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「おばぁちゃんっ!ハマルおばぁちゃんっ・・!」


森の中を遠回りしながら駆け抜けた私は家の扉を豪快に開けた。

中で縫物をしていたおばぁちゃんは、驚いた表情で私を見てる。


「ステラ?どうしたんだい?」

「さっき・・!森の奥で人に会ったの・・・!」

「え?」


私はさっきの出来事をおばぁちゃんに話した。

ケガをしてる人を見つけてしまい、ヒールをかけたことを。

するとおばぁちゃんは手に持っていた縫物をテーブルに置いて、椅子から立ち上がった。


「追いかけてきそうだったかい?」

「ううん?追いかけてくる気配はなかったけど・・・。」


おばぁちゃんは大きな背負い籠を取り出し、その中にさっきまで持っていた縫物の布を入れた。

そして家にある食器や服、食べ物を入れていってる。


「?」

「ステラ、この家は捨てよう。他所に移るよ。」

「え!?」

「詳しい話は歩きながら。ステラも自分の荷物をまとめなさい。」

「う・・うん・・・。」


怒ってる雰囲気はないおばぁちゃんだけど、纏う空気がいつもと違っていた。

黙々と荷物をまとめていくおばぁちゃんを見ながら私も自分の鞄に服を入れていく。


「おばぁちゃん・・・ごめんね、知らない人にヒールかけちゃって・・・」


あの人を見捨てて逃げれば、この家を『捨てる』なんて結果にはならなかったかもしれない。

違う方向に果物を探しに行けばあの人たちに出会うこともなかったのだ。


「ステラは優しいから放っておけなかったんだろう?」

「・・・。」

「小さい獣たちのケガも治してあげるくらいだからねぇ。ふふ。」


さっきまでの空気が変わり、おばぁちゃんは私に笑顔を向けてくれていた。

ゆっくりした動きで大きな籠を外に運んで行ってる。


「さて、行こうか。」


最低限の物しか家にないため、荷造りはすぐに終わってしまった。

私も服くらいしかなく、鞄の紐を肩にかけて家の外に出る。


「家・・出ないといけないの?」


10年も過ごしてきた家は小さいとはいえ思い出がたくさんある。

捨てなくて済むなら、捨てたくないものだ。


「あぁ。どっちにしても12年くらいで他所に移ろうと思ってたからちょうどよかったんだよ。2日くらい歩くからゆっくり行こう。」


そう言ってハマルおばぁちゃんは大きな籠を背中に背負った。

玄関の扉を開けっぱなしにし、おばぁちゃんは私の手をぎゅっと握った。


「扉、開けたままなの?」


不用心・・・と言えるのかどうかわからないけど、開けっぱなしはどうなのかと思って聞いた。


「いいんだよ。獣たちが家の中に入ってくれたら中が荒れるだろう?そしたら朽ちるのも早いし、誰も住んでないことが見てすぐにわかる。」

「うん・・・?」

「もし、ステラと出会った人間がステラを探しに来ても、『ここには住んでない』って思うだろう?」

「あ・・・!」

「まぁ、他を探しに来るかもしれないから・・・ちょっと獣が多いところに家を作ろうかねぇ。ステラ、歩いたところの草にヒールかけておいてくれるかい?草木が生い茂ってるところは探しに来ないだろうから。」

「うん、わかった!」


私はおばぁちゃんと歩きながら、振り返っては地面にヒールをかけていった。

傷もないところにヒールをかけると成長を促す効果があるのだ。


(傷がないときにヒールをかけるのって、草とか木にしかしたことないけど・・・人間にしたらどうなるのかな。)


身長が2メートル以上になってしまうのか、はたまた体重が100キロを超えてしまうのか、それとももっと別の何かが起こるのかわからなかった。

おばぁちゃんに聞いたら何か知ってるのかもしれないけど、人里から離れて暮らしてることから人間が嫌いなのかもしれない。

そう思ったら聞くことができなかったのだ。


(まぁいっか。もう人には会わないだろうし。)


そう思いながら『ヒール』をかけてると、ハマルおばぁちゃんが空を見上げた。


「ステラ、ちょっと長い話になるんだけど・・・聞いてくれるかい?」

「?・・・うん。」

「お前さんの・・・これからのことも関係してる話になるんだよ。」


ゆっくりした足取りで歩きながら、ハマルおばぁちゃんは話始めた。


「まず、ステラと私が住んでる森、ここは『堺の森』と呼ばれてる場所なんだ。」

「『堺の森』?」

「そう。」


この世界は陸続きで二つの国があり、ちょうど真ん中あたりにこの森が広がってるらしい。

縦の長さは大陸の幅の分あり、横の距離は短いところで1000キロほど。

歩いて横断しようと思ったら2週間以上かかるらしいのだ。

獣も多くてその相手もしなくてはいけなく、食糧問題もあって横断する人はそんなにいないのだとか。

そんな森だからかここで生活をする人なんていなく、私たち以外の他の人たちは国の中で生活をしてるらしいのだ。


「じゃあさっき私が見た人たちは・・・」

「おそらく『ピストニア』の人たちだろう。」

「『ぴすとにあ』?」

「あぁ、この森の東側にある国だよ。」


森を挟んで二つある国は『ピストニア』と『ディアヘル』という国らしい。

もともとは一つの国だったのに、分かれてしまったのだとか。


「どうして分かれちゃったの?」


そう聞くとハマルおばぁちゃんは悲しそうな表情を浮かべた。


「・・・ステラは魔法はどう思う?」

「え?」


突然の質問に疑問を持ちながら、私は聞かれた内容を考えた。


「魔法は好きだよ?ハマルおばぁちゃんみたいにいろんな魔法は使えないけど・・・好きっ。」


ハマルおばぁちゃんは火に風、水といろんな種類の魔法を使うことでできる。

私はヒールだけだけど、魔法がない世界にいた私にとってはヒールが使えるだけでも楽しくて面白いものだ。


「そうかいそうかい、そりゃよかった。」

「うんっ。」

「そのステラが好きな魔法なんだけどね、『嫌い』って言う人もいるんだよ。」

「え?」

「西側・・・『ディアヘル』に住んでる人間は魔法を嫌ってるんだ。その理由はピストニアに伝わってる伝説にある。」


そう言ってハマルおばぁちゃんはこの世界に伝わる『伝説』を話し始めた。


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