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海。

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ーーーーー


7月最後の金曜日。

待ち合わせの海に到着した私は、美香ちゃんを見つけて大きな声で呼んだ。


「美香ちゃーんっ!」

「あ!ちとせちゃんっ!」


私の声に気づいてくれた美香ちゃんは、手を振りながら駆けてきてくれた。

その向こうにバーベキューのメンバーが揃ってるのが見える。


「え!?夏目さん!?」


一人、驚いたように私の名前を呼んだのは高森さんだった。

他の人たちは驚く様子もなく、まるで高森さんだけが『知らなかった』ように見える。


「えと・・・」


驚く高森さんにどういえばいいのか分からずに困ってると、美香ちゃんの彼氏が口を開いてくれた。


「陽平には言ってなかったけどさ、実はちとせちゃんも誘ってたんだよねー。」

「は!?」

「美香がちとせちゃんもって言ったのと、迅と司の彼女もちとせちゃんと遊びたいって言ったから呼んだんだよ。驚いた?」


高森さんは私と美香ちゃんの彼氏を交互に見ながら口をぱくぱくさせていた。

そんな高森さんに、申し訳なさげに軽く手を振る。


「・・・ルルーシュで教えてくれてもよかったのに・・。」

「すみません、てっきり知ってるものだと思って・・・。」


思い返せば喫茶店では海の話は全くしてなかったことに気がついた。

する話といえば好きな雑貨のことや、おいしいごはん屋さんの話ばかりだったのだ。


「ねぇ、航太くんっ、私、ちとせちゃんと一緒に水着に着替えてくるねー?」


私の手を握りながら言った美香ちゃん。

それに続くように他の彼女さんたちも手を挙げた。


「あ、私も行ってくるね、迅。」

「司くん、私もー。」


荷物を持って歩み寄ってくる彼女さんたちに、彼氏さんの一人が手を振りながら言った。


「じゃあ俺たちはこの辺にいるから着替え終わったら探しに来てね。」


そう言う彼氏さんたちに軽く手を振る彼女さんたち。

私はそんな彼女さんたちに挟まれるようにして更衣室に向かって歩き始めた。


「ねぇねぇ、ちとせちゃんって・・・呼んでもいい?」


彼女さんの一人が私を覗き込むようにして笑顔で聞いてきた。

よくよく見ると、二人とも私より遥かに背が大きい。


「あ・・はい、お願いします。」

「ふふっ、ありがとっ。私は『佐々木 迅』と付き合ってる『二宮 里美』。」

「私は『宮下 司』と付き合ってる『遠藤 涼子』。よろしくね、ちとせちゃん。」


二人のお姉さんのような雰囲気に、思わず笑みがこぼれる。


「ところで・・・ちとせちゃんは彼氏、いる?」


更衣室に入り、着替えをするために各個室に入った時、私の右隣に入った里美さんが聞いてきた。


「いないですー。去年別れて、こっちに引っ越して来たんですー。」

「あら、じゃあこの辺りのこと、あまり知らないの?」


私の言葉に、左隣の個室に入っていた涼子さんが聞いてきた。


「そうなんです、二か月くらい前に越してきて・・・仕事はすぐに決まったんですけど、休みの日はスーパーくらいしか行かないんで・・・だからこの海の場所も知らなかったですー。」

「じゃあすぐ近くに駅がある海水浴場にしてよかったねっ。」


もう着替えが終わったのか、私が入ってる個室の扉の前から美香ちゃんの声が聞こえて来た。

水着に着替え終わっていた私は、最後に腰にパレオを巻き付けて結んだ。


「お待たせ、美香ちゃんっ。」


そう言って個室の扉を開けると、美香ちゃんと里美さん、それに涼子さんが扉の前で立っていた。

美香ちゃんはフリルがかわいい黒のワンピース水着を着ていて、里美さんと涼子さんはハイネックタイプの大人オシャレなタンキニにパレオ姿だった。

色違いで揃えたのか、里美さんは濃い緑色で涼子さんはワインレッドだ。

二人とも雰囲気によく似合っていて見惚れてしまう。


「きれい・・・」


思わずそう呟いた。


「ありがとう。ちとせちゃんもすごく可愛いよ?」

「これは陽平くん、困るだろうなぁ。」

「?・・・高森さんですか?困るって・・・?」


意味が分からずに聞き返すと、二人は手を左右に振った。


「ううん、なんでもないよー?」

「早く行こっか!」

「?」


急かされるようにして、私たちは更衣室を出た。

さっき来た道を戻るようにして歩いて行くと、高森さんたちがパラソルを立ててるのが見えた。

里美さんと涼子さん、それに美香ちゃんは彼氏に向かって手を振る。


「司くんー。」

「迅ーっ。」

「航太くんっ!」


その声に気がついた彼たちが私たちを見て、嬉しそうに微笑んだ。


「きれいだよ、涼子さん。」

「里美もかわいい。」

「美香、よく似合ってる。」


仲良さげにくっついてる3人を微笑ましく見ながら、私は高森さんの側に行った。


「あの、お手伝いできることって・・・ありますか?」


屈んでパラソルを固定していた高森さんは、私を見上げるようにして見ていた。


「---っ。」


じーっと見つめられ、水着がおかしいのかと自分でも確認してみる。


「何か変・・ですか・・?」


今日の為にお気に入りの服屋さんで買ってきた水着は、大きな向日葵の柄のタンキニだ。

フリルが胸元をカバーしてくれていて、ロングなパレオが足首まで隠してくれてる。

特に変なところは無いと思いながら高森さんを見ると、彼は視線をパラソルに戻した。


「いや・・っ・・なんでもないよ。手伝ってもらうことは特にないから・・・みんなで少し泳いできなよ。」

「あー・・・はい。じゃあ少し遊ばせてもらいますー。」


そう言った時、美香ちゃんたち彼女組が私を呼んでくれた。

荷物をみんなと同じところに置き、3人の元に向かう。


「波打ち際で遊ぼうよっ!あとでみんなで入ろっ。」


美香ちゃんの提案で、私たち4人は波打ち際で足を濡らしながら遊ぶことにした。

冷たい海水に足を浸し、濡れた砂に足を取られる感覚に不思議と笑みがこぼれる。


「ふふっ。」


ちゃぷちゃぷと海水で遊んでると、里美さんが寄せて来た波を手で掬って私たちにかけてきた。


「それっ・・!」

「きゃぁ・・っ。」

「冷たーいっ・・!」

「あははっ・・!」



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