溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

文字の大きさ
上 下
71 / 91

71

しおりを挟む
「すみません、診察に来ました。」


受付でそう聞くと、看護師さんたちが兄を呼びに行ってくれた。

兄が私を迎えにくるまで、私は空いてる椅子に座ることにした。


「ふー・・・。」


椅子に座りながら一息つき、辺りを見回せば患者さんたちが通路にたくさんいるのが見える。

今日も病院は忙しそうだ。


「今日は本とか持ってくるの忘れちゃったな。」


いつもなら時間つぶしに色々準備してるのに、今日は何も用意してなかった。

『用意するのを忘れた』というより、何も考えてなかったのだ。


(火事のあとからなんだかぐちゃぐちゃだなぁ・・・。)


生活リズムが乱れてるというか、自分の予定が上手く立てれなくなってるというか・・なんだか変な感じがしていた。

涼さんとの生活は問題もないし、むしろ楽しくて嬉しくて仕方がない。

何が変なのかと考えるけど答えはなかなか出てきてくれなかった。


(難しいなぁ・・・。)


そんなことを考えてるうちに、眠たくなってきてしまった私。

うとうととしながら目を閉じていく。


(最近夜中に・・・目が覚めること多いから・・・)


首をかっくんかっくんしながらなぜか心地いい眠りに落ちかけてる時、肩を叩かれた。


「?」


寝ぼけながらもなんとか目を開け、叩かれた方を見た時、知らない人が私の顔を覗き込んできた。


「!!」

「秋篠先生の妹さんですか?」


若そうな男の看護師さんだった。

少し長めの癖のある髪の毛。

その姿がストーカーとかぶってしまい私は息の仕方を一瞬で忘れてしまった。


「はっ・・!はっ・・!はっ・・!」

「!?・・大丈夫ですか!?」


どう吸えばいいのか、どう吐けばいいのか分からず、胸と口を手で押さえる。

吸ってるのか吐いてるのか分からない状態のなか、私は椅子に座ってることができなくなってしまい、前のめりに倒れた。


「え!?ちょ・・!誰か来てください!!」


私が顔面を打ち付けないように、その看護師さんは支えてくれたけど、嫌悪感が全身を襲う。

触れられたくなくて、逃げたくて、息をしたくて、助けて欲しくて・・・

どうすればいいのか分からずに必死に酸素を取り入れようと口をぱくぱくさせてると、聞きなれた声が耳に飛び込んできた。


「ハル!!」

「おにぃ・・ちゃ・・・」


その声と一緒に捉えた兄の姿を見て、私の視界が歪み始めた。


(意識・・とぶ・・・)


そう理解した瞬間、歪み始めた視界が真っ暗になっていった。




ーーーーー



「ぅ・・・。」


目が覚めた私の視界に、真っ白な天井が見えた。

消毒液の匂いが鼻を抜け、カチャカチャとハサミや金属の音が聞こえてくる。


(意識失った・・・。)


自分が寝てるのは固いベッドだ。

これは病院の処置室のベッドであって・・・近くに兄がいることは明白。

『心配かけた』と思いながら目線だけで辺りを見回した。

とりあえず緑のカーテンで囲われてて、カーテンの向こうがどうなってるのか全く分からないことだけがわかった。


(点滴されてるし・・・。)


すぐ近くに見えたのは点滴の袋だけ。

その管は私の腕に繋がっていた。

おそらく『貧血』とみなされたのだろう。


(お兄ちゃんを呼ぶべきか・・・来るのを待つべきか・・・。)


そんなことを考えてる時、バタバタと廊下を走る音が聞こえて来た。

『走ってはいけない』と言われていても、急いでる人は走ってしまうことがある。

時々病院の廊下で走ってる人を見かけるなー・・・くらいに考えてると、知った声が聞こえて来たのだ。


「すみません・・!秋篠ハルが倒れたって聞いたんですけど・・・!」


その声の主は涼さんだったのだ。


「え・・・。」


驚きながらも聞こえてくる声に耳を澄ませる。


「少々お待ちくださいね。」


そう看護師さんが答えたあと、少しして兄の声も聞こえ始めた。


「ハルの兄です。ハルはこっちで休んでるんでどうぞ。」

「はい・・!」


二人は私のところに向かいながら話をしてるようで、会話がどんどん近くになってくるのがわかった。


「朝に診察に来てたんですけど具合が悪くなったみたいで倒れたんです。一通り検査をしたのですが、軽い貧血のようで、今、点滴しながら目が覚めるのを待ってる状態です。」

「倒れたって・・・」

「今、あなたと暮らしてるんですよね?火事でマンションに戻れなくなったって聞いてたんで・・・」

「そうです。今朝、一緒に家を出て・・・でも元気そうだったんですけど・・」

「まぁ、精神的疲労もあると思いますよ、先週の事件のことはそう簡単に忘れれるものじゃないですし。」

「それは思うところがあります。ちょっと気になる仕草もありますし・・・。」

「とりあえず目が覚めたら色々問診もしたいところなんで、時間があるのなら側にいてやってくれませんか?」

「あります・・!目が覚めるまで側にいます・・!」

「よかった、俺も仕事がまだあるんで・・・。あ、こっちです。」


そう言って兄が緑のカーテンをシャーッと開けた。


「・・・おはようございます。」


そう伝えると兄は安心したように微笑み、涼さんは私の手を握ってきた。


「おはよ、ハル。」

「ハルっ・・!大丈夫!?」


二人を交互に見ながら私は笑みを溢した。


「うん、ごめんね、心配かけて。」


兄は私の点滴の残量を確認し、腕時計を見た。


「あと30分くらいで点滴終わるからこのまま寝てな。あとで来るから。」

「うん。」

「都築さん、そういうことなので少しここで待っててもらえますか?ちょっと仕事片付けてきます。」

「わかりました。ここにいます。」

「じゃな、ハル。いい子で寝てろよ?」


そう言って兄は仕事に戻って行った。

涼さんは近くにあった椅子を手で取って、私の真横に座る。


「病院から連絡来た時は心臓止まるかと思ったよ・・・。」


そう言われ、私は驚いた。

まさか病院側が涼さんに連絡をしたと思ってなかったからだ。


「え?」

「ハルのお兄さんから電話がかかってきたんだよ。『倒れてだいぶ経つけど目を覚まさないから入院させていいですか?』って。」

「・・・へ!?」

「夕方になってもハルから『帰る』って連絡ないし・・・心配してる時にその電話だよ?慌てて仕事片付けて来たよ・・。」


そう言われ、私は驚きながら身体を起こそうとした。


「『夕方』!?『入院』!?・・・って、今何時!?」


私が起こそうとした身体を、涼さんがまた寝かせるように肩を押してくる。

諦めて頭をベッドに沈めたとき、涼さんが腕時計を見せてくれた。


「今は20時。」

「!?!?」

「このあとのお兄さんの話次第で入院な?」

「う・・・。」


自分が意識を失っていた時間に、頭がくらくらしてきた。

まさかそんな長い間眠っていたなんて・・・自分の身体がどうなってるのか謎だった。


「はぁ・・・。」


ため息をつきながら手をおでこに乗せる。

すると涼さんが何か言いたげに口を開いた。


「あの・・さ・・・」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...