひらしたスカートなんて履くのは久しぶりすぎて、なんだかそわそわしてしまう。


「・・・戻れないなら・・自由に生きるのもいいかもしれないなぁ。」


そんなことを考えながら私は持ってきてくれたご飯に手を伸ばした。

具がほとんどないスープと、厚みのあるバゲットのようなパンだ。


「パンがあるっていうことは、小麦も窯もあるってことだよね。ピザとか食べたい・・・。」


私はパンをちぎり、スープに浸した。

もう陽が暮れかけてる窓の向こうを見ながらパンを口に運ぶ。


「・・・おいしいとは言えないけど、食べれるだけありがたいや。」


用意してもらったご飯を全て平らげた後、扉の近くに棚を移動させた。

その上にご飯が乗っていたトレイを置き、真っ暗になる前に寝る準備を整えていく。


「とりあえず綺麗そうなシーツと布団用意して・・・寝るとこは・・・床は嫌だな、絶対体が痛くなる。」


時間が過ぎるごとに暗くなっていく部屋。

私は窓辺に布団の塊を作り、その上に寝ることにした。

こういう時、低身長は得なのだ。


「ふかふかだけど、埃っぽい・・・。明日、晴れたらこの窓から布団干そ・・。」


そんなことを思いながら日が暮れていくのを見つめ、夜になった空を窓から見る。

月や星は前の世界と同じみたいで、空高くに輝いていた。


「お父さんとお母さんも私のこと忘れちゃったのか・・・。寂しいな・・・。」


帰りたい気持ちと帰れない現実が私の中でぐちゃぐちゃに混ざり、涙が頬を伝った。


「弱気にはならない。私は私のできることをしていく。・・・私がみんなのことを忘れないから・・。」


伝う涙を拭わず、私はそのまま目を閉じていった。




ーーーーー



一方そのころ、王と共に行動をしていた今川希星は用意してもらった豪華なドレスを身に纏って王子たちと団欒をしていた。

万桜に出された食事とは雲泥の差があるほどの豪華な食事を口にしながら、王子やその護衛たちと親睦を深めていってる。


「いやー、こんなかわいらしい女性が聖女だなんて、嬉しい限りだな!」


王は上機嫌で蒸留酒を口にした。

それに続くようにして王子もグラスに入ってる蒸留酒をぐぃっと飲んでいく。


「本当にそうですよね。えーと・・・キララ?」

「はいっ。私も呼んでいただいて嬉しいですぅ。」


今川希星は王たちに下の名前で名乗っていた。

平々凡々な苗字よりも下の名前のほうが自分に相応しいと常々思っていたからだ。


「あ、ちなみなんですけどぉ、聖女って何をするんですかぁ?」

「聖女の仕事かい?明日詳しく話すけど、今、この国は飢饉に見舞われてるんだ。」

「飢饉?」

「そうだ。」


王子はこの国のっ現状をキララに話し始めた。

国内のいたるところで干ばつが相次いでいることを。

水不足は作物の収穫に影響を及ぼしていて、民の暮らしが徐々に悪くなっていってるのだ。


「酷いところは一食を三日に分けて食べてる。」


そう聞くと大変な事態だと誰もが思うところだが、キララはそうは思わなかった。

今、自分の目の前にはステーキやサラダ、それに具だくさんのスープにお酒が並んでるから飢饉に見舞われてるとは思えないのだ。


「へぇー。」

「聖女はただ存在するだけで状態が改善されると文献にある。だからキララの準備が整ったらその土地に出向いてしばらく滞在してほしいんだ。」

「滞在ですかぁ?」

「あぁ。もちろん宿や食事は最高の物を用意する。キララはただそこにいて、改善されるのを待ってくれたらいい。」

「へぇー・・・。」


教師の仕事よりもよっぽど楽だと思ったキララは、自分への待遇に内心ニヤついていた。

王子が『干ばつで大変な土地に行くのに最高の宿と食事を用意する』と言ったからだ。


(これ・・・私が欲しいものを言ったら全部用意してくれるんじゃなぁい?)


一度試してみようと思ったキララは、着ていたドレスの胸元をぐぃっと引っ張って見せた。


「そおいえばぁ、ちょっとぉ、この服あんまり好みじゃないんですけどぉー・・。」


そう言うと王子は手を挙げて近くの侍女を呼んだ。


「キララ、あとでこの侍女に服の好みを伝えてくれないか?明日には用意できると思う。」

「!!・・・はぁいっ。」


王子がキララの言うことを聞いたことで、キララは王子のことを『自分より下』だとランク付けした。

楽な聖女の仕事をしながら欲しいものを欲しいだけ手に入れれる夢のような環境に、『自分の居場所はここだ』と思ったのだ。


(やっぱ人生はイージーモードじゃなきゃやってらんないわよねぇ。・・・お生憎さま、羽柴せんせ。)


自分のことを散々見下すような発言が気に入らなかったキララは、逆転したような立場にご満悦のままグラスに入った蒸留酒に口をつけたのだった。




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