溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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それから数日後の日曜日、連に話を通していた私は連の仕事場である『貫地谷グループ結婚式場』のお花専用作業場に来ていた。

連に『ここに来い』と言われたからだ。

だだっ広い部屋に、お花はもちろんのこと、花器、ラッピングフィルムにバスケットなどお花絡みのものが山のようにあるのが見える。

いろんな花の匂いが鼻をくすぐる中で、連が私を見つけてかけよってきた。


「ハルっ!」

「あ、連ー。」

「悪い、ちょっと立て込んでてさ・・・。1時間くらい待っててくれ、あとでハルの使える部屋に案内する。」

「わかったー。」


そう答えると連は戻って行った。

同じ空間にいる十数人に指示を飛ばしながら、自分もアレンジメントを作っていってる。


(すごい・・・めっちゃ早い・・・。)


連の手際が早くてきれいなのはもちろんのこと、指示を受けてるスタッフの手際もよかったのだ。

流れ作業のように作られていく花たちはどれもこれもきれいだ。


「式が終わるまであと20分だぞー!女性客は全部で48名!53個になるようにしてくれ!」

「はいっ!!」


どうやら結婚式で使われた花を全て回収し、それをミニブーケにしてお土産に回すつもりらしい。

急ぎ気味に作られていってるミニブーケだけど、どう考えても20分じゃ終わりそうになかった。


「山本さん!急いで!」

「はっ・・はいっ・・!」


スタッフリーダーらしき人が声をかけた人は、たくさんいるスタッフの中でも目に付くくらい作る手が遅かった。

一生懸命作られてるミニブーケは他のスタッフと遜色無さそうだったけど、明らかに手が遅かったのだ。


「早く・・早くっ・・・!」


そう呟きながら作る彼女の手にあった花たちが、バラバラっと崩れたのが見えた。

どうも輪ゴムを取ろうとしたときに手が緩んだみたいだ。


「あっ・・!」


慌てて拾う彼女に、私は近づいて行った。

そして落ちてしまった花を一輪拾い上げて、彼女に手渡す。


「どうぞ。」

「あ・・ありがとう。」


そのまま私は連に向かって大きめな声で言った。


「連ーっ!私することないから手伝ってもいいーっ!?」

「!!・・・助かる!!細かい指示はスタッフリーダーに聞いてくれ!!」

「はーい!」


そう言うとスタッフリーダーの人が怪訝な顔をしながら連に向かって叫んだ。


「細かいことを説明なんてしてる時間無いです!!何もしていただかなくて結構ですから!!」


そう言われた連はスタッフリーダ―を見たあと、私を見て、またスタッフリーダーを見た。


「なら説明はしなくていい!・・ハル!見たらわかるな!?」

「もちろんっ!」

「なら山本にコツ教えながら作ってくれ!!」

「はいっ!」


私は作り終わってるミニブーケを見て、『山本』と呼ばれてた人に笑顔を向けた。


「キレイなブーケですね。」

「え・・?あ、ありがとう・・・。」

「ほんのちょっとスピードが上がるようにお手伝いさせていただきます。まず・・・」


私はブーケを作りながら彼女にコツを教えていった。

時間に限りがあるから何個も作りながら要所要所を都度説明していく。


「ここはこう持つと楽ですよ。リボンはここで押さえたほうが収まりがいいですよー。」

「は・・はいっ・・!」

「出来上がったあとはーーーー」


そんな説明をしながら、私は猛スピードで作り上げていった。


「すごい・・・」

「慣れたら早くなりますよー・・・あ、もう終わりですね。」


見ると花を置いてる台がもう最後の一つ分の花しか残ってなかった。

私はそれをかき集め、全部まとめてミニブーケにしていく。


「♪~・・・」


こんなに忙しく作業をするのは久しぶりだ。

それもオーダーではなくて、目の前にある花でブーケを作るのはとても楽しかった。

何も考えなくても自然と手が動いていく。


「・・・ふふっ。」


笑顔で最後の一つを作り、私はブーケ置き場にそれを置いた。

するとスタッフリーダーの人が私に身体をぶつけながらそのミニブーケたちを掻っ攫ったのだ。


「ちょっと!邪魔ですよ!」

「あ、ごめんなさい。」


ぶつけられたところを手で擦ってると、作業を終わらせた連が駆け寄ってきた。


「ハル、助かったよ。お前の部屋に案内する。」

「うん、ありがとう。」


私は山本さんに軽く頭を下げてその作業場を出た。

少し通路を歩きながら、連は気まずそうに話し始める。


「・・さっきはごめんな?」

「え?」

「あのスタッフリーダー、ちょっと機嫌が悪いタイプでさ・・・。」


連の話ではさっきのスタッフリーダーさんは希望していた部署に配属されなかったことに不満を持ってるらしかった。

この作業場での時間に追われる仕事ではなく、式場を彩るプランナーを希望していたとか。

でもプランナーは希望者が多く、試験を行ったところ彼女は落ちた。

それでこの作業場での仕事に就き、しばらくしてスタッフリーダーを任されるようになったらしいんだけど・・・


「試験に落ちたことで周りに当たり散らすもんだからリーダーにしてるけど・・・まー・・手の遅いスタッフとか、包装が甘いのを作るスタッフとかに手厳しくて・・『指導』って形で見たら許容範囲ではあるけどへこむスタッフも多くてさ。」

「みんながみんな同じメンタルじゃないしねぇ・・・。」

「まぁ、山本は手が早くなるだろう、お前の指導だからな。」


そう言って連は私の頭をぽんぽんっと撫でた。

私が小さいころから何かあると頭を撫でてくる連。

蘇る当たり前の光景に、私は自然と笑みがこぼれていた。


「へへ。」

「さて、お前の部屋だけど・・・」


連は通路を歩きながら一番奥に見えるドアを指差した。


「あそこな。滅多に使わない道具とか小物置き場なんだよ。昨日のうちに片付けてスペースは用意してある。」

「え!片付けまでしてくれたの?ありがとうっ。」

「中の説明するから。」


話をしてる間にドアの前に着いた私たち。

連はドアノブに手をかけてドアを開けた。


「わ・・!結構広い・・・!」


ギィー・・・と古めかしい音を立てながら開いたドアの向こうはさっきの作業場と同じくらいの空間があったのだ。

壁を囲うように棚が作られていて、いろんな道具が置かれてる。

大きな鋏に、花器、段ボールからリボンがはみ出てる入れ物もたくさんあった。


「こっちのスペース空けといたから使いな?これだけあれば十分だろ?」


そう言って指差した先には衣装ケースが5個とカウンターテーブルに椅子、それに空になった棚が1セットあった。


「・・・へ!?」

「乾燥剤も入ってるから。あとカウンターテーブルのしたにある段ボールにハーバリウム溶液もある。」

「え!?全部用意してくれたの!?」

「もちろん。・・・妹がする仕事だからな。これくらいしてやるよ。」


そう言ってくれる連に、私は鞄からお財布を取り出した。

この分の支払いをしようとすると、連は私の財布を取りあげて鞄に押し込んだ。


「ちょ・・・」

「もらうわけないだろ?」

「でも・・!」

「ま、仕事が忙しいときに2、3回手伝ってくれたら助かる。」


そう言われ、私は笑顔で答えた。


「もちろん!いつでも言ってね!」

「あぁ、頼む。」


久しぶりなやりとりに私たちは笑い合っていた。

マンションに戻れるまでの間、仕事を手伝いながらお世話になろうと思ってる私を、ドアの隙間から見てる人が思いもせずに・・・。





(・・なんなの!?あの人・・!)


隙間から見ていたのはスタッフリーダーだ。

さっき作り上げたミニブーケたちを別のスタッフに押し付け、連たちの後をつけてきてたのだ。


(貫地谷さんのことを名前で呼んでるし・・・!なんか対等みたいな扱い受けてるし!!)


作業場でのハルの行動が気にくわなかった彼女。

連に気に入られたかった彼女は、連に同等に話してもらえるハルを一瞬で毛嫌いしたのだ。


(貫地谷さん・・結婚してないどころか彼女の存在もなかったハズなのに・・・)


彼女にとってプランナーの試験に落ちたことは誤算だった。

本当ならプランナーとして連と切磋琢磨し、一緒に仕事をしてゆくゆくは・・・的なことを勝手に妄想していた。

けど試験に落ち、彼女は時間に追われる作業場での勤務に。

最初こそは落ち込み、周りに当たっていたけど、試験に落ちたことがここでうれしい誤算に切り替わった。

連がしょっちゅうこの場に来るからだ。


(私の実力が彼に認められたからリーダーになれたのに・・・!彼の隣にいるのは私なのに・・!)


彼女はハルを睨みつけ、そのドアから離れていった。



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