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「ん・・・・。」

「あ、目が覚めましたー?もうお風呂終わりましたよー?」


花の香りに包まれて目が覚めた私は、ガウンのような服を着せられて椅子に座っていた。

魔法で作られてるのか空気の枕のようなものが私の頭を優しく支えてくれてる。


「あれ・・?私・・・?」

「お風呂で寝ちゃったんですよー?もう仕上げに入るんで、服を選びましょうかー。」


ヌンキさんがそう言いながら私の爪を手入れしてるとき、コンコンっとノックの音が聞こえてきた。


「失礼いたします。ステラ様、服の準備が整いました。」

「?」


ガチャっと扉が開く音が聞こえたと思ったら、ぞろぞろとたくさんの人が入ってきたのだ。

みんな手にはワンピースのような服を持ってる。


「好みがわかりませんでしたので一通りのタイプをご用意させていただきました。急でしたのであまり数は・・・申し訳ありません。」

「へっ・・!?」

「わぁー、ステラさま、選び放題ですねぇー。どれが好きですー?」

「えっ・・!?これ・・私の服ですか・・!?」

「もちろんでございます。」


ぞろぞろと入ってきた人たちは忙し気に服を並べていく。

ワンピースのような一枚ものの服から、トップとスカートに分かれてるもの、帽子や靴、アクセサリーまで並べられ、あっという間に部屋が服で埋め尽くされていった。


「!?!?」

「どうぞ、お選びくださいませ。」

「行きましょうかー。」


ヌンキさんに手を取られ、私は椅子から立ち上がった。

そして並べられたたくさんの服を前にして、体が固まってしまった。


(選ぶって・・どれを選んだらいいの・・・・。)


『王と謁見』という言葉がふと、私の頭をよぎった。

私がこの後この国、ピストニアの国王と面会するのなら、ちゃんとした服のほうがいい気がしたのだ。


(でもこの国の式服がわからない・・・。)


用意された服はどれも華やかな色合いで、いったい何が正解なのかがわからなかった。


「えーと・・・」


せめて当たり障りがなさそうな服を探そうと思い、首を左右に振りながら服を探してると、部屋にいた侍女さんが口を開いた。


「・・・よろしければお見立ていたしましょうか?何着かお召しになって決めるのはどうでしょうか。」

「!!」


救世主のようなその言葉を言ってもらえ、私はその侍女さんに駆け寄った。


「よろしくお願いします・・!」


侍女さんの手を取り、ぎゅっと握ってそう言うと、侍女さんは驚きながらもクスっと笑ってくれたのだ。


「ふふっ、かしこまりました。」


侍女さんはそのあと、私を見ながらいくつか服を見繕ってくれた。

赤いワンピースや、白いブラウス、茶色いひざ丈のスカートなんかを腕にかけていくのが見える。


「ステラ様、すごくかわいいですからなんでも似合うと思いますけど・・・私のおススメはこちらになります。」

「わ・・いっぱい・・・」

「あちらでお着換えいたしましょう。お手伝いいたします。」


そう言って手のひらで指し示してくれたのは『ついたて』だった。

着替え用にとわざわざ用意してくれたのだろう。


「あ・・ありがとうございます。」


私は案内されるままについたての向こう側に入った。

そしてガウンを脱ぐと、侍女さんが服をささっと着せていってくれたのだ。


(早い・・!)


着せられたのは上が白い長袖のブラウスに、裾が長めの黄色いスカートだ。

お世話を生業にしてるからか、迅速かつ無駄のない動きで一瞬で服を着せられた私の前に、これまた一瞬で鏡が現れた。

初めてまともにみる自分の姿に・・・私は驚きを隠せない。


「これ・・・わたし・・・?」

「はい。すごくお似合いですよ?」


鏡に映る私の右後ろに、服を着せてくれた侍女さんがにこにこしながら映っていた。

振り返ると鏡の中にいる侍女さんと同じ侍女さんがそこにいる。

鏡の中の侍女さんと、私の目で見える侍女さんが同じなことから、ここに映ってる私が本当の私らしい。


(いつも川に映ってるのしか見たことなかった・・・。)


ヌンキさんに手入れされた艶のある金色の髪の毛。

きれいに洗ってもらって、肌は輝きを見せていた。

特に手入れをしたことがなかった爪まで潤っていて、まるで自分じゃない誰かがそこにいるようだ。


(瞳は薄い青色のままだ・・・。色が戻る前にまた薬を入れないと・・・。)


おばぁちゃんが亡くなる直前に入れた瞳の色を変える薬。

毎日桶の水で色を確かめて、1週間くらいで元に戻ることがわかったのだ。


(すぐに森に帰るし、ここにいる時間だけ色が戻らなければいいかな。)


そんなことを思ってるとコンコンっと扉をノックする音が聞こえてきた。


「ステラ?準備できたか?」


ガチャっと扉が開き、入ってきたのはレイスさんだった。


「あ・・・!悪い、まだ着替えしてたんだな・・・。」


服が大量にある部屋を見て察してくれたのか、レイスさんは踵を返して部屋から出て行こうとした。

ついたての隙間から見ていた私は、ひょこっと顔を出してレイスさんを引き留めた。


「待ってくださいっ・・着替えはしてますー・・・。」

「え?」


この世界で初めて着たおしゃれな服に、照れながらついたてから出るとレイスさんは口に手をあてた。

そして私を上から下まで何度も見てる。


「?」

「いや、なんでもない・・・。」


どこか変なところでもあったのかと自分の姿を見てると、レイスさんはアクセサリーの置いてあるところで何かを一つ手に取った。

そしてそれを持って私の前まで歩いてきて、私の左側の鎖骨下あたりにつけてくれたのだ。


「うん、よく似合ってる。」


つけてくれたブローチは花の形をしていて、花びらは薄く透き通った青色をしていた。

花びらが重なってるところが少し濃い色をしていて、とても・・・とてもきれいだ。


「じゃあ王のところに行こうか。」


そう言ってレイスさんは自然に私の手を取った。


「あっ・・!あの、服のお代金なんですけど・・・」


『お金』というものを持ったことがない私は支払う術がない。

どこかで仕事をさせてもらうか、森での収穫物を売らせてもらって服の代金にさせてもらいたいと思ったのだ。


「代金?・・・あぁ、いらないよ?」

「いらない・・・?」

「こちらが勝手に用意したものだからね、ステラは何も気にしなくていいよ。」

「でも・・・」

「そんなことより行こう、王がお待ちだから。」


私の悩みを『そんなこと』と言い払い、レイスさんは歩き始めた。

手を取られてる私はついていくしかなく、部屋にいた侍女さんたちに忙しくお礼を言った。


「あのっ・・!ありがとうございました・・・!ヌンキさんもありがとうございましたっ!」

「いいえー、またお風呂に来てくださいねー。」

「いってらっしゃいませ。」



ーーーーー



ステラがトゥレイスと一緒に慌ただしく部屋を出て行ったあと、閉められた扉の中では女同士で会議が開かれていた。


「トゥレイス様が照れてらしてなかった・・?」

「照れてた照れてた!」

「いつもにこにこ笑ってらっしゃるけど、照れたのは見たことないわよね・・・。」

「ステラ様、トゥレイス様のことを『レイス』って呼んでたよね!?」

「愛称呼び!?ステラ様って何者なの・・?ヌンキ、何か聞いた?」

「いやー、私は何もー?」

「そうなの?」

「はいー。・・・あ、でも・・」

「でも?」

「ステラさまと話したあとから体が変ですねー。」

「変?」

「軽いっていうかー・・・魔力が元気っていうかー・・?」

「え?気のせいじゃない?」

「そうですかねぇー・・・。」


きゃあきゃあ言いながらトゥレイスの話をする侍女たちを他所に、ヌンキは自分の両手を眺めていた。

自分の体の中を巡る魔力が、確かに活気づいてるように感じるのだ。


(うーん・・・?)


小さな体の変化を疑問に思いながら、ヌンキは自分の仕事場である風呂場に戻っていったのだった。

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