溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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「・・・いいの?」

「はいっ、飲んで頂きたいなと思っていたハーブティーがあるんです。それを是非。」


笑顔でいうハルちゃんに、俺は二つ返事だ。


「喜んで。」


ハルちゃんは嬉しそうに笑っていた。


「あ、前からお伝えしようと思ってたんですけど、マンションの駐車場があるんです。うち、車ないので自由に使ってください。」

「え、いいの?」

「マンション一部屋につき一台、駐車場付いてるんですよ。でもうちは車ないんで使ってなくて・・・。あ、場所は部屋番号と同じ1503番の数字が地面に書いてあるところです。ご案内しますね。」


それからしばらく車を走らせた後、ハルちゃんのマンションに到着した。

ハルちゃんに駐車場の場所を教えてもらい、そこに止める。

その場所はエレベーターに近く、利便性が良さそうだった。


(部屋番号ごとに駐車場の位置が決まってるなら・・・何か優先度とかあるのかな。)


そんなことを思いながら俺たちはエレベーターに乗り込み、15階にあるハルちゃんの家に向かった。


「散らかってますけど・・どうぞ。」

「お邪魔します。」


ドアのカギを開けたハルちゃんは、ドアを押さえ、俺を中に入れてくれた。

広めな玄関は物もなくてシンプルだ。

ふと視線を右にずらすと、そこにはシューズクローゼットがあった。

高さのないクローゼットの上に、ドライフラワーが飾られてる。

何の花かはわからないけど、お世辞にも『きれい』とは言えないくらいぼろぼろの花だった。


「あ、そのドライフラワー、私は初めて作ったドライフラワーなんです。」

「初めて?」

「そうなんです。確か・・幼稚園の時に作ったと思うんですけど・・・」


そう言ってハルちゃんはこのドライフラワーを作った時のことを話してくれた。

幼稚園の帰り道で花を摘むのが日課だったけど、いくらお水をあげても枯れてしまうのが悲しく、『枯らせたくない』とご両親に泣きついたところ、『ドライフラワーにしてみないか』と言われ、ご両親と一緒に作ったらしい。


「もう20年近くも前のものなので、少しずつバラバラになってしまって・・・今はこれだけ残ってるんです。」

「そうなんだ。」

「これももう少ししたらまた崩れるので、そうなったら捨てようかなと思うんですけどなかなか・・。」


ハルちゃんは靴を脱ぎ、玄関から上がった。


「どうぞ。」


俺は促されて家の中に足を踏み入れた。

長い廊下を歩いたあと、リビングが視界に飛び込んできた。


「ひろっ・・・!」

「あー・・ファミリー向けの階なんで・・・リビングは20畳ですかね。」


大きい5人掛けくらいのソファーが一つと木製のリビングテーブルが一つある。

壁沿いにローチェストと、雑誌や本を入れてるマガジンラックも。


「あれって・・観葉植物?」


家具自体はシンプルに白で統一されていた。

その中で目に入ったのが緑色をした植物だちだった。


「そうです。結構種類置いてるんですけど・・・奥のカーテンの側にいるのはシェフレラっていう植物です。陽当たりが悪くても育ってくれる子なんですよ。こっちのカーテンの側にいるのはオリーブですね。大きい子たちは窓側に置いてるんですけど、小さい子たちはカウンターとかチェストの上とかですね。」


そう言われてダイニングを見た。

ダイニングに続いてるキッチンとの境にあるカウンターに、ずらっと植物たちが並んでいたのだ。


「これも全部観葉植物?」

「そうですよー、サボテンとかミニパキラとか・・・」


話しながらハルちゃんは、荷物をカウンターに置いた。

そのままキッチンに入り、ケトルに水を入れて火にかける。


「好きなとこに座っててくださいねー、今、ハーブティー淹れますー。」

「うん、ありがとう。」


俺はハルちゃんがハーブティーを淹れてくれてる間、リビングとダイニングをウロウロしていた。

置かれてる観葉植物を一つずつ見ていきながら、キッチンにいるハルちゃんを時々見つめる。


「そういえばご両親、海外って言ってたよね。いつごろ帰国?」


さっき車で教えてもらったご両親のこと。

『海外で遊んでる』とハルちゃんは教えてくれたのだ。


「あー・・すみません、私の説明不足がありました・・。」

「うん?」

「実は・・・」


こぽこぽとお湯が沸く中、ハルちゃんはご両親が海外に行ったいきさつを話してくれた。

3年ほど前に実家を処分し、海外を転々としながら暮らしてることを・・・。


「えぇ!?」

「すみません・・自由な親なんです・・・。」

「え、じゃあもう帰ってこないとか・・・?」


実家を処分してしまったのなら、帰って来たときに住む家はない。

ホテル暮らしなんてとてつもなくお金がかかるものだから現実的でもない。


「帰ってきたら兄の家か私の家に来ると思うんですけど・・・多分私が会いにいくことになるんじゃないかなと思いますねー・・・。」


その言葉に俺は驚いた。


「『私の家』!?」

「あ、そうですー、一人暮らしなんですよ。」


にこっと笑ったハルちゃんを見たあと、俺は辺りをぐるっと見渡した。

この部屋は『ファミリー向け』、3LDKだ。

一人暮らし用の広さではない。


「え、広すぎない・・・?」


恐る恐る聞くと、ハルちゃんは少し考えながら答えた。


「いやー・・そうでもないんですよ。・・・よかったら他の部屋、見ます?」

「見てみたいけど・・いいの?」

「いいんですけど・・・引かないでくださいね?」


そう言ってハルちゃんはキッチンから出た。

俺は後ろをついて行く。


「じゃあまずはこのお部屋から。」


ハルちゃんはドアの取手に手をかけ、ゆっくりと開けた。


ガチャ・・・


「・・・え!?」


ドアの向こうは驚く景色が広がっていた。

床一面黒っぽいフローリングに、左右の壁沿いには三段になった棚がある。

その棚には花が種類別に分けて大きい筒に入れられていた。

正面にはカウンターがあって、そこにリボンやらビニールのフィルムやらがたくさん置かれてる。

この部屋はどう見ても・・・・『花屋』だ。


「花屋さん・・・。」


そう呟くとハルちゃんは笑っていた。


「ふふ、そうです。花屋みたいですよね。ここでラッピングの練習したり、新しいアレンジメントとか考えたりしてるんです。」


そう言いながらハルちゃんは近くにあった花をそっと触った。


(花が好きだから・・・花が一番きれいに見える方法を勉強してるのか・・・。)


そんな尊敬すら覚えたとき、冷ややかな空気を感じた。

なんだかこの部屋は・・・寒い。


「?」


少し腕を擦るようなしぐさをしたとき、ハルちゃんが部屋の天井を指差した。

そこにははめ込み型のエアコンがある。


「あ、この部屋冷房つけてるんですよ。冷ケースほどではないんですけど・・・年中寒い部屋ですね。次行きましょうかー。」


俺はこの部屋を出て次の部屋に案内してもらった。

次の部屋は和室で、雰囲気がガラッと変わった部屋だ。


「ここは?」

「ここは悠春の作品を作る部屋です。小さいものならここで作れるんですよ。その方が疲れないですし。」

「へぇー・・・すごい。」

「ふふ。・・・あ、そろそろお湯が沸いたと思うのでハーブティー淹れますね。」


そう言ってハルちゃんはキッチンに戻って行った。

俺も後を追ってリビングに戻り、ハルちゃんが入れてくれたハーブティーをいただく。


「これ、ストレスとか疲れに効くハーブティーなんです。いつもお仕事大変そうなので・・・これ飲んでゆっくり寝れたらいいなと思って・・・。」


そう笑いながらいうハルちゃん。


「俺はハルちゃんが側にいてくれたら疲れなんて吹き飛ぶけど?」


そう言うとハルちゃんの顔が一瞬で赤く染まった。


「へ・・・?」



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