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「行方不明者が出ただと・・!?」
堺の森の消化を終えたトゥレイスとタウが城に戻ると、ワズンが血相を変えて駆け寄ってきた。
「あぁ。」
「魔力が尽きた可能性は・・!?」
「ないな。一人で消火しても魔力は尽きないくらいの火だった。」
王に報告するため、執務室に向かって歩きながらワズンに現状を報告していく。
「堺の森で火があがることはない。まず人が住んでないからだ。」
「ハマル様は例外だな、あの人は火事を起こしたりしないし。」
「爆発音っていうのも気になる。火自体はさほど大きくなかったがなぜそんな音が聞こえたのか・・・。」
あらゆる可能性を3人で考えた。
一つ、何かしらの条件がそろって自然現象で爆発し、火事が起きた。
二つ、獣同士の喧嘩が起こり、衝突音が爆発音に聞こえた。そして獣たちの足の摩擦で火事になった。
三つ、誰かが魔法を暴発させてしまい、爆発とともに火事が起こった。
四つ・・・
「・・・ディアヘルの者が故意に起こした?」
考えられることを上げるとそれも含まれることになる。
「何のために?」
「わからない。」
トゥレイスとワズンの話を聞きながら、タウはぼそっと呟いた。
「でも一番しっくりくるかもしれないな。」
「なぜだ?」
タウの言葉が気になるワズンが問うと、タウは真正面を向きながら自分の考えを話し始めた。
「自然現象なら行方不明者の説明がつかない。でもディアヘルの仕業だったら、行方不明者の説明がつく。」
「それって・・・」
「あぁ、『誘拐』だな。」
以前より年に数人、ピストニアの国民が行方不明になることがあった。
どれも『森に出かけて帰らない』というものだ。
最初は森で迷ってしまい出れなくなったのかと思っていたけど、定期的に行方不明になることから調査を始めたところだった。
(その調査でステラを見つけたことは予想外だったけど・・・)
そう考えたとき、ふとステラの様子が気になった。
「ワズン、ステラは?」
『ここにいろ』と言ったあと、部屋でおとなしくしてるのか気になったのだ。
「あぁ、街に行った。」
「・・・は!?街!?」
「森に戻れそうにないのはステラもわかっていたみたいだから、小遣い渡して街に遊びに行かせた。」
思っても見なかった行動に口をぽかんと開けてワズンを見るトゥレイスとタウ。
そんな二人を見てワズンは後ろ手に頭をかいた。
「国の経費だから心配するな。微々たるものだ。」
「いやいやそういう問題じゃなくてだな・・・」
「?・・・じゃあどういう問題なんだ?」
「・・・。」
街に出たステラがそのまま森に向かって国を出るんじゃないかと心配したタウは、執務室に向けていた足の踵を返した。
「悪いトゥレイス、報告は頼んだ。」
そう言ってタウは城の中を駆けて行った。
「は!?おまっ・・!どこいくんだ!?」
「ステラ探してくる!!」
『今、森に帰るともしかしたら行方不明者の一人になってしまうかもしれない。』
そう考えたタウは風魔法を使って窓から飛び出た。
ステラが向かいそうな場所に目星をつけ、城下町に向かって飛んでいく。
(どこだ・・!?どこに行った・・!?)
城下町に降り立ったタウは辺りを見回しながらステラの姿を探した。
金色の髪の毛を持つ人を手当たり次第にチェックしていく。
「なぁ、おっちゃん・・!金色の髪の毛の女の子、見なかったか!?」
城下町に入ってすぐにある露店で、肉を焼いていた店主に尋ねてみた。
「おぉ、騎士団のにーちゃん。金色の髪の子・・?さっき串焼きあげた子か?」
「どんな子!?」
「子供みたいだったけどなぁ。薄青い瞳で、スカート履いてて・・・」
「その子!!どこ行った!?」
「え?あぁ、裏の広場に行ったよ。どっかに座って串焼き食べてんじゃないか?」
「ありがとう!!」
俺は店の裏を抜け、国で一番の広場に向かった。
背の高い木や低い木、それに地面一面に広がる草を植えていて、街の人たちがよく散歩したりする場所だ。
「この辺で座って食べるならもっと上か・・!」
緩やかな上りになってるこの広場は、上のほうにいくつか椅子が置かれてる。
休憩するためや、景色を楽しむためだ。
ステラがどこかに座って食べるとしたらここしか思いつかなかった。
「ステラーっ・・!ステラーっ・・!?」
上りながら叫ぶものの返事はなく、俺は広場の坂を上り切ってしまった。
途中にあったベンチに人影はなく、店主が渡した串焼きの串も落ちてなかったのだ。
「この先は店が立ち並ぶエリアか・・・買い物でもしてたらいいけど・・・」
もし外に出てしまっていたらと思うとぞっとするけど、ワズンが言ってた『街に遊びに行かせた』という言葉を信じて俺は歩き出した。
するとその時、ちょうどすれ違った男どもの会話が耳に入ってきたのだ。
「あの食堂、新しい子入れたんだな。」
「あぁ、あの金色の髪の子?」
「めっちゃかわいかったよな!」
「明日も行かね?」
「行く行く!明日もいるといいなぁ。」
そんな会話を耳にし、俺は歩いていた足を止めた。
(新しい子・・・?金色の髪ってもしかして・・・)
闇雲に探し回るより確実だと思い、俺は食堂に足を向けた。
広場を下った先にある食堂は、この街一番人気の店だ。
安くて早くて美味い。
「え・・なんだ?あの行列・・・」
店に向かって歩いていくと、店の前で見慣れない行列が目に入った。
中のテーブルが空くのを待ってるようだ。
「すみませーん!お待ちの方どうぞー!」
そう言ってステラが店の中から出てきた。
「は!?・・え!?」
三角巾を頭に巻き、黒いエプロンを身に着けて笑顔を振りまいてる。
まるで店員のような動きに、俺はステラに駆け寄った。
「ステラ・・・!」
「?・・・あ、タウさん?どうしたんですか?」
「いや、『どうした』はこっちのセリフ・・・」
「ちょっと待ってもらえますか?今から一気に空くと思うんで・・・」
「あ・・あぁ・・。」
そう言うとステラは店の外に並んでいた連中を一気に案内し始めた。
並んでいた人たちはぞろぞろと店の中に入っていき、あっという間に店の前は人がいなくなっていった。
「お待たせしましたー。」
三角巾を取りながら店から出てきたステラ。
何がどうなってこうなってるのかわからない俺は何から聞いていいのかわからず、ステラを上から下まで見てしまっていた。
「えっと・・ステラ?ワズンの話じゃ街に遊びに行ったって聞いたんだけど・・・」
そう聞くとステラは城を出たところから話してくれた。
どうやら城下町の露店でもらった串焼きが、この店に来るきっかけになったらしい。
「串を捨てるところがなくて困ってたら、このお店の人が声をかけてくれたんです。『店の中のごみ箱使っていいよ』って。で、お店に入らせてもらったんですけど、ものすごく混んでて・・・それで『お手伝いしましょうか?』って聞いて手伝ってました。」
「・・・。」
どこから突っ込んでいいのか悩んでると、店の者がステラを追いかけて出てきた。
手に革袋を持ってる。
「あ・・!ステラちゃんっ・・!これ、お給金だよ!」
「え・・・?」
ステラがさっきかぶってた三角巾と同じものを頭に巻いた店の者は、少し年配の女性だった。
ステラが働いた分だけの給金を持ってきてくれたのだ。
それをステラの手に握らせ、手をぶんぶん振ってる。
「また手伝いに来てくれる!?この前まで働いてた子が故郷に帰っちゃってさ・・人手が足りないんだよー・・・。」
「いや、私は・・・」
「ねっ・・!?お願いっ・・!」
「う・・・。」
押しに弱いのか、ステラは困った顔をしていた。
「・・・明日まで考える時間をくれないか?ステラも即答はできないだろう。」
俺がそう言うと、店の者は納得したような表情を浮かべた。
「わかった!じゃあ明日、夕陽の頃に店に来てくれるかい?」
「わ・・わかりました。」
「いい返事、待ってるから・・!」
手を振りながら店の中に戻っていったのを、ステラはぼーっと見ていた。
「ステラ?大丈夫か?」
そう聞くとステラは渡された革袋の中を覗き込んだ。
「この世界で初めてお金稼いだ・・・」
ステラがぼそっと呟いた言葉。
俺はそれを聞き逃さなかった。
(『この世界』・・?)
まるで『違う世界』が存在するかの言い方に違和感を覚えてると、ステラが困った顔をして俺を見た。
「えっと・・・私、どうしたらいいんでしょうか・・・。」
「どうしたらって・・・ステラはどう思ってるんだ?」
「私は・・・」
そこまで言ったあと、ステラの言葉は止まった。
悩んでるのか、困ってるのか、首を傾けながら地面を見てる。
「森に帰りたいですけど帰れないんですよね・・?」
「・・・そうだな。」
堺の森で起こったことをステラに詳しく話すことはできない。
でも安全でないことだけは確かだった。
「帰れないならここにいるしかなくて・・・ここにいるなら働いてお金を稼がないと生活できないですよね・・?」
「!!」
ずっと森で生活をしてきたはずなのに国での生活を知っていたステラに、俺は驚いた。
『金』という概念がない場所で生活をしてきたのに『働いて稼ぐ』と言ったのだ。
(ハマル様が教えてた?・・・でもちゃんと食堂で仕事ができてたみたいだし・・)
不思議に思うことがたくさんある。
「えっと・・働いても生活できなかったりします・・?住める場所がないとか・・。」
「いや、それは大丈夫だ。城のあの部屋を使えばいい。」
客用の部屋なんか使うこともないから一部屋くらいどうってことない。
むしろ他で家を見つけられるとこっちの目が届かなくなってしまうから困るのだ。
「いやいやいや・・!無理ですっ・・!」
「何が無理なんだ?」
「あんな広い部屋、部屋じゃないですよっ・・・!」
「?・・・部屋は部屋だろう。」
「広すぎるんですっ・・!そもそもお城って住むとこじゃ・・・」
「じゃあもう少し手狭な部屋を用意する。とりあえず城に戻ろう。」
「聞いてますっ・・!?」
踵を返して歩き始めると、ステラは俺の後ろをゆっくり歩き始めた。
『無理だ』と言いながらもちゃんとついてくるところがなんだかかわいく思える。
(無鉄砲なとこだけじゃないんだな。)
トゥレイスとワズンの下から逃げ出したと聞いていたステラ。
自分のわがままや無理を押し通すような性格じゃないことは、森の中で見ていた時からわかっていた。
(さて・・思っていたよりも大人なステラに、どうやって救い人のことを聞き出すかな・・。)
そんなことを思いながら俺は、ステラとの距離が開きすぎないように歩くスピードを調整しながら城に向かって歩いていった。
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「行方不明者が出ただと・・!?」
堺の森の消化を終えたトゥレイスとタウが城に戻ると、ワズンが血相を変えて駆け寄ってきた。
「あぁ。」
「魔力が尽きた可能性は・・!?」
「ないな。一人で消火しても魔力は尽きないくらいの火だった。」
王に報告するため、執務室に向かって歩きながらワズンに現状を報告していく。
「堺の森で火があがることはない。まず人が住んでないからだ。」
「ハマル様は例外だな、あの人は火事を起こしたりしないし。」
「爆発音っていうのも気になる。火自体はさほど大きくなかったがなぜそんな音が聞こえたのか・・・。」
あらゆる可能性を3人で考えた。
一つ、何かしらの条件がそろって自然現象で爆発し、火事が起きた。
二つ、獣同士の喧嘩が起こり、衝突音が爆発音に聞こえた。そして獣たちの足の摩擦で火事になった。
三つ、誰かが魔法を暴発させてしまい、爆発とともに火事が起こった。
四つ・・・
「・・・ディアヘルの者が故意に起こした?」
考えられることを上げるとそれも含まれることになる。
「何のために?」
「わからない。」
トゥレイスとワズンの話を聞きながら、タウはぼそっと呟いた。
「でも一番しっくりくるかもしれないな。」
「なぜだ?」
タウの言葉が気になるワズンが問うと、タウは真正面を向きながら自分の考えを話し始めた。
「自然現象なら行方不明者の説明がつかない。でもディアヘルの仕業だったら、行方不明者の説明がつく。」
「それって・・・」
「あぁ、『誘拐』だな。」
以前より年に数人、ピストニアの国民が行方不明になることがあった。
どれも『森に出かけて帰らない』というものだ。
最初は森で迷ってしまい出れなくなったのかと思っていたけど、定期的に行方不明になることから調査を始めたところだった。
(その調査でステラを見つけたことは予想外だったけど・・・)
そう考えたとき、ふとステラの様子が気になった。
「ワズン、ステラは?」
『ここにいろ』と言ったあと、部屋でおとなしくしてるのか気になったのだ。
「あぁ、街に行った。」
「・・・は!?街!?」
「森に戻れそうにないのはステラもわかっていたみたいだから、小遣い渡して街に遊びに行かせた。」
思っても見なかった行動に口をぽかんと開けてワズンを見るトゥレイスとタウ。
そんな二人を見てワズンは後ろ手に頭をかいた。
「国の経費だから心配するな。微々たるものだ。」
「いやいやそういう問題じゃなくてだな・・・」
「?・・・じゃあどういう問題なんだ?」
「・・・。」
街に出たステラがそのまま森に向かって国を出るんじゃないかと心配したタウは、執務室に向けていた足の踵を返した。
「悪いトゥレイス、報告は頼んだ。」
そう言ってタウは城の中を駆けて行った。
「は!?おまっ・・!どこいくんだ!?」
「ステラ探してくる!!」
『今、森に帰るともしかしたら行方不明者の一人になってしまうかもしれない。』
そう考えたタウは風魔法を使って窓から飛び出た。
ステラが向かいそうな場所に目星をつけ、城下町に向かって飛んでいく。
(どこだ・・!?どこに行った・・!?)
城下町に降り立ったタウは辺りを見回しながらステラの姿を探した。
金色の髪の毛を持つ人を手当たり次第にチェックしていく。
「なぁ、おっちゃん・・!金色の髪の毛の女の子、見なかったか!?」
城下町に入ってすぐにある露店で、肉を焼いていた店主に尋ねてみた。
「おぉ、騎士団のにーちゃん。金色の髪の子・・?さっき串焼きあげた子か?」
「どんな子!?」
「子供みたいだったけどなぁ。薄青い瞳で、スカート履いてて・・・」
「その子!!どこ行った!?」
「え?あぁ、裏の広場に行ったよ。どっかに座って串焼き食べてんじゃないか?」
「ありがとう!!」
俺は店の裏を抜け、国で一番の広場に向かった。
背の高い木や低い木、それに地面一面に広がる草を植えていて、街の人たちがよく散歩したりする場所だ。
「この辺で座って食べるならもっと上か・・!」
緩やかな上りになってるこの広場は、上のほうにいくつか椅子が置かれてる。
休憩するためや、景色を楽しむためだ。
ステラがどこかに座って食べるとしたらここしか思いつかなかった。
「ステラーっ・・!ステラーっ・・!?」
上りながら叫ぶものの返事はなく、俺は広場の坂を上り切ってしまった。
途中にあったベンチに人影はなく、店主が渡した串焼きの串も落ちてなかったのだ。
「この先は店が立ち並ぶエリアか・・・買い物でもしてたらいいけど・・・」
もし外に出てしまっていたらと思うとぞっとするけど、ワズンが言ってた『街に遊びに行かせた』という言葉を信じて俺は歩き出した。
するとその時、ちょうどすれ違った男どもの会話が耳に入ってきたのだ。
「あの食堂、新しい子入れたんだな。」
「あぁ、あの金色の髪の子?」
「めっちゃかわいかったよな!」
「明日も行かね?」
「行く行く!明日もいるといいなぁ。」
そんな会話を耳にし、俺は歩いていた足を止めた。
(新しい子・・・?金色の髪ってもしかして・・・)
闇雲に探し回るより確実だと思い、俺は食堂に足を向けた。
広場を下った先にある食堂は、この街一番人気の店だ。
安くて早くて美味い。
「え・・なんだ?あの行列・・・」
店に向かって歩いていくと、店の前で見慣れない行列が目に入った。
中のテーブルが空くのを待ってるようだ。
「すみませーん!お待ちの方どうぞー!」
そう言ってステラが店の中から出てきた。
「は!?・・え!?」
三角巾を頭に巻き、黒いエプロンを身に着けて笑顔を振りまいてる。
まるで店員のような動きに、俺はステラに駆け寄った。
「ステラ・・・!」
「?・・・あ、タウさん?どうしたんですか?」
「いや、『どうした』はこっちのセリフ・・・」
「ちょっと待ってもらえますか?今から一気に空くと思うんで・・・」
「あ・・あぁ・・。」
そう言うとステラは店の外に並んでいた連中を一気に案内し始めた。
並んでいた人たちはぞろぞろと店の中に入っていき、あっという間に店の前は人がいなくなっていった。
「お待たせしましたー。」
三角巾を取りながら店から出てきたステラ。
何がどうなってこうなってるのかわからない俺は何から聞いていいのかわからず、ステラを上から下まで見てしまっていた。
「えっと・・ステラ?ワズンの話じゃ街に遊びに行ったって聞いたんだけど・・・」
そう聞くとステラは城を出たところから話してくれた。
どうやら城下町の露店でもらった串焼きが、この店に来るきっかけになったらしい。
「串を捨てるところがなくて困ってたら、このお店の人が声をかけてくれたんです。『店の中のごみ箱使っていいよ』って。で、お店に入らせてもらったんですけど、ものすごく混んでて・・・それで『お手伝いしましょうか?』って聞いて手伝ってました。」
「・・・。」
どこから突っ込んでいいのか悩んでると、店の者がステラを追いかけて出てきた。
手に革袋を持ってる。
「あ・・!ステラちゃんっ・・!これ、お給金だよ!」
「え・・・?」
ステラがさっきかぶってた三角巾と同じものを頭に巻いた店の者は、少し年配の女性だった。
ステラが働いた分だけの給金を持ってきてくれたのだ。
それをステラの手に握らせ、手をぶんぶん振ってる。
「また手伝いに来てくれる!?この前まで働いてた子が故郷に帰っちゃってさ・・人手が足りないんだよー・・・。」
「いや、私は・・・」
「ねっ・・!?お願いっ・・!」
「う・・・。」
押しに弱いのか、ステラは困った顔をしていた。
「・・・明日まで考える時間をくれないか?ステラも即答はできないだろう。」
俺がそう言うと、店の者は納得したような表情を浮かべた。
「わかった!じゃあ明日、夕陽の頃に店に来てくれるかい?」
「わ・・わかりました。」
「いい返事、待ってるから・・!」
手を振りながら店の中に戻っていったのを、ステラはぼーっと見ていた。
「ステラ?大丈夫か?」
そう聞くとステラは渡された革袋の中を覗き込んだ。
「この世界で初めてお金稼いだ・・・」
ステラがぼそっと呟いた言葉。
俺はそれを聞き逃さなかった。
(『この世界』・・?)
まるで『違う世界』が存在するかの言い方に違和感を覚えてると、ステラが困った顔をして俺を見た。
「えっと・・・私、どうしたらいいんでしょうか・・・。」
「どうしたらって・・・ステラはどう思ってるんだ?」
「私は・・・」
そこまで言ったあと、ステラの言葉は止まった。
悩んでるのか、困ってるのか、首を傾けながら地面を見てる。
「森に帰りたいですけど帰れないんですよね・・?」
「・・・そうだな。」
堺の森で起こったことをステラに詳しく話すことはできない。
でも安全でないことだけは確かだった。
「帰れないならここにいるしかなくて・・・ここにいるなら働いてお金を稼がないと生活できないですよね・・?」
「!!」
ずっと森で生活をしてきたはずなのに国での生活を知っていたステラに、俺は驚いた。
『金』という概念がない場所で生活をしてきたのに『働いて稼ぐ』と言ったのだ。
(ハマル様が教えてた?・・・でもちゃんと食堂で仕事ができてたみたいだし・・)
不思議に思うことがたくさんある。
「えっと・・働いても生活できなかったりします・・?住める場所がないとか・・。」
「いや、それは大丈夫だ。城のあの部屋を使えばいい。」
客用の部屋なんか使うこともないから一部屋くらいどうってことない。
むしろ他で家を見つけられるとこっちの目が届かなくなってしまうから困るのだ。
「いやいやいや・・!無理ですっ・・!」
「何が無理なんだ?」
「あんな広い部屋、部屋じゃないですよっ・・・!」
「?・・・部屋は部屋だろう。」
「広すぎるんですっ・・!そもそもお城って住むとこじゃ・・・」
「じゃあもう少し手狭な部屋を用意する。とりあえず城に戻ろう。」
「聞いてますっ・・!?」
踵を返して歩き始めると、ステラは俺の後ろをゆっくり歩き始めた。
『無理だ』と言いながらもちゃんとついてくるところがなんだかかわいく思える。
(無鉄砲なとこだけじゃないんだな。)
トゥレイスとワズンの下から逃げ出したと聞いていたステラ。
自分のわがままや無理を押し通すような性格じゃないことは、森の中で見ていた時からわかっていた。
(さて・・思っていたよりも大人なステラに、どうやって救い人のことを聞き出すかな・・。)
そんなことを思いながら俺は、ステラとの距離が開きすぎないように歩くスピードを調整しながら城に向かって歩いていった。
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2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
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