26 / 49
26
しおりを挟む
ーーーーー
ーーーーー
「ステラーっ・・!ちょっといいかーっ・・!?」
「はーいっ・・!」
私の瞳の色が金色だとタウさんにバレて(?)から6日が経った。
タウさんは私の瞳のことを誰にも話してないようで、特に変わりない日々を送らせてもらってる。
今は数日後に控えてる国のお祭りの準備中だ。
「すみません、タウさん。お待たせしました。」
パタパタと走りながらタウさんの下へ行くと、タウさんはこっそり話すように私の耳に顔を近づけてきた。
「祭りに必要なヤドリギを探しに森に行くんだが、一緒に行くか?瞳の色を変える材料探したいんだろ?」
「!!」
前にタウさんの部屋で使った目薬がほぼ最後の一回分だったことを、タウさんは知っていたようだ。
そして私がその材料を模索してることも・・・。
「知ってたんですか?」
こそっと聞き返した。
「必要なものなのに空に近かったからな。材料はわかるのか?」
「それが・・・あまり検討がつかなくて・・・」
ハマルおばぁちゃんが作ったものだから森にあるものでできてるハズなのに、皆目見当がつかなかった。
もし似たようなのが作れてもそれを目に入れて大丈夫かどうか確かめるのも怖い。
「とりあえず探してみるか?俺の側を離れなければ危険はないと約束する。」
「・・・。」
見に行っても材料がわからなければ採ることもできない。
でも久しぶりに森に行けるなら、材料がわからなくてもいいと思った。
「お願いしていいですか?森にも帰りたいですし・・・」
そう言うとタウさんは少し残念そうな表情をした。
「悪いが家には連れていってやれそうにないんだ。まだ調査が進んでないのと、すぐに戻ってこないといけないから・・・。」
「あ、大丈夫です。わかってます。」
「ごめんな?」
「いえ・・・。」
私自身、お祭りの準備のお手伝いをしてることから家に帰れないことはわかっていた。
なのにタウさんが考えてくれたことが申し訳ない。
(帰りたいのは帰りたいけど、爆発と火事はちょっとおかしいし・・・。)
18年過ごしてきて一度もなかったことだ。
おかしいものには近づかないのが一番いい。
「すぐに出発して大丈夫か?何かすることあるとか・・・。」
「粗方終わってるんで大丈夫ですー。」
「なら行こうか。」
タウさんは自分のマントを取り、私にふわっとかけた。
そしてそのまま私の膝裏に手をあて、ひょいと姫抱きにされてしまったのだ。
「!?」
「ちょっと急ぐからな。マントで顔まで隠しとけよ?」
「え・・・。」
言われた瞬間、私はタウさんのマントをぐぃっと引っ張って寄せた。
そしてタウさんが少し歩いたあと、ふわっと体が浮いたような気がした。
「息はできるようにするから。下は見るなよ?」
「はい・・・」
ぐんっ・・!と加速するような感覚が私の体を襲った。
きっと猛スピードで空を飛んでるのだろう。
(ちょっとだけ・・・)
『下を見るな』と言われたら見たくなるもの。
私はマントを少し下げ、下を見てみた。
(---っ!!待って・・流れる景色が早すぎて見えない・・・)
一瞬で流れてしまう景色はまるで早送りをしてるように見える。
遠くにあった木が近くに来たと思ったらもう見えないところに遠ざかってるのだ。
(レイスさんよりずっと早い・・・!)
私を気遣ってスピードを落としてると言ってくれていたレイスさんだったけど、タウさんはスピードの加減なんてしてなさそうだ。
それだけ私を落とさないという自信があるからだろうか・・・。
「怖いか?」
じっと下を見つめてると、タウさんが私をじっと見つめていた。
近い距離にドキッとしてしまう。
「こわ・・くはないですけど・・・」
「『けど』?」
「速いなーって・・・?」
流れゆく景色が速すぎて何の感想も出せない私は正直に答えた。
するとタウさんはそんな私を見て豪快に笑いだしたのだ。
「ははっ・・!」
「!!・・・なんで笑うんですかー・・・。」
「いや?面白い答えだなと思って。・・・ははっ。」
ツボにハマってしまったのか、ずっと笑ってるタウさん。
その笑顔を間近で見ていた私は、その整った顔に目を奪われていた。
(あんまりまじまじと見たことがなかったけど・・・すごいきれいな顔・・・)
くっきり二重に通った鼻筋。
短くてツンっと立った髪の毛がよく似合っていた。
「ん?どした?」
「---っ!なっ・・なんでもないです・・・っ。」
「そうか?・・・あ、そろそろ着くぞ。」
「もう!?」
あっという間だった空の旅。
ものの数十分で終わりを迎えてしまった。
視線を前に向けるともうすぐそこに森が見えてる。
「ほんとだ・・・。」
「降りるからちょっと待てよ?」
徐々にスピードを落としていくタウさんは、森の入口辺りで地面に降り立った。
私の足も地面に下ろされたのだけど、肩をぎゅっと抱いたままタウさんはじっとしてる。
「?・・・あの・・・?」
「真っ直ぐ立てそうか?ここで転ぶとケガするぞ?」
「だ・・大丈夫です・・・。」
「そうか?ふらついたらすぐに座るんだぞ?」
「はい・・・。」
森に連れてきてくれたからか保護者のような行動を見せるタウさん。
ハマルおばぁちゃんも同じことを言いそうな気がして、思わず笑ってしまった。
「・・・ふふっ。」
「どうした?」
「なんでもないですよ。・・・ふふ。」
笑ってる私を横目に見ながらタウさんは森の中に足を踏み入れた。
その後ろを歩いてついていく。
「ステラ、ヤドリギってどの辺にあるかわかるか?」
タウさんは生い茂ってる木を見上げながらきょろきょろしてヤドリギを探してるようだった。
私も同じように木の枝を見上げる。
「あー・・多分すぐに見つけれると思います。一つの木にいくつかあることも多いんで・・・。」
そう言って少し遠くまで見渡すと一つ、大きなヤドリギを見つけた。
葉のない枝に丸くなって寄生してる。
「タウさん、あそこにありますよー。」
指をさして教えると、タウさんは私の指がさす方向を見てくれた。
「お、ほんとだ。ちょっと取ってくるからこれ、持っててくれるか?」
タウさんは服のポケットからハンカチのようなものを取り出して私に渡してきた。
「?」
「広げててくれるか?包みたいから。」
「あ、はい。」
風魔法を使ってヤドリギのある所まで浮かびあがっていったタウさんを見ながら、私はそのハンカチを広げた。
ただ・・・硬めに畳まれてるハンカチのようで、なかなか広げることができない。
「んーっ・・・!」
一体どんな畳み方をしたらこんなに硬くなるのか疑問に思いながら広げてると、ヤドリギを収穫したタウさんが空から降りてきた。
「悪い悪い、水かけないと広がらないんだよ、それ。」
「え?」
丸いヤドリギを両手で支えながら私が持つハンカチに手をかざしたタウさん。
その瞬間、ハンカチに水分が含まれていき、硬かったハンカチが柔らかくなっていった。
「ふぁっ・・・すごい・・・」
「で、風で乾かしてと・・・。」
調節が上手いのかハンカチにだけ風が送られた。
目に見えないくらい細かい生地の隙間を風が抜け、あっという間にハンカチが乾いていく。
「よし。広げてくれるか?」
乾いたハンカチはさっきより厚みを増していた。
言われた通りに広げ始める。
「えっと・・・」
折り目にそって広げていくと、手のひらサイズだったハンカチは倍の大きさに広がった。
その倍になったハンカチをまた広げ、倍、倍、倍になっていく。
「え・・これ、どこまで広がるんですか・・!?」
もう手に持ちきれない大きさになってしまったハンカチは私の手から垂れ下がり、地面についてしまってる。
大判の風呂敷以上の大きさになったハンカチは、レジャーシートくらいの大きさまで広がった。
「えぇぇぇ・・・・。」
「地面に置いてくれて大丈夫だから。」
言われた通り地面でハンカチ・・もはやレジャーシートになってしまった布を広げると、タウさんがそこにヤドリギを置いた。
「5つくらい欲しいところだな。」
そう言ってタウさんはまた風魔法を使って空へ上がっていってしまった。
「これ、何に使うんだろう?」
今回開催されるお祭りの内容は、私はあまり知らなかった。
ただ『たくさんの人が来るお祭り』としか聞いてないのだ。
「たくさんの人が来るなら・・・七夕みたいな感じかなぁ・・・。」
前世で有名なイベントの一つだ。
ただ、なぜヤドリギが必要なのかがわからない。
「たなばたってなんだ?」
そんなことを考えながら丸いヤドリギを指でつついてると、タウさんはヤドリギを両手に4つ抱えて戻ってきた。
どうやら同じ木に寄生していたようだ。
「七夕ですか?うーん・・・前の世界の行事だったんですけど、年に一度だけ会える男の人と女の人のお話があったんです。」
神様は機織りが上手で働き者の自分の娘を、同じく働き者で牛飼いの牽牛と引き合わせた話だ。
二人はひと目で恋に落ち、結婚したけど遊んでばかりで、働かなくなるという結果になってしまった。
怒った神様は二人を天の川の両岸に引き離したが、娘が泣いて悲しんだため、年に1度七夕の夜にだけ会うことを許したのだ。
「へぇー・・・そんな話があるのか。」
「機織りが上手だったっていう話なので、昔は上達を願って短冊にお願い事を書いていたらしいんですけど、いつのまにか他の願い事も書くようになって・・・空にいる二人を模してる星にお願いするようになったんです。」
街で笹に短冊をつるしてるのを何度か見かけたことがあった。
いつか自分もしてみたいと思ってはいたけど・・・結局叶うことはなかったことを思いだしてしまった。
(誠也さんとの子供とかいたら・・・また変わったのかもしれないけど・・。)
そんなことを考えてると、タウさんが空を見上げていた。
「星に願いか・・・。そう考えたら今度の祭りと同じような感じかもな。」
「同じ?」
「あぁ。祭りは年に一度、空に還った者を思い出すためのものなんだ。大事な人を思い返して近況を報告したり、大事な人を紹介したり・・・」
「そうなんですか・・・。」
私も同じように空を見上げる。
まだ明るい空は星なんて見えないけど、きっと空からハマルおばぁちゃんが私を見てくれてるはずだ。
「タウさんは思い返す大事な人とか・・・いるんですか?」
何も知らない彼のこと。
ふと気になって聞いてみた。
「・・・そうだな、大変だけど元気にやってるよって、これを持って言いたいな。」
そう言ってヤドリギを指さした。
「これって何に使うんですか?」
「あぁ、ヤドリギは『永遠の命の象徴』って言われてるんだ。木の葉が枯れ落ちても枝でずっと生きてるからな。で、砂になった人たちも空で星になって生きてる。言葉を交わすことはできないけど、この葉を持って思い返すのが慣例なんだよ。」
「へぇー・・・」
素敵な風習だなと思いながらヤドリギを見つめてると、タウさんがヤドリギの葉を一枚取った。
それを私に差し出してる。
「ん。」
「え?」
「ハマル様のこと、思い出すんだろ?葉は争奪戦になるから持っときな?」
「いいんですか?」
「あぁ。夜、城からなら星も近いだろう。」
もらったヤドリギの葉を見つめてると、タウさんは集めてきたヤドリギをくるくるっと包んだ。
そして両端を体の前でくくり、背中に背負ったのだ。
「よし。ステラの瞳の色を変える材料、探しにいくか。」
ーーーーー
「ステラーっ・・!ちょっといいかーっ・・!?」
「はーいっ・・!」
私の瞳の色が金色だとタウさんにバレて(?)から6日が経った。
タウさんは私の瞳のことを誰にも話してないようで、特に変わりない日々を送らせてもらってる。
今は数日後に控えてる国のお祭りの準備中だ。
「すみません、タウさん。お待たせしました。」
パタパタと走りながらタウさんの下へ行くと、タウさんはこっそり話すように私の耳に顔を近づけてきた。
「祭りに必要なヤドリギを探しに森に行くんだが、一緒に行くか?瞳の色を変える材料探したいんだろ?」
「!!」
前にタウさんの部屋で使った目薬がほぼ最後の一回分だったことを、タウさんは知っていたようだ。
そして私がその材料を模索してることも・・・。
「知ってたんですか?」
こそっと聞き返した。
「必要なものなのに空に近かったからな。材料はわかるのか?」
「それが・・・あまり検討がつかなくて・・・」
ハマルおばぁちゃんが作ったものだから森にあるものでできてるハズなのに、皆目見当がつかなかった。
もし似たようなのが作れてもそれを目に入れて大丈夫かどうか確かめるのも怖い。
「とりあえず探してみるか?俺の側を離れなければ危険はないと約束する。」
「・・・。」
見に行っても材料がわからなければ採ることもできない。
でも久しぶりに森に行けるなら、材料がわからなくてもいいと思った。
「お願いしていいですか?森にも帰りたいですし・・・」
そう言うとタウさんは少し残念そうな表情をした。
「悪いが家には連れていってやれそうにないんだ。まだ調査が進んでないのと、すぐに戻ってこないといけないから・・・。」
「あ、大丈夫です。わかってます。」
「ごめんな?」
「いえ・・・。」
私自身、お祭りの準備のお手伝いをしてることから家に帰れないことはわかっていた。
なのにタウさんが考えてくれたことが申し訳ない。
(帰りたいのは帰りたいけど、爆発と火事はちょっとおかしいし・・・。)
18年過ごしてきて一度もなかったことだ。
おかしいものには近づかないのが一番いい。
「すぐに出発して大丈夫か?何かすることあるとか・・・。」
「粗方終わってるんで大丈夫ですー。」
「なら行こうか。」
タウさんは自分のマントを取り、私にふわっとかけた。
そしてそのまま私の膝裏に手をあて、ひょいと姫抱きにされてしまったのだ。
「!?」
「ちょっと急ぐからな。マントで顔まで隠しとけよ?」
「え・・・。」
言われた瞬間、私はタウさんのマントをぐぃっと引っ張って寄せた。
そしてタウさんが少し歩いたあと、ふわっと体が浮いたような気がした。
「息はできるようにするから。下は見るなよ?」
「はい・・・」
ぐんっ・・!と加速するような感覚が私の体を襲った。
きっと猛スピードで空を飛んでるのだろう。
(ちょっとだけ・・・)
『下を見るな』と言われたら見たくなるもの。
私はマントを少し下げ、下を見てみた。
(---っ!!待って・・流れる景色が早すぎて見えない・・・)
一瞬で流れてしまう景色はまるで早送りをしてるように見える。
遠くにあった木が近くに来たと思ったらもう見えないところに遠ざかってるのだ。
(レイスさんよりずっと早い・・・!)
私を気遣ってスピードを落としてると言ってくれていたレイスさんだったけど、タウさんはスピードの加減なんてしてなさそうだ。
それだけ私を落とさないという自信があるからだろうか・・・。
「怖いか?」
じっと下を見つめてると、タウさんが私をじっと見つめていた。
近い距離にドキッとしてしまう。
「こわ・・くはないですけど・・・」
「『けど』?」
「速いなーって・・・?」
流れゆく景色が速すぎて何の感想も出せない私は正直に答えた。
するとタウさんはそんな私を見て豪快に笑いだしたのだ。
「ははっ・・!」
「!!・・・なんで笑うんですかー・・・。」
「いや?面白い答えだなと思って。・・・ははっ。」
ツボにハマってしまったのか、ずっと笑ってるタウさん。
その笑顔を間近で見ていた私は、その整った顔に目を奪われていた。
(あんまりまじまじと見たことがなかったけど・・・すごいきれいな顔・・・)
くっきり二重に通った鼻筋。
短くてツンっと立った髪の毛がよく似合っていた。
「ん?どした?」
「---っ!なっ・・なんでもないです・・・っ。」
「そうか?・・・あ、そろそろ着くぞ。」
「もう!?」
あっという間だった空の旅。
ものの数十分で終わりを迎えてしまった。
視線を前に向けるともうすぐそこに森が見えてる。
「ほんとだ・・・。」
「降りるからちょっと待てよ?」
徐々にスピードを落としていくタウさんは、森の入口辺りで地面に降り立った。
私の足も地面に下ろされたのだけど、肩をぎゅっと抱いたままタウさんはじっとしてる。
「?・・・あの・・・?」
「真っ直ぐ立てそうか?ここで転ぶとケガするぞ?」
「だ・・大丈夫です・・・。」
「そうか?ふらついたらすぐに座るんだぞ?」
「はい・・・。」
森に連れてきてくれたからか保護者のような行動を見せるタウさん。
ハマルおばぁちゃんも同じことを言いそうな気がして、思わず笑ってしまった。
「・・・ふふっ。」
「どうした?」
「なんでもないですよ。・・・ふふ。」
笑ってる私を横目に見ながらタウさんは森の中に足を踏み入れた。
その後ろを歩いてついていく。
「ステラ、ヤドリギってどの辺にあるかわかるか?」
タウさんは生い茂ってる木を見上げながらきょろきょろしてヤドリギを探してるようだった。
私も同じように木の枝を見上げる。
「あー・・多分すぐに見つけれると思います。一つの木にいくつかあることも多いんで・・・。」
そう言って少し遠くまで見渡すと一つ、大きなヤドリギを見つけた。
葉のない枝に丸くなって寄生してる。
「タウさん、あそこにありますよー。」
指をさして教えると、タウさんは私の指がさす方向を見てくれた。
「お、ほんとだ。ちょっと取ってくるからこれ、持っててくれるか?」
タウさんは服のポケットからハンカチのようなものを取り出して私に渡してきた。
「?」
「広げててくれるか?包みたいから。」
「あ、はい。」
風魔法を使ってヤドリギのある所まで浮かびあがっていったタウさんを見ながら、私はそのハンカチを広げた。
ただ・・・硬めに畳まれてるハンカチのようで、なかなか広げることができない。
「んーっ・・・!」
一体どんな畳み方をしたらこんなに硬くなるのか疑問に思いながら広げてると、ヤドリギを収穫したタウさんが空から降りてきた。
「悪い悪い、水かけないと広がらないんだよ、それ。」
「え?」
丸いヤドリギを両手で支えながら私が持つハンカチに手をかざしたタウさん。
その瞬間、ハンカチに水分が含まれていき、硬かったハンカチが柔らかくなっていった。
「ふぁっ・・・すごい・・・」
「で、風で乾かしてと・・・。」
調節が上手いのかハンカチにだけ風が送られた。
目に見えないくらい細かい生地の隙間を風が抜け、あっという間にハンカチが乾いていく。
「よし。広げてくれるか?」
乾いたハンカチはさっきより厚みを増していた。
言われた通りに広げ始める。
「えっと・・・」
折り目にそって広げていくと、手のひらサイズだったハンカチは倍の大きさに広がった。
その倍になったハンカチをまた広げ、倍、倍、倍になっていく。
「え・・これ、どこまで広がるんですか・・!?」
もう手に持ちきれない大きさになってしまったハンカチは私の手から垂れ下がり、地面についてしまってる。
大判の風呂敷以上の大きさになったハンカチは、レジャーシートくらいの大きさまで広がった。
「えぇぇぇ・・・・。」
「地面に置いてくれて大丈夫だから。」
言われた通り地面でハンカチ・・もはやレジャーシートになってしまった布を広げると、タウさんがそこにヤドリギを置いた。
「5つくらい欲しいところだな。」
そう言ってタウさんはまた風魔法を使って空へ上がっていってしまった。
「これ、何に使うんだろう?」
今回開催されるお祭りの内容は、私はあまり知らなかった。
ただ『たくさんの人が来るお祭り』としか聞いてないのだ。
「たくさんの人が来るなら・・・七夕みたいな感じかなぁ・・・。」
前世で有名なイベントの一つだ。
ただ、なぜヤドリギが必要なのかがわからない。
「たなばたってなんだ?」
そんなことを考えながら丸いヤドリギを指でつついてると、タウさんはヤドリギを両手に4つ抱えて戻ってきた。
どうやら同じ木に寄生していたようだ。
「七夕ですか?うーん・・・前の世界の行事だったんですけど、年に一度だけ会える男の人と女の人のお話があったんです。」
神様は機織りが上手で働き者の自分の娘を、同じく働き者で牛飼いの牽牛と引き合わせた話だ。
二人はひと目で恋に落ち、結婚したけど遊んでばかりで、働かなくなるという結果になってしまった。
怒った神様は二人を天の川の両岸に引き離したが、娘が泣いて悲しんだため、年に1度七夕の夜にだけ会うことを許したのだ。
「へぇー・・・そんな話があるのか。」
「機織りが上手だったっていう話なので、昔は上達を願って短冊にお願い事を書いていたらしいんですけど、いつのまにか他の願い事も書くようになって・・・空にいる二人を模してる星にお願いするようになったんです。」
街で笹に短冊をつるしてるのを何度か見かけたことがあった。
いつか自分もしてみたいと思ってはいたけど・・・結局叶うことはなかったことを思いだしてしまった。
(誠也さんとの子供とかいたら・・・また変わったのかもしれないけど・・。)
そんなことを考えてると、タウさんが空を見上げていた。
「星に願いか・・・。そう考えたら今度の祭りと同じような感じかもな。」
「同じ?」
「あぁ。祭りは年に一度、空に還った者を思い出すためのものなんだ。大事な人を思い返して近況を報告したり、大事な人を紹介したり・・・」
「そうなんですか・・・。」
私も同じように空を見上げる。
まだ明るい空は星なんて見えないけど、きっと空からハマルおばぁちゃんが私を見てくれてるはずだ。
「タウさんは思い返す大事な人とか・・・いるんですか?」
何も知らない彼のこと。
ふと気になって聞いてみた。
「・・・そうだな、大変だけど元気にやってるよって、これを持って言いたいな。」
そう言ってヤドリギを指さした。
「これって何に使うんですか?」
「あぁ、ヤドリギは『永遠の命の象徴』って言われてるんだ。木の葉が枯れ落ちても枝でずっと生きてるからな。で、砂になった人たちも空で星になって生きてる。言葉を交わすことはできないけど、この葉を持って思い返すのが慣例なんだよ。」
「へぇー・・・」
素敵な風習だなと思いながらヤドリギを見つめてると、タウさんがヤドリギの葉を一枚取った。
それを私に差し出してる。
「ん。」
「え?」
「ハマル様のこと、思い出すんだろ?葉は争奪戦になるから持っときな?」
「いいんですか?」
「あぁ。夜、城からなら星も近いだろう。」
もらったヤドリギの葉を見つめてると、タウさんは集めてきたヤドリギをくるくるっと包んだ。
そして両端を体の前でくくり、背中に背負ったのだ。
「よし。ステラの瞳の色を変える材料、探しにいくか。」
22
お気に入りに追加
964
あなたにおすすめの小説
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる