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雑貨デート3。

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「あ、高森さん、すみません・・・勝手にこっちのお店に来ちゃって・・・。」


俺に気がついた彼女がお店の人にお金を渡しながら言った。


「いや、大丈夫。・・・ところで何買ったの?」


そう聞いたとき、お店の人は彼女に長いひも付きのカバンのようなものを渡した。

彼女はそれを受け取り、首に引っ掛ける。


「えへへっ、クッキーですっ。」


そう言って首から下げたものを俺に見せてくれた。

ループ状になってる紐の先には、大きな雪だるまの形のものがある。


「・・・クッキー!?デカくない!?」


俺の手を大きく広げても有り余る大きさの雪だるま。

とてもじゃないけどクッキーとは思えなかった。


「ジンジャークッキーなんです。クリスマスマーケットとかではよく出てて有名なんですよ?」

「えぇぇぇ・・・初めて見た・・。」

「よいしょっ・・・と。」


驚いてる俺を他所に、彼女はその紐を斜め掛けに変えた。

腰元に移動した雪だるまがアクセサリーみたいになっていて・・・無駄に可愛く見える。


「・・・それ、他の形もあったりする?」

「え?・・・あー、ツリーとかあったと思いますけど・・?」


そう聞いて俺は店を覗き込んだ。

店の中にはいろんな形のクッキーが天井から吊るされてる。


「・・・すみません、ツリーとクッキーマンください。」


俺は二つのクッキーを買い、お金を払って受け取った。

それを持って店から出ると、夏目さんが俺の手にあるクッキーを見て笑顔を溢した。


「あ、弟さんたちにですねっ、ちょっと味が独特かもしれないですけど美味しいですよ?」


そう言ってくれた彼女に、首を右左に振る。


「違うんだよ。」

「え?」

「これ、夏目さんに。」


俺は紐の部分を大きく広げて彼女の首にかけた。

雪だるまと同じになるように、斜めにかけていく。


「え!?・・私!?」

「そう。これ下げてる姿がめっちゃかわいかったから・・・もっと下げて欲しくて。」

「へっ・・!?」


若干パニックになってる彼女の腰元に、雪だるまとツリー、クッキーマンが揺れてる。

その姿がよく似合っていて・・・思わず声に出して言ってしまった。


「かわいい。」

「!?!?」



ーーーーー



ーーーーー



ちとせside


高森さんに驚く言葉を言われた私はどうしていいか分からずに固まっていた。


(かわいいって言った・・!?)


私の目をじっと見てる高森さんの顔は、優しい笑顔だった。

私を見てるその視線に、錯覚を覚えてしまいそうになる。


(でも・・今日誘ってくれたってことは・・嫌われてはいないよね・・?)


高森さんが喫茶店に来るようになって数か月。

高森さんに惹かれ始めてることを最近自覚した。

優しい話し方が好きで・・・いつの間にか会える日が楽しみになっていたのだ。


(差し入れに行く前に高森さんが仕事忙しくて会えなくて・・・)


その時に自分が高森さんのことを考えてることに気がついた。

新しくできた『友達』だと思ってたけど消防署で仕事をしてる高森さんの姿を見て、『友達』とは違う感情になってることに気がついたのだ。


(思い返したらバーベキューの時からきっと・・・)


そんなことを思い返してる時、高森さんが私の顔を覗き込むようにして近づいて来た。


「どうかした?夏目さん。」

「---っ!・・・なっ・・なんでもないですっ・・。」


顔が赤くならないように手で扇ぎ、私は鞄から財布を取り出した。


「あのっ・・クッキー代お支払いします・・・。」


そう言ってお札を取り出そうとしたとき、高森さんが私の手を押さえた。


「俺が勝手に買っただけだからもらって?」

「え・・でも・・・・」

「それよりほら、もうすぐ昼だしどこかで食べない?食べ歩きもいいし。」


視線を周りに向けると、確かに食べながら歩いてる人がいた。

串に刺さってるお肉や、クレープ、ソフトクリーム、フランクフルトなどたくさん見える。


「じゃあ・・食べ歩きません?いろいろ種類が食べれそうですし。」

「オーケー。じゃあ行こうか。」


そう言った歩き始めた高森さんに、私はクッキーが見えるように手で持った。


「・・・クッキー、ありがとうございます。」


お礼を言うと高森さんはまた、優しい笑顔を私に向けた。


「どういたしまして。」


私たちは会場の中を歩き進め、見つけたお店で食べ物を買って歩きながら食べた。

フレッシュジュースのお店でオレンジのジュースを買い、唐揚げの串や、お肉の串、フライドポテトなんかも買いながら食べ歩く。

途中で気になるお店を見つけた時にはショッピングし、1時間、2時間と楽しい時間を過ごしていった。

そして会場の一番奥まで歩いて行ったとき、少し広い空間に出たのだ。


「イベントでもあるんでしょうか・・・。」


ところどころフォトスポットのような場所があるのが見えた。

松ぼっくりやメタセコイアでできた大きな三日月型のカップルベンチや、階段状に植えられたひまわりに囲まれるように撮れるところ、大きなフォトフレームなんかもある。


「フォトジェニックな写真を撮るイベントみたいだな。結構流行ってるらしいし・・。」

「フォトジェニック?」


高森さんの話では、SNSに投稿するために写真映えを狙った撮影が流行ってるらしい。

きれいな景色や料理なんかを『映える』ように撮るのが目的らしく、こういうフォトスポットが人為的に作られることもあるらしいのだ。


「景色ならほんとの自然のほうがいいんだろうけど、危険な場所もあるんだよ。」

「そうなんですか?」

「うん。立ち入り禁止の場所とかに『映え』を目指すあまり侵入したりしてケガとかよくある。」

「あー・・・。」


高森さんの言う通り、時たまニュースでそんな事故を聞くことがある。

人とは違った写真を撮りたい気持ちはわかるけど・・・ケガで済まない事態になってしまったらと思うと命のほうを大事にしたいと思った。


(・・・実際、死にかけたからかもしれないけど。)


そんなことを考えながらそのフォトスポットを眺めてると、会場のスタッフさんらしき人が声をかけてきた。


「あちらのスポット、今空きましたのでどうぞ!」

「えっ・・?」

「写真はこちらでお撮りしますので、あとでQRコードで読み込んでくださいねー!」


そう言ってスタッフさんはQRコードが書かれた紙を渡してきて、私と高森さんの背中をぐぃぐぃと押し始めた。


「えっ・・!?ちょっ・・・!」

「このQRコードで読み取れるのはお二人の写真のみになりますー、本日夜12時を回ると読み取れなくなりますのでお早めにダウンロードしてくださいねー!」


ぐぃぐぃ押されてついたのは、松ぼっくりでできた大きな三日月型のベンチだ。

スタッフさんは私たちの背中をベンチ前まで押した後、写真を撮るために離れていった。

カメラを構えてこっちを見てる。


(どうしよう・・・。)


写真を撮るためにいたわけじゃないし、そもそもカップルでもない。

スタッフさんに断りを入れてこの場所から抜け出そうと思ったとき、高森さんがベンチに腰を下ろした。


「へっ・・?」

「いいんじゃない?せっかくだから撮ってもらおうよ。」


そういって高森さんはベンチをぽんぽんっと叩いた。


「えっ?えっ・・!?」

「ほらほら、もう次の人が並んでるから早く。」


そう言われて辺りを見回すと、並び始めてる人たちの姿が目に入った。


「~~~~っ。」

「ほらほら。」


どうしようもなくなり、私はベンチに腰を下ろした。


(足があたっちゃう・・・。)


できるだけ体があたらないようにと思って端に座ると、スタッフさんが大きな声で言った。


「彼女さーん!もうちょっと彼氏さんにくっつきましょうかー!」

「へっ!?・・やっ・・あのっ・・!」

「彼氏さんは彼女さんを抱きしめちゃいましょうかー!」


その言葉が聞こえた瞬間、高森さんは私の体に手を回してきた。


「ひぁっ・・・!?」













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