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ちゃんと言ってくれたらよかったのに。

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家に帰った私は、まっすぐ本宅に向かって歩いた。



かえで「春斗さん、慶さんはどこ?」



慶さんに聞きたいことがあって、私は彼を探していた。



春斗「仕事部屋だと思うけど・・・?」

かえで「そう、ありがとう。」

春斗「?」




本宅の玄関をあがり、長い廊下を歩き進める。

ぺたぺたと音を立てて歩いていると、春斗さんが心配そうに私についてきた。

目線を上げて歩いてると、角を曲がって慶さんが歩いてくるのが見える。




かえで「・・・慶さん!」



私の声に気がついたのか、手を振る慶さん。



慶「おかえり、かえで。」



にこにこ笑う慶さんに私は詰め寄る。



かえで「『かくれんぼ』も『脱出ゲーム』も・・・全部私の為だったの!?」

慶「!?・・・なんで・・」

かえで「どうして最初から言ってくれなかったの!?」



詰め寄る私に、慶さんは春斗さんに聞いた。



慶「春斗・・・何があった?」

春斗「それが・・・・」

かえで「聞いて!ねぇ、なんで!?」

慶「ちょ・・かえで、『待て』。」

かえで「待たないっ!」




詰め寄る私を他所に、慶さんは春斗さんと話をし始めた。



慶「春斗?」

春斗「あいつが現れまして・・・攫われそうになりました。」

慶「は!?」

春斗「お嬢はゴミ箱に隠れてました。その後助け出したんですけど・・・あいつが戻ってきて口を塞がれ、背中側に手を組まれたんです。でも・・・」

慶「でも逃げ出すことができた。それは・・・ここ数日の訓練の成果ってことか。」





慶さんと春斗さんの話が終わったのを見て、私はまた慶さんに詰め寄る。



かえで「どうして言ってくれなかったの!?」

慶「・・・ごめん。不安になると思って言えなかったんだよ。」

かえで「・・・ちゃんと言って欲しかった。」

慶「ごめんって・・・。」

かえで「ちゃんと言ってくれたら・・・もっと覚えれたのに。」

慶「・・・・え?」





慶さんが私のためにしてたことだ。

ちゃんと説明してくれてたら・・・もっと他に逃げ方があったかもしれない。




慶「危ない目には・・・遭いたくないだろ?」

かえで「・・・それはそうだけど・・でも慶さんはわかってたんでしょ?翔太がまた来るの・・。」

慶「『可能性』の問題だったんだよ。だから念の為に『隠れかた』と『逃げ方』を知っててもらいたくて・・・。」

かえで「私は慶さんと生きていくって決めたの!慶さんが私のためにしてくれることなら!・・・ちゃんと知っておきたいよ・・・。」

慶「かえで・・・。」




私は踵を返して慶さんに背中を向けた。



かえで「もういい。帰る。」

慶「!・・・待て、どこに?」

かえで「離れの家っ!」




私はそのまま廊下を走って本宅を飛び出た。





ーーーーーーーーーーーーーーー




慶side・・・





慶「かえでっ!」



廊下を走って本宅を飛び出たかえで。

『離れに帰る』と言ってたから外にはでないだろうけど・・・



慶「はぁー・・・。」




ため息を漏らすと、春斗が口を開いた。



春斗「早く追いかけないと・・・。」

慶「わかってる。桃のゼリー持ってご機嫌取ってくる。」



俺はキッチンに行き、『かえで専用』のゼリーを取り出した。

スプーンも一緒に持って離れに向かう。



慶「・・・『なんで言ってくれなかったの』・・・か。」




石畳の道を歩きながらその理由を考える。

もちろん、さっきかえでに言ったことも理由の一つだ。

『念の為』。

でも・・・一番は・・・かえでは何も知らないでいて欲しかった。

俺が守る。

俺が守ればそれでいい。・・・そう思ってた。




慶「そんなんじゃ・・・かえでは納得しないのか。」



『知りたかった』『もっと覚えれた』


俺の隣にいるかえでは、ただ守られてるだけの存在じゃなかった。

自分から・・・俺の隣に立つと決めた。

だからやれることはやりたい。

そう思ってたんだろう。




慶「俺は・・・かえでを甘く見てたのか。」




『きっとできない』『わからない』

そう思っていたのも・・・事実だ。

小さな体のかえで。

俺たちとは体格も違う。

鍛えていない体は柔らかくて・・・少し力を入れて抱きしめただけで折れてしまいそうだ。

だから・・・守られていて欲しかった。





慶「はぁー・・・素直に謝ろ。」





離れについた俺は玄関を開け、中に入った。

きっと・・・部屋にいるかえでを訪ねる。




慶「・・・かえで?入るよ?」



ふすまを開けて中に入ると、かえでが部屋の隅っこで座っていた。

膝を抱えて・・・顔を埋めてる。



慶「かえで・・・ごめん。」

かえで「・・・。」

慶「悪かったって・・・。何も言わずに訓練させたこと・・・謝るから・・。」

かえで「・・・。」




無言のかえでの腕にゼリーを押し当てた。



かえで「?」




冷たい物があてられて、顔を上げたかえで。

スプーンと一緒にゼリーを差し出した。




慶「かえでの好きな桃のゼリー。これ食べながら話聞いて?」

かえで「むー・・・。」





むくれながらもゼリーを受け取ったかえで。

ぺりっと蓋を開けてゼリーを食べ始めた。





慶「俺さ、かえでのこと守りたいんだよ。」

かえで「・・・。」

慶「でも俺の目の届かないところにいる時もあるだろ?だから少し教えときたくて・・・言わなくてごめんな?」





もぐもぐとゼリーと食べてるかえで。

ぱくっと口に放り込んで・・・口を開いた。





かえで「・・・じゃあ今度からちゃんと言ってくれる?」

慶「・・・約束する。」

かえで「破ったら・・・えっち禁止にするからね?」

慶「!!・・・絶対に破らない。」




ゼリーをスプーンにのせたまま言うかえで。

俺は破らないことを誓って・・・そのゼリーをぱくっと食べた。



かえで「!?・・・私のゼリーっ!!」

慶「いくらでも買ってあげるよ。」

かえで「むー・・・。」




むくれてるかえでの横に座り、その体を引き寄せた。



慶「俺の目の届くところにいてくれたらいいのに。」



そういうと、かえでは驚くことを言った。



かえで「あ、私仕事辞めてきたの。」

慶「・・・・は!?」

かえで「新しい仕事場探すまで・・・無職になるんだけど・・・。」

慶「また思い切ったことを・・・。」

かえで「だって翔太が来るから・・だいぶ迷惑かけちゃってるし・・・。」




ゼリーを俺から隠すようにして食べるかえで。

俺はその手を掴んで自分の口にゼリーを放り込む。


かえで「!!・・ちょっと!」

慶「あま・・・。もう仕事しなくていいだろ?」

かえで「え?」

慶「うちで料理人しなよ。給料払うし。」

かえで「それは・・・」




俺に取られまいとゼリーをぱくぱくと食べ進めるかえで。

その姿がかわいくて見ながら続きを話す。




慶「かえでがご飯作る時ってさ、みんな集合するの知ってた?」

かえで「・・・そうなの?」

慶「うん。なかなか全員が集まるときって無いけど・・・かえでが作る時って連絡が回るみたいでさ、全員揃ってることが多いんだよ。」

かえで「へぇー・・・そう言えば30人分くらい作ってるような気もする。」

慶「みんなの顔が見れるし・・・結構いいんだよ。だからずっと作ってくれたら・・・嬉しい。」



空になったゼリーの入れ物を見つめるかえで。

俺はその容器を取り上げた。



かえで「・・・新しい仕事が見つからなかったら・・・雇ってください。」

慶「ははっ。喜んで。・・・じゃあ見つからないように必死に根回しするよ。」

かえで「!?・・・もうっ。」




怒るかえでもかわいくて、俺はその体を抱きしめた。




かえで「?」

慶「・・・ずっとこうしてられたらいいのに。」




二人でいる時間が愛おしい。

このまま時間が止まればいいのにとか考えてしまう。




かえで「・・・大好きだよ。」

慶「俺も。」









身体を重ねて愛し合う。

身も心も解けながら一つになり、お互いの愛を確認したけど・・・






まさか翌日にかえでが消えるなんて思いもしなかった。












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