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捻挫。
しおりを挟む雄大さんの姿を見た瞬間、新隊員さんは立ち上がった。
背筋をシュッと伸ばして敬礼をしてる。
さっきまでの姿からの変わり様に・・・私は吹きだしながら笑ってしまった。
雪華「あははっ。」
圭「?」
雄大「どうした?」
雪華「急に背筋がビシッて伸びたから面白くてっ。」
圭「---っ!」
雄大「面白いって・・・ほら、肉のおかわりは?」
雄大さんの手にはお皿があった。
お皿にはてんこ盛りのお肉がある。
雪華「私はもう大丈夫だよ。歓迎会なんだし、みなさんでどうぞ?」
雄大「そう?」
雪華「あ、川のほうに行ってきてもいい?こっちはあんまり来たことないけど上の方見てみたい。」
カフェの仕事が終わったら家に帰ってくる。
休みの日は春樹とデートか、新しいレシピを作るために家で料理を作りまくってるからこの辺近辺のことはあまり知らないのだ。
雄大「いいけど・・川に落ちるなよ?」
雪華「そこまで鈍くさくないよ!」
雄大「ま、落ちても全員が助けに行くけど(笑)」
雪華「じゃあ安心して落ちれるね!」
雄大「だから落ちちゃダメなんだってば・・・。」
雪華「ふふっ。」
私は新隊員さんに話をしてくれたお礼をいい、河原を歩き始めた。
大きい石がごろごろと転がっていて歩きにくいけど、水が流れる音には心が躍った。
済んだ水がちゃぷちゃぷと音を立てながら流れていて・・・癒される。
雪華「きれいー・・・あ、木陰がある。」
ふと見上げれば大きな木がせり出してるのが見えた。
葉が影を作ってる。
雪華「ちょっと座ろっかなー。」
昼間は日差しが強い。
水辺の風は涼しいから・・・木陰に座ると気持ちイイこと間違いなしだ。
私は木陰を目指して歩くことにし、足を踏み出した。
雪華「ちょ・・・この辺、大きい石ばっかり・・・」
上流に近づいているからか、河原に転がってる石が大きいものになっていく。
気をつけながら歩いて行くものの、踏みしめる石が自分の足よりも大きくなっていき、重心が定まらない。
雪華「よっ・・・ほっ・・・」
上手くバランスを取りながら歩いて行くものの、ふとした拍子に足を滑らせて・・・左の足首が一瞬、おかしな方向を向いた。
ぐきっ・・・!
雪華「あいたっ・・・!」
無事なほうの足で片足立ちをする。
そーっと足を下ろして体重をかけると・・・足首に電流が走ったみたいな痛みが襲った。
どうも足首をやっちゃったらしい。
雪華「痛い・・・。」
とりあえず木陰まで行こうと思い、足を進める。
ひょこひょこと歩きながら両手でバランスを取り、なんとか木陰にたどり着いた。
大きな石に腰かけて、足首を見つめる。
雪華「見るの怖いけど・・・見たほうがいいよね・・・。」
ドキドキしながら靴を脱ぎ、くつしたを脱いだ。
雪華「あー・・・これはヤバい・・・?」
青くなってるのがわかる足首。
痛みから考えたら捻ったことは間違いなさそうだ。
雪華「わー・・呼ばれておきながらケガとか・・・雄大さんには言えないや・・。」
私は脱いだ靴下を履き、靴を履いた。
足の痛みを忘れようと、木陰から川を見つめる。
少し下流を見れば、雄大さんたち消防署員さんたちが集まってるのが見えた。
雪華「みんな仲がいいとか・・・素敵だなー・・・。」
カフェの従業員は人数が少ない。
加えて入れ替わりの業務だから・・・顔を合わせる時間が少ない人の方が多い。
だからこんな大人数とか・・・羨ましい。
雪華「あ、雄大さんがこっちに向かって来てる。」
私に向かって足を進める人が一人。
良く知った背格好の人は・・・雄大さんだ。
雪華「どうしたんだろ。もう片づけの時間かな。」
私に向かって駆けてくる雄大さんを、座ったまま見ていた。
彼は大きい石を避けながら、ひょいひょいと走ってきた。
雄大「せーつかっ。」
雪華「ふふ。もう片付け?」
雄大「うん。迎えに来た。」
『迎えに来た』と言われて一瞬言葉が詰まった。
来てくれたことは嬉しいけど、足をケガしてしまってる。
この状態で立ち上がると・・・雄大さんたちに迷惑をかけてしまうことは確実だ。
雪華「わ・・たし、もうちょっと休んでたいんだけど・・いい?」
雄大「いいけど・・・なんかあった?」
雪華「涼しくて気持ちいいから・・・。」
そよそよと吹く風に、私は自分の髪の毛を耳に引っ掛けた。
雄大「・・・今日、このあと家に帰るだけ?」
雪華「え?・・・うん。そうだけど?」
雄大「雪華って・・・すごく美人だよね。」
雪華「えぇ?そんなことないよ。」
雄大「いいや、そんなことある。」
雄大さんは私の前に屈み、じーっと顔を覗き込んできた。
雄大「かわいいのか・・美人なのかはその時々によって変わる。今、髪の毛を引っかけたのは・・・すごく艶っぽかった。」
雪華「~~~~っ!」
雄大さんの両手が伸びてきて、私の両頬を捕らえる。
それは・・・キスの合図だ。
何度も・・・何度も何度もしてきたことだからわかる。
雄大「ほんとはここで食べちゃいたいけど・・・これで我慢するよ。」
そう言って私は唇を塞がれた。
雪華「んっ・・・。」
雄大「ほら、今は『かわいい』。」
雪華「もうっ・・・!」
雄大「ははっ。そこそこで戻ってきなよ?片づけしてるから。」
雪華「うん、ありがとう。」
雄大さんは軽く手を振りながら戻って行き、私はそれを見つめていた。
雄大さんに愛されてることがひしひしと伝わってくることが・・・この上なく幸せだ。
雪華「このまま・・・雄大さんと結婚とか・・・するのかな。」
そんなことを考えながら川を見つめてると、いつの間にか時間は過ぎていき、バーベキューをしていたところの人数が少なくなってることに気がついた。
片づけが終盤のようだ。
雪華「そろそろ戻んないとね。」
痛む足を庇いながら立ち上がる。
一歩踏み出すと相変わらず激痛が走るけど、歩けないことはなさそうだった。
雪華「河原だから変な歩き方してても怪しまれないし・・・ちょうどよかったかも。」
ひょこひょこと石を避けるようにして歩いて行く。
足のケガがバレないように、地面ばっかり見ながら歩いて行くといつの間にか結構な距離を歩いてるもので・・・
気がつくと目の前に雄大さんが立っていた。
雪華「わっ・・・!」
雄大「ほい、キャッチ。」
私の身体をぎゅっと抱きしめた雄大さん。
驚いてすぐに離れようと思ったけど、足に力を入れることができない私は抱きしめられるがままだ。
雄大「おかえり、雪華。」
雪華「た・・ただいま・・。離してくれる?」
そう聞くと雄大さんは残念そうな顔をしながら私の身体を解放してくれた。
それと引き換えに・・・他の署員さんたちが私たちを冷やかし始めた。
「おー?らっぶらぶだな(笑)」
雪華「!?」
「どう見ても雄大が惚れてるな(笑)」
雪華「!?!?」
「せっちゃん、苦労するねぇ(笑)」
雪華「~~~っ!?」
顔が赤くなっていく私を、雄大さんがクスクス笑いながら見てる。
雄大「ほら雪華。」
雄大さんは私のバスケットを手に持っていた。
雪華「?」
雄大「ごちそうさま。全部なくなったけど・・・どうする?入れ物、署のキッチンで洗う?」
雪華「・・・全部無くなったの!?一升炊いたんだよ!?」
朝から炊いたお米は全部で十合・・・つまり一升だ。
おにぎりの数も相当な数になった。
それが全部無くなったなんて・・・信じられなかった。
雄大「美味かった。ありがとな。」
雄大さんの言葉を聞いた他の署員さんたちが続く。
「わざわざ持って来てくれてありがとな、せっちゃん。」
「めっちゃ美味かったよー!」
「雄大なんかやめて俺と付き合わない?」
不穏な言葉も若干聞こえたけど、みんなが喜んでくれたようでほっと胸を撫でおろした。
雪華「喜んでもらえたなら・・・よかったです。」
雄大「ほんとありがと。で、署で洗って帰る?」
できれば洗って帰りたいところだ。
でも痛む足で消防署の中に入って洗うことは不可能。
雪華「・・・ううん、家で洗うよ。ありがとう。」
そう言って雄大さんからバスケットを受け取った。
その時、足に力が入り・・・激痛が走った。
雪華「いぃっ・・!」
雄大「?・・・どうした?」
雪華「ううんっ、なんでもないっ・・。」
私は受け取ったバスケットを石の上に置いた。
もう片づけも終わりで・・・みんな撤収していく姿が見える。
雄大「雪華、送っていきたいんだけど・・・ちょっと引き継ぎがあってさ・・・。」
雪華「あ、そうなの?私、もうちょっと川を見てから帰るね?」
雄大「ん。気をつけてな。」
荷物を持って撤収していく署員さんと雄大さんを見送り、私はまた地面に座り込んだ。
さっきよりも痛みが増してる気がする足を・・・恐る恐る見る。
雪華「どうしよう・・・脱いだほうがいいかな。」
靴を脱ぎ、靴下を脱ぐと・・青紫になった足首が目に入った。
右足と比べてみるけど・・・腫れてることは瞬時にわかるくらい差がある。
雪華「うわー・・・。帰れるかな。」
腫れが少しでも引くように足首を擦る。
何度もそっと触ってると・・・私の後ろから声が聞こえた。
雄大「・・・・雪華?」
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