上 下
68 / 68

最終話。

しおりを挟む





ーーーーーーーーーーーーーーー








ーーーーーーーーーーーーーーー









ーーーーーーーーーーーーーーー








3年後・・・









春斗「・・・お嬢!!・・・お嬢!?」




春斗さんが本宅のお庭を走りながら大声で叫んでいる。




慶「・・・春斗、琴音(ことね)を見失ったのか?」



慶さんが春斗さんを見ながら聞く。



春斗「どっちに似たのか知りませんけどすぐにどっか行くんですよ!!まだおやつの途中なのに!!」




新婚旅行のときに発覚した妊娠。

産まれた子は女の子だった。

慶さんが『音楽にまつわる名前にしたい』といい出して『琴音』の名前を付けた。





かえで「ごめん・・春斗さん。」




汗をかきながら探してる春斗さんに、思わず謝った。



春斗「姐さんは気にするな!・・・ってか、横になっとけよ?また吐くぞ?」

かえで「・・・・うっ。」




胃の中の物が逆流してくる気配を感じて、

私はバタバタと走って離れの家に戻った。

トイレに駆け込み、座り込んで胃にあるものを全部吐き出す。



かえで「うぇ・・・。」

慶「あーあー・・・無理して食べるから・・・。」




私を追いかけてきた慶さんが背中を擦ってくれた。



かえで「ごめん・・・今回のつわりは・・・ちょっとキツい・・・。」



つい最近二人目がお腹にいることが分かって、琴音の遊び相手を春斗さんにお願いしてる。

琴音は春斗さんには懐いてるから・・・正直助かってる。




慶「これは代わってあげれないからな・・・。気分を晴らしてあげることしかできないけど・・・。」



そう言って慶さんはポケットから一通の手紙を取り出した。



かえで「?」

慶「手紙・・・来てたよ。」

かえで「・・・え!?」



私はその手紙を受け取り、部屋に戻った。

机の前に座り・・・差出人を見る。



かえで「『南条 かざね』・・・・いつになったらメールにしてくれるのかな(笑)。」




かざねさんの演奏会の時に渡したメッセージカードには、私の名前、住所、ケータイ番号、メールアドレスを書いておいたのに、いつも手紙を送ってきてくれる。



かえで「ふふ。なんて書いてあるのかなー・・。」



封を開けて中に入っていた手紙をだすと・・・

1枚の便箋と・・・SDカードが入っていた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





かえでちゃん、元気にしてる?

あの時の赤ちゃんはもう3歳くらいだよね。いつか会ってみたいからまた遊びに来てね?

私はあのホテルで時々演奏会してるよ。

また聞きに来てくれたらうれしいけど・・・赤ちゃんが大きくなるまでは無理だと思うからこれ、入れとくね!

この音がかえでちゃんに幸せを呼び込みますように。



          南条 かざね





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







かえで「SD?どうやって見るんだろ・・・。」



私は手紙を封筒に入れ、部屋を出た。

慶さんを探して外に出る。



かえで「慶さーん。」




慶さんは春斗さんと一緒になって琴音を探していたようで、お庭でがさがさと草木を分けていた。




慶「琴音ー?」

春斗「お嬢ーっ!!」

かえで「・・・まさか、まだ見つけてないの?」




二人のもとにいくと、二人ともがさがさと探しながら答えてくれた。




慶「どこに隠れたんだろな。」

春斗「もー・・・若、父親なんですからさっさと見つけてくださいよ・・・。」

慶「えぇぇ?琴音は小さいからなー・・どこかわかんないぞ。」

かえで「・・・。」




私は二人から離れて歩き進み、鯉がたくさん泳いでる池の前に立った。

その近くの茂みを指差す。



かえで「ここにいるのよ。琴音。」

慶「え!?」

春斗「え!?」



私に見つかったからか、茂みからがさがさと出てきた琴音。

見つかったのが悔しいのかほっぺたを膨らませている。




かえで「ほら、おやつ食べないとご飯までにお腹空いちゃうよ?」

琴音「だってー・・・。」

かえで「なに?今日は琴音の好きなホットケーキだったでしょ?かぁさん焼いたもん。」




マスクをつけて焼いたホットケーキ。

匂いをかぐと吐いちゃうから一緒には食べれなかった。



かえで「春斗さんと一緒に食べて?ね?」



そう言うと琴音は泣きながら話した。



琴音「だってクリームがのってないぃぃーー・・・。」

かえで「・・・・・え。」

琴音「かぁさんのクリームがすきなのにぃ・・・。」

かえで「はぁー・・・わかった。泡立ててあげるから。だからちゃんと食べて。いい?」

琴音「はいっ。」

かえで「よし。・・・春斗さん、琴音を食堂に連れて行ってくれる?私、慶さんに聞きたいことがあって・・・。」




そう言うと春斗さんは琴音を迎えに来てくれた。



春斗「わかった。・・・お嬢、先に行って待ってような。」

琴音「うんっ。はると、かたぐるまして?」

春斗「いいぞー。」




春斗さんの肩に乗せられて上機嫌で食堂に向かった琴音。

私は慶さんの側にいき、手紙に入っていたSDカードを見せた。




慶「?・・・どうしたの?これ。」

かえで「かざねさんの手紙に入ってたんだけど・・・これってどうやったらいいの?」

慶「パソコンで見れるけど?俺の持ってくるから食堂で待ってな?」

かえで「パソコンで見れるんだ・・・。じゃあお願い。琴音にクリーム作ってるから。」

慶「おっけ。」




私は慶さんと別れて、食堂に向かった。

食堂では琴音が・・今か今かと私を待っていた。




琴音「かぁさんっ、クリームっ。」

かえで「はいはい。ちょっと待ってよ?」




冷蔵庫から生クリームを取り出して、ボウルに入れる。

砂糖を少し入れて、私は泡だて器でガシャガシャ混ぜ始めた。




かえで「まー・・しっかり泡立てなくてもいいか。」




ガシャガシャと何分も泡立ててると、だんだんクリームの匂いが鼻につき始めて・・・

私は気分が悪くなり始めた。



かえで(あと少しでできるし・・・。)



息をしないようにして泡立てる。

でも、目に入ってくる情報でも匂いがあるような気がしてきて・・・私は限界になりそうだった。



かえで(も・・無理かも・・・。)


そう思った時、慶さんがパソコンを持って食堂に入ってきた。

パソコンからはピアノの音が流れてる。



♪~・・・




かえで「・・・え?」

慶「このデータしか入ってなかったけど・・・これ、南条さんが弾いたのかな。」

かえで「そう・・だとおもう。」




手紙に書いてあった『この音が幸せを呼び込みますように』の言葉から考えるとそうしか思えなかった。




琴音「きれいねー。」

かえで「・・・ふふ。そうね。」




クリームを泡立て終わり、小さめのカップにクリームを入れて私は琴音に差し出した。

スプーンを使ってホットケーキに乗せていく。




かえで「ほら、かぁさんのクリームだよ?これでおやつ食べれるね。」

琴音「うんっ。」



琴音がホットケーキを口に運ぶのを見てると、春斗さんが驚いたような顔をしながら私を見た。



かえで「?・・・なあに?」

春斗「・・・気分・・悪くないのか?」

かえで「・・・あ、そういえば・・。」




さっきまで気持ち悪かったのが少し楽になっていた。




慶「お、南条さんのピアノの効果か?」

かえで「え?、まっさかー・・・・でもきれいな曲だよね。」



パソコンからずっと流れてる曲。

穏やかで・・明るい気持ちになれる曲だった。



かえで「これ、何ていう曲かな。」

慶「手紙で聞いてみる?それとも電話する?」

かえで「うーん・・・今はつわりも落ち着いてるし、電話してみようかな。」

慶「じゃー・・ケータイで。・・・ほら。」




なぜか私のケータイを持ってる慶さん。

不思議に思いながらも私は受け取り、かざねさんに電話をかけた。



時差を考えると・・・向こうは夜になってるはず。




ピッ・・ピッ・・ピッ・・・





かざね「もしもし?かえでちゃん?」

かえで「かざねさん。SDカードありがとうございました。」

かざね「着いた?聞けた?」

かえで「聞けましたよー。とっても素敵な曲で・・・あの曲、何て名前ですか?」

かざね「あれは・・・曲名はつけてないや・・・。かえでちゃんが好きな名前つけていいよ?」

かえで「私がつけていいって・・・・・・え!?」

かざね「それ、かえでちゃんをイメージしたやつだから。最後の方は私がかえでちゃんに会いたい気持ちが詰まっちゃってるんだけど・・・・・・・あ!ちょっとピアノ弾きに行ってくる!」

かえで「え!?ちょ・・・え!?」



ガサゴソとおかしい音がケータイから聞こえだした。

少しして・・・男の人の声が受話器から聞こえた。




千秋「もしもし?」

かえで「え?・・・あ、先生?」

千秋「そう。ごめんな、かざね、ピアノの部屋にいっちまった。」

かえで「あー・・・(笑)」

千秋「SDに入ってたのはかざねが作ったやつだよ。それは世に出す気はなさそうだから・・・キミのものだ。」

かえで「・・・えぇ!?」

千秋「え?かざねから聞いてなかったのか?そっちにいた頃は有名だったんだけどな。」

かえで「『有名』って・・・聞くのも怖いんですけど・・・。」

千秋「ははっ。ナイショにしとくよ。今度来た時にでもかざねに聞けばいいし。じゃーな、旦那によろしく。」

ピッ・・・





かえで「!!・・・切られた。」





かざねさんは自由な感じの人だと思ってたけど、旦那さんもかなり自由な人だった。

『夫婦は似るもの』・・・その通りかもしれない。




慶「?・・・なんて言ってた?」

かえで「あ・・・これ、かざねさんが作った曲だって。私にって・・・。」

慶「!?・・・あの夫婦・・いったい何者だ?」

かえで「さぁ・・・。今度行ったら聞いてきたいね。」




慶さんとそんな話をしてる時に、琴音はホットケーキを完食していた。




琴音「ぜんぶたべた!」

かえで「えらいねー。お昼寝はもう少しあとででいいとして・・・どうする?春斗さんと遊ぶ?かぁさんと遊ぶ?」

琴音「うーん・・・とぅさんとあそぶ!」

慶「お。ご指名をいただいたなら受けないわけにいかないな。・・・じゃあ姫?行きましょうか。」

琴音「うんっ!」





慶さんは琴音を片手で抱っこした。

空いてる手でパソコンを私に向けて・・・




慶「好きなだけ聞きな?あとでCDに落とすし。」

かえで「ふふ。ありがとう。」

慶「じゃあ琴音?とぅさんと何して遊ぼうか。」

琴音「ままごとっ。」

慶「おっけ。おもちゃがあるとこ行くぞー。」








・・・・心配していた妊娠と出産。

慶さんが喜んでくれるかどうかが不安だったけど、琴音のことをものすごく大事にしてくれてる。

あの日・・・

『かえでの子供を一生愛してる。でもかえでが一番』

・・・って言ってたけど、今はきっと『子供が一番』だと思った。

少しだけ・・・ほんの少しだけ寂しいけど・・・私も琴音のことを愛してるから・・・それでいい。

慶さんが私から離れることは無いんだし。

『家族』として・・・これからずっと慶さんと子供たちと一緒の時間を過ごしていく。










ーーーーー









慶「あ、かえで?」

かえで「?・・・なに?」

慶「今・・・27歳だよな?」

かえで「そうだけど・・・?」




そう言うと慶さんは指を広げて何かを数え始めた。




かえで「?」

慶「あと・・・6人くらい産める?」

かえで「・・・・!?」

慶「何人子供がいても育てられる自信はあるけど・・・かえでのことは一番深いところで繋がりたいからな。」

かえで「!?!?」

慶「いつまでも・・・ずっとずっとかえでが一番大好きだよ。」





慶さんは琴音を抱っこしたまま食堂を出て行った。

残された春斗さんが口を開く。




春斗「・・・・まぁ、がんばれ。」

かえで「・・・・・・。」






ーーーーーーーーーーおわり。






最後まで読んでいただきありがとうございました。



またお会いできる日を楽しみに。   すずなり。













しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

Actress〜偽りから始まるプラハの恋〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:42

【R18】嫌いになりたい、だけなのに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,100pt お気に入り:593

妹とアイス、星と雨。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:16

社長から逃げろっ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:46

私が橋渡し役!?時代を逆行した世界でそんな大役できません・・!?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:68

処理中です...