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翌日の朝。

日の出と共に目覚めた俺とハルは行動を開始していた。

着替えを済ませ、荷物を全てスーツケースに入れていく。


「何時まで時間いけるんだっけ?」


肩にかかってる髪の毛をささっとまとめ、ゴムで留めながらハルが聞いてきた。


「飛行機は15時。だから・・・14時には空港だな。」


ハルには伝えてないけど、次の国に行く飛行機は少し違うものを手配していた。

驚くハルの顔を見たいからその時までこのことはナイショだ。


「ちょっと観光行かない?」


ウキウキしながら聞いてくるハル。

俺はハルが前もってこの国の見どころを調べていたことを知っていた。

きっと今日は観光する気満々だったのだろう。

予想通りの行動に、笑いを堪えながら聞いた。


「どこ行く?」

「ふふっ、貝殻の花瓶作り!」

「どこへ行っても『花』から離れないなぁ。」


笑いながら俺たちは用意を済ませ、部屋から出た。

フロントに荷物を預けて朝食を済ませ、街に繰り出す。


「まだ朝が早いからお店、あんまり開いてないねぇ・・・。」


土産屋や雑貨屋が建ち並ぶ通りに来た俺たちは辺りをきょろきょろと見回しながら歩いていた。

ハルの言う通り、まだ朝が早いから開いてる店は少ない。

目当ての体験ができる店が開いてることを願いながら足を進めて行くと、向こうに一軒、それらしき店を見つけた。


「・・・ハル、あの店、貝殻があるように見えるんだけど・・・あそこじゃない?」

「え?どこどこ?」

「ほら・・まだ準備してるっぽい店・・・」


指をさすと、ハルは俺が見てる方を見た。

そこには店の外で貝殻の装飾品を棚に並べてるご婦人がいたのだ。

並べられてるのはネックレスで、いろんなデザインの物が見える。


「あ!そうかも・・・!」

「ちょっと聞いてみようか。」


俺はそのご婦人に近づき話しかけた。


《すみません、こちらのお店は体験とかできますか?貝殻の花瓶とか・・・》


そう聞くとご婦人は笑顔で答えてくれた。


《えぇ、できますよ?》

《よかった・・!探してたんです。お店が開くのは何時からですか?》

《まだ1時間はあるけど・・・》


そう言われ、俺は腕時計を見た。

今から1時間後にオープンとなると、飛行機の時間が押してくるかもしれない。

体験の時間がどれくらいかかるものか分からないけど、それなりに時間はかかるだろう。


《体験ってどれくらい時間かかりますか?》


『丸一日かかる』と言われたらさすがに諦めるしかなくて聞いた。


《そうねぇ・・・作る大きさとかデザインで変わるけど・・・半日くらいかしら?》

《半日か・・・》


悩むようにして黙り込むと、そのご婦人が俺に聞いてきた。


《もしかして飛行機の時間が・・?》

《あー・・・昼の便なんです。》


そう答えるとご婦人はお店の中を指差した。


《それなら今からどうぞ?》

《えぇ!?いいんですか!?》

《いいですよ?まだ誰も来ないでしょうし、ゆっくり作ってくださいな。》


何とご婦人はオープン前なのに体験させてくれると言ってくれたのだ。

俺は今の内容をハルに伝えた。

するとハルはものすごく驚きながらもご婦人に一生懸命お礼を伝えた。


「ありがとうございますっ!」

《うーん・・言葉はちょっとわからないけど、嬉しそうね。・・・こっちよ、どれを作りたいの?》


そう言って店の中に案内してもらった。

店の中にはいろいろなデザインの花瓶が置かれてる。

大きいものから小さいもの、細いものに幅のあるもの。

結構な数が店の中の棚に置かれていた。


「すごい・・・いっぱいある・・・。」

「独特なデザインだな・・・。」


貝殻そのものの形を崩すことなく作られていた花瓶。

立体が強調していて、普段目にする花瓶とはかけ離れてるように見えた。


「一輪挿しみたいなものが作りたいなぁ・・・。」


俺はハルの言葉を聞いて、店の人に聞いた。

すると店の人は一輪挿しに向いてる花瓶を教えてくれ、ハルはそれを作ることに決めた。

作業場に案内され、作業が始まる。


《貝殻にあけた穴に糸を通していくのよ?順番に気をつけてね?》

「ハル、ここに糸を通していくんだって。順番があるらしいから気をつけて。」

「う・・うん、わかった!」


店の人が身振り手振りで説明してくれるのを見ながら、ハルは貝殻を手に取った。

あけられてる穴に、糸をゆっくり通していく。


《そうそう、上手よー。》

「こっち?・・・こっちかな・・。」


糸を通す順番を間違えると店の人が教えてくれ、その都度修正していく。

ハルは貝殻を一つ一つ丁寧に扱いながら慎重に作っていった。

何度も何度も修正を繰り返していくこと4時間。

最後の貝殻を糸に通して完成した一輪挿しの花瓶を、ハルと店の人がため息を漏らしながら見ていた。


「できたぁー・・・!」

《まぁまぁ!きれいな花瓶に出来上がったわねぇ!》


お互いに言葉がわからないのに見つめ合って微笑んでる。

表情は言葉の壁を超えれるものだったのだ。


《いくらになりますか?》


俺は完成した花瓶の代金を払い、ハルは梱包作業に入った。

割れないようにクッション材で包んだ花瓶を、大事そうに自分の鞄にしまうハル。

その姿を微笑ましく見ながら、腕時計で時間を確認した。


「おっと・・・ハル、そろそろ空港向かおうか。飛行機の時間が迫ってる。」

「え!?もう!?」


急ぎながらハルは鞄を背中に背負った。

そして手を振ってくれてる店の人に、満面の笑みで手を振る。


「素敵な花瓶が作れました。ずっとずっと大切に使います、ありがとう!」


俺はその言葉を訳して伝えた。

店の人も笑顔で答えてくれ、それを今度はハルに伝える。


「『また遊びに来てね』だってさ。」

「!!・・・はいっ!」


手を振りながら店を出た俺たちは空港に足を向けた。

30分ほど歩けば空港につきそうだ。


「ご両親にご挨拶できなかったけど・・・戻る時間もないしなぁ・・。」


早くにホテルを出た俺たちは、ご両親を起こしてはいけないかと思ってそのまま出てきていた。

また会いにくることはできるけど、それはいつになるか分からない。

でも挨拶をしてくればよかったと、思い直していたのだ。


「たぶん空港に来るんじゃないかなぁ。」

「え?ご両親、空港に来るって言ってたの?」

「言ってないけど・・・来ると思う。」


まさかと思いながらも二人で歩いて行く。

道中で見つけたお店で雑貨を少し買い、空港を目指して歩くと、本当にハルのご両親が空港にいたのだ。

入り口の前でこちらに向かって手を振ってるのが見える。


「・・・ほんとにいた。」

「でしょ?」


俺たちはハルの両親の元へ行き、別れの挨拶をした。


「たった一日でしたがお会いできて光栄でした。また・・会いに来ます。」


そう伝えるとハルの両親は目を合わせて微笑んでいた。

滅多に会うことのできないハルのご両親はいい人たちで、我が子であるハルを見つめる視線はとても温かい。

そんな夫婦、親子、家族に憧れながら俺たちはご両親と別れた。

出国手続きをして、乗り場に向かう。


「次はどこを経由していくんだっけ?ニュージーランド。」


空を見上げながら聞いてくるハル。

俺は笑顔を見せながらハルに航空券を手渡した。



「次は乗り換え無いよ?」

「へ?でも確かネットで調べた時は乗り換えあるって書いてたような・・・」


航空券を確認しながら言うハルの肩を叩き、前歩にある飛行機を指差してみせた。


「これで行くから乗り換えないよ。」






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