64 / 91
64
しおりを挟む
仕事に行くハルを見送ったあと、俺はスマホを取り出した。
「さて、仕事を少し遅らせて・・・と。」
登録してある連絡先から『消防』を探し出し、コールボタンを押した。
『はい、こちら消防。』
「すみません、火事になった二季条のマンションに取りに行きたいものがあるんですけど・・・。」
さっきの電話で、ハルは『全て処分で』と言っていた。
でも・・・ハルにとって大事だと思うものが俺にはあった。
(『あれ』だけは手元に置いといたほうがいいだろ。)
午前の仕事を少しずらすように秘書に頼み、洗い物を済ませて俺も家を出た。
ーーーーー
ーーーーー
消防に連絡した俺は消防士さんと一緒にハルの家に向かった。
ハルの家の鍵はうちに置いたままだったからそれを使って家に入り、玄関に入ってすぐにある棚の上に置いてあるドライフラワーをそっと取った。
それを持って行ってたボックスにそっとしまい、マンションをあとにした。
家に戻り、取って来たドライフラワーを目視で確認する。
「よかった、あまり変わってなさそうだ。」
前にハルの家で見たドライフラワーと、あまり姿かたちは変わって無さそうだった。
「これは大事だろ?ハル・・・。」
ハルが初めて作ったドライフラワー。
朽ちてはいくだろうけど、ハルが大事にしてきたものは俺も大事にしたい。
「取って来たって言ったら・・・ハル、怒るかな。」
どう思うか想像つかないまま、俺はボックスをリビングに置いて、そのまま仕事に向かった。
ーーーーー
ーーーーー
その日の夜。
仕事が終わって家に帰れたのは21時だった。
疲れを吐き出すように、うなだれながらため息をつく。
「はぁー・・・ただいま。」
玄関を開けてそう言うと、廊下をパタパタと走ってくる音が聞こえた。
目線を上げるとハルの姿が飛び込んでくる。
「おかえりっ!」
「・・・ははっ、ただいま。」
かわいい笑顔全開で俺に向かって駆けてくるハル。
そんな姿見せられたら疲れも吹っ飛ぶものだ。
「ハル、テーブルの箱見た?」
ネクタイを緩めながら聞くとハルは首を横に振った。
「ううん?涼さんのでしょ?勝手に開けたりなんかしないよ?」
「そっか。・・・あれ、ハルのだよ。俺、着替えてくるから中身見ときな?」
「?・・・うん。」
ハルがどんな反応をみせるのかドキドキしながら俺はクローゼットに向かった。
緩めたネクタイを外し、カッターシャツを脱いでいく。
するとほどなくしてリビングから悲鳴のようなハルの声が聞こえて来た。
「え・・えぇぇぇーーっ!?」
「ははっ、驚いてる。」
声のトーンから考えて、純粋に驚いてるようだ。
(余計なことして怒らないといいけど。)
そんなことを考えながら部屋着に着替えた俺はリビングに戻った。
するとハルがドライフラワーを手でそっと持っていたところだった。
「涼さん・・これ、取って来てくれたの・・?」
「うん。余計なことだったかもしれないけど・・ハルの大事なものだろ?」
ハルの『華道家の原点』になるものだ。
初めて家にお邪魔したときにこの花の説明をしてくれたこと、俺はまだ鮮明に覚えてる。
「うん・・・。もうスプリンクラーでダメになってると思ってた。だいぶ古いからすぐバラバラになっちゃうし・・。」
ハルの言う通り、手に持った瞬間、感覚で『やばい』と思った。
ほんの少し力をいれるとこの花は俺の手の中で崩れてしまうと、直感で感じたのだ。
だからできるだけ力を加えずに下から支えるような気持ちで俺ボックスに入れたのだ。
「涼さん、ありがとうっ。」
「・・・どういたしまして。」
ハルは持っていたドライフラワーをボックスにしまった。
『今度時間があるときにまた包装するね』と言って、そのボックスを『ハル用』の棚に持って行った。
大事そうに箱を棚に置いたあと、ハルはご機嫌な表情で振り返った。
「あ、そういえばね?今日メールが来たの。」
「メール?」
「うん。昔・・悠春で活動してた時のスタッフの人からなんだけど・・・」
ハルの話によると、前に連れて行った会食の時に、昔のスタッフと遭遇したらしい。
その時に連絡先を交換したらしいけど、今日メールが来たようなのだ。
「それ、男?」
少し拗ねるようにして聞くと、ハルはクスクスと笑いながら答えた。
「ふふ、女性だよ?私のスタッフはみんな女性だったの。」
「なんだ。ならよかった。」
安心しながらハルの話を聞くと、そのスタッフの人からランチを誘われらしいのだ。
久しぶりに再会したのなら、積もる話もあるだろう。
「『急なんだけど明日どう?』・・って聞かれてて・・・」
ハルは俺にお伺いを立てるようにして聞いてきた。
たぶん、明日の俺の予定を聞いてるのだろう。
「あぁ、行ってきたら?俺もすることあるし・・。」
「!!・・・うんっ!行ってきますっ!」
この1カ月、ハルにかかってるストレスはきっと半端なものじゃない。
放火犯がストーカー犯と同一人物なんて、家から一歩も出れなくなっても当然のことなのに、ハルは気丈にも仕事に行き続けていた。
たまには楽しめるようなこともしとかないといけない。
「楽しんどいで。」
そう言ったのに、翌日、まさか犯人と出くわすなんて思いもしなかった。
「さて、仕事を少し遅らせて・・・と。」
登録してある連絡先から『消防』を探し出し、コールボタンを押した。
『はい、こちら消防。』
「すみません、火事になった二季条のマンションに取りに行きたいものがあるんですけど・・・。」
さっきの電話で、ハルは『全て処分で』と言っていた。
でも・・・ハルにとって大事だと思うものが俺にはあった。
(『あれ』だけは手元に置いといたほうがいいだろ。)
午前の仕事を少しずらすように秘書に頼み、洗い物を済ませて俺も家を出た。
ーーーーー
ーーーーー
消防に連絡した俺は消防士さんと一緒にハルの家に向かった。
ハルの家の鍵はうちに置いたままだったからそれを使って家に入り、玄関に入ってすぐにある棚の上に置いてあるドライフラワーをそっと取った。
それを持って行ってたボックスにそっとしまい、マンションをあとにした。
家に戻り、取って来たドライフラワーを目視で確認する。
「よかった、あまり変わってなさそうだ。」
前にハルの家で見たドライフラワーと、あまり姿かたちは変わって無さそうだった。
「これは大事だろ?ハル・・・。」
ハルが初めて作ったドライフラワー。
朽ちてはいくだろうけど、ハルが大事にしてきたものは俺も大事にしたい。
「取って来たって言ったら・・・ハル、怒るかな。」
どう思うか想像つかないまま、俺はボックスをリビングに置いて、そのまま仕事に向かった。
ーーーーー
ーーーーー
その日の夜。
仕事が終わって家に帰れたのは21時だった。
疲れを吐き出すように、うなだれながらため息をつく。
「はぁー・・・ただいま。」
玄関を開けてそう言うと、廊下をパタパタと走ってくる音が聞こえた。
目線を上げるとハルの姿が飛び込んでくる。
「おかえりっ!」
「・・・ははっ、ただいま。」
かわいい笑顔全開で俺に向かって駆けてくるハル。
そんな姿見せられたら疲れも吹っ飛ぶものだ。
「ハル、テーブルの箱見た?」
ネクタイを緩めながら聞くとハルは首を横に振った。
「ううん?涼さんのでしょ?勝手に開けたりなんかしないよ?」
「そっか。・・・あれ、ハルのだよ。俺、着替えてくるから中身見ときな?」
「?・・・うん。」
ハルがどんな反応をみせるのかドキドキしながら俺はクローゼットに向かった。
緩めたネクタイを外し、カッターシャツを脱いでいく。
するとほどなくしてリビングから悲鳴のようなハルの声が聞こえて来た。
「え・・えぇぇぇーーっ!?」
「ははっ、驚いてる。」
声のトーンから考えて、純粋に驚いてるようだ。
(余計なことして怒らないといいけど。)
そんなことを考えながら部屋着に着替えた俺はリビングに戻った。
するとハルがドライフラワーを手でそっと持っていたところだった。
「涼さん・・これ、取って来てくれたの・・?」
「うん。余計なことだったかもしれないけど・・ハルの大事なものだろ?」
ハルの『華道家の原点』になるものだ。
初めて家にお邪魔したときにこの花の説明をしてくれたこと、俺はまだ鮮明に覚えてる。
「うん・・・。もうスプリンクラーでダメになってると思ってた。だいぶ古いからすぐバラバラになっちゃうし・・。」
ハルの言う通り、手に持った瞬間、感覚で『やばい』と思った。
ほんの少し力をいれるとこの花は俺の手の中で崩れてしまうと、直感で感じたのだ。
だからできるだけ力を加えずに下から支えるような気持ちで俺ボックスに入れたのだ。
「涼さん、ありがとうっ。」
「・・・どういたしまして。」
ハルは持っていたドライフラワーをボックスにしまった。
『今度時間があるときにまた包装するね』と言って、そのボックスを『ハル用』の棚に持って行った。
大事そうに箱を棚に置いたあと、ハルはご機嫌な表情で振り返った。
「あ、そういえばね?今日メールが来たの。」
「メール?」
「うん。昔・・悠春で活動してた時のスタッフの人からなんだけど・・・」
ハルの話によると、前に連れて行った会食の時に、昔のスタッフと遭遇したらしい。
その時に連絡先を交換したらしいけど、今日メールが来たようなのだ。
「それ、男?」
少し拗ねるようにして聞くと、ハルはクスクスと笑いながら答えた。
「ふふ、女性だよ?私のスタッフはみんな女性だったの。」
「なんだ。ならよかった。」
安心しながらハルの話を聞くと、そのスタッフの人からランチを誘われらしいのだ。
久しぶりに再会したのなら、積もる話もあるだろう。
「『急なんだけど明日どう?』・・って聞かれてて・・・」
ハルは俺にお伺いを立てるようにして聞いてきた。
たぶん、明日の俺の予定を聞いてるのだろう。
「あぁ、行ってきたら?俺もすることあるし・・。」
「!!・・・うんっ!行ってきますっ!」
この1カ月、ハルにかかってるストレスはきっと半端なものじゃない。
放火犯がストーカー犯と同一人物なんて、家から一歩も出れなくなっても当然のことなのに、ハルは気丈にも仕事に行き続けていた。
たまには楽しめるようなこともしとかないといけない。
「楽しんどいで。」
そう言ったのに、翌日、まさか犯人と出くわすなんて思いもしなかった。
22
お気に入りに追加
547
あなたにおすすめの小説

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる