溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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「・・・うそ・・。」


俺はハルのマンションの近くに車を止めた。

警察や消防が規制線を張っていて、マンションまではいけなかったからだ。

そしてマンションのすぐ近くまで歩いて来た時、ハルが手で口を押えながら絶句していた。


「これは・・・酷いな。」


15階建てのマンションの至る所から黒煙が上がっていた。

遠くに見えてた黒煙は、ハルのマンションで間違いなかったのだ。

もう鎮火はされてそうだけど、煙は収まりそうにない。


「危ないので下がってください!!」


呆然と見てると消防士の一人が規制線の幅を広げながら声をかけてきた。

俺はその消防士の腕を掴み、状況を聞く。


「すみません!マンションの住人なんですけど何か情報ありませんか・・!?」


そう聞くと消防士は足を止めてくれた。


「住人の方は向こうのテントで管理会社から説明があります。ぐるっと回ってもらって、近くの消防士に声をかけてください。何か言われたら『三村 直樹(みむら なおき)』に聞いたと言ってください。」

「!!・・・わかりました!ありがとうございます!」


俺は固まってるハルの手を引き、テントに向かった。

ハルは俺に手を引かれながらずっとマンションを見上げてる。

不安そうに見上げ、手が・・震えていた。


「ハル、大丈夫だから。とりあえず説明を聞こう。」

「・・・・。」


ハルの肩を抱き寄せ、ハルが前をみなくても歩けるように支える。

そしてしばらく歩くと、住人らしき人が詰めかけてるテントを見つけた。

そこで管理会社らしき人が一生懸命何か叫んでる。


「火事の原因は消防の方に調査していただいてます!当面、立ち入り禁止になりますので別でお部屋をご用意いたしました!手続きをお願いします!管理費として頂いてる保険金をお支払いいたしますのでお使いください!繰り返します・・!火事の原因はーーーー」


それを聞き、俺はハルを見た。


「ハル、保険金払ってたの?」


マンションの管理で支払ってる分は、俺にはわからないことだ。

契約してるハルにしかわからないことだけど・・・ハルは呆然としていて全然話を聞いてない感じだった。


「・・・ハルっ!!」


肩を揺さぶって顔を覗き込むと、ハルはハッと我に返った。


「あ・・えっと・・何か言った・・?」

「ハル、よく聞いて。管理費として保険金払ってた?」

「保険金?・・・あ、たぶん管理費にいろいろ含まれてる中の一つだと思うけど・・」

「それ、支払ってもらえるから。あとハルの部屋にはしばらく戻れないらしい。別でどこか部屋を用意してくれるって言ってたけど・・・」


一体どこにある部屋を用意してくれるのかと思っていた時、住人が怒号を上げ始めた。


「ふざけんな!!家族6人で6畳の1DKなんて無理じゃないか!!」

「うち、老夫婦だから階段で4階のお部屋はちょっと・・・」

「管理人がいる部屋じゃないと不安なんです!!」


やいやい言う住人たちの言い分から、用意された部屋はとても許容できるものじゃないようだった。

急なことだから仕方ないとはいえ、それぞれ『無理だ』という理由もある。


「・・・ハル、ちょっと待ってて。用意してくれてるっていうハルの部屋見てくる。」


そう言って俺はテントの中に入っていった。

怒る住人たちをかき分けて、書類を見に行く。


「何号室のかたですか?」

「1503号室です。代わりの部屋をお願いしたいのですがどちらになりますか?」

「1503号室ですね。少々お待ちください。」


そう言って管理会社の人はパラパラと書類をめくり始めた。

そして何ページかめくった後、『1503号』と付箋が張られたページを広げて見せてくれた。


「こちらですね。ここから電車で20分、駅から徒歩・・・20分です。」


見せてくれた部屋は1Kのアパートだった。

仕事場である花屋とは真反対の方向だ。

2階建ての古いアパートで、トイレは部屋にあるものの、風呂は共同風呂のようだ。

おそらく『一人暮らし』ということで決まったんだろう。


(こんなとこにハルを住まわせられるわけないだろう!!)


管理会社も必死になってかき集めた物件だろうけど、とてもじゃないけど喜んで行ける場所ではない。


「・・・すみませんが1503号室は別で住まいを探します。こちらの部屋は別の方の選択肢としてお使いください。」

「そうですか・・・。すみません、いいお部屋をご用意できなくて・・・。」

「いえ、失礼します。」


管理会社の不備で火事になったのなら問い詰めたいところだけど、この場にいる警察の数が異常だった。

そこから推測すると、この火事は放火しかない。

さっき町中で聞いた噂話も合わせると、放火にしか結びつかなかったのだ。


(黒煙が上がってるのは複数・・・それも1階2階・・4階から出てるのか。)


複数の箇所から黒煙が上がってるということは犯人は複数、もしくは用意周到な放火かのどちらかになる。


(死者がいないだけよかったけど・・・)


煙を吸い込んだのか、救急車に乗せられて運ばれていく人が何人かいた。

そしてそれをカメラで撮ってる一般人やメディアがいる。


(とりあえずハルの住むとこを確保しないと・・・。)


俺は急いでハルの元に戻った。



ーーーーー




「ハル、管理会社が用意してくれた部屋を見てきたんだけど、断って来た。」


ハルの元に戻って来た俺がそう伝えると、ハルは驚いた顔をしていた。

でもその事情を説明すると、納得してくれたようで、次に頭を抱えるようにして悩み始めた。


「どうしよう・・・お兄ちゃんのところ・・・って言ってもかなり遠いし・・・。」

「そんな遠いの?」

「電車で1時間くらいかかる・・・。」


ハルは頭を抱えながら、鞄から財布を取り出した。

中に入ってるお金を数え始めてる。


「うーん・・・1週間くらいならホテルに泊まれそうだし・・ちょっとそこで考える。」


そう言ったあと、ハルはまたマンションを見上げた。

モクモクと上がる黒煙をじっと見てる。


「スプリンクラー・・出ちゃったよねぇ・・・」

「スプリンクラー?ついてるの?」

「うん。火事が起こった時は全部の家のスプリンクラーが稼働するの。火が回らないように。」


確かに、一部屋で火事が起こっても全部が水で濡れていたら火は広がりにくい。

それは人命を守るための措置だ。

家具たちが水で濡れてしまっても仕方ないことなのだ。


「出たと思うよ?これだけの火事だし・・・。」


そう言うとハルは残念そうにぼそっと言った。


「お花・・・枯れちゃうね。」

「・・・お花?家具じゃなくて?」

「うん、人体には無害な液体がスプリンクラーに使われてるんだけど・・・お花にとっては有害なんだよね。戻れない時点で枯れるのは決定なんだけど・・・薬剤で枯らすとか・・・ほんと申し訳ない。」


そう言ってハルはマンションの自分の部屋を見ながら目を閉じた。

しばらく何か考えてるのか、じっと目を閉じたままだった。


「ハル、行こうか。」


ここにずっといても何も進まない。

ハルに声をかけると、ハルは目を開けた。


「うん、ホテル探すの手伝ってくれる?」

「もちろん。・・・っていいたいけど一つ提案がある。」

「?」



「俺の家に・・・来ない?」




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