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雑貨デート2。

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金曜日。

俺は朝10時になる少し前に、夏目さんが住んでるアパートの前に到着した。

半ば無理矢理決まってしまったデートに、少し罪悪感を感じながら夏目さんが住んでる部屋を見てる。


「・・・本気で嫌そうだったらやめとこ。」


そんなことを考えながら部屋を見てると、ドアが開いた。

中から出て来たのはもちろん彼女だ。


「!!・・・やば・・かわいい・・・。」


白い肩だしのブラウスに、ふわっとした黄色いロングのスカートを穿いていた夏目さん。

少し高さのあるサンダルが涼しげで、明るい色がよく似合っていた。

アパートの鍵を閉めた彼女はすぐに俺に気づき、小走りに走ってきてくれた。


「すみませんっ・・・!もう来てたんですか!?」


助手席のドアを開けてそう聞いてきた。


「ちょっと楽しみで早く着いただけだよ。・・・乗って?行こうか。」

「よろしくお願いしますっ。」


車に乗り込んだ彼女のシートベルトを確認し、俺は車を走らせ始めた。

知り尽くしてる街並みを、いつもと違った雰囲気で走って行く。


「・・今日はすみません、お付き合いいただいて・・・。」


走り始めて少ししたとき、夏目さんがそう言った。

申し訳なさそうな表情で俺を見てる。


「いや、全然大丈夫。この前のお礼もしたかったし・・。」

「『お礼』?」

「差し入れのお礼。あの日、出動があったんだけど結構激しい現場でさ、疲労困憊で戻ったから助かったよ、ありがとう。」


あの日、ビルのエレベーターに閉じ込められた人からの通報で、俺たちレスキュー隊は駆け付けた。

扉が開かなくなってしまってたから上からの救助になってしまい、時間もかかってしまったのだ。


「差し入れは海とかのお礼で持って行ったんですけど・・・」

「まぁ、その辺は気にしないで。俺は夏目さんと出掛けれて嬉しいし。」


彼女とデートしたくて声をかけた俺は、この展開になってくれてよかったと思っていた。

休みが合わなければ今日のデートは実現しなかったし、あのお客の一声がなかったら、もしかしたら叶わなかったかもしれない。

そう考えたら今日一日は奇跡のようなものだった。


「えー・・気にしちゃいます・・・。」

「なら俺に『北欧雑貨』のこと、語ってくれない?」

「『語る』!?」

「夏目さんの好きな『北欧雑貨』のこと教えて?お礼のお礼ってことで。」


そう言うと夏目さんは手を口にあてて笑い始めた。


「あははっ・・・!じゃあ・・・語らせてもらいますっ!」

「おぅ、どーんとこい!」


目的地である北欧雑貨フェアの会場に着くまでの時間、彼女はずっと話し続けてくれた。

北欧系の雑貨を好きになったきっかけや、最初に買ったもの、今回探してるものなんかを。


「秋色のリーフ小皿を探してるんですけど、なかなか思う色に巡り合えなくて・・・」

「なるほど。」

「雑貨フェアは冬にすることが多いのであまり秋物とか夏物は出会えないんです。」


確かに、北欧雑貨といえばクリスマスを想像させるものだった。

俺自身、そんなに詳しくはないけど・・・。


「なら見つかるといいな。」

「はいっ。」


そんな話をしてるうちに会場につき、俺は車を駐車場に止めた。

車から下りて少し先にある会場に足を踏み入れると、夏目さんは嬉しそうにため息を溢した。


「うわぁ・・・大きい・・・!」

「確かにデカい会場・・・。」


思ってたよりも大規模だった北欧雑貨フェア。

ざっと見回しただけでも大きいショッピングモールくらいの広さはありそうだった。

その中で簡易的なショップが建ち並び、各々商品を並べてる。


「順番に覗いていこうか。」


そう声をかけると夏目さんは悩むように奥の方を指差した。


「あ・・いや、目当ての食器関係のお店だけで大丈夫ですー。」


その言葉に俺は喫茶店での会話を思い出した。

雑貨関係のウィンドウショッピングは何時間でもできると言ってたことを。


(・・・俺に気を使ってる?)


何時間も付き合わせるわけにいかないと思ってるのか、チラチラと目線だけで店を見ながら歩き始めた。

ほんとはじっくり見て回りたそうだ。


「・・・せっかくなんだし、満足するまで見て回ろうよ。俺のことは気にしなくていいからさ。」

「え・・・でも・・・」

「ほら。」


俺は彼女の肩を掴み、身体の向きをぐぃっと変えた。


「ふぁっ・・!?」

「ほら、入り口の一軒目から。」


無理矢理一軒目に押し進んでいくと、彼女は諦めたように俺を見上げて笑った。


「・・・ふふ。ありがとうございますっ。」


その笑顔が可愛すぎて思わず視線を反らしてしまう。


「高森さんは何か・・・欲しいものとかないんですか?」


一軒目のお店を覗きながら彼女が聞いてきた。


「うーん・・・特にないけど・・・今度実家に帰るときに一番下の弟に何かいいのがあればいいかなぁ。」


まだまだ小さい弟には実家に帰るときには土産を持って帰ることにしてる。

おやつになるようなものを買って帰ることが多いけど、物でもいいのだ。


「じゃあ一緒に探しましょ!きっといいのがありますよっ。」

「・・・そうだな。」


俺たちは一軒ずつ順番に店を覗いて行った。

小物に、タペストリー、食べ物やドールハウスなんかのお店があって、見て回るだけでも飽きない。

夏目さんは時々欲しいものが見つかるらしくて小さな置物をいくつか買ったりしていた。


「あ・・!これとかどうです?木製の電車。」


いくつか店を見回ってる時に見つけたのはおもちゃだ。

五両編成の電車で、一両ずつ人形が乗ってる。


「あ、いいかも。乗り物系は結構好きでさ、パトカーとか飛行機のおもちゃが結構あるんだよ。」

「そうなんですか。・・・あ、たぶんこれ、仕掛けがありますよ?」

「え?仕掛け?」


夏目さんは『見本』として置かれていた電車を少し押して走らせた。

すると乗っていた人形たちがぴょこぴょこと上下に動いたのだ。


「!!・・・へぇ!すごいな!」

「へへっ、かわいいですよねー。」


電池で動くおもちゃもいいけど、こういう仕掛けで動くおもちゃもいい。

何度でも動かしたくなるし、仕組みが知りたくなって観察もしそうだ。


「これにするよ。ありがとう。」


俺は店員さんに声をかけ、この電車を買った。

ついでにラッピングもしてもらってその店を後にする。


「ごめん、待たせて・・・・」


そう言って夏目さんのところに戻ろうとしたとき、彼女の姿がないことに気がついた。


「あれ?」


辺りをぐるっと見回して彼女を探す。


「近くの店でも覗いてるのかな。」


まだ見てない店のほうに視線をやったとき、彼女の姿を見つけた。

あの店は・・・『クッキー』を扱ってる店だ。


「なんか・・・あのクッキー、デカい気がする・・。」


そんな予感を消すように、俺は目を少し擦りながら彼女の元へ足を向けた。











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