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ここにいる。

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シャガが怒ったような顔をしながら私を見た。




「そう・・だけど・・・・?」

「お前は俺の娘だ。出て行くことは許さない。」




・・・・その言葉を聞いて、私は驚いた。

『出て行け』という言葉は覚悟していたものの、『出て行くことは許さない』なんて言われると思ってなかったからだ。



「でも・・・・」

「アイビー、生まれる前のことを忘れろとは言わないけど・・お前は今、ここで生きてる。だから・・・俺の娘として・・・ここで大きくなれ。いいな?」



シャガは私の腕を掴んでた手を離した。

そして大きく両手を広げて・・・私の名前を呼んだ。



「ほら来い。・・・アイビー?」

「!!」



私は机をぐるっと回ってシャガの胸に飛び込んだ。

飛び込んで大粒の涙をぽろぽろこぼしながら・・・泣いた。



「うわぁぁーーーん・・・!」

「よしよし。お前、俺に追い出されると思ってたのか?」

「お・・思ってたぁー・・・。」

「ははっ、そんなわけないだろ?」




シャガは私の頭を撫でながら背中を擦ってくれた。

私を落ち着かせようとしてくれてるのか、何度も何度も。




「うー・・・」

「どうする?もうちょっと抱っこしとくか?」

「・・・うん。」

「アイビーは甘えただなぁ。」




ダリアのとこから帰ってきたのが夕方過ぎ。

シャガは外が真っ暗になるまで私を抱っこしてくれ、背中を擦ってくれた。







ーーーーー





「・・・すみませんでした。」




ひとしきり泣いて、すっきりした私は我に返った。

子供の姿をしてるとはいえ、中身21歳の私が大の大人に抱きついて泣くなんて・・・顔から火が出るくらい恥ずかしいことだった。




「いや?アイビーは子供なんだから泣いたっていい。それに・・・」

「?」

「今まで溜めてきたものもあったんだろ?ならいいんじゃないか?」



優しい笑顔で私をみるシャガの顔は『父親』そのものだった。




「・・・ありがとう。」

「うん。ところで・・・ちょっと決め事しとこうか。」

「・・・決め事?」




シャガは紙とペンを取りに席を立った。

そして戻ってきて、どかっと机の前に座った。



「まず、アイビーに『生まれる前の記憶』があることは俺とダリアだけしか知らない。これはこのままな?」

「うん。」

「で、外ではちゃんと5歳児でいとけ。じゃないと後々で困ることが出てくるかもしれないからな。」

「わかった。」

「あとーーーーー」




シャガは一つ一つを私と確認しながら紙に記していった。




「アイビー、中身は大人だろうけど体は?体力とか・・・。」

「それは5歳の平均だと思う。昼寝しないともたないし・・・。」

「そっか。黒い実も飲めなかったしな。」

「あれ、『黒い実』っていうんだ・・・って、それはもともとブラックが好きじゃないからだしっ。」



牛乳をたっぷり入れたやつが好きだった私。

突然のブラックコーヒーな上にこの身体だからか余計苦く感じてしまったみたいだった。



「『ブラック』?」

「あ、黒い実?だけのやつを『ブラック』って言ってたの。いつも牛乳・・・『白い実』を入れて飲んでたから。」



そう言うとシャガはおもむろに立ち上がり、キッチンに行った。

さっき私に温めてくれた白い実の液体を鍋ごと持って来て、私のカップに注いだ。



「これで飲めるのか?」

「・・・たぶん。」



私はそのカップを手に取り、口をつけた。

もう冷めきってるコーヒーをごくっと飲むと、いつものコーヒーに近い味がした。



「!!・・・おいしぃっ!」

「!!・・・へぇー・・・新しい発見だな。」

「こっちではこれ入れないの?」

「白い実は子供の飲み物だからな。」



そう言ってシャガは自分のコーヒーにも少し白い実を入れた。

黒い色から茶色に変わっていくのを眺めて、カップに口をつけた。



「おぉ・・・苦みがやわらかくなった・・・。」

「ふふっ、料理に入れてもおいしいんだよ?」

「へぇー・・・今度一緒に作ろうか。作れるか?」




私とシャガはクスクス笑いながら話をした。

傍から見たら子供と保護者だけど、会話の内容は同等。

二人だけの空間なら全然オッケーだ。




「アイビーになる前は何してたんだ?」

「フツーの会社員だよ?」

「『かいしゃいん』?」

「えーっと・・・」




シャガは私の前の暮らしをしつこく聞いてきた。

私はそれに答えながらコーヒーを飲む。

面白かったことや嫌だったこと。

シャガは私の話に飽きないのか、テーブルに肘をついて笑ったり驚いたりしながら話を聞いてくれた。




「へぇー、随分忙しい生活を送ってたんだなぁ。」

「うん・・・。まぁ、それが当たり前だったから。」

「その話と比べたらここはまぁ・・・ゆっくりだな。食べるものはみんな自分で育てたり獲ってきたりするし。」

「うん、そうだね。」




私はカップに残っていたコーヒーを全部口の中に流し入れた。

ごくんっと飲み干し、椅子から下りる。

そして床に座って正座をし、両手をついて頭を下げた。




「・・・私を拾ってくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。」

「!!・・・あぁ、よろしくな、アイビー。」






ーーーーー








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