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7 母親の誕生日
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ある日、夜の部をオープンさせて少し経った頃、一人の主婦が扉を開けた。
嬉しいことがあったのか、頬が少し緩んでるみたいだ。
「すみません、カフェオレお願いしますー。」
その主婦はカウンター席に座り、ニコニコしながらマスターの動きを見ていた。
「ご機嫌なようですね、何かあったんですか?」
あまりの機嫌のよさにマスターが尋ねると、その主婦はスマホを取り出して何かを探し始めた。
そして目的のものを見つけたのか、スマホの画面をマスターに見えるように差し出したのだ。
「これ!見てくださいーっ。長男が買ってくれたんですー。」
そう言って主婦が見せたのは『モンブラン』のケーキだった。
「ケーキ・・ですか?」
「はいっ。」
マスターはケーキと一緒に移り込んでいた箱に視線を持って行った。
箱に書いてあるケーキ屋の名前は『ミランジュ』。
この辺じゃ有名なケーキ屋だ。
「今日、私の誕生日だったんですけど、仕事だったんです。」
平日な今日は働いてる人も多い。
せっかくの誕生日だけど仕事をしていた彼女は、昼過ぎに息子さんからメールが来たそうだ。
「『今どこ!?すぐ帰ってきて!』って息子からメールが来たんですけど、何があったのか聞いたんですよ。だってこっちは仕事してますし、よっぽどのことじゃないとすぐになんて帰れませんし。」
とりあえずメールで返事をした彼女に対して、息子さんは『30分以内に返ってきて欲しい』とメールを送って来たそうだ。
一体何がしたいのかわからずに困っていた彼女だけど、次に来たメールで全てを悟ったそうだ。
「この写真が添付されて送られてきたんですよ。『賞味期限が30分なの!今日誕生日でしょ!!だから早く食べて!!』って文字と一緒に。」
息子さんはバイト代を使ってこのモンブランを買って来たのだ。
母親の誕生日プレゼントにするために、有名なお店に並んで。
「この店ってケーキ一つ買うのに2時間待ちなんですよね。そんな店に並んでこれを一個買ってきてくれたんですよ。もう嬉しくて嬉しくて。」
でも『ケーキの賞味期限が迫ってる為、帰ります。』なんて言えるわけもなく、彼女は息子さんに『無理だよ。賞味期限が30分なのはおいしさの保証だからさ、家に帰ったらいただくね。』と返したそうだ。
「まぁ、息子は完全に納得はしてくれなかったんですけど、家に帰ってから写真を撮りまくって、息子の目の前で食べましたね(笑)」
今まで食べたどのケーキよりもおいしかったであろうモンブラン。
子供の成長も噛みしめながら、小さいけど大きいモンブランを食べた彼女は涙が一つ零れたそうだ。
「大きくなるのってあっという間ですね。ついこの間生まれたばかりだったのにもうアルバイトできる歳になっちゃって・・・」
子供が小さい時の思い出が溢れ出てしまったようで、急に大人に見えた息子に成長を実感してしまったのだ。
いづれは親元を離れていく子供だけど、親から見たらいくつになっても子供は子供。
そんな子供が親の誕生日を祝うなんて大きな成長、涙が流れてしまうのは必須なのかもしれない。
「カフェオレ、お待たせいたしました。」
マスターがカウンターにカフェオレを置くと、彼女はスマホの中に入ってる写真をスクロールして見ていた。
小さいころの写真や、制服を身に纏ってる写真なんかがマスターの視界に入る。
「この先、家を出て行ったりするんでしょうねー・・・子育てってほんとあっという間・・・。」
カフェオレを口に含みながらスマホを見ていく彼女の視線は母親だ。
成長する息子の写真を優しい眼差しで見つめてる。
「ま、家から離れるまではもうちょっと母親させてもらいたいですね。子離れはできると思うんですけど、心配ごとも多いですし。」
そう言うと彼女はカフェオレをぐぃっと飲み干した。
「ごちそうさまでした。・・・子供が巣立ったら主人と一緒に来ますね。」
「お待ちしております。」
彼女はカフェオレ代をカウンターに置き、店の扉に向かって歩いて行った。
そんな彼女のカバンには、少し不格好なキーホルダーがいくつかついてる。
あれはきっと息子さんが小さい時に作った物なのだろう。
「お子さんの作ったものを大切にされる保護者のかた、私は素敵だと思いますよ。愛が溢れていて・・・きっとお子さんもご両親からの想いはきっと伝わってると思います。伝わってるからこそ、誕生日を祝ってくれる子に育ったんですから。」
マスターは店を閉めながらふと空を見上げた。
空を見上げながら考えてるのは『ヨル』のことだ。
「ヨルもいつか成長しちゃうんでしょうかね・・・。」
そんな親心を抱きながら、今日を終えていったマスターだった。
ある日、夜の部をオープンさせて少し経った頃、一人の主婦が扉を開けた。
嬉しいことがあったのか、頬が少し緩んでるみたいだ。
「すみません、カフェオレお願いしますー。」
その主婦はカウンター席に座り、ニコニコしながらマスターの動きを見ていた。
「ご機嫌なようですね、何かあったんですか?」
あまりの機嫌のよさにマスターが尋ねると、その主婦はスマホを取り出して何かを探し始めた。
そして目的のものを見つけたのか、スマホの画面をマスターに見えるように差し出したのだ。
「これ!見てくださいーっ。長男が買ってくれたんですー。」
そう言って主婦が見せたのは『モンブラン』のケーキだった。
「ケーキ・・ですか?」
「はいっ。」
マスターはケーキと一緒に移り込んでいた箱に視線を持って行った。
箱に書いてあるケーキ屋の名前は『ミランジュ』。
この辺じゃ有名なケーキ屋だ。
「今日、私の誕生日だったんですけど、仕事だったんです。」
平日な今日は働いてる人も多い。
せっかくの誕生日だけど仕事をしていた彼女は、昼過ぎに息子さんからメールが来たそうだ。
「『今どこ!?すぐ帰ってきて!』って息子からメールが来たんですけど、何があったのか聞いたんですよ。だってこっちは仕事してますし、よっぽどのことじゃないとすぐになんて帰れませんし。」
とりあえずメールで返事をした彼女に対して、息子さんは『30分以内に返ってきて欲しい』とメールを送って来たそうだ。
一体何がしたいのかわからずに困っていた彼女だけど、次に来たメールで全てを悟ったそうだ。
「この写真が添付されて送られてきたんですよ。『賞味期限が30分なの!今日誕生日でしょ!!だから早く食べて!!』って文字と一緒に。」
息子さんはバイト代を使ってこのモンブランを買って来たのだ。
母親の誕生日プレゼントにするために、有名なお店に並んで。
「この店ってケーキ一つ買うのに2時間待ちなんですよね。そんな店に並んでこれを一個買ってきてくれたんですよ。もう嬉しくて嬉しくて。」
でも『ケーキの賞味期限が迫ってる為、帰ります。』なんて言えるわけもなく、彼女は息子さんに『無理だよ。賞味期限が30分なのはおいしさの保証だからさ、家に帰ったらいただくね。』と返したそうだ。
「まぁ、息子は完全に納得はしてくれなかったんですけど、家に帰ってから写真を撮りまくって、息子の目の前で食べましたね(笑)」
今まで食べたどのケーキよりもおいしかったであろうモンブラン。
子供の成長も噛みしめながら、小さいけど大きいモンブランを食べた彼女は涙が一つ零れたそうだ。
「大きくなるのってあっという間ですね。ついこの間生まれたばかりだったのにもうアルバイトできる歳になっちゃって・・・」
子供が小さい時の思い出が溢れ出てしまったようで、急に大人に見えた息子に成長を実感してしまったのだ。
いづれは親元を離れていく子供だけど、親から見たらいくつになっても子供は子供。
そんな子供が親の誕生日を祝うなんて大きな成長、涙が流れてしまうのは必須なのかもしれない。
「カフェオレ、お待たせいたしました。」
マスターがカウンターにカフェオレを置くと、彼女はスマホの中に入ってる写真をスクロールして見ていた。
小さいころの写真や、制服を身に纏ってる写真なんかがマスターの視界に入る。
「この先、家を出て行ったりするんでしょうねー・・・子育てってほんとあっという間・・・。」
カフェオレを口に含みながらスマホを見ていく彼女の視線は母親だ。
成長する息子の写真を優しい眼差しで見つめてる。
「ま、家から離れるまではもうちょっと母親させてもらいたいですね。子離れはできると思うんですけど、心配ごとも多いですし。」
そう言うと彼女はカフェオレをぐぃっと飲み干した。
「ごちそうさまでした。・・・子供が巣立ったら主人と一緒に来ますね。」
「お待ちしております。」
彼女はカフェオレ代をカウンターに置き、店の扉に向かって歩いて行った。
そんな彼女のカバンには、少し不格好なキーホルダーがいくつかついてる。
あれはきっと息子さんが小さい時に作った物なのだろう。
「お子さんの作ったものを大切にされる保護者のかた、私は素敵だと思いますよ。愛が溢れていて・・・きっとお子さんもご両親からの想いはきっと伝わってると思います。伝わってるからこそ、誕生日を祝ってくれる子に育ったんですから。」
マスターは店を閉めながらふと空を見上げた。
空を見上げながら考えてるのは『ヨル』のことだ。
「ヨルもいつか成長しちゃうんでしょうかね・・・。」
そんな親心を抱きながら、今日を終えていったマスターだった。
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