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6 自分の考え、他人の考え
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「あの・・いいですか?一人なんですけど・・・」
夕方5時にカフェを開けると同時に若者が入って来た。
ブレザーの制服を身に纏ってる男の子は、どこかの学校の高校生のようだ。
「もちろん大丈夫ですよ?お好きなお席にどうぞ?」
マスターが返事をすると、その高校生はカフェの中をぐるっと見渡したあとカウンター席に腰かけた。
持っていたカバンを隣の椅子に置き、ドリンクメニューが書かれてる札をじっと見つめてる。
「えと・・すみません、クリームソーダください。」
「かしこまりました。」
マスターは底が膨らんだような形のフロートグラスを取り、氷を入れていった。
そこにメロンシロップを計って入れ、炭酸水を注いでいく。
そして最後にバニラのアイスクリームを丸く乗せ、ストローを入れて高校生の前に置いた。
「どうぞ。」
ソーダ用のスプーンを隣に添え置くと、高校生は両手を合わせて体を少し前かがみに倒した。
「いただきます。」
丁寧にそう言った後、高校生はソーダスプーンを手に持ち、アイスクリームから食べ始めた。
崩さないように、沈めないように、端から少しずつすくって口に運んでいく。
「俺・・配信者してるんです。」
ぱくぱくとアイスクリームを口に放り込みながら、高校生の男の子は話し始めた。
食器を拭きながら、マスターは相槌でも打つかのようにただ軽く頷いてる。
「まぁ、言うほどリスナーとか多くなくて、そこで仲良くなった人たちと毎日繋がってるだけなんですけど・・。」
男の子はその配信サービスの中で、いつものメンバーで今日あったことを話したり、トークテーマを決めてみんなで楽しく話したりしてるとのことだった。
みんなどこに住んでるとか、仕事内容、家族構成、年齢なんかは話さないらしく、聞いたりもしないらしい。
ネットで会った見ず知らずの人に個人情報は明かさないのが基本なのだ。
「今日、ふとした話で・・『人からの頼みごとをどうするか』って話になったんですよ。」
誰かが何かを友達から頼まれたらしいが、それを受けるか受けないかで悩んでるというものだったらしい。
「俺は『したかったらすればいいんじゃない?』って答えたんです。他のみんなもそんな感じの答えだったんですけど、ただ一人、違う考えの人がいて・・・」
その違う考えの人はみんながほぼ同じ答えの中、こう言ったそうだ。
『受けれるなら受けたほうがいい』と。
「でもね、正直面倒くさいときもあるじゃないですか。気分が乗らないっていうか、そんなときもあるじゃないですか。」
確かにそんなときもあるだろう。
みんなもそう言ったらしいのだが、その人はそのみんなの考えを改めさせるような言葉を言った。
『できる話なら受けたほうがいい。断るのは簡単だけど、断り続けると話すら回って来なくなるよ』と。
「・・・いやもう、確かにそうだと思いましたよ。俺たちだって頼み事や遊びの誘いをする人がいるんですけど、二回くらい断られたらもう声かけませんもん。」
声をかけたところで『どうせ断るだろう』と思ったら、声をかけることが億劫になってくる。
どんな些細な誘いでも、断られると傷ついてしまう。
その傷をつけないためにも、断るということがわかってる相手に声はかけなくなっていくのだ。
「俺・・その言葉を聞いて自分の考え方がガラッと変わったんです。そう言う考え方をしてる人がいたんだなって思って・・・」
その人はいつものメンバーの中で一番『年上』の人だそうだ。
何気ない話に加わっては来るものの、人を傷つける発言は一切せず、他者を認め、共感し、前を向く発言ばかりしてるらしい。
「『こういうことしてるの?すごいね!』とか『こういうことよく気がついて見てるよね、こんなのも向いてるんじゃない?』とか、一歩前を教えてくれるというか・・なんかすごいなって思って。俺もそんな風に他人のがんばりとかを素直に応援できる人になりたいなって思って・・・」
この高校生はずっと『自分のしたいことだけしたり、受けたり』すればいいと思っていた。
声をかけられたときに気が向けば乗ったり、気が向かなかったら断る日々を送って来たのだ。
でもよくよく考えたら、断り続けたところからはもうしばらくの間声はかかってない。
それどころか新しい何かを見つけることもできてないし、友達もいつの間にか固定になってしまっていたらしい。
「いや、今の友達は今の友達で気が合うし、楽しいし、いいんですよ。・・・でも、この先大学とか言ったり就職とかしたら今の友達とは離れるじゃないですか。」
いくら仲が良くても一生一緒はかなり難しい話になる。
大学や専門学校くらいならいけなくもないけど、就職は・・・無理な話だろう。
専門にしたい分野や、部署なんか同じになるとは限らないのだ。
「今の友達も大事にしつつ、新しいこともやりたい。・・って、自分がこう思ってることを誰かに馬鹿にされたり冷やかされたらそれこそ傷つく。だから人の考えやしてること、し続けてることを素直に『すごい』って言えるようになりたいって・・・今日思ったんです。」
一人の人の考え方が、この高校生の考え方をガラッと変えた瞬間だった。
「そうですか。それは素晴らしいと思います。」
「本当ですか!?」
「えぇ。だって自分を変えれるのは自分自身しかないので、その人の考えを聞いてあなたが成長しようとしてるのですから、きっと素晴らしいものになると思いますよ?」
高校生の男の子はストローからメロンソーダをごくごく飲み、あっという間に空にした。
何やら晴れやかな顔つきをしてる。
「俺、配信で誰かを元気づけれるようにします!自分の考えを押し付けるんじゃなくて、その人の・・・何かこう・・選択肢を増やしてあげれるようにしたい。」
人の為にすることは自分の為にもなる。
見本としたい人を真似していき、いつか自分のものになれば、それは自分自身の成長の証になるのだ。
人生は一度きり。
たった一度しかない人生なら自分が思ったことは行動したほうがいいのだ。
その道が間違いだったとしたら、きっと周りが止めてくれるのだから。
「また来てもいいですか?クリームソーダもおいしかったです。」
「もちろんですよ。お昼もしてますので休日にでもお暇なときに。お待ちしております。」
「!!・・ありがとうございます!」
高校生の男の子は会計をし、晴れやかな顔でカフェを後にしていった。
「高校生のよくないニュースをよく見ますが、あんな高校生もいるんですね。・・・先日のお客さまの言葉通りですよ。『日本の未来は明るくないなんてことはない』。」
若者の微笑ましい姿を見て未来に期待を寄せながら、本日のカフェ、夜部は終わっていったのだった。
「あの・・いいですか?一人なんですけど・・・」
夕方5時にカフェを開けると同時に若者が入って来た。
ブレザーの制服を身に纏ってる男の子は、どこかの学校の高校生のようだ。
「もちろん大丈夫ですよ?お好きなお席にどうぞ?」
マスターが返事をすると、その高校生はカフェの中をぐるっと見渡したあとカウンター席に腰かけた。
持っていたカバンを隣の椅子に置き、ドリンクメニューが書かれてる札をじっと見つめてる。
「えと・・すみません、クリームソーダください。」
「かしこまりました。」
マスターは底が膨らんだような形のフロートグラスを取り、氷を入れていった。
そこにメロンシロップを計って入れ、炭酸水を注いでいく。
そして最後にバニラのアイスクリームを丸く乗せ、ストローを入れて高校生の前に置いた。
「どうぞ。」
ソーダ用のスプーンを隣に添え置くと、高校生は両手を合わせて体を少し前かがみに倒した。
「いただきます。」
丁寧にそう言った後、高校生はソーダスプーンを手に持ち、アイスクリームから食べ始めた。
崩さないように、沈めないように、端から少しずつすくって口に運んでいく。
「俺・・配信者してるんです。」
ぱくぱくとアイスクリームを口に放り込みながら、高校生の男の子は話し始めた。
食器を拭きながら、マスターは相槌でも打つかのようにただ軽く頷いてる。
「まぁ、言うほどリスナーとか多くなくて、そこで仲良くなった人たちと毎日繋がってるだけなんですけど・・。」
男の子はその配信サービスの中で、いつものメンバーで今日あったことを話したり、トークテーマを決めてみんなで楽しく話したりしてるとのことだった。
みんなどこに住んでるとか、仕事内容、家族構成、年齢なんかは話さないらしく、聞いたりもしないらしい。
ネットで会った見ず知らずの人に個人情報は明かさないのが基本なのだ。
「今日、ふとした話で・・『人からの頼みごとをどうするか』って話になったんですよ。」
誰かが何かを友達から頼まれたらしいが、それを受けるか受けないかで悩んでるというものだったらしい。
「俺は『したかったらすればいいんじゃない?』って答えたんです。他のみんなもそんな感じの答えだったんですけど、ただ一人、違う考えの人がいて・・・」
その違う考えの人はみんながほぼ同じ答えの中、こう言ったそうだ。
『受けれるなら受けたほうがいい』と。
「でもね、正直面倒くさいときもあるじゃないですか。気分が乗らないっていうか、そんなときもあるじゃないですか。」
確かにそんなときもあるだろう。
みんなもそう言ったらしいのだが、その人はそのみんなの考えを改めさせるような言葉を言った。
『できる話なら受けたほうがいい。断るのは簡単だけど、断り続けると話すら回って来なくなるよ』と。
「・・・いやもう、確かにそうだと思いましたよ。俺たちだって頼み事や遊びの誘いをする人がいるんですけど、二回くらい断られたらもう声かけませんもん。」
声をかけたところで『どうせ断るだろう』と思ったら、声をかけることが億劫になってくる。
どんな些細な誘いでも、断られると傷ついてしまう。
その傷をつけないためにも、断るということがわかってる相手に声はかけなくなっていくのだ。
「俺・・その言葉を聞いて自分の考え方がガラッと変わったんです。そう言う考え方をしてる人がいたんだなって思って・・・」
その人はいつものメンバーの中で一番『年上』の人だそうだ。
何気ない話に加わっては来るものの、人を傷つける発言は一切せず、他者を認め、共感し、前を向く発言ばかりしてるらしい。
「『こういうことしてるの?すごいね!』とか『こういうことよく気がついて見てるよね、こんなのも向いてるんじゃない?』とか、一歩前を教えてくれるというか・・なんかすごいなって思って。俺もそんな風に他人のがんばりとかを素直に応援できる人になりたいなって思って・・・」
この高校生はずっと『自分のしたいことだけしたり、受けたり』すればいいと思っていた。
声をかけられたときに気が向けば乗ったり、気が向かなかったら断る日々を送って来たのだ。
でもよくよく考えたら、断り続けたところからはもうしばらくの間声はかかってない。
それどころか新しい何かを見つけることもできてないし、友達もいつの間にか固定になってしまっていたらしい。
「いや、今の友達は今の友達で気が合うし、楽しいし、いいんですよ。・・・でも、この先大学とか言ったり就職とかしたら今の友達とは離れるじゃないですか。」
いくら仲が良くても一生一緒はかなり難しい話になる。
大学や専門学校くらいならいけなくもないけど、就職は・・・無理な話だろう。
専門にしたい分野や、部署なんか同じになるとは限らないのだ。
「今の友達も大事にしつつ、新しいこともやりたい。・・って、自分がこう思ってることを誰かに馬鹿にされたり冷やかされたらそれこそ傷つく。だから人の考えやしてること、し続けてることを素直に『すごい』って言えるようになりたいって・・・今日思ったんです。」
一人の人の考え方が、この高校生の考え方をガラッと変えた瞬間だった。
「そうですか。それは素晴らしいと思います。」
「本当ですか!?」
「えぇ。だって自分を変えれるのは自分自身しかないので、その人の考えを聞いてあなたが成長しようとしてるのですから、きっと素晴らしいものになると思いますよ?」
高校生の男の子はストローからメロンソーダをごくごく飲み、あっという間に空にした。
何やら晴れやかな顔つきをしてる。
「俺、配信で誰かを元気づけれるようにします!自分の考えを押し付けるんじゃなくて、その人の・・・何かこう・・選択肢を増やしてあげれるようにしたい。」
人の為にすることは自分の為にもなる。
見本としたい人を真似していき、いつか自分のものになれば、それは自分自身の成長の証になるのだ。
人生は一度きり。
たった一度しかない人生なら自分が思ったことは行動したほうがいいのだ。
その道が間違いだったとしたら、きっと周りが止めてくれるのだから。
「また来てもいいですか?クリームソーダもおいしかったです。」
「もちろんですよ。お昼もしてますので休日にでもお暇なときに。お待ちしております。」
「!!・・ありがとうございます!」
高校生の男の子は会計をし、晴れやかな顔でカフェを後にしていった。
「高校生のよくないニュースをよく見ますが、あんな高校生もいるんですね。・・・先日のお客さまの言葉通りですよ。『日本の未来は明るくないなんてことはない』。」
若者の微笑ましい姿を見て未来に期待を寄せながら、本日のカフェ、夜部は終わっていったのだった。
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