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風邪。

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「・・・くしゅっ!」


翌朝、見事に風邪を引いた私はくしゃみが止まらなかった。

布団で寝てる私を、シャガが心配そうに覗き込んでくる。


「あーあー・・・熱は?」

「わかんない・・・くしゅっ!」


ぼーっとするおでこにシャガが手をあてた。

その手が冷たくて気持ちよさを感じる。


「あっつ・・!!病院行くか?」

「いい・・・寝てれば・・治る・・・。」

「ほんとか?俺、今日は雨の日じゃないとできない依頼受けてるから・・・」

「だいじょぶ・・・いってらっしゃい・・・。」


そう言ってから私は布団を頭までかぶった。

雨の日は気温が低い。

風邪を引いてるからか余計に寒く感じてしまう。


(さぶぃ・・・。)


カタカタと震える身体の熱を逃がさないようにして私は目を閉じた。




ーーーーー




その様子を見ていたシャガは心配そうにアイビーを見つめてる。


「できるだけ早く終わらせて帰ってくるから・・・そのあとで病院に行こうな。」


寒くないように布団を重ね、水をコップに入れて手に届くところに置いた。

さっさと仕事を終わらせるつもりで支度をし、家を出た。


「すぐだから・・・待ってろよ。」


そう言って家を出た。

アイビーが重症化するなんてことも知らずに・・・。




ーーーーー




「よし・・これくらいでいいだろう。」


雨の日にしか出てこないキノコの採集が仕事だった。

崖に生えることが多いそのキノコは採集が難しい。

雨で地面がぬかるみ、思うように踏ん張れない。

雨が降った時だけほんの少し姿を見せるキノコは薬として使われる。

それは貴重で・・・雨の日は大抵このキノコ探しの仕事にいかないといけないのだ。


「いつもよりも少ないけど・・・他の奴も依頼を受けてるハズだし。大丈夫だろう。」


俺は崖から飛び降りた。

いつも通ってる道は雨が降ってようが槍が降ってようが間違えることはない。

ぬかるみ具合や滑り具合なんて手に取るようにわかる。


「待ってろよ・・・!アイビー・・・!」


ひょいひょいと崖を飛び降り、俺は依頼屋に向かった。




ーーーーー



「ほら!これでいいだろ!?」


受付カウンターにバサッとキノコを出した。

ぎょっとした目でキノコを見たマネッチアは俺を睨むようにして見た。


「ちょ・・!雑に出すなよシャガ!」

「急いでるんだよ!早く報酬くれ!」


マネッチアはキノコの数を数えながら聞いてきた。


「なに急いでんだ?」

「アイビーが熱だしてる!早く帰って病院に連れて行きたいんだよ!」


そういうと俺の肩をがしっと誰かが持った。


「それ・・!本当か!?」

「・・・ニゲラ!?」


俺の肩を持ったのはニゲラだった。

仕事の合間なのか・・・依頼屋にいることが珍しかった。


「なんで俺に連絡しなかった!」

「お前が仕事かどうか知らねーからだよ!」

「それでも聞きに来いよ!先に家に行ってるからな!!」


そう言ってニゲラは猛スピードで依頼屋を出て行った。


「あいつ・・・!学者になっても筋力落ちてねーな・・・。マネッチア!早くしてくれ!」

「わかってるよ!」


すごいスピードで計算をしていくマネッチア。

俺よりも年下だけど学校は4年で卒業してる。

計算のスピードの速さと正確性を買われて依頼屋で定職についた。

気の強い性格に引かれてマネッチアと婚姻関係になる男も多い。


「ほら出たよ!!」


マネッチアは計算報告書を書いた。

俺はそれをチェックしてサインし、報酬をもらう。


「ありがとな!次はもうちょっと取ってくっからよ!」

「さっさとアイビーんとこに戻ってやんな!」

「あぁ!」


俺は報酬を鞄にしまい、猛スピードで依頼屋を出た。

そのまま全速力で家まで駆ける。


「ニゲラはもう家についたころか・・・。なんともないといいけど・・・。」


嫌な予感を胸に抱きつつも俺は家に向かって走った。




ーーーーー




家の前についた俺は、一旦息を整えるために足を止めた。


「はぁっ・・!はぁっ・・!」


荒い息を整えてると、家の中からものすごい物音が聞こえた。


どんっ・・!!


「!?・・・アイビーっ・・!?」


慌てて家の戸を開けると、部屋の床にニゲラが倒れこんでるのが見えた。

その上に・・・アイビーがいる。


「・・・ニゲラ!?お前何してんだ!?」


そう叫ぶとニゲラは顔だけで俺を見た。


「シャガ・・!アイビーが倒れたんだよ!ケガしないように庇ったんだけど・・・熱、相当高いぞ!」


前に向いて倒れたのか、ニゲラに抱きしめられるような形で倒れこんでいたアイビー。

俺はアイビーを起こした。


「アイビー!大丈夫か!?」


目を開けずに荒い息をしてるアイビー。

ぐったりしてて・・・なんで倒れるようなことが起こったのかが疑問だった。


「ニゲラ、何があった?」


ニゲラは自分の身体を起こしながらアイビーのおでこに手をあてた。



「苦しそうだったから声かけたんだよ。そしたら突然起き上がって歩き出して・・・」

「え?」

「なんか・・・『ごめん』とか『すぐ作る』とかぼそぼそ言ってたけど・・・お前、アイビーになんかさせてんのか?」

「・・・。」


アイビーに何かをさせてることはないけど、一つ心当たりがあった。

アイビーの前世のことを聞いたときに教えてもらったことだ。

それは一緒に暮らしていた男のこと。


(こっちじゃ考えられないような男な印象だったけど・・・。)


実際見たわけじゃないからわからない。

でも女を大事にしないようには感じた。


(熱が高すぎて意識が混濁してんのか?)


今までに熱を出すことはあった。

でもどれも翌日か翌々日には下がり、けろっとしていたもんだった。


「・・・風邪だけじゃなさそうだな。アイビー、病院行くぞ。」


そう言ってアイビーを抱きかかえようとしたとき、アイビーの身体がびくついた。


「どうした!?」

「はぁっ・・はぁっ・・すぐっ・・作るから・・・怒らないで・・・っ。」

「!!」


俺はアイビーのことを怒ったことはない。

怒るようなことをアイビーはしなかったからだ。

大人のまま赤ん坊になったアイビーは聞きわけもいい。

悪さなんてすることもない。


「お前、やっぱりアイビーに何かさてるんじゃ・・・。」


ニゲラがそう言った時、俺はアイビーを抱きしめた。

ぎゅっと抱きしめながら・・・言った。


「・・・『涼花すずか』、怒ったりしないから・・・ゆっくり休みな。」

「病院・・行かない・・・行けない・・・」

「でも熱が高いぞ?」

「おねが・・シャガ・・・」


そう言ってアイビーの身体からかくんっと力が抜けた。


「・・・わかった。」


毛布の上にアイビーを寝かして包んでいく。

しっかり温めて熱を下げるためだ。

手際よくクルクルと巻いてると、ニゲラが口を開いた。


「シャガ・・・?お前・・アイビーのこと何て呼んだ・・?それにアイビーも・・・」














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