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私たちはお互いの石を取り出した。

金色の私の石を自分の右手のひらに乗せると、タウさんが覆うようにして左手を重ねてきた。

そして私もタウさんの右手のひらに乗ってる濃い青色の石の上に左手を重ねる。


「ステラ、目を閉じて?」

「はい・・・。」


やり方がわからない私は言われた通り目を閉じた。

そして少し時間が経つと手から温かい何かが流れ込んでくるのを感じ始めた。


「わ・・・」

「拒否するなよ?俺の魔力を受け入れろ・・・。」

「これがタウさんの魔力・・・?」


温かく流れ込んでくるタウさんの魔力は『拒否』なんて考えられないくらい心地のいいものだった。

優しい感じがする魔力で、いつまでも浸っていたいくらいだ。


「くっ・・・!」


心地よく幸せな気持ちに浸ってる時、タウさんのうめく声が聞こえてきた。

ハッと我に返り、目を開けるとタウさんが苦しそうに顔を歪めていたのだ。


「タウさん・・・!?」

「だ・・っ大丈夫だ・・・!ステラの魔力が凄すぎて・・・・うわぁっ!?」

「!?」


急に私の右手が光輝いた。

目を開けていられないくらいの光の量に、思わずぎゅっと閉じてしまう。


「きゃあっ・・・!?」


一瞬光を放った右手だったけど、その光はすぐに収束をみせた。

閉じた瞼の向こう側にあった光が消えたことを確認し、目を開く。


「・・・びっくりしたな。ステラ、ケガとかないか?」

「だ・・大丈夫です・・・」

「よかった・・・。」


そう答えたあと、タウさんを見た私は驚いた。

タウさんの瞳の色が・・・片方金色になっていたのだ。


「!!・・・タウさんその瞳の色・・・!?」

「え?」

「ちょ・・・!こっちに来てください・・・!」


私はタウさんの手を引っ張り、キッチンに向かった。

そこには雨漏りで溜めてある桶があり、タウさんを覗き込ませる。


「左の瞳が金色になってるんです・・・!!」

「!?・・・本当だ。」


自分の目をペタペタと触りながら桶を覗き込むタウさん。

一緒に覗き込んで見ると、私の瞳も片方・・・濃い青色をしてることに気がついた。


「!?・・・わっ・・私も!?」

「え?・・・あ!・・ステラも左の瞳か・・・。」


お互いの瞳の色がお互いの左目に表れてしまった私たち。

どうなってるのかわからずに二人で顔を見合わせた。


「これが・・・普通なんですか?」

「いや・・・ちょっと前例がないような気が・・・」


タウさんの知ってる話では、契りを交わすと石が半分ずつお互いの瞳の色に変わるらしいのだ。

それをもって結婚してるかどうかがわかるらしい。


「まさか瞳の色が半分ずつになるなんて・・・。」

「あ、でも石も色が半分ですよ?ほら・・・・」


手に持っていた石を見ると、ちょうど半分だけ金色で残り半分は濃い青をしていた。

こっちはこっちで成功のようだ。


「あ・・・!ステラ、手を出してくれるか?」

「?・・・こうですか?」


空いていた左手を出すと、タウさんはポケットから『残された時間を表す時計』を取り出した。

そしてそのチェーンを私の手首につけていく。


「ちゃんと増えてたらいいけど・・・」


タウさんはそう言いながら時計を覗き込んだ。

そして中の数字を見て・・・崩れ落ちるようにしてしゃがみ込んだ。


「・・・よかった・・『0』だ。」

「!!」

「ちゃんと魔力が増えたみたいだな。」


タウさんの言う通り、私の体に見え隠れしていたダルさがどこかに言ったように感じた。

底を尽きかけていた魔力が回復したようだ。


「・・・魔力・・・半分もらってしまってごめんなさい・・。」


助かって嬉しい反面、申し訳ない気持ちもたくさんあった。

でもタウさんの表情は・・・心なしか明るい。


「いや・・・俺、ステラに魔力を渡したと思うんだけど・・・なんか増えてる気がする。」

「え?」

「ステラの魔力と俺の魔力が混ざって・・・何か違うことができそうだ。」


そう言うとタウさんは私の体をひょいと姫抱きに抱え上げた。


「戻るんですか?」

「あぁ。魔力量を調べたい。」


また音速のようなスピードで飛ぶことを覚悟して、私はフードをかぶろうと手を伸ばした。

するタウさんが笑顔で私に言ったのだ。


「いや、かぶらなくていい。」

「かぶらなくていい・・?」

「あぁ。飛ぶよりもっと・・・速い魔法がある。」


そう言った瞬間、目の前の景色が歪んだ。

ぐにゃっと歪むというより、縦にブレるような感じだ。


「へっ・・・!?」


景色が歪んだのを目で確認したと思った瞬間、目の前の景色がガラッと変わっていたのだ。

さっきまで森の中にある私の家にいたはずなのに・・・今はお城の執務室だ。


「!?・・・は!?タウ!?」

「おまっ・・!どっから来た!?」


執務室にいた王様とワズンさんが驚きながら声をあげていた。

そんな二人を冷静な視線で見つめながら、タウさんは私の体を床に下ろしてくれた。


「・・・瞬間移動・・・ってやつ?」

「瞬間移動・・!?」

「それは神の御業だろう!?・・・って、お前、その瞳・・・!?」


この世界では瞬間移動は存在しないらしく、一瞬で移動できるのか神のみだと考えられているらしい。

タウさんは私と契りを交わしたことを二人に報告した。

その時にお互いの左の瞳の色が変わったこと、私の魔力が増えたであろうこと、あと・・・タウさんの体に異変が起きてることを。


「ワズン!すぐに魔力を計る道具を持ってこい!!」

「はっ・・はい・・・!!」


王様に命じられ、ワズンさんは細長い棒のようなものを持ってきた。

それを机の上に置き、ガラスの玉のようなものをタウさんに手渡してる。


「ほら、タウ。」

「・・・。」


タウさんはその玉を受け取り、ぎゅっと握った。

そしてしばらくするとその玉は真っ黒い玉に変わり、タウさんは細い木の棒にある溝のようなところにその玉を置いた。

するとその玉は自然と転がり始め、ひとりでに溝を進み始めた。


「え・・・!?」


驚きながらその棒を覗き込むと、王様が口を開いた。


「あぁ、ステラ初めてか。これは魔力量を計るものだ。」

「魔力量・・を?」

「そうだ。転がした玉が止まったところの数字が魔力量だ。タウの前の数字は・・・・・」


王様が言おうとした時、その玉が木の棒から転げ落ちてしまった。

ころころと玉が転がる音が、部屋に響き渡る。


「は・・・?」

「嘘だろ・・・?」


王様とワズンさんが驚く中、タウさんだけが冷静にその玉を拾いに行きながら話し始めた。


「恐らくですが・・・ステラの魔力を取り入れたときに膨大な量に増えたのだと思います。」

「増えた・・・?」

「はい。」


タウさんは今の自分の体に起きてることを話してくれた。

流れる魔力が今までのものと全然違うこと。

自分の体の中で混ざり合う魔力は心地が良く、なんでもできそうなことを。


「救い人との契りはそんな風になるのか・・・。」

「とりあえずステラの状態が良くなったのはわかった。お前たちは契りを交わしたのだから・・・二人で協力して生きることになる。いいな?」


王様に言われ、私とタウさんは頷いた。


「はい。」

「はい。」

「よし。ではタウは今日これより5日間の休暇だ。二人で好きに過ごすがいい。」

「ありがとうございます。」


お礼を言いながら頭を下げるタウさん。

私はその会話を聞いて驚いていた。


「へっ・・!?5日間の休暇・・・!?」

「契りを交わした後は5日間の休暇が与えられるのがこの国、ピストニアの法だ。魔力を吸収して疲れるというのもあるし、家を探したり報告したりで忙しいだろう?」

「あ・・そうなんですか・・・。」


前の世界にはなかったルールに驚いてると、タウさんは私の肩をぎゅっと抱いた。


「ステラ、行こう。」

「あ・・はい・・・。」

「失礼します。」


私の肩を抱いたまま執務室を後にしたタウさんは、私の肩を抱いたまま瞬間移動をした。

ひゅんっ・・!と、目の前の景色が一瞬で変わり、どうなったのか理解が遅れる。


「あ・・・れ?ここ・・・・」

「俺の部屋だ。」

「そう・・みたいですね・・・。」


見たことのある景色だけど見回しながら確認する。

一瞬で移動できることに驚きと感動を覚えながら、私もできないかと目を閉じて念じてみる。


「・・・。」

「・・・何してんだ?」

「瞬間移動。」

「・・・できてないぞ?」

「・・・。」


タウさんのようにはできないようで、ため息をついた。

代わりにと思って手のひらを見つめてみた。


「風魔法とか・・・できたりとか・・・?」

「できないだろ・・・。」

「うーん・・・。」


悩みながら手を見つめてると、タウさんは部屋の窓を開けに行った。

バンっと音を立てながら開けられた窓の向こう側に、城下町が小さく見える。


「ステラ、一緒に暮らそうと思うんだが・・・どこがいいとかあるか?」


契りを交わして結婚をしたのだから一緒に暮らすのは当然のこと。

でも私はこの国のほとんどをまだ知らなかった。


「場所とかよくわからないですけど・・・森みたいなとこが好きです。」


長年住んできた森が一番落ち着くところだ。

でも森からタウさんの仕事場であるこのお城までは距離がものすごくある。

瞬間移動ができるとはいえ、魔力は無限にあるわけではないから通うことは難しいだろう。


「森みたいなところ・・・が、いいんだな?」

「?・・・や、たぶんどこでも大丈夫だと思いますけど・・・なんか私が知ってることといろいろ違うと思うので・・・」


私は前の世界での家探しを説明した。

まず土地を売ってくれるところに行って相談し、金額と場所を考慮しながら探していくことを。

そしてそのあと、家を建てるなら住宅メーカーにお願いしたり、工務店にお願いする。

出来上がってる家やマンションを買う場合は、すぐに住むことができることを伝えた。


「へぇー・・・こっちとは違うんだな。」

「え・・こっちはどうするんですか?」


そう聞くとタウさんから驚くような答えが返ってきた。


「空いてるところに家を建てるだけだ。」

「・・・へ?」

「家が建ってるところは人のもの。建ってないところは誰のものでもないから好きに建てれる。ただし、契りを交わしていて他に家を持ってないことが条件だけどな。」


つまり、この国は結婚をしたら好きなところに家を構えることができる仕組みのようだ。

住んでいた人が亡くなって砂になった後は家を取り壊し、更地にするらしい。

そうやって空き家を無くし、新しい夫婦には新しい家を用意するようだ。


「へぇー・・・。」

「まぁ、ちょっと距離はあるけど森よりは全然近い場所にいいところがある。・・・見に行こうか。」


そう言ってタウさんは私に手を差し出した。

『見に行こう』と言われて断る理由なんてなく、私は喜んでその手を取った。


「瞬間移動は城の中だけにしよう。外で見られたら何を言われるかわからないからな・・・。」

「じゃあまさか・・・」

「そのまさかだ。顔は隠さなくていい。そんなにスピードは出さないから。」


タウさんは私を抱きかかえ、ふわっと飛び上がった。

そのままゆっくり窓から出て、南の方に飛んでいく。


「・・・どこまで行くんですか?」

「そうだな、だいぶ向こうに小さな森があるんだよ。獣とかはいないけど、虫や植物はたくさんある。」

「!!・・・そんな場所あるんですか!?」

「あぁ。小さい川も流れてるから・・・ステラは好きなんじゃないか?」


その言葉に、私はヌンキさんとの話を思い出した。

この国の男の人は女の人に『尽くす傾向が強い』という話を。


「・・・タウさんの好きな場所とかは・・・ないんですか?」

「え?」



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