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仕事に復帰するまで。
しおりを挟むそれから3日・・・
私は今、本宅のお庭にいてる。
かえで(ここなら大丈夫・・・!)
緑で溢れてるお庭にある大きな木。
その木の向こう側で立って、自分は『木』だと思い込むようにしてる。
かえで(毎日かくれんぼしてるけど・・・まだ逃げ切れたことない・・。)
1日3回ある『かくれんぼ』。
なんでこんな遊びをしてるのかわからないけど・・・毎度見つかって『5分間キスの刑』に処されてる。
今日こそは・・・逃げたい。
慶「みーつけた。」
かえで「!?」
ひょこっと顔を出した慶さん。
時間内に見つかってしまったことは間違いない・・・。
かえで「もー・・なんでわかるの?」
慶「んー・・・愛の力?」
かえで「絶対嘘だ。」
慶「嘘なもんか。・・・ほら、口開けて?」
かえで「~~~っ。」
ちゅくちゅくと5分間、慶さんが私の口の中を犯す。
気持ちよくて・・・全然罰ゲームになんかならない。
ちゅ・・ちゅぱっ・・ちゅぅぅー・・・
慶「・・・5分。」
かえで「はぁっ・・はぁっ・・・」
身体に力が入らなくて、慶さんにもたれかかる。
慶さんは私の息が整うまで待ってくれて・・・その後仕事に戻って行った。
かえで「夜・・・も、あるんだよね。」
離れでいつもする『脱出ゲーム』。
今日、私は秘策を持っていた。
かえで「絶対に今日は勝つ・・・。」
ーーーーーーーーーーーーーー
晩御飯も終わり、私は離れに戻ってきていた。
今の時間は夜の10時。
そろそろ慶さんが帰ってくる時間だ。
慶「かえでー。まだ起きてる?」
ガラガラと玄関を開けて帰ってきた慶さん。
かえで「起きてるよー。」
ノートにレシピを書いてた私。
慶さんは廊下を歩いてきて・・部屋に入ってきた。
慶「あ、ご飯考えてた?」
かえで「うん。お昼とか?簡単に作れるものをちょっと。みんなも小腹が空いたときとかに作れるかなーって思って。」
慶「そっか。・・・ほら立って?『脱出ゲーム』しよう。」
かえで「・・・また?」
少しそっけなく聞くのも作戦の一つだ。
慶「俺がしたいの。ほらほら。」
かえで「もー・・・。」
ぶつぶつ言うフリをして、私は立ち上がった。
慶さんはいつも通り、私の手を背中側で固定する。
慶「はい、よーい・・スタート。」
かえで「んーっ!」
いつもみたいに力に任せて腕を解こうと頑張る。
そんなことをしても外れないのは百も承知だ。
慶「あと30秒。」
慶さんが残り時間を言った時、私は少し大きな声で言った。
かえで「・・いたいっ!!」
慶「えっ?」
少し緩んだ慶さんの手。
私はその隙に力任せに手を振りほどいた。
慶「おっ?」
見事に慶さんの手から逃げることができた。
かえで「・・・へへっ。」
慶「やられたな・・・。」
かえで「やったー!勝った!」
初めて逃げれたことが嬉しくて、私は飛び跳ねて喜んだ。
慶「・・・作戦?」
慶さんは床に座って私に聞いてきた。
かえで「そうだよっ。」
慶「へぇー・・なかなかやるなぁ。」
かえで「やった!やった・・!」
小躍りしそうな勢いで喜んでると、慶さんが私に聞いてきた。
慶「じゃ、ご褒美は何がいい?」
かえで「え?」
慶「?・・・言っただろ?願い、なんでも叶えるって。」
かえで「それは『かくれんぼ』じゃないの?」
確かに聞いた『ご褒美』の話。
でもそれは『かくれんぼ』の時だった。
慶「こっちも条件は一緒。ほら、何がいい?服?鞄?何だってどんなものだって買ってあげるよ?」
かえで「・・・。」
服も鞄も気に入ってるのがある。
それよりも・・・欲しいものがある。
慶「?」
私は床に座ってる慶さんの前に立った。
しゃがみ込み、その足の間に座る。
慶「?・・・どうした?」
かえで「・・・抱っこがいい。」
慶「!!・・・それは考えてなかったな。」
ぎゅっと体を抱きしめてくれる慶さん。
慶さんのたくましい腕が大好きな私は大満足だ。
かえで「・・・へへ。」
慶「そんな無防備に・・・。」
慶さんは私の顎を指ですくった。
これはキスをされる合図だ。
かえで「!!・・・・だめ!」
慶「?・・・なんで?」
かえで「『ご褒美』は『抱っこ』なの。『ちゅー』は入ってないっ。」
慶「『ちゅー』って・・・。」
慶さんの胸にすりすりと顔をすり寄せる。
かえで「へへっ。」
慶「俺・・・生殺し・・・。」
かえで「大好きだよー。」
慶「俺も好きなんだけど・・・襲いたいんだけど・・・・。」
かえで「だめだよー。『ご褒美』だから。」
慶「・・・・・。」
その日は眠りにつくまで抱っこを希望し、私は幸せだった。
かえで「・・・ふふ・・・zzz。」
慶「・・・明日は絶対に俺が勝つ。」
慶さんの意気込みなんて聞きもせず、私は眠りについていった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
それから二日・・・
未だに勝てない『かくれんぼ』のことで私は頭を悩ませていた。
かえで「なんでわかるのかなぁ。」
鯉にエサをやりながらも『かくれんぼ』のことが頭から離れない。
最近はお庭を散歩してても・・・『ここに隠れれる』とか『あの辺は見つかる?』とか考えてしまうことが多い。
かえで「うーん・・・。」
ぽいっと池にエサをまいたとき、隣にいた春斗さんが口を開いた。
春斗「・・・ヒント、やろうか?」
かえで「えっ?」
春斗「お嬢が隠れに行くとき、どうやって行ってる?」
かえで「?・・・どうやってって・・・急がなきゃいけないから走っていくよ?」
なんせ隠れる時間は1分しかない。
遠くに行くためにも走らないと間に合わない。
春斗「それだ。走ると足音が聞こえる。」
かえで「足音・・・。」
春斗「若たちはお嬢がどっちに行ったかを把握したうえで探しに出てるんだよ。」
かえで「!!」
本宅ではスリッパを履いてる私。
走ると当然『パタパタ』と音がする。
かえで「なるほど・・・。」
春斗「あとは・・・そうだな。一度見たところは二度見ない。」
かえで「?・・意味がわかんない。」
春斗「例えば・・・探し物してる時って一度見たところは見ないだろ?」
かえで「うん。どうしても見つからなかったらもう一回見るかな?」
春斗「まぁな、でも『5分間』って時間制限があったら見ない。他を探す。だから二重に隠れろ。」
かえで「二重?」
春斗「あぁ。例えばーーーーーーーーーーー。」
春斗さんにヒントをもらってる時、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。
慶「かえでーっ!」
かえで「?・・・はーい?」
振り返ると慶さんが手を振ってる。
慶「『かくれんぼ』するぞー!」
その慶さんの言葉を聞いた春斗さんが鯉のエサを全部池に放り込んだ。
春斗「ちょうどいい。やってみな?」
かえで「・・・うん!」
私は慶さんのもとへ行きながら作戦を考える。
かえで(スリッパは・・・音が鳴るんだよね。あとは・・・)
春斗さんに言われたアドバイスをしっかり頭に叩き込みながら、私は『かくれんぼ』に挑む。
ーーーーーーーーーーーーーーー
食堂で今日の人数を確認する。
慶「今日は俺を含めて15人。」
かえで「うん。」
慶「1分待つ。よーい・・・スタート。」
食堂を飛び出た私は右に曲がり、ぱたぱたと音を立てて走った。
途中で止まり、その場でスリッパを捨てる。
かえで(よし、これで反対方向に・・・。)
靴下で廊下を歩くと音がしなかった。
そのまま食堂のドアの前を通り過ぎ、初めて隠れた段ボールのところに向かう。
かえで(確か大きい段ボールがあったはず・・・。)
数秒で着いた日用品を箱買いして置いてあるところ。
その中にトイレットペーパーを入れてる箱を見つけた。
それはとても大きくて・・・私が入るくらいなんともない大きさだ。
かえで(この中に入って・・・。)
蓋を開けて中を確認する。
空気を通すためか、段ボールには穴が開いていて、光が遮断されることはなさそうだ。
かえで(よし・・・。)
私は中に入り、蓋を閉める。
閉めるときに隣にあった空箱を蓋の端っこに乗せ、さっと閉めた。
これで私の隠れてる箱の上に箱が乗ってることになる。
慶「1分!!」
かえで(来るっ!)
耳を澄ませて慶さんたちの足音を聞く。
前はすぐに見つかったけど、今回はこっちに来なかった。
かえで(え・・・ほんとに・・?)
パタパタと走り回る音が聞こえる。
部下「いないぞ!」
部下「俺はこっちを探す!」
足音がだんだん大きくなってきて、段ボールから見える視界の中に、かくれんぼに参加してる人が写った。
かえで(来た・・・!)
どきどきしながら息を殺してると、一人の人が私に気がついたのか近寄ってくるのが見えた。
かえで(バレた・・・!)
蓋を開けられることを覚悟したけど、
その人は私が隠れてる段ボールの上に置いてある箱の蓋を開けた。
部下「いない。」
部下「おい、次に行くぞ!あと2分しかない!」
部下「おぅ!」
バタバタと走っていく音が聞こえた。
かえで(嘘・・・春斗さんの言った通りにしただけなのに・・・。)
『何かの下までは探さない。』
そう言われて私は空き箱を上に置いた。
かえで(でも・・・時間が限られてたら確かに探さないかも・・・。)
そんなことを考えてると、慶さんの声が聞こえた。
慶「かえでーっ!タイムアップだ!出ておいでーっ!!」
家の中を叫びながら歩いてる慶さん。
私は段ボールの穴からそれを見ていた。
ちょうど慶さんが視界に入った時に、私は段ボールから飛び出た。
バンっ・・!!
慶「!?・・・え!?」
かえで「私の勝ち?」
慶さんは私を見ながら会社の人に話をする。
慶「ここ、探したやつは?」
慶さんの言葉に、さっき私を見つけかけた人が手を上げる。
部下「・・・自分です。」
部下「自分もです。」
慶「ここは?見なかったのか?」
部下「見ました!見たんですけど・・・。」
慶「『けど』?」
部下「・・・下の箱までは見てません。」
慶「!!・・・そういうことか。」
私は褒めて欲しくて慶さんに駆け寄った。
私に犬の尻尾があったら・・きっとぶんぶん振ってるだろう。
かえで「できたっ?できたっ!?」
慶さんは私の頭を撫でた。
慶「上出来!」
かえで「!!・・・へへっ。」
慶「明日からは本気で行くからな?」
かえで「へ・・・?・・・終わりじゃないの!?」
これで変な遊びも終わりだと思ったのに、慶さんは全然終わらせる気がないみたいだった。
慶「まさか。しばらく続けるよ?」
かえで「えぇー・・・なんの為にー・・・。」
慶「それは・・・俺が楽しいから?」
かえで「むー・・・。」
慶「ほら、むくれてないで。ご褒美は?何買う?」
その言葉に私はこの前と同じことを言った。
かえで「・・・『抱っこ』。」
慶「!?・・・またか。」
かえで「『抱っこ』だけだからね?」
慶「はいはい。仰せのままに。・・・夜でいい?」
かえで「うん!」
その日も満足するまで抱きしめてもらった私。
慶さんは不服そうだったけど、『私』の『ご褒美』だから付き合ってくれた。
慶「明日から10分にしようかなー・・・。」
かえで「!?・・・ずるい。」
慶「まぁ、連続で見つけれなかったら10分にするよ。」
かえで「逃げ切ってやる・・・!」
慶「頑張れ。」
何の為にするのかわからない『かくれんぼ』。
その意味は・・・仕事に復帰してから知ることになる。
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