溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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「んっ・・・!」


ごくっと飲み込んでしまった秋篠さんは、じっとグラスを見つめた。


「お酒大丈夫・・!?飲めなかったりするんじゃ・・・」


そう聞くと秋篠さんは手を振りながら笑顔で言った。


「お酒は大丈夫なんですけど・・・すみません・・間違えて飲んでしまいました・・。」


そっとグラスをテーブルに置いた秋篠さん。

俺は軽く笑いながらそのグラスを彼女の側に置いた。


「ははっ、飲めるなら全部どうぞ?俺は運転があるから今度にするし。」

「いえ・・そういうわけには・・・」

「じゃあそのグラス分くらいはどう?無理にとは言わないから料理と一緒に楽しんで?」

「う・・・。」


口をつけてしまったからか、彼女は料理の合間に日本酒を味わっていた。

『酒は飲める』と言っていた彼女だったけど、度数の高い酒は時間が経つと酔いが回る。

下手な酔い方はしないものの、時間が経てば経つほど、彼女の機嫌は目に見えて良くなっていった。


「ふふっ。」

「随分ご機嫌になってきたねぇ。」


料理も終盤に入り、デザートに口をつけ始めた。

少し溶けかけたアイスを口に頬張りながらも、秋篠さんは笑顔を絶やさない。


「都築さん、今日はありがとうございますー。」


突然お礼を言いだした秋篠さんに、俺もアイスを口に入れながら聞いた。


「ん?どうして?」

「お料理やこの旅館はもちろんなんですけど、何よりお花を生けれたのがすごく楽しかったですー。」

「お花?やっぱり習ってた?」


そう聞くと彼女はとんでもないことを俺に言った。


「習ってたつもりはないんですけど・・小さいころからお花は生けてたんですー。それを『品評会に出したい』って人がいて・・・あ、母なんですけど。そこで特賞をいただいてー・・本格的に華道家としての活動が始まったんですー。」


その言葉に、俺は口に入れたアイスを飲み込む場所を間違えそうになった。


「・・・華道家!?秋篠さん、華道家で活動してるの!?」

「いえ、4年前に表舞台からは引退したんですー。今は美術館とか博物館からの依頼を受けてますー。でも今日みたいに自由に生けたのは久しぶりだったんで・・楽しかったですー・・ふふ。」


にこにこ笑いながら言う彼女に、俺は空いた口が塞がらなかった。


(習ってたかなとは思ったけど・・まさか華道家だったなんて・・。)


驚きながらも、今なら彼女は結構喋ってくれそうな様子だ。

知りたいことは全部聞き出したい。


「ちなみに表で華道してたときは本名?」


作品がどこかに写真として残ってるなら見て見たいと思った俺は名前を尋ねた。

でも彼女は・・・驚く名前を言った。


「『悠春(ゆうしゅん)』ですー。」

「・・・『悠春』!?」


華道の世界に詳しくない俺でも知ってる名前だ。

若くして華道の世界に飛び込んだ悠春は、作品もさることながらその見た目で華道界に新しい風を吹き込んだ。

腰まである黒髪のストレートヘアに、真っ赤な着物を身に纏った姿はまさに『日本人形』。

それに加えて容姿が端麗なことから、数々のメディアに取り上げられ、華道界が一気に賑わったほどだった。


「私、『ハル』って名前なんで『悠(はる)』と『春』を掛け合わせて『悠春』なんですー。」

「あ・・なるほど。」


名前に納得しながらも、俺は疑問に思ったことがあった。

それは・・髪の毛だ。


「え、でも秋篠さん、髪の毛茶色じゃない?」


彼女の髪の毛は1年前からずっと同じ茶色だ。

長さも肩につかないくらいの短さで、悠春とは差がありすぎる。


「髪の毛はウィッグですー、あの時は学生だったんですけど、メディアの方が家までついて来ちゃうことが結構あったんでー・・『秋篠ハル』ってことがバレないように、協会とか連盟の方の助言でウィッグつけてましたー。」

「なるほど・・・。」


ご機嫌で喋る彼女はグラスに入った水を飲み干した。

空になったデザートの皿をテーブルの端に置く。


「結構量あったと思うけど・・・全部食べたねぇ。」


懐石は量が少ないように見えて結構ある。

それに加えてゆっくり出されるもんだから満腹になるのが早い。

今日は店側のサービスも含まれていて、かなりの量があったのに彼女は全部平らげたのだ。


「そうですねー・・よく食べる方・・と兄には言われます。」


笑いながら言う彼女。

でも残さずきれいに食べる姿は見てて気持ちがいいものだ。


「俺は好きだよ?いっぱい食べる秋篠さん。知らない一面が知れて嬉しい。」

「----っ。」


そういうと彼女は顔を赤くした。


「そんなこと言われたことないんで・・ちょっと免疫が・・。」


両手で顔を隠す彼女に、俺の胸がきゅぅぅ・・・と締まった。

思わず抱きしめたい衝動にかられる。


「ちょ・・俺が彼氏に立候補してるの忘れてないよね?そんなかわいいことされたら俺が困るんだけど・・・。」

「やっ・・忘れては・・ないですけど・・・。」

「『けど』?」


何をいうのかと思ってると、彼女は真っ直ぐ俺の目を見て言った。



「私は・・やめたほうがいいです。」

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