溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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声が聞こえたほうを向くとそこに女の子が立っていた。

『なおちゃん』と呼んだのは女の子だったのだ。


「・・・きいな!?」


その女の子に反応したのは三村さんだった。

どうやら二人は知り合いのようだ。


「三村さん、お知り合いですか?」


ケースを受け取りながらそう聞くと、三村さんは困ったように答えてくれた。


「あっ・・いや・・その・・」

「?」

「・・・『彼女』です。」

「!!」


その言葉に、私は彼女を見た。

『きいな』と呼ばれた彼女は私を三村さんを交互に見ていて、なんだか拗ねたような表情を見せてる。


(あっ・・!もしかして勘違いさせちゃってる・・!?)


例えそういう関係でなくても、自分の彼氏が女の人と一緒にいたらいい気はしない。

私は三村さんの手からケースを取り、ヘルメットも返して深く頭を下げた。

そして大きめの声で伝える。


「今日はマンションの一時帰宅に同伴してくださってありがとうございました。おかげで必要なものを取りに来ることができました。」

「あ・・いえ・・仕事ですので・・。」

「そろそろ恋人が迎えに来てくれる時間ですので、これで失礼させていただきます。ありがとうございました。」

「また管理会社からご連絡あると思います。それまでお待ちください。」

「はい。・・・では。」


私はもう一度頭を下げ、踵を返した。

彼女さんに会釈をして、その場を後にする。


(誤解・・解けたらいいけど・・。)


そう思いながら近くの角を曲がり、振り返った。

二人にバレないようにそっと見守る。


「きいな・・お前仕事は?」


驚きながら聞く三村さんに、彼女さんは俯きながら答える。


「今日は最終公演だもん・・・。」

「最終なら20時?」

「うん・・・。」


二人は気まずそうに距離を取って話をしてる。

その光景を『申し訳ない・・』と思いながら私は見ていた。


「なおちゃん、お仕事中・・?」


彼女さんが不安そうな表情で、三村さんを覗き込みながら聞いた。


「仕事。この前ここで火事があってさ。今日は住人の一時帰宅に同伴してたんだよ。危ないからな。」


三村さんは自分がつけていたヘルメットを外した。

そして髪の毛をくしゃっとかき上げる。


「住人さん・・・。」


彼女さんは納得したような、それでも納得できないような表情でまた俯いてしまった。

それを見た三村さんが少し身を屈めて彼女を覗き込んだ。


「・・・なに?勘違いでもした?」

「!!」


嬉しいのか三村さんは少し笑っていて、彼女さんのほうは照れながら拗ねてる。

その二人の姿は傍から見てると本当に微笑ましく、お互いに相手のことしか見えてないのがよくわかった。


(私と涼さんも・・・そう見えてるのかな。)


そんなことを考えながら二人を見ていたけど、どうも彼女さんの機嫌が直りそうにない雰囲気だった。

どうも機嫌を直すタイミングを逃してしまったみたいだ。


(・・・あ、これ・・役に立つかな?)


私は持っていたケースの一つからハーバリウムを取り出した。

手のひらにコロンっと乗るサイズのハーバリウムだ。


(よし。)


私はそれを手に握り、二人のもとへ向かった。


「あの・・お話し中すみません・・。」


私が二人に声をかけると、三村さんは驚いた顔をし、彼女さんはぽかんと私を見ていた。


「お仕事の一環だったとはいえ、何か誤解させてしまったようですみません。」


そう言って頭を下げると、三村さんは慌てながら言った。


「ちょ・・頭上げてください・・!」

「私と三村さんは何もないどころか今日初めて会ったんです。なので・・機嫌、直してくださいね。」


笑みを溢しながら彼女さんに言うと、彼女さんは三村さんをじっと見た。

三村さんは彼女さんの頭をぽんぽんっと撫で、彼女さんはそれで機嫌を直したように笑ってくれた。


「よかった。・・・それであの、これよかったら・・・」


私は手に握っていたハーバリウムを彼女さんに差し出した。


「・・・へ!?」


驚く彼女さんに加えて、三村さんも両手を振りながら断ってくる。


「いや・・!もらえませんよ・・!」

「いえ、今日は助かりましたし、彼女さんにも誤解?を与えてしまってようですみませんでした。これ、まだ試作品の段階なんですけど受け取って頂けたら嬉しいです。」


そう言うと二人は少し困ったような顔をしながら顔を見合わせた。

でも彼女さんは手を伸ばして私の手からハーバリウムを受け取ってくれた。


「わぁ・・・かわいい・・・。」


彼女さんの手に渡ったハーバリウムは黄色やピンク、白色の花がたくさん入ったボトルだ。

中にパールや小さいリボンも見える。


「・・・『yu-syun』?」


彼女さんはボトルの中をじっと見ながら言った。

ボトルの中には花や小物がたくさん入ってるけど、その中に一つ私のロゴが入ってるのだ。

これは涼さんの提案で作ったもので、レジンでクローバーの形を作り、その中に『yu-syun』って文字を入れてあるのだ。


「私のロゴなんです。蓋はレジンで固めてあるので開けることはできないんです。1年ほど楽しめるものになってるので・・・よかったら飾ってください。」


そう言うと彼女さんは笑顔で三村さんを見てから、私を見た。


「ありがとうございます。大事に飾りますっ。」

「へへっ。・・・じゃあ、私はこれで失礼します。今日はありがとうございましたー。」


そう言って私は帰路についた。

途中、涼さんのことをずっと考えながら。


(涼さんも・・やきもちとか焼いたりするのかな・・・。)


もし涼さんが他の女の人と一緒にいたら、私はきっと嫉妬してしまう。

醜いとは思うけど、たぶん涼さんが何を言っても聞くことができない状態になるだろうと、想像がついた。


(そんな場面に出くわすことがありませんように・・・。)


そう祈りながら、私は涼さんが待ってる家に足を向けた。




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