溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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ハルとホテルに泊まってから3日後。

俺は会社でスマホを見つめていた。

頭を抱えるようにして画面をタップしてる


「困ったな・・・。」


スマホの画面に映ってるのはSNSの情報だ。

どこを開いても『悠春』のことがトップワードに入ってる。


「ちっ、あの時撮られた写真がアップされたのか・・・。」


SNSに出てる悠春の写真は、全て会食の時の会場の背景を背負っていた。

あの時の誰かがアップしたことは間違いがない。


「まぁ、結構な人数が撮ってたからな・・・それに悠春の写真がどれも微妙に角度が違うし・・。」


悠春の写真を撮った人全員がアップしてそうな感じだった。

一度ネットに出回った情報を回収することは不可能に近い。

ましてや写真が最初に出てからもう一週間近くになる。

これだけの時間が経過してしまった今、これを回収することは不可能だった。


「削除依頼はかけたけど・・どこまで落ち着いてくれるか・・・。」


俺は方々に依頼をかけ、悠春の情報を消していってた。

流行りものはあまり長く話題に残らないのが世の流れ。

悠春の情報を消しつつ、時間が過ぎてくれれば人はまた違う話題に飛びついてくれると考えたのだ。


「時間はかかるだろうけど・・・早くに消えてくれよ?」


そう願いながら仕事の合間に手を回していくと、日にちをまたぐごとにだんだん『悠春』のワードがトップワードから外れ始めた。

かかった時間はおよそ1週間。

人々が悠春のことを話題に出さなくなるまでにかかった時間は2カ月だった。

ハルの普段の姿は悠春には見えないからその間普通にデートはしていたものの、ハルもこの2カ月の間、悠春の話題が気になっていたようだった。

デートしてる時に『悠春』と聞いたり見たりするとそっちに目線を向けていたから・・・。


「もう外で悠春のこと聞かなくなったねぇ・・・。」


夏の暑い日差しが照り付ける中、街中を歩いてる時にハルが言い出した。


「そうだな、今は違う話題に夢中みたいだよ?SNSは。」


そう言って俺はスマホを開いた。

今、話題になってるものをスクロールして見る。


「今は・・『熱中症』『花火』『値上げ』『火事』『月と火星』・・・ってとこかな。」

「『熱中症』は怖いもんねぇ・・・気をつけないと。」

「うん。じゃあ・・・日陰になるようにどっか店でも入ろうか。」


そう言って近くを見回した。

ジェラートの専門店に、クレープ、それにカフェなんかがひしめき合うようにして隣接しててお店は選び放題な状態だ。


「ハル、何がいい?」


冷たくて甘いジェラートも、チョコレートがたくさんかかってるクレープもハルの大好物の一つだ。

だからハルが食べたいものにしようと思って聞いたのに、ハルは想像外のことを言った。


「うーん・・・カフェ行かない?涼さん、甘いの得意じゃないでしょ?」

「・・・あまり好き好んでは食べないけど・・・それなりに食べるよ?」


そう答えると、ハルは笑いながらカフェを指差した。


「ふふっ、じゃあパフェ食べたいから半分こしよ?」


ハルは俺の手を引いてカフェに向かって歩き始めた。


(そういうとこも好きだけど・・・。)


俺を気遣ってくれるとこも好きなとこの一つだった。

でも俺はハルがおいしそうに好きなものを食べるのを見るのも好きだった。


(・・・まぁ、いっか。)


そんなシーン、いくらでも見ることができることを知ってる俺は、今を楽しもうとハルに引っ張られるままに歩いた。

その時・・・ウ―ウーとけたたましいサイレンの音が聞こえて来た。

足を止めて辺りを見回すと、消防車が数台、近くの通りを通過していくのが見えた。


(・・・火事?)


それと同時に救急車やパトカーも通過していく。

結構な台数に周りの人も足を止め、何やら噂話を始めた。


「最近この辺火事多くない?」

「この前は向こうの町のマンションが火事だったらしいよ。」

「昨日そこのマンションがボヤ騒ぎあったけど・・・」

「え、マンションばっかりなの?」

「戸建てもあるって聞いたような・・・。」


そんな話に聞き耳を立ててると、ハルが俺の手を引っ張った。


「涼さん、どうしたの?」

「うん?あぁ、なんでもないよ。行こうか。」


俺たちはカフェに入り、外が暑い時間を涼しい空間で過ごした。

ハルはチョコレートのパフェを注文し、俺はアイスコーヒーを注文。

二人で他愛ない話をしながら過ごしていた。


「でね?この前夏美さんが誤発注しちゃって、バラが2000本届いたんだけど・・」

「2000!?すごい誤発注・・・」

「でしょ?がんばって売り切ったんだけどしばらくバラは見なくていいかも。」


笑いながらハルが話をしてるとき、ハルのスマホが鳴り始めた。


「あ、ごめん、ちょっといい?」

「珍しいな・・・どうぞ?」


ハルのスマホが鳴ることは滅多にない。

何かの勧誘の電話か、勤めてる花屋からの連絡かくらいしかないのだ。


「はい、秋篠です。・・・はい、はい・・・」

(勧誘かな?)


そんなことを思いながらアイスコーヒーに口をつけたとき、ハルが大きな声を出した。


「・・・えぇっ!?火事!?マンションが!?」

「!?」


俺は飲んでいたアイスコーヒーをテーブルに置き、伝票を持って会計に向かった。

ハルは自分の鞄を持ちながらスマホで通話したままだ。


「すみません、会計お願いします。」

「かしこまりました、お会計2150円でございます。」

「じゃあこれで。おつり要らないんで募金にでも回してください。」


そう言って俺は財布から5000円を出してレジカウンターに置いた。

ふり返るとハルがテーブルの近くで呆然と立ってる。


「ハル!行こう!」

「う・・うん・・・」


俺はテーブルに戻り、ハルの手を引いてカフェを出た。

少し距離のある駐車場まで急いで歩き、乗り込む。


「ハル、さっきの電話、管理会社から?」


エンジンをかけてハルのマンションに向けて車を走らせながら聞いた。


「う・・うん・・・」

「なんて言ってた?」

「えっと・・・なんか、マンションの非常ベルが鳴りだしたらしくて・・・」


ハルの話によると、ベルの音を聞いた管理人が消防に通報したらしい。

その後、住人の避難を呼びかけ、いなかった住人には緊急連絡先に電話をかけて安否を確認してるとのことだった。

ハルの安否はこれで確認されたわけだけど、問題は火災が『どれほどのもの』かだ。


(ボヤくらいだったらいいけど・・・。)


そう思うけれど視界には遠くで黒煙が映っていた。

さっき通って行った消防車たちはもしかしたらハルのマンションに向かっていたのかもしれない。

なら火災の規模は・・・


(とにかく急ぐか。)


俺は最短ルートを通って、ハルのマンションに向かった。



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