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雨が降りしきる6月最後の火曜日の朝7時。
私は夫である『小坂井 誠也』さんに殴られていた。
原因は寝てる誠也さんを起こしに行く時間が5分遅れたからだ。
「この役立たず!!誰に養ってもらってんのかわかってんのか!?」
「ご・・っごめんなさいっ・・!」
「時間ぐらいきっちり守れよ!!追い出すぞ!!」
起こしに行った寝室で殴られてるのは『顔』。
痛みに耐えながら腕でガードし、時間が過ぎるのを待った。
(もうちょっと・・もうちょっと我慢したら誠也さんは会社に行く時間になる・・。)
そう思って耐えると、誠也さんはチッと舌打ちして私を殴ることをやめた。
とりあえず終わったことにほっと安堵した時、私のお腹に鈍い痛みが走った。
「!!・・・ごほっ・・!ごほっごほっ・・!!」
「ガードなんかするから腹を殴られるんだバーカ。」
そう吐き捨てて誠也さんは寝室から出ていった。
「うぅっ・・・痛ぃ・・・」
思ってもみなかったところを殴られた私はお腹を押さえながら前かがみで寝室を出た。
早くご飯の用意をしないとまた殴られるかもしれないのだ。
「おいメシは!?」
「いっ・・今用意します・・・」
もう用意し終わってるおかずたちを運び、最後に白ご飯とお味噌汁をテーブルに並べた。
朝は必ず焼き魚と煮物、漬物と白ご飯、お味噌汁を食べる誠也さんは、私のご飯だけは文句を言わないのだ。
「明日は鮭が食いたいから買いに行っとけよ。」
「わかりました・・・。」
「料理しか取り柄のないお前の結婚相手なんて俺くらいしかいないんだからしっかりしろよ。」
「・・・。」
施設出身の私は、19歳の時に誠也さんに出会った。
工事現場で日雇いの仕事をしていた私は何日もご飯が食べれないことが多く、公園の水を飲んで空腹を紛らわせてる時にお酒に酔った誠也さんに声をかけられたのだ。
酔って上機嫌だった誠也さんは私を泊めてくれ、そのお礼に私は朝ごはんを作った。
今と同じ焼き魚に白ご飯、お味噌汁に煮物を少し作っただけだったけど、誠也さんはそれが気に入ったようだった。
『泊まらせてやるからご飯を作ってくれ』と言われ、私は誠也さんの家に住むことになった。
そして1年ほどの時間が流れたときに役所に連れていかれ、婚姻届けを書いたんだけど・・・
(『妻は夫を支えるものだ』って言ってだんだん暴力が始まったんだよね・・。)
『ワイシャツにしわが残ってる』と叩かれたのが始まりだった。
最初こそは手を少し叩かれる程度だったのが、日を追うごとにその強さは増していったのだった。
婚姻届けを出して2年も経つ頃には誠也さんの機嫌一つで叩かれ始め、いつしかそれは『叩く』から『殴る』に。
痣があるから外にも出れず、私は毎日家の中で時間を過ごしていたのだった。
「仕事行く。」
「はっ・・はいっ・・。」
「ちゃんと家のことしとけ。帰ってきて何もできてなかったら・・・どうなるかわかってるよな?」
「---っ!」
誠也さんはニヤニヤ笑いながら支度を済ませ、鼻歌交じりにマンションの玄関を出た。
それを見送り、私は家の掃除を始める。
「ふぅ・・・。」
食器を洗って棚に戻し、掃除機をかけ、トイレやお風呂を掃除していく。
毎日してることだからそんなに時間がかかるハズもなく、すべての家事を終わらせた時間は朝の10時だった。
「買い物に行くにも少し早いし・・・ちょっとだけしようかな。」
私はリビングに置いてある誠也さんのノートパソコンをテーブルの上に置いた。
起動させながらキッチンに隠してあるマイク付きのイヤホンを用意して、あるサイトを開いた。
それは・・・配信サイトだ。
「みんな来てくれるかな・・・。」
私は1年半前から誠也さんのパソコンを使って、外の情報を手に入れてきた。
最初こそは友達ができたらいいなくらいの気持ちだったけど、アバターを使った配信を教えてもらい、リスナーさんたちにリアルタイムで色々教えてもらってるのだ。
「ログインして・・アバター配信に設定して・・・よしっ。」
配信開始ボタンを押すとすぐにリスナーさんたちの入室コメントが現れ始めた。
【紗菜ちゃん、おはよー!】
【おはようございます。】
【待っててよかった!紗菜ちゃーん!】
「わっ・・!みんなおはよう。来てくれてありがとうっ。」
配信開始すると同時に来てくれたのは32人のリスナーさんたちだ。
この面々は私が知らない社会のことをたくさん教えてくれた人たちだった。
【今日も歌、聞きに来たよー!】
【紗菜ちゃんの歌、一週間ぶりだ!】
【生歌配信っ!】
そう、私はこの配信サイト『歌を歌おう!聞こう!』サイトで歌い手側として配信をしてるのだ。
施設にいたときから歌が好きだった私は、いつも鼻歌程度に歌っていたけどここでちゃんと歌えることを知った。
誠也さんがいるときは歌えないから、ここが私の生きがいなのだ。
「へへっ、何から歌う?いつものバラード系からでいいかな?」
【うんうん!】
【待ってました!】
「じゃあ・・聞いてくださいっ。」
私はマウスを使って操作し、曲リストから好きなバラード曲を流した。
画面上に出てる歌詞を見て、歌っていく。
「♪~・・♬♩ー・・・。」
幸せな気持ちに浸りながらメロディに乗ってると、画面上にいろんなアイテムが飛び始めた。
マイクや、音符、プレゼントボックスにハートや星。
これら全部がリアルなお金を使った『投げ銭アイテム』だ。
「わぁっ・・!みんなたくさんありがとうっ。」
曲の間奏を使ってお礼を言うと同時にコメントもすごい勢いで流れていく。
気がつけばリスナーさんの数は3桁を通り過ぎていて、もらったアイテムの金額もあっという間に10万を越していった。
「みんなのおかげで私、歌がますます大好きになったよ。ほんとにありがとう。」
来てくれた人たちにお礼を言いながら、私は1時間くらい歌を歌った。
そして配信を終了し、今日いただいた投げ銭を確認していく。
「えーっと・・・1、10、100、1000,10000・・・・21万3545円。ここから運営側に6割もっていかれるから・・・・8万5418円くらい?今までで貯まってる分と合わせて・・・200万ちょっとか。」
誠也さんのパソコンを使い始めて、改めてうちの夫婦関係がおかしいことに気がついた私は、この家を出る計画を立てていた。
外で働くことができない私が誠也さんに隠れて稼げるのがこの『投げ銭システム』なのだ。
最初こそは『稼ぐ』なんて考えは全くなかったけど、初めて投げ銭アイテムをもらったときにそのシステムを教えてもらい、『離婚計画』を思いついたのだ。
「離婚届けを出せれなくても、何年も離れてたら合意がなくてもいつか離婚できるって教えてもらったし・・・もう結婚する気ないから時間かかってもいい。」
そう思って稼ぎ出して半年。
もう半年あれば500万ほど貯まりそうだ。
「出金申請してから10日で入金されるから、500万貯まったら100均で印鑑買って、口座作ってすぐに振り込んでもらったら逃げれる。」
使ったパソコンは履歴を消し、検索を残さないようにすることをみんなから教えてもらった。
こんな計画を実行しようと思ってる私がいるのは、みんなのおかげだった。
「いつか・・何かの形でお返しできたらいいな。」
そんなことを思ったとき、ふと時計が目に入った。
今の時間は12時ちょっと前だ。
「あっ・・!買い物行かないと・・!」
晩御飯の仕込みから考えたらそろそろ買い物にいかないといけない時間だった。
「帰ってきてからパソコンしまおう!調理の時間とか考えたら先に買い物に行かないと・・!」
私は慌てて用意をし、そのまま傘を持って家を飛び出していった。
ーーーーー
「明日の鮭と、晩御飯用のお肉、それに野菜と誠也さんのビール・・・これで全部かな?」
スーパーで買ったものに間違いがないかと、買い忘れがないかをチェックするために袋を覗き込んでると、私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「小坂井さんちの奥さんっ。」
「え?」
傘をさしたまま声のしたほうを見ると、近所に住んでるおばあちゃんが立っていたのだ。
「あ、こんにちはー。」
「今買い物?」
「はい。」
「毎日雨が降ってお洗濯とか大変じゃない?今日も雨でしょ?」
「そ・・うですね、部屋干しとか、浴室乾燥とか使わないと乾かないですよねー。」
「そうそう!でも浴室乾燥は電気代がーーーーーーーー」
このおばあちゃんは一度話し出すとなかなか止まってくれないおばあちゃんだった。
おしゃべり自体は好きな私だけど、早く帰らないと誠也さんの晩御飯に間に合わなくなるという危険が・・・。
「あの、私そろそろ帰らないと・・・・」
意を決してそう言ってみた。
「あらっ!ごめんなさいね、引き留めちゃって。」
「いえ。」
「そんなに急いで帰って何するの?晩御飯には早いし・・・。」
「えと・・いろいろすることがあって・・・」
「そうなの!?習い事とか?」
「習い事とかではないんですけど、家のこととか・・・。」
「もう終わってるんじゃなかったの?」
「大半は終わってるんですけど・・・・・」
言ってみたはいいけど結局長引きそうな感じになってしまった。
諦めておばあちゃんが満足するまで話をし、解放されたのは私が家をでて2時間後のことだった。
スーパーで買い物をするだけなら往復1時間もあれば足りることから1時間も話に付き合っていたことになる。
「はぁー・・・早くご飯しなくちゃ・・・。」
そう思ってマンションに帰り、私は玄関の鍵を鞄から取りだした。
そして鍵穴に入れて左に回したとき、違和感を感じたのだ。
「え・・・?開いてる・・?」
本当なら左に回したときに重たい鍵が開くはずなのに、なにも手ごたえがなかった。
鍵をかけ忘れた可能性もあったけど、ちゃんと閉めた記憶があったのだ。
「うーん・・・?」
疑問に思いながら私はドアを開けた。
そして濡れた傘をハンカチで軽く拭いてから傘立てに置き、靴を脱いでリビングに入ったとき、私はぞっとした。
私がさっきまで座っていたところに・・・誠也さんがいたのだ。
「---っ!!」
「なぁ、紗菜。これ、俺のパソコンだよな?なんで出てるんだ?」
「あの・・その・・・・」
「お前、俺のパソコンで何してた?」
「!!」
出しっぱなしのイヤホンを取り、誠也さんはマウスを使ってカチカチと操作し始めた。
検索系は全て削除してあるから大丈夫なはずだけど、料理のレシピなんかの検索履歴を残しておけばよかったと後悔の念が残る。
(私より誠也さんのほうがパソコンには詳しい・・・見つかりませんように・・・。)
そう願ったとき、誠也さんの表情が変わった。
パソコンの画面を凝視し、明らかに怒った顔になったのだ。
(見つかった・・!)
ここにいては命の危険があると瞬時に悟った私は踵を返した。
外に逃げようと足を向け、走りだそうとしたとき一瞬視界がブレたのを感じた。
(え・・なに・・?)
何が起こったのかを考えようと思ったときには私の体は床に倒れ込んでいた。
それと同時に私のすぐそばにノートパソコンが落ちてくるのが見えた。
(あぁ・・ノートパソコンで殴られたのか・・・。)
ゴンっ・・!!と、音を立てて落ちてきたノートパソコン。
誠也さんはゆっくり歩いてきてそれを拾った。
「このくそ女・・っ!配信サイトなんか覗いて何してた!?言えっ!!」
そう言って誠也さんはノートパソコンを大きく振り上げた。
(あぁ・・・死んだ・・・。)
そう思った瞬間、誠也さんは私の頭めがけてノートパソコンを力いっぱい振り下ろした。
ゴンっ・・!!!
ーーーーー
怒りに任せて力いっぱい紗菜の頭を殴り続けた誠也は、雷の轟音で我に返った。
「俺は・・何を・・・・」
手には二つに割れてしまった半分のノートパソコン。
そして眼下には・・・血だらけで倒れてる紗菜の姿があった。
「ひっ・・!?」
衝撃のせいか、頭の形が変わってしまってる紗菜。
目は開いたまま、光を灯してない。
「うわあぁぁぁっ・・!!」
あまりにも衝撃的な光景に、手にあったノートパソコンを放り出して誠也は家を飛び出していった。
雨の中、傘もささずに走っていく。
「はぁっ・・!はぁっ・・!」
誠也は走りながらいろんなことを考えた。
紗菜を殺してしまったこと。
殺すつもりはなかったこと。
ただ、自分に内緒で何かをされていたことに腹が立っただけのことなのだ。
(くそっ・・!あいつはネットで何をしてたんだ!?まさか・・俺のことを誰かに言ったりしてないよな!?)
あの日、ぼろぼろの紗菜を拾ったのはただの気まぐれだった。
酔って気分がよかったから拾っただけだったけど、思いのほか料理が上手くて側に置くことにした。
都合のいい家政婦を手に入れたハズだった。
外をあまり知らない紗菜は言いくるめるのが簡単で、自分の言うことをなんでも素直に聞いた。
俺から離れないようにするために婚姻届けまで出して縛り付けたのに・・・
(なんでこうなったんだよ・・・!!)
町はずれまで走った誠也は雨に濡れた髪の毛をかき上げ、濡れた顔を手で拭った。
(・・・死体を処分しないと。)
時間が過ぎたことで冷静になった誠也は雨に打たれながら帰路についた。
傘を差さずに歩いてることを疑問に思いながら見てる人もいたけど、誠也はちっとも気にしていなかった。
なぜなら誠也の頭の中は紗菜の死体をどう処分するかしかなかったからだ。
(確か・・・どっかのヤクザが死体を溶かす薬品を持ってるとかって聞いたことあるな。九条組だっけ?)
身寄りがない紗菜は友達もいない。
外にあまり出さなかったことも相まって、紗菜が消えたところで誰も疑問に思わないだろう。
そう思った誠也は紗菜の存在そのものを消そうと考えたのだ。
(役所には『行方不明』ってことで通せばなんとかなるだろう。)
当面のプランを立て終えた誠也はマンションに戻り、玄関戸を開けた。
リビングと廊下の間に俯せで倒れ込んでる紗菜の死体を確認するため、そっと中を覗き込んだ。
「・・・え?」
だが、紗菜の姿がなかった。
一直線の廊下は、玄関から覗き込めばまっすぐリビングまで見える。
なのに・・・紗菜の姿がどこにもなかったのだ。
「生きてた・・?」
中に入り、確かに紗菜が死んだ場所をまじまじと見つめる。
そこには血痕と二つに割れたノートパソコンがあった。
辺りを見回すものの、血が散らばった様子はない。
「え・・?え?」
あのケガで歩いたとすればどこかに血が落ちてるはずなのに、どこにもその痕跡が残ってないのだ。
まるで・・・消えてしまったかのようだ。
「は・・?おい紗菜!?いるんだろ!?出てこい!!」
そう叫びながら、誠也は『生きてるかもしれない紗菜』を探して回った。
ーーーーー
ーーーーー
(ここ・・・どこ・・・?)
誠也さんに殴られた私が目を開けると、見たことのない景色があった。
木がたくさん生い茂っていて、そよそよと吹く風に揺らめいてる。
どうみても森だ。
(・・・天国じゃなさそう。)
木の間から見える青い空をぼーっと見つめてると、どこからか声が聞こえてきた。
「おやおやおや・・・こんなところに赤ん坊かい?」
その声の人はどんどん近づいてきて、私を覗き込んできた。
「捨て子・・・かい?」
(捨て子って・・・え!?私!?)
その人は女の人で、ずいぶんと高齢のように見えた。
しわの多い顔に、曲がった腰。
くすんだ色のケープを羽織っていて、フードもかぶってる。
「赤ん坊が一人で生きていけるわけないねぇ・・・仕方ない。よいしょっと・・。」
おばぁちゃんは曲がってる腰をさらに曲げ、『私』を抱きかかえた。
(え・・!?私、赤ちゃんなの・・!?なんで!?)
「おーおー、よしよし。そんなに泣かなくて大丈夫だから。家に帰ろうね。」
(や・・!そうじゃないんです・・!ここどこ!?)
一生懸命話すものの私の言葉は全て『あうあう』とかに変換されるようで何一つ伝わらなかった。
(私・・どうなってるの・・・!?)
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雨が降りしきる6月最後の火曜日の朝7時。
私は夫である『小坂井 誠也』さんに殴られていた。
原因は寝てる誠也さんを起こしに行く時間が5分遅れたからだ。
「この役立たず!!誰に養ってもらってんのかわかってんのか!?」
「ご・・っごめんなさいっ・・!」
「時間ぐらいきっちり守れよ!!追い出すぞ!!」
起こしに行った寝室で殴られてるのは『顔』。
痛みに耐えながら腕でガードし、時間が過ぎるのを待った。
(もうちょっと・・もうちょっと我慢したら誠也さんは会社に行く時間になる・・。)
そう思って耐えると、誠也さんはチッと舌打ちして私を殴ることをやめた。
とりあえず終わったことにほっと安堵した時、私のお腹に鈍い痛みが走った。
「!!・・・ごほっ・・!ごほっごほっ・・!!」
「ガードなんかするから腹を殴られるんだバーカ。」
そう吐き捨てて誠也さんは寝室から出ていった。
「うぅっ・・・痛ぃ・・・」
思ってもみなかったところを殴られた私はお腹を押さえながら前かがみで寝室を出た。
早くご飯の用意をしないとまた殴られるかもしれないのだ。
「おいメシは!?」
「いっ・・今用意します・・・」
もう用意し終わってるおかずたちを運び、最後に白ご飯とお味噌汁をテーブルに並べた。
朝は必ず焼き魚と煮物、漬物と白ご飯、お味噌汁を食べる誠也さんは、私のご飯だけは文句を言わないのだ。
「明日は鮭が食いたいから買いに行っとけよ。」
「わかりました・・・。」
「料理しか取り柄のないお前の結婚相手なんて俺くらいしかいないんだからしっかりしろよ。」
「・・・。」
施設出身の私は、19歳の時に誠也さんに出会った。
工事現場で日雇いの仕事をしていた私は何日もご飯が食べれないことが多く、公園の水を飲んで空腹を紛らわせてる時にお酒に酔った誠也さんに声をかけられたのだ。
酔って上機嫌だった誠也さんは私を泊めてくれ、そのお礼に私は朝ごはんを作った。
今と同じ焼き魚に白ご飯、お味噌汁に煮物を少し作っただけだったけど、誠也さんはそれが気に入ったようだった。
『泊まらせてやるからご飯を作ってくれ』と言われ、私は誠也さんの家に住むことになった。
そして1年ほどの時間が流れたときに役所に連れていかれ、婚姻届けを書いたんだけど・・・
(『妻は夫を支えるものだ』って言ってだんだん暴力が始まったんだよね・・。)
『ワイシャツにしわが残ってる』と叩かれたのが始まりだった。
最初こそは手を少し叩かれる程度だったのが、日を追うごとにその強さは増していったのだった。
婚姻届けを出して2年も経つ頃には誠也さんの機嫌一つで叩かれ始め、いつしかそれは『叩く』から『殴る』に。
痣があるから外にも出れず、私は毎日家の中で時間を過ごしていたのだった。
「仕事行く。」
「はっ・・はいっ・・。」
「ちゃんと家のことしとけ。帰ってきて何もできてなかったら・・・どうなるかわかってるよな?」
「---っ!」
誠也さんはニヤニヤ笑いながら支度を済ませ、鼻歌交じりにマンションの玄関を出た。
それを見送り、私は家の掃除を始める。
「ふぅ・・・。」
食器を洗って棚に戻し、掃除機をかけ、トイレやお風呂を掃除していく。
毎日してることだからそんなに時間がかかるハズもなく、すべての家事を終わらせた時間は朝の10時だった。
「買い物に行くにも少し早いし・・・ちょっとだけしようかな。」
私はリビングに置いてある誠也さんのノートパソコンをテーブルの上に置いた。
起動させながらキッチンに隠してあるマイク付きのイヤホンを用意して、あるサイトを開いた。
それは・・・配信サイトだ。
「みんな来てくれるかな・・・。」
私は1年半前から誠也さんのパソコンを使って、外の情報を手に入れてきた。
最初こそは友達ができたらいいなくらいの気持ちだったけど、アバターを使った配信を教えてもらい、リスナーさんたちにリアルタイムで色々教えてもらってるのだ。
「ログインして・・アバター配信に設定して・・・よしっ。」
配信開始ボタンを押すとすぐにリスナーさんたちの入室コメントが現れ始めた。
【紗菜ちゃん、おはよー!】
【おはようございます。】
【待っててよかった!紗菜ちゃーん!】
「わっ・・!みんなおはよう。来てくれてありがとうっ。」
配信開始すると同時に来てくれたのは32人のリスナーさんたちだ。
この面々は私が知らない社会のことをたくさん教えてくれた人たちだった。
【今日も歌、聞きに来たよー!】
【紗菜ちゃんの歌、一週間ぶりだ!】
【生歌配信っ!】
そう、私はこの配信サイト『歌を歌おう!聞こう!』サイトで歌い手側として配信をしてるのだ。
施設にいたときから歌が好きだった私は、いつも鼻歌程度に歌っていたけどここでちゃんと歌えることを知った。
誠也さんがいるときは歌えないから、ここが私の生きがいなのだ。
「へへっ、何から歌う?いつものバラード系からでいいかな?」
【うんうん!】
【待ってました!】
「じゃあ・・聞いてくださいっ。」
私はマウスを使って操作し、曲リストから好きなバラード曲を流した。
画面上に出てる歌詞を見て、歌っていく。
「♪~・・♬♩ー・・・。」
幸せな気持ちに浸りながらメロディに乗ってると、画面上にいろんなアイテムが飛び始めた。
マイクや、音符、プレゼントボックスにハートや星。
これら全部がリアルなお金を使った『投げ銭アイテム』だ。
「わぁっ・・!みんなたくさんありがとうっ。」
曲の間奏を使ってお礼を言うと同時にコメントもすごい勢いで流れていく。
気がつけばリスナーさんの数は3桁を通り過ぎていて、もらったアイテムの金額もあっという間に10万を越していった。
「みんなのおかげで私、歌がますます大好きになったよ。ほんとにありがとう。」
来てくれた人たちにお礼を言いながら、私は1時間くらい歌を歌った。
そして配信を終了し、今日いただいた投げ銭を確認していく。
「えーっと・・・1、10、100、1000,10000・・・・21万3545円。ここから運営側に6割もっていかれるから・・・・8万5418円くらい?今までで貯まってる分と合わせて・・・200万ちょっとか。」
誠也さんのパソコンを使い始めて、改めてうちの夫婦関係がおかしいことに気がついた私は、この家を出る計画を立てていた。
外で働くことができない私が誠也さんに隠れて稼げるのがこの『投げ銭システム』なのだ。
最初こそは『稼ぐ』なんて考えは全くなかったけど、初めて投げ銭アイテムをもらったときにそのシステムを教えてもらい、『離婚計画』を思いついたのだ。
「離婚届けを出せれなくても、何年も離れてたら合意がなくてもいつか離婚できるって教えてもらったし・・・もう結婚する気ないから時間かかってもいい。」
そう思って稼ぎ出して半年。
もう半年あれば500万ほど貯まりそうだ。
「出金申請してから10日で入金されるから、500万貯まったら100均で印鑑買って、口座作ってすぐに振り込んでもらったら逃げれる。」
使ったパソコンは履歴を消し、検索を残さないようにすることをみんなから教えてもらった。
こんな計画を実行しようと思ってる私がいるのは、みんなのおかげだった。
「いつか・・何かの形でお返しできたらいいな。」
そんなことを思ったとき、ふと時計が目に入った。
今の時間は12時ちょっと前だ。
「あっ・・!買い物行かないと・・!」
晩御飯の仕込みから考えたらそろそろ買い物にいかないといけない時間だった。
「帰ってきてからパソコンしまおう!調理の時間とか考えたら先に買い物に行かないと・・!」
私は慌てて用意をし、そのまま傘を持って家を飛び出していった。
ーーーーー
「明日の鮭と、晩御飯用のお肉、それに野菜と誠也さんのビール・・・これで全部かな?」
スーパーで買ったものに間違いがないかと、買い忘れがないかをチェックするために袋を覗き込んでると、私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「小坂井さんちの奥さんっ。」
「え?」
傘をさしたまま声のしたほうを見ると、近所に住んでるおばあちゃんが立っていたのだ。
「あ、こんにちはー。」
「今買い物?」
「はい。」
「毎日雨が降ってお洗濯とか大変じゃない?今日も雨でしょ?」
「そ・・うですね、部屋干しとか、浴室乾燥とか使わないと乾かないですよねー。」
「そうそう!でも浴室乾燥は電気代がーーーーーーーー」
このおばあちゃんは一度話し出すとなかなか止まってくれないおばあちゃんだった。
おしゃべり自体は好きな私だけど、早く帰らないと誠也さんの晩御飯に間に合わなくなるという危険が・・・。
「あの、私そろそろ帰らないと・・・・」
意を決してそう言ってみた。
「あらっ!ごめんなさいね、引き留めちゃって。」
「いえ。」
「そんなに急いで帰って何するの?晩御飯には早いし・・・。」
「えと・・いろいろすることがあって・・・」
「そうなの!?習い事とか?」
「習い事とかではないんですけど、家のこととか・・・。」
「もう終わってるんじゃなかったの?」
「大半は終わってるんですけど・・・・・」
言ってみたはいいけど結局長引きそうな感じになってしまった。
諦めておばあちゃんが満足するまで話をし、解放されたのは私が家をでて2時間後のことだった。
スーパーで買い物をするだけなら往復1時間もあれば足りることから1時間も話に付き合っていたことになる。
「はぁー・・・早くご飯しなくちゃ・・・。」
そう思ってマンションに帰り、私は玄関の鍵を鞄から取りだした。
そして鍵穴に入れて左に回したとき、違和感を感じたのだ。
「え・・・?開いてる・・?」
本当なら左に回したときに重たい鍵が開くはずなのに、なにも手ごたえがなかった。
鍵をかけ忘れた可能性もあったけど、ちゃんと閉めた記憶があったのだ。
「うーん・・・?」
疑問に思いながら私はドアを開けた。
そして濡れた傘をハンカチで軽く拭いてから傘立てに置き、靴を脱いでリビングに入ったとき、私はぞっとした。
私がさっきまで座っていたところに・・・誠也さんがいたのだ。
「---っ!!」
「なぁ、紗菜。これ、俺のパソコンだよな?なんで出てるんだ?」
「あの・・その・・・・」
「お前、俺のパソコンで何してた?」
「!!」
出しっぱなしのイヤホンを取り、誠也さんはマウスを使ってカチカチと操作し始めた。
検索系は全て削除してあるから大丈夫なはずだけど、料理のレシピなんかの検索履歴を残しておけばよかったと後悔の念が残る。
(私より誠也さんのほうがパソコンには詳しい・・・見つかりませんように・・・。)
そう願ったとき、誠也さんの表情が変わった。
パソコンの画面を凝視し、明らかに怒った顔になったのだ。
(見つかった・・!)
ここにいては命の危険があると瞬時に悟った私は踵を返した。
外に逃げようと足を向け、走りだそうとしたとき一瞬視界がブレたのを感じた。
(え・・なに・・?)
何が起こったのかを考えようと思ったときには私の体は床に倒れ込んでいた。
それと同時に私のすぐそばにノートパソコンが落ちてくるのが見えた。
(あぁ・・ノートパソコンで殴られたのか・・・。)
ゴンっ・・!!と、音を立てて落ちてきたノートパソコン。
誠也さんはゆっくり歩いてきてそれを拾った。
「このくそ女・・っ!配信サイトなんか覗いて何してた!?言えっ!!」
そう言って誠也さんはノートパソコンを大きく振り上げた。
(あぁ・・・死んだ・・・。)
そう思った瞬間、誠也さんは私の頭めがけてノートパソコンを力いっぱい振り下ろした。
ゴンっ・・!!!
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怒りに任せて力いっぱい紗菜の頭を殴り続けた誠也は、雷の轟音で我に返った。
「俺は・・何を・・・・」
手には二つに割れてしまった半分のノートパソコン。
そして眼下には・・・血だらけで倒れてる紗菜の姿があった。
「ひっ・・!?」
衝撃のせいか、頭の形が変わってしまってる紗菜。
目は開いたまま、光を灯してない。
「うわあぁぁぁっ・・!!」
あまりにも衝撃的な光景に、手にあったノートパソコンを放り出して誠也は家を飛び出していった。
雨の中、傘もささずに走っていく。
「はぁっ・・!はぁっ・・!」
誠也は走りながらいろんなことを考えた。
紗菜を殺してしまったこと。
殺すつもりはなかったこと。
ただ、自分に内緒で何かをされていたことに腹が立っただけのことなのだ。
(くそっ・・!あいつはネットで何をしてたんだ!?まさか・・俺のことを誰かに言ったりしてないよな!?)
あの日、ぼろぼろの紗菜を拾ったのはただの気まぐれだった。
酔って気分がよかったから拾っただけだったけど、思いのほか料理が上手くて側に置くことにした。
都合のいい家政婦を手に入れたハズだった。
外をあまり知らない紗菜は言いくるめるのが簡単で、自分の言うことをなんでも素直に聞いた。
俺から離れないようにするために婚姻届けまで出して縛り付けたのに・・・
(なんでこうなったんだよ・・・!!)
町はずれまで走った誠也は雨に濡れた髪の毛をかき上げ、濡れた顔を手で拭った。
(・・・死体を処分しないと。)
時間が過ぎたことで冷静になった誠也は雨に打たれながら帰路についた。
傘を差さずに歩いてることを疑問に思いながら見てる人もいたけど、誠也はちっとも気にしていなかった。
なぜなら誠也の頭の中は紗菜の死体をどう処分するかしかなかったからだ。
(確か・・・どっかのヤクザが死体を溶かす薬品を持ってるとかって聞いたことあるな。九条組だっけ?)
身寄りがない紗菜は友達もいない。
外にあまり出さなかったことも相まって、紗菜が消えたところで誰も疑問に思わないだろう。
そう思った誠也は紗菜の存在そのものを消そうと考えたのだ。
(役所には『行方不明』ってことで通せばなんとかなるだろう。)
当面のプランを立て終えた誠也はマンションに戻り、玄関戸を開けた。
リビングと廊下の間に俯せで倒れ込んでる紗菜の死体を確認するため、そっと中を覗き込んだ。
「・・・え?」
だが、紗菜の姿がなかった。
一直線の廊下は、玄関から覗き込めばまっすぐリビングまで見える。
なのに・・・紗菜の姿がどこにもなかったのだ。
「生きてた・・?」
中に入り、確かに紗菜が死んだ場所をまじまじと見つめる。
そこには血痕と二つに割れたノートパソコンがあった。
辺りを見回すものの、血が散らばった様子はない。
「え・・?え?」
あのケガで歩いたとすればどこかに血が落ちてるはずなのに、どこにもその痕跡が残ってないのだ。
まるで・・・消えてしまったかのようだ。
「は・・?おい紗菜!?いるんだろ!?出てこい!!」
そう叫びながら、誠也は『生きてるかもしれない紗菜』を探して回った。
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(ここ・・・どこ・・・?)
誠也さんに殴られた私が目を開けると、見たことのない景色があった。
木がたくさん生い茂っていて、そよそよと吹く風に揺らめいてる。
どうみても森だ。
(・・・天国じゃなさそう。)
木の間から見える青い空をぼーっと見つめてると、どこからか声が聞こえてきた。
「おやおやおや・・・こんなところに赤ん坊かい?」
その声の人はどんどん近づいてきて、私を覗き込んできた。
「捨て子・・・かい?」
(捨て子って・・・え!?私!?)
その人は女の人で、ずいぶんと高齢のように見えた。
しわの多い顔に、曲がった腰。
くすんだ色のケープを羽織っていて、フードもかぶってる。
「赤ん坊が一人で生きていけるわけないねぇ・・・仕方ない。よいしょっと・・。」
おばぁちゃんは曲がってる腰をさらに曲げ、『私』を抱きかかえた。
(え・・!?私、赤ちゃんなの・・!?なんで!?)
「おーおー、よしよし。そんなに泣かなくて大丈夫だから。家に帰ろうね。」
(や・・!そうじゃないんです・・!ここどこ!?)
一生懸命話すものの私の言葉は全て『あうあう』とかに変換されるようで何一つ伝わらなかった。
(私・・どうなってるの・・・!?)
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