溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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仕事に行くハルを見送ったあと、俺はスマホを取り出した。


「さて、仕事を少し遅らせて・・・と。」


登録してある連絡先から『消防』を探し出し、コールボタンを押した。


『はい、こちら消防。』

「すみません、火事になった二季条のマンションに取りに行きたいものがあるんですけど・・・。」


さっきの電話で、ハルは『全て処分で』と言っていた。

でも・・・ハルにとって大事だと思うものが俺にはあった。


(『あれ』だけは手元に置いといたほうがいいだろ。)


午前の仕事を少しずらすように秘書に頼み、洗い物を済ませて俺も家を出た。



ーーーーー


ーーーーー




消防に連絡した俺は消防士さんと一緒にハルの家に向かった。

ハルの家の鍵はうちに置いたままだったからそれを使って家に入り、玄関に入ってすぐにある棚の上に置いてあるドライフラワーをそっと取った。

それを持って行ってたボックスにそっとしまい、マンションをあとにした。

家に戻り、取って来たドライフラワーを目視で確認する。


「よかった、あまり変わってなさそうだ。」


前にハルの家で見たドライフラワーと、あまり姿かたちは変わって無さそうだった。


「これは大事だろ?ハル・・・。」


ハルが初めて作ったドライフラワー。

朽ちてはいくだろうけど、ハルが大事にしてきたものは俺も大事にしたい。


「取って来たって言ったら・・・ハル、怒るかな。」


どう思うか想像つかないまま、俺はボックスをリビングに置いて、そのまま仕事に向かった。



ーーーーー



ーーーーー



その日の夜。

仕事が終わって家に帰れたのは21時だった。

疲れを吐き出すように、うなだれながらため息をつく。


「はぁー・・・ただいま。」


玄関を開けてそう言うと、廊下をパタパタと走ってくる音が聞こえた。

目線を上げるとハルの姿が飛び込んでくる。


「おかえりっ!」

「・・・ははっ、ただいま。」


かわいい笑顔全開で俺に向かって駆けてくるハル。

そんな姿見せられたら疲れも吹っ飛ぶものだ。


「ハル、テーブルの箱見た?」


ネクタイを緩めながら聞くとハルは首を横に振った。


「ううん?涼さんのでしょ?勝手に開けたりなんかしないよ?」

「そっか。・・・あれ、ハルのだよ。俺、着替えてくるから中身見ときな?」

「?・・・うん。」


ハルがどんな反応をみせるのかドキドキしながら俺はクローゼットに向かった。

緩めたネクタイを外し、カッターシャツを脱いでいく。

するとほどなくしてリビングから悲鳴のようなハルの声が聞こえて来た。


「え・・えぇぇぇーーっ!?」

「ははっ、驚いてる。」


声のトーンから考えて、純粋に驚いてるようだ。


(余計なことして怒らないといいけど。)


そんなことを考えながら部屋着に着替えた俺はリビングに戻った。

するとハルがドライフラワーを手でそっと持っていたところだった。


「涼さん・・これ、取って来てくれたの・・?」

「うん。余計なことだったかもしれないけど・・ハルの大事なものだろ?」


ハルの『華道家の原点』になるものだ。

初めて家にお邪魔したときにこの花の説明をしてくれたこと、俺はまだ鮮明に覚えてる。


「うん・・・。もうスプリンクラーでダメになってると思ってた。だいぶ古いからすぐバラバラになっちゃうし・・。」


ハルの言う通り、手に持った瞬間、感覚で『やばい』と思った。

ほんの少し力をいれるとこの花は俺の手の中で崩れてしまうと、直感で感じたのだ。

だからできるだけ力を加えずに下から支えるような気持ちで俺ボックスに入れたのだ。


「涼さん、ありがとうっ。」

「・・・どういたしまして。」


ハルは持っていたドライフラワーをボックスにしまった。

『今度時間があるときにまた包装するね』と言って、そのボックスを『ハル用』の棚に持って行った。

大事そうに箱を棚に置いたあと、ハルはご機嫌な表情で振り返った。


「あ、そういえばね?今日メールが来たの。」

「メール?」

「うん。昔・・悠春で活動してた時のスタッフの人からなんだけど・・・」


ハルの話によると、前に連れて行った会食の時に、昔のスタッフと遭遇したらしい。

その時に連絡先を交換したらしいけど、今日メールが来たようなのだ。


「それ、男?」


少し拗ねるようにして聞くと、ハルはクスクスと笑いながら答えた。


「ふふ、女性だよ?私のスタッフはみんな女性だったの。」

「なんだ。ならよかった。」


安心しながらハルの話を聞くと、そのスタッフの人からランチを誘われらしいのだ。

久しぶりに再会したのなら、積もる話もあるだろう。


「『急なんだけど明日どう?』・・って聞かれてて・・・」


ハルは俺にお伺いを立てるようにして聞いてきた。

たぶん、明日の俺の予定を聞いてるのだろう。


「あぁ、行ってきたら?俺もすることあるし・・。」

「!!・・・うんっ!行ってきますっ!」


この1カ月、ハルにかかってるストレスはきっと半端なものじゃない。

放火犯がストーカー犯と同一人物なんて、家から一歩も出れなくなっても当然のことなのに、ハルは気丈にも仕事に行き続けていた。

たまには楽しめるようなこともしとかないといけない。


「楽しんどいで。」


そう言ったのに、翌日、まさか犯人と出くわすなんて思いもしなかった。




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