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その時、兄がバタバタ走りながら戻って来た。

シャーッとカーテンを豪快に開ける。


「悪い悪い、仕事が早く終わったわ、今、点滴外すからな。」


そう言って私の点滴の針を抜いてくれた。

ガーゼとテープを貼られ、違和感を感じながらゆっくり体を起こす。


「立てるか?」

「大丈夫・・・。」

「ハル、手。」

「うん・・・。」


私は涼さんに手を持ってもらいながらベッドから下りた。


「わっ・・・」

「おっと・・・。」


その時、足元がふらついたけど涼さんが支えてくれた。

隣にある診察室に向かう兄についていく。


「さて、二人とも座って?」


言われるままに椅子に座ると、兄はパソコンをカタカタと操作し始めた。


「ハル、今朝の体調は?」


器用にもパソコンの操作をしながら聞いてくる兄。

それはいつものことなので私もいつも通り答えていく。


「別になんとも・・・。」

「ご飯は?食べてるのか?」

「それは普段通りいっぱい食べてる・・・。」

「じゃあ睡眠は?寝れてる?」

「それは・・・」


夜中に起きることは多々あった。

けどすぐに寝れてることもまた事実だった。


「起きることあるけど寝てる。」

「オーケー。・・・じゃあ、不安に思うこととかは?」


その言葉に、私はすぐに返事ができなかった。


「・・・。」

「わかった。じゃあ聞いて欲しいことは?」


それも答えることができずに俯いてしまった。

連続で答えない私を見て、兄はパソコンから私に視線を移した。

身体もこちらを向けて、私をじっと見てる視線を肌で感じる。


「ハル、伝えにくいことでも言葉にしないと伝わらないって教えただろ?」

「・・・。」

「なんでもいい、思ってることを言葉にしてみな?」


兄は私が小さいころから話を聞いてくれる人だった。

いいことも悪いことも、楽しいことも悲しいことも驚くことも・・・。

自分で上手く伝えられないときは、私の言葉を拾って整理してくれ、戻してくれる。

それで気持ちが軽くなったことが何回あったか数えきれない。


「・・・ストーカーがまた来るかもしれないのが・・・怖い・・。」


あの日、私に向かって言われた言葉を兄と涼さんに伝えた。

涼さんは私を抱きかかえてくれていたからか聞いていたらしく、驚きはしなかった。

兄は・・・頭を抱えるように、片手で押さえてる。


「くそ・・・二度と会わないようにできないものなのか・・?」

「無理だよ・・。どこに住んでても来るよ・・・。」


前に住んでたところより、かなり遠くに引っ越して来たのに私の住んでるところが特定された。

SNSでバレてしまったっていうこともあるけど、また数年で居場所がバレてしまうかもしれない恐怖が私を襲ってるのだ。


「どこにも行かないで何もしないのが・・・一番なのかな・・。」


大好きなお出かけを諦めてでも、自分の命は守りたい。

命がなければ何もできないから・・・。


「あの・・ちょっといいですか。」


私と兄の会話を聞いていた涼さんが口を開いた。

兄と二人で涼さんを見る。


「軽く考えてた案なんだけど・・・ハル、海外に移住しない?」





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