上 下
24 / 49

24

しおりを挟む
ーーーーー



「ステラが街で働く・・!?」


ステラを連れて城の執務室に戻ると、そこにはトゥレイスを始め、ワズンにアダーラ、ミンカルに王が会議をしてる最中だった。


「あぁ、街で一番人気の食堂でさっき働いてたんだが『明日も働かないか』と声をかけられていた。」

「嘘だろ・・・」


ちょっと目を離した隙にとんでもないことになってることに驚いたトゥレイスとワズンだったが、王は笑いを堪えるのに必死のようだった。


「くくっ・・・!小遣いを渡して街に遊びに行かせたのに、まさか働いて帰ってくるとはな・・・!」

「笑いごとではないですよ、王・・・」


ワズンが頭に手を置いて悩んでる姿が目に入る。

そんなワズンに王は笑いながら言った。


「いいんじゃないか?」

「王・・!?」

「ステラ、お前はどうしたい?」

「私ですか?」

「あぁ。森に帰りたいと言っていたが森は今、危険な状態だ。火の手があがった原因がまだわからないのだ。」

「・・・。」

「早急に調査はする。調査が終わって森が安全になるまではここにいたほうがいいと思う。それはわかるな?」

「はい・・。」


理解するのが早いステラに向かって、王は次々と矢継ぎ早に話し始めた。


「調査に何日かかるかはわからない。その間、住むところはどうする?」

「それは・・・どこか家を借りたりとか・・・」

「家の貸し出しはない。」

「そうなんですか・・・。」

「城に住むしかない。わかるな?」

「・・・はい。」

「働くか働かないかはステラに任せる。どちらにしてもここで生活するのに不便はさせないことを約束する。」

「・・・。」


住むところを手に入れるためには働いて家を買うしかなく、働くには住むところがいる。

自分の住むところが城にしかないことを理解したステラは抵抗することができなかったのだ。


「お気遣い、ありがとうございます・・。」


不本意ながらも従うしかないステラは暗い雰囲気を纏っていた。

さっき食堂で働いていた時とは全然違う雰囲気だ。


「・・・王、いいですか?」

「どうした?タウ。」

「ステラの部屋ですが、今の部屋は広すぎると言ってました。なので選ばせては頂けないでしょうか。」


せめてステラが気に入る部屋を用意してやりたいと思って出た言葉だった。


「それは構わないが・・・ステラ、本当か?」

「!!・・・はっ・・はいっ!」

「なら好きな部屋を選ぶといい。タウ、使ってない部屋を把握してるだろう?案内してやってくれ。」

「はい。」


頭を軽く下げながらステラの方を見ると、ステラは笑顔で俺を見ていた。

少し機嫌がよくなったようだ。


「ステラ行くぞ。」


執務室を出てステラを案内していく。

できるだけ手狭な部屋を選びながら、かたっぱしから見せて行った。


「ここはどうだ?」

「広いですー・・。」

「ここは?」

「広い・・ですね・・。」

「じゃあここは?」

「さっきより広いですよ・・・っ!」


思いつく限りの部屋を見せて回るけど、どれもこれも『広い』としか言わないステラ。

俺は仕方なく城の1階の一番奥にある部屋をステラに見せた。


「ここは狭すぎるだろう?」


自信満々に見せた部屋は侍女の部屋だ。

小さいベッドに小さい机が一つ。

それに服を数着かけれるクローゼットがあるくらいだ。


「!!・・・ここがいいです!!」

「はっ・・?」

「ここでも広いくらいですけどここがいいですっ・・!いいですか?」

「!?!?」


嬉しそうに部屋に入っていったステラは、迷うことなくベッドに腰かけた。

そして寝っ転がったのだ。


「うわぁ・・・気持ちいいー・・・。」

(その小さいベッドでピッタリとか、どんだけ小さいんだよ・・・。)


自分が寝たら間違いなく足が出てしまうであろうベッド。

それに収まってしまうステラを見て、思わず笑みがこぼれてしまう。


「ははっ・・・!」

「?」

「わかったわかった。ここ、今日からステラの部屋な?」

「!!・・・はいっ!」




嬉しそうに笑うステラはこの日からここで寝泊まりが始まった。

翌日の朝早くから食堂に赴き、働きたい旨を伝えたステラは昼の間に働くことが決まった。

毎日侍女たちに混ざって朝食を済ませ、昼は働いて『まかない』を食べて帰ってくる。

夕方から夜にかけては侍女たちと一緒に城の掃除をしたあと夕食を食べ、部屋で過ごすのだ。


「いってきまーす!」


そう言って元気に仕事に行くのを見送ることが俺たち騎士団の日課になってしまうくらい日にちが経ったある日、妙な噂が流れ始めた。

それは『食堂で昼ご飯を食べると元気になる』と言うものだ。


「お前も聞いた?あの噂。」

「あぁ。でも単に回転がよくなったからじゃないのか?腹が満たされた奴らを見て、気分がよくなってるだけとか。」


堺の森の調査をしながらそんな話をしていた。

ステラが店員として働き始めて回転がよくなった食堂は、連日満席が続いていた。

噂が呼んでくれる客は、途切れることなく行列を作ってるらしい。


「今度行ってみようか、ステラが働いてるとこも見たいし。」

「そうだな。」


燃えてしまった木を見ながら歩いてると、遠くから誰かが歩いてくる気配を感じた。


「・・・。」


それはトゥレイスも感じていたようで、お互い目配せをして離れる。

見つからないように幹の太い木の枝に飛び乗り、気配を殺して見つめてると、見たことのない服を着た男が数人やってきたのだ。


「くそっ・・あいつ逃げやがって・・・」

「どうするよ、ピストニアに逃げ帰られてこのことがバレたら・・・」

「ピストニアの奴らを攫ってることをか?」

「あぁ。もしかして戦いになったりするのか・・?」

「それはないな、あいつら戦いが嫌いだから挑んでは来ないだろう。」

「それもそうか。」

「・・・ってか、あいつが逃げた分の補填どうする?」

「また爆発する木でも集めて呼び寄せるか。」

「そうだな。あと3人くらい使えば数年はもつだろう。」

「だな。」


そんな会話をしながらぐるっと辺りを見回した男どもは踵を返して戻っていった。

その気配が辿れなくなるまで待ち、トゥレイスと合流する。


「今の会話、聞いたか?」

「あぁ、この火事は意図的に引き起こされたものだな。」

「でもピストニアの者を攫って何をさせてるんだ?」

「『あと3人いれば数年はもつ』って意味がわからないな・・・。」


そんな会話をしてるとき、がさっ・・!と、茂みが揺れる音が聞こえた。


「!!」

「!!」


瞬時に剣を抜き、その茂みに目をやる。

茂みを挟むようにトゥレイスと囲むと、中からうめき声が聞こえてきたのだ。


「うぅっ・・・」


その声に聞き覚えがあった俺は茂みの中に入っていった。

すると茂みの枝に隠れるようにして『デネボラ』が横たわっていたのだ。


「・・・デネボラ!?どうした!?」


服を着せ変えられていたデネボラは、暴力を受けたの顔や腕に痣がある。


「うっ・・・ディアヘルに・・捕まってました・・・」

「『逃げた』って言ってたのはお前だったのか・・・」

「あいつら・・俺たちの魔力を吸い取って・・・ます・・。」

「は!?」

「う・・ウェズンたちは・・砂になりました・・・・」

「!!・・・もう喋るな!すぐに連れて帰ってやるから・・!」


そう言ってデネボラを抱え上げようとしたとき、その体が薄っすら透き通って見えた。


「すみませ・・団長・・・」

「!!・・待て!」

「お世話に・・なりました・・・」


そう言ってデネボラの体は砂になっていった。

空高く舞い上がる砂を見つめることしかできず、憤りだけが残る。


「・・・この前行方不明になった者はみんな・・攫われたってことなのか。」


デネボラの話だとそういうことになる。

みな、砂になってしまったと言っていたことから、おそらく生きてる者はいないだろう。


「一旦帰って報告しよう。行動はそれからだ。」

「・・・あぁ。」


俺たちは城に戻り、このことを報告した。

ワズンは頭を抱えて悩み、王は今まで見たことのない表情で怒りを抑えていた。


(ディアヘルに乗り込んだところで他の者が帰ってくるわけではない。だからきっと、戦いに行くことはしないだろう。)


奪還するためなら国の騎士全員がディアヘルに乗り込んでいくことは間違いない。

でもその相手がいない状況なら、これ以上被害がでないようにするしかないのだ。


「はぁ・・・。」


ため息をつきながら廊下の角を曲がろうとした時、ちょうど出合い頭に誰かとぶつかってしまった。

どんっ!・・と、音が鳴ったのは俺の腹の辺りだ。


「ひぎゃっ・・・!」

「おっと・・!悪い、考え事してて・・・ってステラ?」

「あ、タウさん・・・すみません。」


鼻がぶつかってしまったのか、手で撫でてるステラ。

その姿を見てる時、ステラの瞳の色が薄っすら金色になってるのに気がついた。


「!?・・・ステラ、ちょっと来い!」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...