二度目の結婚は異世界で。~誰とも出会わずひっそり一人で生きたかったのに!!~

すずなり。

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「さて・・・向こうの木の上に行くか。」


トゥレイスはタウたちを見送ったあと、ハマルの家とその周辺が見渡せる木の上に飛び乗った。

太い枝の上に立ち、大きな幹に体をもたれかからせる。

そしてゆっくり気配を消し、その景色に溶け込んでいった。


(まぁ、10日くらいなら食べなくても大丈夫だし、ここからならよっぽど遠くまで行かない限り見えるだろう。)


彼女が水を汲んでいた場所まで見渡せるこの場所は、動向を見守るには最適の場所だった。

まるでこの場所がある前提で家が建てられたかのように。


(まさかな・・。)


そんなことを思いながらも、トゥレイスは王から託された仕事の内容を思い返した。


(堺の森に『救い人』がいるかもしれないって言ってたけど・・・彼女なのか?)


ハマル様に『ステラ』と呼ばれていた彼女は、金色の瞳ではなく薄い青い瞳をしていた。

自分と同じく『魔法を使える者』なことは確かだが、彼女が何者なのかが検討がつかないのだ。


(なぜ国内ではなく森で生活を?ハマル様と一緒にいたのも謎だし・・・。)


わざわざ危険な森で生活をする意味がわからず、首を捻ることばかり。

全ては彼女の心が落ち着いてから聞くしかなく、そのまま見張りを続けることにした。

そして3日の時間が流れたとき、ステラは家から出てきたのだ。


(・・・食べ物でも探しにいくのか?)


ステラはふらふらとした足取りで家のすぐ近くの木に近寄って行った。

そして手を伸ばして木に生ってる果物を取り、その場に座り込んで口にした。


「また違うとこ行かないと・・・。」

「!!」


そんな言葉が聞こえ、トゥレイスは思わず木から飛び降りた。

風魔法を使って音もなく着地し、そのままステラに歩み寄る。


「あなたは・・・この前の・・・」

「いくつか聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」


そう聞くと彼女は地面を見つめたまま頷いた。

ずっと悲しみに浸っていたのか、目が腫れてる。

どこを探してももうハマル様の姿を見つけることができないことに虚無感さえ抱いてそうだ。


「まず・・・体調は大丈夫?」


見ていて危ういとさえ感じてしまうふらつき加減に、俺は体調を心配した。


「大丈夫・・です・・。」

「ほんとに?どうみても大丈夫そうじゃないんだけど・・・。」

「・・・。」

「食べ物はある?食べたいものがあるなら用意するよ?」

「・・・いりません。」


警戒してるのか、どうでもいいと感じてるのか、彼女は『俺』という存在に関心を持ってなさそうだった。

名前を聞かれることもなければ、なぜここにいるのかも聞かれない。

こちらから話しかけない限り、自分から口を開くこともなさそうだ。


「・・・この森を出る気はある?」


ハマル様が亡くなったことで、彼女がここにとどまる理由はなさそうに見えた。

若い女の子が一人、森の中で生活をするのは危険だ。


「・・ありません。私はここから出ない。放っておいてください。」


そうハッキリ答えた彼女はゆっくり立ち上がった。

そしてそのまま家に戻っていってしまった。

傷心状態の彼女は他人ひとの話を聞ける状態じゃなさそうだ。


(もう少し様子見るか・・・。)


俺はさっきの木に戻り、また枝の上から家を見張った。

家の中にあるステラの気配を感じながら自分の気配を消し、じっと見張っていった。



ーーーーー




トゥレイスが木の上でステラを見張り続けて6日目。

木の枝の上でじっと家を見ていたトゥレイスは、少しの異変を感じていた。

家の中にあるステラの気配がずっと動いてないのだ。


(?・・・寝てる・・?)


丸一日くらい動いてない気配を疑問に思いながら、トゥレイスは地面に降り立つことを決めた。

風魔法を使って音を立てずに降り、家に向かって歩み寄る。


「ステラ・・?」


小声で名前を呼びながら扉に手をかけた。

そっと開けて中を覗き、ステラの気配がしてた場所を見る。

するとそこにあったのはステラではなく、布団を丸めて作られた人形のようなものだったのだ。


「ステラ!?」


大きな声を出して呼ぶものの、応答はない。

小さな家はぐるっと見回せば家のすべてが見える。

なのにステラの姿どころか気配もなかったのだ。


「逃げた・・・!?」


俺は家の外に出て辺りを見回した。

俺の目を掻い潜って出れるわけがないから、ステラが家を出たのは夜ということになる。

尚且つ死角になるような場所を通って出て行ったとすれば、行ける方角はただ一つだった。


「こっちだな。」


俺は風魔法を使って森の中に駆け入った。

目に映る木々を避けながら、スピードを上げて駆けていく。


「ステラが家を出て最長で3日、最短で1日・・・。どっちにしてもそんなに遠くまでは行けてないだろう。」


そう考えながらステラの気配を探した。

すると思いのほかすぐに見つけることができたのだ。


「・・・何かと一緒にいる?」


ステラのすぐ近くに、もう二つ気配があった。

『人』ではなさそうな気配に嫌な予感を抱く。


「おいおい・・・まさか・・・」


スピードを上げてその気配に追い付くと、ステラの姿が見えた。

濁流のような川の岸ぎりぎりのところに立っていて、そのステラを追い込むように熊が二頭いる。


「!!・・・ステラ!!しゃがんで目を閉じろ!!」

「!!」


俺の声が聞こえたステラは頭を抱えるようにしてしゃがみ込んだ。

それを確認して俺は剣を抜き、二振りで熊を斬った。


「ステラ・・!ケガは・・!?」


倒れた熊が見えないようにマントを広げてステラの前に屈んだ。

ステラは少し震えてるものの、血が出てるところはなさそうだった。


「大丈夫そうだな・・・。歩けるか?」

「だ・・だいじょうぶ・・・です・・・」


ふらつきながらゆっくり立ち上がったステラ。

マントで覆ったまま熊が見えないところまで連れて行き、大きな石にステラを座らせる。


「ちょっと待ってろよ?」

「?」


俺はマントの裏にあるポケットから小さな包みを取り出した。

包みを解きながらステラの前に差し出す。


「これ、一つ食べな?」


そう言ってステラに見せたのは『チョコレート』だ。

長期で気の張る仕事をしてる時に甘いものが食べたくなるときがある。

そんなときに一つ、口に入れれるように持ってるのだ。


「・・・チョコ?」

「知ってるのか?街では結構高級品なんだが・・・。」


楕円の形で整えられてるチョコレートは、結構な高級品だ。

原材料の調達が難しいらしく、なかなか出回らない。


「知ってます・・・」

「なら味もしってるよな?・・・ほら。」


一つ手に取り、ステラの手のひらに乗せた。

ステラの手は小さく、俺の手ですっぽり包めてしまいそうだった。


「熊二頭に追い込まれて怖かったろ?・・甘いもの食べて落ち着こうな。」


そう言うとステラはじっとチョコレートを見つめた。


「・・・いただきます。」


ぱくっとチョコレートを口に放り込んだステラは、甘い味に目を輝かせた。

薄青い瞳がきらきらと輝いてるように見え、一瞬目を奪われる。


「!!・・・おいしいっ。」

「ははっ、よかったな。」


チョコレートを味わうように口をもごもごと動かしてるステラを微笑ましく見ながら、俺はステラの頭を撫でた。


「・・・叫ばなかったのは正解だな。叫べば興奮した熊に襲われてただろう。」


熊に追い込まれながらもステラは声を一言も発してなかった。

それは『俺に見つかるから』というより保身のためだったのだろう。


「ハマルおばぁちゃんが・・・獣に襲われそうになっても叫んじゃダメだった教えてくれてたんで・・・」

「そうか。」


この森で生きて行くうえで、獣との接触は回避できるものではない。

小さなリスや猫、ウサギくらいなら出会っても大丈夫だろうけど、イノシシや熊なんかと出会うと命の危険が伴ってしまう。

ハマル様はステラが小さい時から『森での生活』を教え込んでいたことで、ステラは命を落とさずに済んだのだ。


「ハマル様から他に何か学んだか?」

「他・・・?」

「そうだな・・食べれるものと食べれないものとかは?」


そう聞きながら俺はステラの隣に座った。


「あ・・・キノコとかは教えてもらって・・・あとは自分で食べたりして確認したり?」

「『食べて』って・・・毒キノコは食べてないだろうな・・・。」


ハラハラするような内容が出てきて俺は驚きながらステラの話を聞いた。


「毒は一通り教えてもらってたんで・・・大丈夫です。お腹壊したりしたぐらいです。」

「いやいや・・十分毒のような気がするんだが・・・。他は?」

「他は・・・・そうですね・・・」


ステラは俺との間にあった緊張が解けたのか、いろいろ話をしてくれた。

果物を取って食べながら森の小動物たちと遊んだりもすることや、空の星を見ながら外で寝てしまい、ハマル様に怒られたことなんかを。


「・・・もう怒られることないんですよね、おばぁちゃんいないから。」


寂しそうに空を見上げたステラは3日前と違って虚無感がなくなっていた。

悲しみはまだ残ってそうだけど、前を向けてるみたいだ。


「そうだな。でもステラの中で『思い出』としてハマル様はいるだろ?楽しいことを思い返すことが一番の供養になる。」

「楽しいこと・・・」

「そうだ。」


ステラは空を見上げながら目を閉じた。

そして何か楽しいことを思い返したのか、頬が緩んでる。


「・・・ふふ。」


その姿を見て一安心した俺は、ステラの頭を一撫でしてから立ち上がった。


「ハマル様の家に・・・戻ろうか。」


そう聞くとステラは一瞬悩んだ顔を見せた。

戻るか出ていくかを悩んでるようだ。


「ステラ、この森で一人で暮らすのは危険だ。それはわかるな?」


さっき熊に襲われて身をもって知ったはずだ。


「・・・はい。」

「俺はハマル様に誓った。『ステラを守る』と。だから・・・森を出てピストニアに行こう。」


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