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ジニアとのデート。

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シャガに『一妻多夫制』の仕組みを聞いてから1週間が経った。

私は仕事を探すために依頼屋に足を運び、壁にある依頼書を見つめてる。


「えーっと・・・庭掃除とかないかなー・・・。」



壁一面にある依頼書を見てると、マネッチアさんが私を呼んだ。



「おーい、アイビー!」



受付を見ると手紙のようなものを手に持って手招きをしてるのが見えた。



「はーいっ。」



私は受付に駆け寄りカウンターに両腕を乗せた。

今日、マネッチアさんは緑の耳飾りをしてる。


「なぁに?」

「お前さんに手紙を預かってるよ。ほら。」



そう言ってマネッチアさんは持っていた手紙を私に差し出してきた。

その手紙を受け取り、中を見ると・・・ジニアからだった。



『アイビーへ。次の月初めの日に迎えに行くよ。ジニア。』



たった1行の手紙だ。

でもその手紙が何だかくすぐったくて・・・胸がどきどきとなるのがわかった。



(デートっていっても・・・この辺、そんな遊ぶとこ無いと思うんだけど・・・。)


町のことはもう知り尽くしてる。

ジニアと行った店は数が知れないくらいだ。



(私も何か考えたほうがいいのかな・・・。)



そんなことを考えながら時間は過ぎていった。

私は自分でできる依頼を数件受け、初めてこの世界で自分でお金を稼いだ。

『小銭』と呼べる金額だったけど、そのお金を握りしめて私は食器屋に行き、シャガの『お茶碗』を一つ買った。

日頃の感謝を込めてそのお茶碗をプレゼントすると・・・シャガは薄っすら涙を溜めて喜んでくれた。



「ありがとな。」

「えへへっ、いつもありがとうっ。」



仕事はできる時にしてるだけのはずなのに、私の時間があっという間に過ぎていった。




そしてジニアとのデート当日がやってきた。





ーーーーー





「おはよう、アイビー。」


朝、ご飯を食べ終わって食器を片付けてる時にジニアが家の戸を開けた。

今日、一応『デート』ということだし、いつもと違った髪型をしてみた。

ボリュームのあるお団子を作り、後れ毛をいくつか出してる。

ブラウスとスカートはこの町の基本の格好だから、髪の毛をアレンジするくらいしかできないのだ。


「お・・おはよ・・・。ちょっと待っててね?」

「うん。」


私は片づけをさっさと終わらせて鞄を手に取った。

斜め掛けの鞄を肩にかけ、靴を履く。


「じゃあとうさん、行ってきまーす。」

「気をつけてなー。」


ジニアはシャガを見て頭を下げた。


「アイビーをお借りします。」

「ケガなんかさせるなよ。」

「もちろんです。」



ジニアは私の手を握り、家の戸を閉めた。



「今日、楽しみにしててくれた?」



にこっと笑ったジニア。

水色の髪の毛が風になびいて爽やかな笑顔が見えた。



「う・・うん・・・。」



そう答えるしか無くて言うと、ジニアは私の頭をよしよしと撫で始めた。



「ちょ・・なんで撫でるのっ。」

「あははっ、なんか変なこと考えてそうだからかな?」

「むー・・。」



『デート』と言うより『いつもの散歩』みたいな空気に変わった。

私の手を取り、迷うこと無く歩いていくジニアは目的の場所があるようだ。



「・・・どこいくの?」



そう聞くとジニアは空いてる手を自分の口元にもっていった。

人差し指を一本立てて、口にあてた。



「ナイショ。」

「えー・・・。」

「でもアイビーがきっと気に入ると思うよ?」



ジニアは私の手を引いて歩き続けた。

いつもお使いや買い物で通る道を進み、学校を超え・・・まだまだ歩いて行く。


(前の世界だったら大きなテーマパークとか言ったら次の日は筋肉痛だったけど・・・毎日の生活になるとなんともないものなんだなー。)


そんなことを考えながら辺りを見てると、大きな湖が見えてきた。


「湖・・・・。」

「そ。小舟があるから乗ろう。」



ジニアは私の手を引いて小舟が置いてあるところに向かい始めた。

大きな大きな湖は、きれいな水色だ。

透明度が高いのか、水の下までよく見える。

遊園地によくある『白鳥のボート』くらいの大きさの湖だった。


「こんなとこあったんだ・・・。」



辺りを見回してるうちに私とジニアは小舟の乗り場についた。

ジニアは手際よく小舟のロープを手繰り寄せ始めた。



「ほら、寄せるから乗って?」

「う・・うん・・・。」



前の世界でもボートに乗ったことが無い私にとって、これは人生初体験だ。

ゆらゆらと揺れる小舟に恐る恐る足を出す。



「わっ・・!揺れるっ・・・!」



思いのほか揺れる小舟に足が取られる。

ふらふらと身体は動き、思うように乗れない。



「ははっ。ほらアイビー。」



ジニアはロープを片手で持ち、もう片手を私に差し出した。

私はそれを取り、なんとか小舟に乗り込んだ。


「ほっ・・・!」

「上手。座れる?」

「うん。」


揺れる小舟の上をゆっくり進み、椅子らしいところに腰かけた。

ジニアは小舟に繋がれていたロープを外して、飛び乗ってきた。


「よっ・・と!」



ジニアが乗ってきた衝撃で小舟は揺れ、私は側にある小舟の縁を掴んだ。



「あ、ごめん、ちょっと揺れたね。」

「ううん、だいじょーぶ。」



ジニアは私の向かいに座り、両サイドに固定されてるオールに手をかけた。

ゆっくりとオールを回し、小舟が動き始める。



「アイビーは、船は初めて?」

「うん。こんな湖があるのも初めて知ったー。」


湖の回りは歩けるようになってるのか、何人かの人が歩いてるのが見えた。

カップルのような人達と、あとは友達なのか男の人が数人。

一人で歩いてる人もいたし、座って景色を眺めてる人もいる。


「初めてが俺でよかったよ。ここはよくデートに使われるんだよ。」

「へぇー・・そうなんだー。」


水面を見るとキラキラと太陽の光を反射してるのが見える。

ジニアがオールで水面を揺らす度に盛り上がる水面が面白くて、私は縁を持ちながら覗き込んだ。


「うわぁ・・・。」

「楽しい?」

「うんうんっ。」


前の世界で一緒に暮らしていた彼とは、どこかにデートとかの記憶はあまりない。

近くのコンビニか・・・私の住んでるアパートが主だった。

こんな普通の彼氏彼女がするようなデートは・・・知らない。


(まぁ、デートスポットは雑誌とか職場の人の情報だけど。)


デートがこんなに楽しいものだと知らなかった私は楽しくて仕方なかった。

手を伸ばし、水面を触ろうとしたとき、ジニアが言った。


「・・・気をつけて?食べにくる魚がいるよ?」


その言葉に私は手をひゅっと引っ込めた。


「え!?」


驚く私にジニアが言う。


「あははっ、いないから安心して?」

「え!?どっち!?いるの!?いないの!?」


パニックになる私にジニアはクスクスと笑ってる。


「ははっ、いないよ?この湖に魚はいないんだ。」

「!!・・・もー・・。」


私はもう一度手を出し、水面に触れた。

指先にあたる水が冷たい。


「ふふっ、気持ちいいー。」


水面から手を上げ、鞄から小さいタオルを取り出した。

濡れた手を拭いていく。


「今日はアイビーの喜びそうなの考えたんだけど・・・アイビーってどんなのが好き?」







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