溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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二人を追うため店を出た俺は車で後を追った。

レストランの駐車場を出た車は少し走ったところにある駅のロータリーに、迷うことなく入って行く。

そして乗降場に止まり、ハルちゃんが助手席から下りた。

俺は少し距離を取ったところに止まり、窓を開ける。


「じゃあ気をつけてね。」

「ハルもな。送ってやれなくてごめんな。」

「いいって。早く行きなよ。」

「わかってるよ。じゃな。」


二人は軽く別れを済ませ、車は走り出していった。

ハルちゃんはその車が見えなくなるまで見送り続け、そのあと鞄からスマホを取り出して何か操作をしてる。

そしてその直後、俺のスマホが鳴った。


「メール・・・。」


そのメールを開くと『お疲れさまです、今日は用事があるのでもう仕事あがってます。涼さんもお仕事頑張ってくださいね。』と書いてあった。


「このまま声かけるか悩むな。」


そう思うものの、もう辺りは暗い。

それにここからハルちゃんの家まで電車でも結構時間がかかる。


「声、かけるか。」


そう思って俺は車から下りた。

偶然を装ってハルちゃんに声をかける。


「あれ?ハルちゃん?」


内心自分自身がダサいなと思いながらも、嫌われたくないからこんな行動しかできなかった。


「え?・・・涼さん!?こんなとこでどうしたんですか!?」


驚きながらもハルちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。


「仕事帰りなんだけど・・・ハルちゃんこれから帰る?よかったら送るよ?」


そう言うとハルちゃんは俺に近づいて来た。


「嬉しいですっ、お願いできますか?」

「もちろん。そこに車あるから行こうか。」

「はいっ。」


俺はハルちゃんの手を握った。

車までそんなに距離はないけど、少しでもハルちゃんに近づきたくて握った。

ハルちゃんは恥ずかしそうにしてたけど、きゅっと手を握り返してくれるところがたまらなくかわいい。


(あー・・もうかわいすぎてどうにかなりそう・・。)


そんなことを思いながら、ハルちゃんを助手席に乗せた。

俺は運転席に座り、車を走らせ始める。


「今日、お店早くに上がったんだよね。」


さっきもらったメールの内容を聞いてみた。

ここでハルちゃんが何て答えるのか・・・心臓がうるさく跳ねる。


「あ、そうなんですー。ちょっと用事があって・・・。」

「用事?」

「用事・・・ですね。」


ちょっと言いたく無さそうにするハルちゃん。

聞きたいけど踏み込めない俺は、それ以上何も聞けなかった。

ハルちゃんも何も喋らず、数分の沈黙が流れる。


「・・・。」

「・・・。」


この沈黙を破るためにどう話を切り返そうか悩んでると、先にハルちゃんが口を開いた。


「あの・・前に腕と足に傷があるっていったの覚えてますか?」


そう聞かれ、俺はハルちゃんがストーカーの話をしてくれたときに言ってくれたことを思い出した。


「あ、うん、覚えてるよ?」

「その傷、神経を傷つけてて・・・定期的に病院に行って診てもらってるんです。」

「そうなの?」

「はい。今日が病院に行く日で・・・仕事を早く上がったんです。」


ハルちゃんはどこの病院に通ってるのかとか、病院で何を診てもらってるのかとかを細かく話始めた。

あの日負ったケガは、放置してたら腕が動かなくなってたかもしれないこと、それと足も同じようになってたかもしれないことを。


「担当してくれたお医者さんが結構腕のいい人で・・・何回か手術を繰り返して神経を繋いでくれたんです。」

「そうなんだ・・・。よかったね、腕のいい医者に巡り合えて。」


医学は発達してるものの、人の技術には差がある。

『運』という言葉で片付けてはいけないものだとわかっていても、『運』がよくないといい方向に転ばないこともあるものだ。


「へへ・・・そのお医者さん、兄なんです。」


その言葉に俺は驚いた。


「・・・・え!?」

「私の兄、いろんな診療科目を転々としてる人なんですけど外科が得意なんです。あの日、刺された私は通行人の人に助けてもらったんですけど、意識を失う前に兄の病院をお願いしたんです。」


通行人はそのハルちゃんの言葉をちゃんと聞いてくれたらしく、目が覚めたときはお兄さんが側にいてくれてたと、ハルちゃんは教えてくれた。

それからお兄さんの懸命な手術で腕と足は動くようになり、今の生活ができるようになったのだと・・・。


「今日、半年ぶりに会ったんですけど、兄の時間が会えばいつもご飯を食べに行くんです。家族揃って食べたことのあるレストランに。今日もそこでご飯食べたんですけど・・・急患らしくて兄は帰っちゃいました。」


ハルちゃんは笑いながらそう言った。


(そうか・・・あの男はお兄さんで、あの店は思い出のレストランなのか・・・。)


お店で幸せそうに笑っていたハルちゃんの笑顔は家族に向けられたものだったのだ。


(そりゃ敵わないな。)


ハルちゃんはお兄さんとのご飯の話をたくさん聞かせてくれた。

ご両親の話や、最近の仕事の話、それに俺のことも・・・。


「え、お兄さん怒ってたりとか・・・」


こんなかわいい妹がいたら、俺なら『彼氏とかだめだ』とか言いそうだと思った。


「うーん・・・何も言ってなかったんで多分気にしてないと思います。」

「それはそれでなんか・・・どうなのかと思うけど・・・。」


気にしてほしいような、気にしないでほしいような複雑な気持ちにかられた。


「ふふ。・・・あ、涼さん、今日はこのまま帰るんですか?」

「今日はー・・・うん、帰るかな。どうして?」


ハンドルを切りながら聞き返すと、ハルちゃんは俺が驚くことを言った。


「よかったらお茶、飲んでいきません?」


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