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決別。
しおりを挟む夜・・・
かえで「お疲れさまでした・・・。」
仕事が終わり、私はお店を出た。
今朝、神楽さんにもらった服を身に纏い、手ぶらで。
かえで「遠巻きにアパートを見てみようかな。」
そう思って一歩踏み出した。
いつもの道を歩く。
かえで「翔太は・・これからどうしたいんだろう・・・。」
店に私の事を聞きに来た翔太。
私を心配してくれてたみたいだった。
かえで「これで改心してくれたら・・・。」
少しの期待が頭をよぎる。
でも・・・ずっと一緒にいれるかって聞かれたら・・・
かえで「どうだろう・・。」
付き合い始めた頃のように戻れるとは思えなかった。
翔太の性格はよく知ってる。
楽な方を覚えた彼は・・自ら修羅の道を選ぶタイプではない。
かえで「はぁ・・・。」
いろんなことを考えてるうちについたアパート。
遠巻きに見るドアから、光がもれてるのが見える。
かえで「家に・・いるっぽい。」
少し離れた木陰に隠れて様子をみる。
ドアに近づこうか悩んでると、部屋のドアが開いた。
ガチャっ・・・
かえで(翔太だ・・・。)
部屋から出てきたのは翔太。
手に・・・私の財布を持ってる。
かえで(!!)
翔太「くっそ・・・あいつ、金をどこにしまってるんだ?」
がちゃがちゃと家の鍵をかけた翔太。
歩いてどこかに出かけて行った。
かえで「鍵・・・かけてたよね・・・。」
翔太が確実にいない今、私はアパートのドアのところに行き、ドアノブを回した。
ガチャガチャと言うだけで開いてはくれない。
かえで「大家さんのとこまで行ってる時間は無いし・・・。」
どうにかして家に入れないか考えてると、私の肩に何かがかけられた。
かえで「?」
振り返ると・・・そこには神楽さんがいた。
私の肩にかけられたのは・・・神楽さんの上着だった。
かえで「・・・え!?」
慶「開けようか?」
かえで「え!?」
慶「早くしないと彼、戻ってくるよ?」
神楽さんがいることにも驚いたけど、翔太が帰ってくると厄介なことになるかもしれない。
そう思った私はお願いすることにした。
かえで「お・・お願いします・・。」
慶「おっけ。リョウ。」
リョウ「はい。」
神楽さんの後ろから現れた男の人。
その人はいろんな工具を出して鍵穴に突っ込み始めた。
カチャ・・カチャカチャ・・・ガチャンっ!
リョウ「開きました。」
かえで「!!・・・ありがとうございますっ。」
ドアノブを回すと開いたドア。
中に入ると・・・部屋が荒らされていた。
かえで「・・・え?」
棚がひっくり返され、中身が全部出てる。
玄関脇の小さい棚も開けられて・・・引き出しが開いたままだ。
見渡す限り、引き出しが開けられてるけど、不思議と服が入ってるタンスだけは無事のようだった。
かえで「ど・・泥棒・・・。」
呟くように言うと、神楽さんが部屋の中に入ってきた。
中を見渡して・・・
慶「・・・これ、あの男の仕業だな。」
と言った。
かえで「・・・・え!?」
慶「泥棒なら全部の棚を開けるよ。それに・・・さっきから見てたけど、あの男、カギ閉めて出て行っただろ?この惨状を知ってて出て行ったことになる。」
かえで「あ・・・。」
慶「加えてあの冷静さ。泥棒が入ってこうなったんならもっと慌てるよ。」
かえで「・・・。」
神楽さんの・・・いう通りだ。
きっと翔太は私の部屋でお金を探した。
でも見つけたのは私の財布だけ。
だからさっき部屋を出た時『お金をどこにしまってるんだ?』って言ってたんだ。
かえで「・・・見つけれるわけないじゃん。」
一気に冷静になった私は呟くように言った。
慶「?・・・上手く隠してたの?」
大きめのバッグを取り出し、
服を・・・詰めれるだけ詰めていく。
かえで「・・・無いんです。」
慶「うん?」
かえで「彼が使うから・・・貯金はないんです。あるのは財布に入ってるお金だけ。通帳に残ってるのは・・・数千円くらい・・。」
二人分の食費に加えて、
水道光熱費も一人の時よりは高くなる。
支払いばかり増えて・・・貯金なんてできなくなっていってた。
切り詰めれるのは私の食費くらいなものだ。
かえで「はぁー・・・。」
ケータイや、鞄、靴・・・お気に入りのものと必要なものの最低限を鞄に詰め込む。
荷物を持って、立ち上がろうとしたとき、神楽さんが私の荷物を持った。
慶「これだけでいいの?他は?」
かえで「・・・諦めます。」
慶「・・・わかった。これからのことは家で相談しようか。」
そう言ってアパートから出た神楽さん。
私はついていくようにして部屋を出た。
さっき鍵を開けてくれた人が・・・ドアの鍵を閉めてくれた。
カチャカチャ・・・ガチャンっ。
リョウ「すぐに迎えが来ますので。」
当たり前かのように私の荷物を持ってくれてる神楽さん。
私は彼の袖を少し引っ張った。
慶「?」
かえで「あの・・・住むとこが見つかるまで・・・泊まらせてもらえませんか・・?」
厚かましいお願いをする。
今晩から雨風をしのげるところもない私。
ご飯を食べないことは慣れてるけど・・・寝るとこだけは必要だ。
形振りかまっていられなくなり、神楽さんを『頼った』。
慶「もちろん。『迎えに来る』っていったでしょ?」
かえで「・・・ありがとうごさいます。」
リョウ「車、来ました。」
朝、乗せてもらった高級リムジンが、また私の前に現れた。
朝と同じように神楽さんがドアを開けてくれた。
慶「どうぞ?」
かえで「・・・オジャマシマス。」
広い広い車内。
私はこれからのことを考えながら・・・自分のアパートと別れた。
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