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「ステラーっ・・!ちょっといいかーっ・・!?」

「はーいっ・・!」


私の瞳の色が金色だとタウさんにバレて(?)から6日が経った。

タウさんは私の瞳のことを誰にも話してないようで、特に変わりない日々を送らせてもらってる。

今は数日後に控えてる国のお祭りの準備中だ。


「すみません、タウさん。お待たせしました。」


パタパタと走りながらタウさんの下へ行くと、タウさんはこっそり話すように私の耳に顔を近づけてきた。


「祭りに必要なヤドリギを探しに森に行くんだが、一緒に行くか?瞳の色を変える材料探したいんだろ?」

「!!」


前にタウさんの部屋で使った目薬がほぼ最後の一回分だったことを、タウさんは知っていたようだ。

そして私がその材料を模索してることも・・・。


「知ってたんですか?」


こそっと聞き返した。


「必要なものなのに空に近かったからな。材料はわかるのか?」

「それが・・・あまり検討がつかなくて・・・」


ハマルおばぁちゃんが作ったものだから森にあるものでできてるハズなのに、皆目見当がつかなかった。

もし似たようなのが作れてもそれを目に入れて大丈夫かどうか確かめるのも怖い。


「とりあえず探してみるか?俺の側を離れなければ危険はないと約束する。」

「・・・。」


見に行っても材料がわからなければ採ることもできない。

でも久しぶりに森に行けるなら、材料がわからなくてもいいと思った。


「お願いしていいですか?森にも帰りたいですし・・・」


そう言うとタウさんは少し残念そうな表情をした。


「悪いが家には連れていってやれそうにないんだ。まだ調査が進んでないのと、すぐに戻ってこないといけないから・・・。」

「あ、大丈夫です。わかってます。」

「ごめんな?」

「いえ・・・。」


私自身、お祭りの準備のお手伝いをしてることから家に帰れないことはわかっていた。

なのにタウさんが考えてくれたことが申し訳ない。


(帰りたいのは帰りたいけど、爆発と火事はちょっとおかしいし・・・。)


18年過ごしてきて一度もなかったことだ。

おかしいものには近づかないのが一番いい。


「すぐに出発して大丈夫か?何かすることあるとか・・・。」

「粗方終わってるんで大丈夫ですー。」

「なら行こうか。」


タウさんは自分のマントを取り、私にふわっとかけた。

そしてそのまま私の膝裏に手をあて、ひょいと姫抱きにされてしまったのだ。


「!?」

「ちょっと急ぐからな。マントで顔まで隠しとけよ?」

「え・・・。」


言われた瞬間、私はタウさんのマントをぐぃっと引っ張って寄せた。

そしてタウさんが少し歩いたあと、ふわっと体が浮いたような気がした。


「息はできるようにするから。下は見るなよ?」

「はい・・・」


ぐんっ・・!と加速するような感覚が私の体を襲った。

きっと猛スピードで空を飛んでるのだろう。


(ちょっとだけ・・・)


『下を見るな』と言われたら見たくなるもの。

私はマントを少し下げ、下を見てみた。


(---っ!!待って・・流れる景色が早すぎて見えない・・・)


一瞬で流れてしまう景色はまるで早送りをしてるように見える。

遠くにあった木が近くに来たと思ったらもう見えないところに遠ざかってるのだ。


(レイスさんよりずっと早い・・・!)


私を気遣ってスピードを落としてると言ってくれていたレイスさんだったけど、タウさんはスピードの加減なんてしてなさそうだ。

それだけ私を落とさないという自信があるからだろうか・・・。


「怖いか?」


じっと下を見つめてると、タウさんが私をじっと見つめていた。

近い距離にドキッとしてしまう。


「こわ・・くはないですけど・・・」

「『けど』?」

「速いなーって・・・?」


流れゆく景色が速すぎて何の感想も出せない私は正直に答えた。

するとタウさんはそんな私を見て豪快に笑いだしたのだ。


「ははっ・・!」

「!!・・・なんで笑うんですかー・・・。」

「いや?面白い答えだなと思って。・・・ははっ。」


ツボにハマってしまったのか、ずっと笑ってるタウさん。

その笑顔を間近で見ていた私は、その整った顔に目を奪われていた。


(あんまりまじまじと見たことがなかったけど・・・すごいきれいな顔・・・)


くっきり二重に通った鼻筋。

短くてツンっと立った髪の毛がよく似合っていた。


「ん?どした?」

「---っ!なっ・・なんでもないです・・・っ。」

「そうか?・・・あ、そろそろ着くぞ。」

「もう!?」


あっという間だった空の旅。

ものの数十分で終わりを迎えてしまった。

視線を前に向けるともうすぐそこに森が見えてる。


「ほんとだ・・・。」

「降りるからちょっと待てよ?」


徐々にスピードを落としていくタウさんは、森の入口辺りで地面に降り立った。

私の足も地面に下ろされたのだけど、肩をぎゅっと抱いたままタウさんはじっとしてる。


「?・・・あの・・・?」

「真っ直ぐ立てそうか?ここで転ぶとケガするぞ?」

「だ・・大丈夫です・・・。」

「そうか?ふらついたらすぐに座るんだぞ?」

「はい・・・。」


森に連れてきてくれたからか保護者のような行動を見せるタウさん。

ハマルおばぁちゃんも同じことを言いそうな気がして、思わず笑ってしまった。


「・・・ふふっ。」

「どうした?」

「なんでもないですよ。・・・ふふ。」


笑ってる私を横目に見ながらタウさんは森の中に足を踏み入れた。

その後ろを歩いてついていく。


「ステラ、ヤドリギってどの辺にあるかわかるか?」


タウさんは生い茂ってる木を見上げながらきょろきょろしてヤドリギを探してるようだった。

私も同じように木の枝を見上げる。


「あー・・多分すぐに見つけれると思います。一つの木にいくつかあることも多いんで・・・。」


そう言って少し遠くまで見渡すと一つ、大きなヤドリギを見つけた。

葉のない枝に丸くなって寄生してる。


「タウさん、あそこにありますよー。」


指をさして教えると、タウさんは私の指がさす方向を見てくれた。


「お、ほんとだ。ちょっと取ってくるからこれ、持っててくれるか?」


タウさんは服のポケットからハンカチのようなものを取り出して私に渡してきた。


「?」

「広げててくれるか?包みたいから。」

「あ、はい。」


風魔法を使ってヤドリギのある所まで浮かびあがっていったタウさんを見ながら、私はそのハンカチを広げた。

ただ・・・硬めに畳まれてるハンカチのようで、なかなか広げることができない。


「んーっ・・・!」


一体どんな畳み方をしたらこんなに硬くなるのか疑問に思いながら広げてると、ヤドリギを収穫したタウさんが空から降りてきた。


「悪い悪い、水かけないと広がらないんだよ、それ。」

「え?」


丸いヤドリギを両手で支えながら私が持つハンカチに手をかざしたタウさん。

その瞬間、ハンカチに水分が含まれていき、硬かったハンカチが柔らかくなっていった。


「ふぁっ・・・すごい・・・」

「で、風で乾かしてと・・・。」


調節が上手いのかハンカチにだけ風が送られた。

目に見えないくらい細かい生地の隙間を風が抜け、あっという間にハンカチが乾いていく。


「よし。広げてくれるか?」


乾いたハンカチはさっきより厚みを増していた。

言われた通りに広げ始める。


「えっと・・・」


折り目にそって広げていくと、手のひらサイズだったハンカチは倍の大きさに広がった。

その倍になったハンカチをまた広げ、倍、倍、倍になっていく。


「え・・これ、どこまで広がるんですか・・!?」


もう手に持ちきれない大きさになってしまったハンカチは私の手から垂れ下がり、地面についてしまってる。

大判の風呂敷以上の大きさになったハンカチは、レジャーシートくらいの大きさまで広がった。


「えぇぇぇ・・・・。」

「地面に置いてくれて大丈夫だから。」


言われた通り地面でハンカチ・・もはやレジャーシートになってしまった布を広げると、タウさんがそこにヤドリギを置いた。


「5つくらい欲しいところだな。」


そう言ってタウさんはまた風魔法を使って空へ上がっていってしまった。


「これ、何に使うんだろう?」


今回開催されるお祭りの内容は、私はあまり知らなかった。

ただ『たくさんの人が来るお祭り』としか聞いてないのだ。


「たくさんの人が来るなら・・・七夕みたいな感じかなぁ・・・。」


前世で有名なイベントの一つだ。

ただ、なぜヤドリギが必要なのかがわからない。


「たなばたってなんだ?」


そんなことを考えながら丸いヤドリギを指でつついてると、タウさんはヤドリギを両手に4つ抱えて戻ってきた。

どうやら同じ木に寄生していたようだ。


「七夕ですか?うーん・・・前の世界の行事だったんですけど、年に一度だけ会える男の人と女の人のお話があったんです。」


神様は機織りが上手で働き者の自分の娘を、同じく働き者で牛飼いの牽牛と引き合わせた話だ。

二人はひと目で恋に落ち、結婚したけど遊んでばかりで、働かなくなるという結果になってしまった。

怒った神様は二人を天の川の両岸に引き離したが、娘が泣いて悲しんだため、年に1度七夕の夜にだけ会うことを許したのだ。


「へぇー・・・そんな話があるのか。」

「機織りが上手だったっていう話なので、昔は上達を願って短冊にお願い事を書いていたらしいんですけど、いつのまにか他の願い事も書くようになって・・・空にいる二人を模してる星にお願いするようになったんです。」


街で笹に短冊をつるしてるのを何度か見かけたことがあった。

いつか自分もしてみたいと思ってはいたけど・・・結局叶うことはなかったことを思いだしてしまった。


(誠也さんとの子供とかいたら・・・また変わったのかもしれないけど・・。)


そんなことを考えてると、タウさんが空を見上げていた。


「星に願いか・・・。そう考えたら今度の祭りと同じような感じかもな。」

「同じ?」

「あぁ。祭りは年に一度、空に還った者を思い出すためのものなんだ。大事な人を思い返して近況を報告したり、大事な人を紹介したり・・・」

「そうなんですか・・・。」


私も同じように空を見上げる。

まだ明るい空は星なんて見えないけど、きっと空からハマルおばぁちゃんが私を見てくれてるはずだ。


「タウさんは思い返す大事な人とか・・・いるんですか?」


何も知らない彼のこと。

ふと気になって聞いてみた。


「・・・そうだな、大変だけど元気にやってるよって、これを持って言いたいな。」


そう言ってヤドリギを指さした。


「これって何に使うんですか?」

「あぁ、ヤドリギは『永遠の命の象徴』って言われてるんだ。木の葉が枯れ落ちても枝でずっと生きてるからな。で、砂になった人たちも空で星になって生きてる。言葉を交わすことはできないけど、この葉を持って思い返すのが慣例なんだよ。」

「へぇー・・・」


素敵な風習だなと思いながらヤドリギを見つめてると、タウさんがヤドリギの葉を一枚取った。

それを私に差し出してる。


「ん。」

「え?」

「ハマル様のこと、思い出すんだろ?葉は争奪戦になるから持っときな?」

「いいんですか?」

「あぁ。夜、城からなら星も近いだろう。」


もらったヤドリギの葉を見つめてると、タウさんは集めてきたヤドリギをくるくるっと包んだ。

そして両端を体の前でくくり、背中に背負ったのだ。


「よし。ステラの瞳の色を変える材料、探しにいくか。」



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