リンクして跳んだ先は異世界だった!?幸せを願う者にもらった未来~

すずなり。

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頭が痛い。

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ーーーーー



「ねーねー、羽柴せんせー!」


1時間目の理科の授業をしてる時、2組のクラス委員長『野崎くん』が教室後方の扉を開けた。


「え・・どうしたの?野崎くん。」


困ったような顔をして立っていた野崎くんはクラスを見渡し、私をじっとみた。


「今川せんせー、ずっとスマホ見てて全然授業してくれないんだけどー・・・。」


その言葉を聞いて、私は手に持っていたチョークを床に落とした。

不安に思っていたことが起こってしまったようだ。

とりあえず自分のクラスの授業もあることから、手元に準備していたプリントを近くの生徒に手渡す。


「ちょっとごめん!これ配って解いといて!」


そう言って私は2組を飛び出し、1組の扉を開けた。

すると教壇に今川先生の姿はなく、教室内にある先生用のデスクに肘をつきながらスマホを触ってる今川先生がいたのだ。


「ちょ・・・今川先生!?授業はどうしたんですか!?」


中に入りながら聞くと、今川先生は煌びやかな爪で生徒たちを指さした。


「えー?ちゃんとプリントさせてますよぉ?このノートに『プリントを解かせて学習確認させる』って書いてたんでぇー。」


そう言われてクラスを見渡すと、机の上にプリントがあるのが見えた。

分からないところが多すぎるのか、教科書を見ながら解こうとしてる生徒や諦めてぼーっとしてる生徒の姿が目に入る。


「いやいやいや、プリントで確認するのは最後ですよ!それまで授業して教えないと・・・・!」

「今どき、塾行ってる子がほとんどでしょー?なら学校なんて復習程度でいいじゃないですかぁ。」

「!・・・塾は行ってる子もいれば行ってない子もいます!学校で習うことが生徒たちが初めて知ることなんですよ!勝手に決めつけずにちゃんと授業してください!」


基本すらしようとしなかった今川先生に、私は授業の進め方をざっと説明した。

この授業でどこまで進める予定なのかと、習熟度を見るためのプリントの説明。

プリントをさせながら各生徒のところを回って、理解できてない子がいたら教えることも伝えていく。


「私、自分のクラスに戻らないといけないのでここまで授業をしてからプリントさせてください!」


そう伝え、私は1組を飛び出して自分のクラスに戻った。

クラスを離れていたのは数分だけど、その数分がかなりもったいない。


「みんなごめんね、授業の続きをするからちょっとプリント置いてー。」


私は授業のスピードを少しだけ早くした。

上手く授業を進めることができたようで、チャイムが鳴る時にはなんとか今日進める予定のところまで行くことができ、ほっと胸を撫でおろす。


(問題は今川先生・・・誰か空いてる先生が補助についてくれたらいいんだけど・・・)


基本すらわかってない新卒先生に初っ端から授業は厳しい。

でもうちの学校は教員不足で、雑務を兼務、さらに兼務、もひとつ兼務は当たり前の環境だった。

そんな状況で誰かが今川先生の補助につけるとは到底思えないのだ。


「はぁー・・・とりあえず明日の指導要領をもうちょっと詳しく書いて、その通りに授業を進めてもらうように教えないと・・・。」


大きい生徒ができたことで頭が痛くなっていく。

私は授業をこなしながら毎時間呼ばれる1組の対応をし、今川先生の分の明日の準備を頭の中で組み立てながら慌ただしい一日を終えていった。




ーーーーー



「いや・・・無理・・・・」


生徒たちが下校したあと、夜10時まで雑務をしていた私は家に帰った後、倒れるようにしてベッドに沈んだ。


「結局学校だよりはまだできてないし、今川先生の分の授業の準備あるから二倍の時間かかるし、修学旅行の説明会の準備もまだできてない・・・・」


テストの丸つけをしながら一定の点数を取れなかった子供たちに行う再テストの準備をし、保護者から回収した修学旅行前の健康診断問診票の確認もしていった。

保険証のコピーが添付されてなかった家には添付願のプリントを添えて返却する準備をし、全て揃ってる家の分はファイルに入れて修学旅行携帯バッグに入れておく。

終わりが見えない雑務の中で限界を感じた私は夜10時を過ぎた時点で帰ることに決めたのだった。


「ご飯・・・もういいや・・・・」


早く寝たかった私はパンツスーツっぽい服を脱いでハンガーにかけた。

薄く塗っていたメイクを落とし、一つに束ねていた髪の毛を解く。

肩まである髪をざっと櫛で梳かしたあと朝ごはん用に炊飯器を仕掛け、またベッドに沈んだ。


「明日は早くに学校に行って・・・学校だより・・作っ・・・て・・・・zzz」


いろいろ考えなきゃいけないことを頭に思い浮かべながら、私は夢の世界に旅立っていく。

夢の世界は自由に過ごせる空間で、私は遥か昔・・・子供のころの夢を見ていた。

あれは確か・・・3歳のころだ。


(あー・・・家族で行ったお花見の時のやつだ・・・。)


ふわふわと浮かんでる私の眼下に、家族でお花見をしたときの映像が映っていた。

国内最大の枝垂れ桜を見に行った私と両親は、誰かが折ったであろう桜の枝を見て悲しんでいたのだ。


(毎年ニュースになってるよね、自己満足で『映え』とか言って枝を折っちゃう人。)


写真を撮りたいがためだけに、折るという愚行を犯す人。

桜も生きてるんだからそんな悲しいことをしなくてもいいのにと思ってしまう。

3歳だったころの私も今と同じことを考えてるようで、目に涙を溜めてるのが見える。


(あれ・・・?確かあの枝って持って帰って挿し木したような気がするけど・・・あのあとどうなったんだっけ。確か名前もつけたような気がする・・・)


考えるようにして夢の中で目を閉じる私。

目を閉じたと同時に深い眠りについたようで、そのあとの記憶はどこかに飛んで行ってしまったのだった。




ーーーーー



翌日。


「教頭先生、ちょっと今川先生に補助ついてもらえませんか?彼女、初めての授業で不安ですし・・・」


朝、教頭が出勤してきたときに私はそう相談をもちかけた。

昨日のことも話して理解を仰ぐ。


「毎時間生徒が私を呼びに来るので私のクラスの授業も少しずつ遅れてきてます。1組に関してはもっと遅れてきます。なので補助についてもらいたいんです。」


そう話すと教頭は腕を組み、軽くため息をついた。


「はぁー・・・今川先生の指導は羽柴先生に頼んだでしょ?だから補助につくなら羽柴先生がついてくれないと。」

「え?・・・何を言ってるんですか?私も担当クラスがあるんですけど・・・」


私が1組の補助につくなら、2組は誰が授業をするのだという話だ。


「受け持ちクラスの授業をしながら、今川先生の補助をすればいいんだよ。そんなこともわからないんですか?」

「え・・・自分のクラスの授業をしながら、隣のクラスの授業補佐をする・・・ということですか?」


そんな馬鹿な話があるのかと思いながら聞くと、教頭は少し怒り気味な雰囲気を醸し出しながらデスクをバンっ・・!と、叩いた。


「そうしかないだろう!?もうキミに任せてあるんだからどうにかしてください!!」

「!!」


教頭はそう言って職員室から出て行ってしまった。

誰かに助けを求めたくて職員室を見渡すと、他の先生たちはスッと目線を反らしていく。

誰でもこんな面倒ごとに巻き込まれたくはないのだ。


(はは・・・あんな見た目の新卒新任なんて、誰も助けに来てくれないよね・・・)


どうしようかと思いながら自分のデスクに腰を下ろしたとき、近くにある電話機が鳴り始めた。


「おはようございます、小学校の羽柴です。」


電話に出ると受話器の向こう側から保護者の怒鳴り声が聞こえてきた。


「ちょっと!!6年1組の三村ですけど!!産休代理先生が授業を全くしないと子供から聞いたんですけどどういうことですか!?」


キーンと耳鳴りがするほどの大きな声に、私は思わず受話器を耳から遠ざけた。

そして保護者の言い分が終わった後、受話器を耳にあてて落ち着いた口調で話し始める。


「おはようございます、三村さんのお母さま。昨日から新しい先生が担任に着いたのですが、不慣れな部分がまだ多く、ご迷惑をおかけしてます、申し訳ありません。補助の先生もつきますので、徐々に元通りの授業に戻れると思います。もうしばらく時間をいただけませんか?」


電話機越しで頭を下げながら謝り、改善策を提示するとお母さまも落ち着いて話し始めてくれた。


「羽柴先生がいうなら待ちますけど・・・」

「ありがとうございます。・・ところで三村さん、最近ピアノの発表会があったって嬉しそうに話してくれましたよ?難しい曲を最後まで弾ききることができたって嬉しそうに話してくれて・・・・」

「!!・・・そうなんですよ!羽柴先生に受け持っていただいてた時はもう辞めるって言ってたんですけど結局続けてて・・・・」

「今度、音楽室で聞かせてもらう約束もしてるんですよー、楽しみです。」


そんな雑談も交え、お母さまにはもう少し時間をくれるようにお願いして私は電話を切った。

それと同時に今川先生が職員室に入ってきて、自分のデスクの上に真新しいノートとペンを鞄から出して置いていくのが見えた。


「えーっとぉ、出席番号1番の有田くんっと・・・・」


ノートのページの一番上に子供たちの名前を書いていく今川先生。

何をしてるのか覗き込むと、私に気がついたのか今川先生が私を見てにこっと笑った。


「あ、おはよおございますぅ、羽柴せんせ。」

「お・・おはようございます・・・何してるんですか?」

「え?あ、これですかぁ?今日の朝の会の時に自己紹介してもらおうと思ってぇ、ノート用意したんですぅ。」

「自己紹介・・・・」

「はいっ、子供たちのコト、覚えようと思ってぇ。」


その言葉を聞いて、昨日の経験から少し成長してくれたのかと思った私。

子供たちと関りを持ってくれるならと思い、私はその行動を見守ることにした。


「今日の授業はわかりますか?進め方をまとめたんでこれを参考にしてしてみてください。わからないところは都度聞いてください。教えますので。」


そう言って私は昨日まとめたノートを手渡した。

今川先生はそれを受け取り、パラパラとめくりながら見ていく。


「・・わかりましたぁ。」

「・・・。」


まだまだ不安を抱えながらも時間は過ぎていき、予鈴が鳴る。

私と今川先生は一緒に職員室を出て、各々のクラスに向かっていったのだった。




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