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帰省。

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ちとせが何の話をするのか考えながら、俺は自分の仕事に戻った。

書類仕事をし、車両の点検に掃除、訓練にトレーニングといつもの業務をこなしていく。

時々時計をチラ見してちとせが終わる時間を待ってると、署内に放送が流れた。


『管轄内でマンションエレベーターの閉じ込め事故発生。出動してください。』


その放送を聞き、俺と航太、司、迅は作業を止め、車両に向かった。

掛けてある服をダッシュで着て乗り込んだ。


「レスキュー隊、出動します。」


司が指令室に無線を飛ばし、俺たちは現場に急行した。




ーーーーー



ーーーーー



「ふぅー・・・お疲れさん。」


救出活動が終わったのは出動してから3時間後だった。

署に戻ってきた俺たちは車両置き場で服を脱ぎ、着替えをしながら今日の反省点を話す。


「もうちょっと機材出しをスムーズにしたいとこだな。」

「それは俺も思った。」

「でも現場に着かないとなんの機材が必要かはわからないだろ?」

「そうなんだよなー・・・。」


あーだこーだと言いながら着替えをしながら腕にある時計を確認すると、時間は午後6時を指していた。

もうとっくにちとせの講習は終わってる。


(まぁ・・電話するって言ってたから待つか。)


できれば直接話を聞きたかったけど、こればっかりは仕方がない。

着替えを済ませて署の中に足を踏み入れると、事務所の前に誰かが座ってるのが見えた。

あれは・・・ちとせだ。


「・・・ちとせ!?」

「あ、おかえりなさーい。お疲れさまでした。」


今日の講習の本を読んでいたのか、ちとせは手に持っていた本を鞄にしまい、立ち上がった。

航太たちはちとせに軽く手を振って、事務所に入っていく。


「待ってたの!?」

「うん。事務所の人にあと1時間くらいで帰ってくるって教えてもらったから・・。」


17時で講習が終わったちとせは、そのまま俺が戻ってくるのを待っててくれたらしい。


「そんなに大事な話?聞くのがちょっと怖くなってきたんだけど・・・」


そう聞くとちとせは少し俯きながら鞄を持ち直した。


「あのね?ちょっと実家に帰ろうと思って・・・」

「え?」


実家の稼業の人手が2週間ほど足りないらしく、手伝いをして欲しいと頼まれたらしい。

滅多にない実家からの要請に、ちとせは応えることにしたようだ。


「ルルーシュのマスターにはもう言ってあるの。」

「そっか。わかった。いつから行くの?」

「それが急で・・・明日出発することになって・・・」

「明日!?」

「人手が足りなくなった理由がね、従業員に妊婦さんがいたんだけど切迫流産で入院することになったみたいで・・・」


まだ妊娠初期で仕事をしていた従業員が、体調を崩して入院することになったそうだ。

その人の代わりとして、ちとせが召喚されたというわけらしい。


「2週間でいいの?」

「うん。代わりの人がもう見つかってるんだけど、その人が来れるのが来週なんだって。もともと旅館の仕事をしてた人みたいだから、1週間でうちの仕事を覚えてもらって帰ってくるー。」


経験者なら一から教える必要はない。

大体の流れや物の位置、接客理念なんかを伝えたらそのうち馴染んでいくだろう。


「なるほど。朝から行くの?」

「うん。始発に乗ってバスとで・・・昼過ぎには着くと思う。着いたらメールするね?」

「わかった。気をつけてな?なんかあったらすぐ連絡して?」

「ふふ、ありがとう。お土産買ってくるね。じゃあ、支度あるから・・・」


ちとせは寂しそうに手を振りながら歩き始めた。


「そこまで送るよ。」


署の外くらいまで送ろうと、俺も一緒に足を進めた。

出たところでちとせが足を止める。


「大丈夫っ、ここでいいよ。」

「でも・・・」

「帰ってきたらデートしようね。クリスマスプレゼント、何がいいか考えておいてね?」

「・・それは俺のセリフなんだけど・・・ちとせも考えとけよ?」

「うんっ。じゃあまたね。」

「気をつけてな?」

「はーい。」


ちとせは手を振りながら帰っていった。

その姿が見えなくなるまで見送り、俺は仕事に戻るために署の中に入る。


(2週間かー・・・長いな。)


電話で声を聞くことはできても会うことはできない。

とりあえずちとせが帰ってくるまでにクリスマスプレゼントを考えて寂しさを紛らわせようと思った。






この後、『後継ぎ問題』で頭を悩ますようなことになるなんて思いもせずに・・・。








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