溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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私がお風呂から出たあと、服を着替えて部屋をあとにした。

涼さんが言ってた通り、1階にあるカフェで軽く朝ご飯を済ませてチェックアウトしに行く。

しに行くんだけど・・・涼さんはフロントを通り過ぎて行ったのだ。


「あの・・涼さん?」

「うん?」

「フロントでチェックアウト・・・しないの?」


フロントを見ながら聞くと、涼さんはしれっと答えた。


「しないよ?」

「しないって・・・え、じゃあお支払いは・・?」


私は鞄から財布を取り出して聞いた。

会食の時、何か足りないものがあったらすぐにここで買えるようにと思って結構な金額を持って来ていたのだ。


「もう終わってるよ?」

「え!?終わってる!?」

「うん。名刺を渡してあるからあとで請求来るんだよ。」

「そんな・・・・」


涼さんが支払いをするときに払おうと思っていたのにこれじゃあ払えない。


(どうしよう・・・。)


そう思って財布を見つめてると、涼さんが手を伸ばしてきた。

そしてその手を私の財布に手を乗せた。


「しまっときな?」

「でも・・・」

「ハルのお金はハルの為に使うのがいいよ。支払いは気にしないで。」


涼さんは私の鞄に財布を押し込んだ。

納得はできなかったけど、これ以上食い下がることもできない。

何度も食い下がることは相手の思いや考えを無下にすることになるからだ。


「うー・・じゃあ何か違うものでお返しする・・ね?」


そう言うと涼さんは笑いながら私の頭を撫でた。


「ははっ。・・・期待してる。」


その後、私と涼さんはホテルをあとにした。

涼さんが提案してくれた海に向かうために、涼さんの車に乗り込む。


「海まで大体2時間くらいかな。向こうでお昼食べて・・夕方くらいに送るよ。明日からまた仕事でしょ?疲れたら大変だしね。」

「ふふ、ありがとう。涼さんも・・・疲れとってね?」

「ありがと。」


私たちは他愛ない話をしながら2時間の時間を過ごした。

最近あったことや、学生時代の話、それに家族の話なんかをしてると2時間なんてあっという間に過ぎてしまった。

気がつけば窓の向こうにちらちらと海が見え始めてる。


「わぁ・・・海だっ。」


建物と建物の間に見えた海は、太陽に照らされてきらきらと輝いていた。

近くで見るのがすごく楽しみだ。


「もうちょっとで着くよー。」


そのあとすぐに涼さんは駐車場に車を止めた。

二人で少しの間歩くと、目の前に青い海が見えてきたのだ。


「わぁ・・・!」


防波堤を兼ねてる堤防の階段を上がると、そこには真っ白い砂浜があった。

右を見ても左を見ても、どこまでも砂浜が広がってる。

そしてその砂浜の向こうには青い海。

『地平線』と呼ばれるところまで、ずっと海が続いていた。

左右にゆっくり首を向ければ地平線が弧を描いてるのが見える。

地球が丸いことを証明してるのだ。


「すごい・・・・。」


見たことない景色に感動しながら見入ってると、涼さんが私の手をぎゅっと握った。


「いい景色でしょ?・・・ハルみたいで。」


その言葉に、私は涼さんを見た。

涼さんは私が今まで見ていた景色をじっと見てる。


「海の広さはハルの心の広さ、海の深さはハルの・・・表現力ってとこかな?」


にこっと笑いながら言う涼さんに、私は照れながら否定した。


「そんなすごいものじゃないよ・・・。」

「そう?なんか・・いつか新しいことを何か思い付いたりするんじゃない?」

「・・・。」


私は何も言えなかった。

実際に今、試作してるものがあるからだ。


「『新しいこと』・・ではないけど・・・」


そう言うと涼さんは私の手を引いて歩き始めた。


「じゃあ何を考えてるのか教えてくれる?」


私は涼さんに言うものかどうか悩んだ。

まだ試作段階でしかないもので、商品になるかどうかがわからないものだったから・・・。


(でも、涼さんは笑ったりしない人・・・。)


努力や勉強過程を笑ったり卑下したりする人ではないのだ。

だから・・・私は胸を張って伝えることにした。


「実は・・・」


砂浜に足を取られながら、私は一生懸命伝えた。

涼さんに運んでもらって作ってる『ドライフラワー』を商品化しようとしてることを・・・。


「あれ商品化するの?でもドライフラワーって手に入りやすいんじゃないの?」

「そうですね、ネットとかでも手に入りますし、自分でも作れますし。」

「ならなぜ商品化?」

「それは・・・」


私は鞄からスマホを取り出して、あるホームページを開いた。

そこから一か所タップして、もう1ページ飛んだところを涼さんに見せる。


「これ・・『悠春』のブログ・・?」

「そうです。更新は・・・去年が最後ですね。」


メディアに取り上げられ始めてからし始めた『ブログ』。

展覧会や作品展、それに普段のお花を生けてる様子を度々アップしてたのだ。

でも4年前の事件をきっかけにアップする頻度はぐっと減った。

作品の依頼があったときに写真を撮って、それを3カ月後にアップしたりするときがあるくらいだったのだ。


「ちょっと見せてもらってもいい?」


そう言って涼さんは私のスマホを手に取った。

画面をじっと見ながらスクロールしてる。


「これ・・読者のコメント?『また作品が見たい』『生けてもらいたいけど高すぎて無理』『せめて悠春の作品の絵葉書でもあれば・・・』って色々ある・・・。」

「うん・・・。毎日コメントくれるの。全部読んでるけど・・・」


そう簡単に返信もできないのだ。

まだ4年前の犯人は捕まってないから・・・警戒は解けない。


「すごいな・・・。」

「このコメントくれる人たち、主婦の人とか学生さんとかが多いの。ここに年齢が出るんだけど・・・」


そう言ってアカウント名の隣の数字を指差した。

これは私の画面からしか見えないようになってるものだ。


「ほんとだ・・18歳、29歳、37歳・・・14歳もいる・・・。」

「私の作品、大きいものだと結構な金額になっちゃうの。だから・・・」


私は足を止め、涼さんを見た。

意を決して・・・思ってることを伝える。


「・・・起業しようと思うの。」


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