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彼女の不安2。

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陽平side


片付けに間に合わなかったことを申し訳なく思ってるのか、夏目さんは俯いてしまっていた。


「いや?司たちの彼女が更衣室から出て来た時にもう終わってたんだよ。だから気にしないで。」


パラソルを抜いて片付けるくらいならそんなに時間はかからない。

ささっと片付けた俺たちは順番に更衣室に行って着替えも済ませていた。

仕事上、普段から着替えだけは早いのだ。


「夏目さん、電車なんだよね?」

「はい。雨が降って電車が止まると帰れなくなるので急ぎたいところ・・・」


彼女がそう言ったとき、言葉を遮るようにして空で雷の音が響いた。

結構大きめの、ゴロゴロと唸るような音が少しの時間続く。


「---っ!」

「まだ距離はありそうだけど、鳴り出したな・・・。」



空の様子を見たあとに彼女を見ると、微かに震えてるように見えた。

俯きながら自分の腕をぎゅっと掴んでる。


「?・・・どうかした?」


そう聞いたとき、ドーン!!とひと際大きい雷の音が空気を震わせた。


「きゃあぁぁぁ!?」


夏目さんは両手で自分の耳を押さえ、目をぎゅっと閉じた。

見るからにガタガタと震えてる。


「大丈夫?」


そう聞くと彼女はそっと目を開けて恐る恐る空を見上げた。


「す・・すみません・・・。」

「いや、いいんだけど・・・雷が苦手?」


彼女は俺の言葉に首を上下に振って答えてくれた。

もう一度空を見ると、もうそこまで黒い雲が迫ってきてる。

そして雲の中では稲光がちらついてるのが見てとれた。


「・・・俺、車なんだけどよかったら送らせてくれない?」

「あ・・いや、それはご迷惑じゃ・・・」

「全然大丈夫。電車が止まると大変だろうし・・・あっちの駐車場に止めてるから行こう。」


そう言って俺はゆっくり歩き始めた。

すると夏目さんもゆっくり俺の後をついて歩き始めた。


「すみません・・よろしくお願いします・・・。」


俯きながらついてくる彼女は、時折聞こえる雷の音に身体をびくつかせていた。

手でも握れば不安が少しマシになるのかもしれないけど、そんなことできるわけもなく、俺は彼女に気を配りながら駐車場まで歩くしかなかった。


「司たちはライフセーバーのところに伝えに言ったあと、そのままここを出るって言ってたよ。今度は遊園地か水族館に行こうって言ってた。」


せめて話で雷から気を反らそうと、俺はさっき司たちが言ってたことを彼女に伝えた。


「・・・水族館!」

「お?水族館好き?」


不安そうにしてた夏目さんが嬉しそうな声を上げた。


「好きですっ。お魚というより、貝殻が好きなんですけど・・・。」

「貝殻?貝殻だったらビーチにも落ちてたんじゃない?」


砂浜の足元を探せば小さい貝殻くらいは見つかりそうなものだ。


「今日は探してないんですー・・探すときは探すためだけに歩きたいので・・・」

「あ、なるほど。もしかしてシーグラスとかも集めたり?」


海岸や浜辺にはシーグラスと呼ばれるガラス片が打ち上げられてることがある。

波にもまれて角がとれ、小さい欠片になったものだ。

透明なものや緑色のものが多く、たまに他の色のシーグラスが見つかることもあるのだ。


「!!・・・集めてますっ!こっちに引っ越してくるまでは海の近くに住んでたんですぐに行けたんですけど・・・今はなかなか・・・。」

「そっか。」


そんな話をしてるうちに、俺たちは駐車場に足を踏み入れていた。

自分の車の前で足を止める。


「え!?この車、高森さんの車なんですか!?」

「そうだよ?まぁ、滅多に乗らないけど・・・。」


俺の車は四輪駆動タイプ。

迅たちに誘われて山や川に遊びに行くこともあるからこのタイプを選んだ。

実際、遊びに行ける回数は少ないけど・・。


「すごい・・大きい・・。」

「荷物はいっぱい乗るよ?パラソルも俺の車じゃないと乗せれないし。」

「そうなんですか?」

「迅たちは普通のセダンとか、軽自動車なんだよ。俺は弟とか乗せたりすることあるから大きいほうが便利なだけ。」

「そうなんですかー・・・。」


俺は荷物を地面に置いて車のロックを解除した。

後ろを開けて荷物を入れ、助手席のドアに手をかける。


「どうぞ?」

「お・・オジャマシマス・・・。」


夏目さんは荷物をぎゅっと抱きかかえて乗り込んだ。

服を巻き込まないことを確認してドアを閉め、俺は運転席に回る。

そしてエンジンをかけた。


「えーと・・家ってどこ?教えたくなかったらどこか近くのコンビニでもいいし。」


できれば雨が降る前に送り届けてあげたいところ。

自宅を言いたくなければそれでもよかった。


「あ、あの・・喫茶店と駅の間くらいにあるアパートってわかりますか?」

「もしかして『ガーデンハイツ』?」

「そうです!そこに住んでますー。」

「あそこか。おっけ。」


俺はハンドルを切って車を走らせ始めた。


(ガーデンハイツかー・・・。)


『ガーデンハイツ』は一昨年、火事で焼失したアパートだ。

消火にあたったのは俺たちの隊。

記憶はまだ・・・鮮明に残ってる。


(ラッキーなことにあの時アパートはほぼ空いてたんだよな。住んでたのは2軒くらいだったし、その2軒も出かけてて人がいなかった。)


古いアパートだったからか火の回りは早く、あっという間に全焼してしまったのだ。

そのアパートは新しく建て直され、きれいになったのをだいぶ前に見に行ったことがあった。


「あのアパート、3階建てだよね?何階に住んでるの?」

「1階ですー。運よく角が空いてて、そこに決めましたっ。」

「角部屋はいいよね、両隣りを気にしなくていいし。」

「そうなんですっ、結構気に入ってますー。」


外は時々雷が鳴ってるものの、夏目さんは話をすることで雷を気にしないようにしてるようだった。

それに付き合うようにして話を振っていく。


「こっちに越してくる前は実家だったの?」

「いえ、一人暮らししてましたよ?実家を出たのは・・・3年前なんです。高校を卒業してすぐ一人暮らしを始めてーーー」


夏目さんは高校を卒業したあと、すぐにカフェで働き始めたと教えてくれた。

その時のお店が夫婦二人で経営されていたお店らしく、雰囲気が好きで自分もカフェを開きたくなったのだとか。


「へぇー、そのお店が海の近くだったってこと?」

「はいっ。すごくきれいな場所で・・・休憩時間によく浜辺に行ってたんです。そこで貝殻を集めるのにハマってしまって・・・。」

「なるほど。」

「去年まで楽しく働かせていただいたんですけど・・・ご主人が入院することになって閉店が決まったんです。当然私も辞めないといけなくなって・・・それで、どうせなら遠くに引っ越してみようかと思ってこの街に来ました。」


そう笑顔で言う夏目さんには冒険心があるみたいだ。

でも成人したばかりの女の子が遠く離れた土地に一人で来るのには勇気がいる。

土地勘も無ければどこに住めばいいのかもわからなかっただろう。


「ご両親とか・・・反対されなかった?女の子の一人暮らしは結構敬遠されるものだけど・・・」

「両親は仕事で忙しいので・・・反対はされなかったですね。たまに顔を見せに帰りますし。」

「あ、共働き?」

「そんな感じですー。・・・高森さんのお家は?」

「うちは母は専業主婦なんだよ。」

「専業主婦なんですか!」

「そう。・・・と、いうのもうちの弟がまだ4歳で・・・」


そう言うと夏目さんは驚いた顔をして俺を見た。


「え・・?・・・えぇぇ!?4歳!?」



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