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成長。

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「?・・・いいこと?」



ダリアが首を傾げたと同時にシャガはニヤッと笑って言った。



「俺が仕事行ってる間、ダリア・・・面倒見てくれないか・・・!?」

「・・・へ!?」

「世話賃は払う!仕事も少し減らすから・・・アイビーの面倒見てくれ・・・!」




ダリアはシャガを見て・・・私を見て・・・シャガを見て・・・私を見た。

迷ってるような・・・そんな感じだった。




「私はもう80歳を回ってる・・・。赤ん坊の面倒は見れないよ。」

「大丈夫だって!アイビーは大人しいし、ここに来ても泣いてないし・・・。とりあえず1回預かってくれないか!?」



シャガの言葉に、ダリアは私をじっと見た。




「そうだねぇ・・・・。」




ダリアは私を抱いたまま、右に左に揺らした。

悩んでるからなのか・・・はたまた赤ちゃんを抱くと揺れる癖でもあるのか・・・ゆらゆらと揺れた。




(あ・・・この揺れ・・気持ちいい・・・。)



うとうとと眠たくなっていく中で必死に耐えてると、ダリアは決心したかのように口を開いた。




「・・・わかったよ。1回だけ。それでやっていけそうなら・・・時々預かるよ。」

「!!・・・よっし!!」

「もう寝そうだけど・・・白い実とご飯の用意の仕方とやり方を教えるよ。」




ダリアは私を抱いたまま、シャガに白い実の作り方を教えていた。

なんでもこの町では『白い実』というものが山にあるらしく、その実から取れる液体が栄養価の高い『赤ちゃん用のごはん』になるらしい。

それを人肌に温めて、スプーンでちまちまと飲ませていくらしいのだ。




(哺乳瓶とかないんだ。)




他にも重湯のようなものを作ってうわずみをスプーンで飲ませて腹持ちをよくさせたりとか・・・

そんな説明をシャガは真剣に聞いていた。

おむつらしき布を腰に巻くために、一生懸命してくれたり・・・。

申し訳なさもあったけど仕方ないものは割り切ることにした。






ーーーーー





「とりあえずうちにある白い実をやるから家でしてみな。次の仕事はいつだい?」

「明日。昼には帰ってくる。」

「じゃあ行く前に寄るんだよ。」

「あぁ。ありがとな。」




私の身体はダリアの腕からシャガの腕に移った。

がっしりと抱かれて、これはこれで安心する。




「アイビー、帰ってメシにしような。」




私とシャガはダリアの家をあとにし、シャガの家に向かった。

もう夜なのか真っ暗な道をシャガが歩いて行く。




「結婚もしてないのに娘ができるなんてな・・・。人生何があるかわかんないもんだな。」




シャガは空を見上げて・・・私を見た。




「俺がアイビーの父親だ。立派に育ててやるから・・・しっかり大きくなれよ?」

「・・・あぅ。」




家に戻ると、シャガは白い実から液体を取り出して火にかけた。

くつくつと煮立った液体を冷まして、スプーンで飲ませてくれる。





「どうだ?飲めたか?」




自分の力で飲むのは難しく、むせてしまうことも多かったけどシャガは背中を叩いてくれたりして何度も何度も飲ませてくれた。

寝るのも私の横で添い寝してくれて・・・時々起きては様子を見てくれた。






ーーーーー






次の日・・・




「じゃあすぐに戻ってくるから頼んだ、ダリア。」

「気をつけるんだよ。」




私はダリアに預けられた。

ダリアはシャガを見送って、腕の中にいる私を見た。



「さて・・・アイビー?」

「?」




ダリアは私を抱いたまま、部屋の中を歩いて行き、タンスのような場所で屈んだ。

一番下の引き出しをすー・・っと開けて、いくつかの服のような束を手に取った。




「これ、昨日の夜に慌てて縫ったんだけど・・・アイビーに合うかねぇ?」



そう言って私をクッションのようなところに寝かせた。

ダリアは私を包んでる布を剥がしていき、『縫った』と言ってたものを着せていった。




(これ・・・服だ。)




黄色と白でできたベビー服。

前で紐で止められてるのか、きゅっきゅっとダリアは結んでいった。




「ぴったりだねぇ。よく似合ってるよ?アイビー。」




ダリアは私の両脇を抱えてだき、ゆっくりと鏡に向かって歩いた。

姿鏡ほど大きくはない鏡に、私を映した。



(わ・・・かわいい・・・。)



初めて知った自分の髪の毛の色。

シャガとダリアは赤。

ニゲラは青。

私は・・・金色だった。


着せられた服は胸の辺りが黄色い布を使われていて、袖やスカートのようなところは白色。

赤ちゃんになる前にお店で売ってるのを見たことあったけど・・・それと大差ない。

一晩で縫ったとは思えないクオリティに私の目が輝く。



「おやおや、気に入ったようだね。」



ダリアは喋れない赤ちゃんの感情を読むのが上手いようだ。

服を着替えさせてもらったあとはミルクを飲ませてもらい、トントンされて私は寝かされていった。

抱き方が上手いダリアは私を瞬時に寝かし、平たいクッションの上に置いた。




「かわいいねぇ・・・。」



ダリアは私を寝かした後、家事をし始めたのか色んな音が聞こえ始めた。

眠ってはいるけど耳から音は聞こえてくる。

それは食器を洗う音だったり、洗濯を干す音だったり・・・

どれも心地のいい音で、私はそれを聞きながら深い眠りに落ちていった。






ーーーーーー






「アイビー?めっちゃ寝てるけど・・・そろそろ起きろー?」



シャガの声で私は目が覚めた。

辺りを見回すとダリアの姿は無い。

それどころか私がいるところはダリアの家じゃなかった。




(シャガの家だ・・・。いつの間に帰ってきたんだろ。)




あくびをしながら目を擦ると、シャガが重湯のうわずみを用意していたようでスプーンで唇をつんつんされた。

とりあえず口を開けて重湯をいただく。



「ぁむ・・・」

「お前、ずっと寝てたってダリアが言ってたぞ?疲れたのか?」

(疲れたっていうか・・・なんか常に眠い感じ・・・。)



口の中に重湯を入れられる度に飲み込んでいき、私のお腹が膨れていく。

それに伴ってまた眠気が襲ってきた。




「ダリアがアイビーの面倒見てくれるって言ってたぞ?仕事も減らすけど・・・金もいるし、もうちょっと大きくなるまでダリアのとこに通おうな。」





私は、シャガの仕事がある日はダリアのとこに預けられることになった。

朝から夕方まではダリアのところ、夕方から朝まではシャガのところ。

二人は私をかいがいしくお世話してくれ、日に日に成長していった。

寝返りを打てるようになり、這えるようになり・・・歩けるように。



それと同時に言葉も話せるようになっていき、シャガを父のように慕って大きくなった。

そしてこの町のこともだいぶわかってきた。



(私が住んでた時代よりちょっと昔みたいな感じだなー。)



機械が発達してない世界。

町の中心部ではヨーロッパじみた建物が軒を連ねていた。

食べ物は野菜を炒めたり茹でたりするものが多くて『素材の味そのもの』を味わうような感じだ。

服は・・・男の人はシャツに長ズボン。

女の人はブラウスにロングスカートが主流のようで、歩き始めた赤ちゃんからお年寄りまでみんな同じような格好をしていた。

違うのは色や、刺繍くらいなものだ。




(ケータイとか車とか便利だったけど・・・ないのもいいかも。)




新しい情報が日々発信される世の中にいた私。

友達がどこかに旅行に行った情報が上がってきたら『イイね』をしないといけないし、彼からは『今どこ』『いつ帰る』『飯は』って常に監視されてるような毎日だった。



何にも縛られない子供の生活を送りながら月日は流れ・・・

私が5歳になったある日・・・








「ダリアおばーちゃんがたおれたの・・・!?」

















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