溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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「特定の人・・ですか?」


彼女は首をかしげながら聞いてきた。

どうやら意味は伝わってないみたいだ。


「あー・・彼氏・・とか?」


そう聞き直した時、ちょうどエレベーターに着いた。

さっき乗って来たエレベーターがまだいてくれたようで、ボタンを押すとすぐにドアが開いた。


「あ、彼氏ですか。いないですー。」


その言葉に俺は内心ガッツポーズを決めた。

二人でエレベーターに乗り込み、『1階』を押す。


「好きな人とかもいない?」


『いる』と言われたらどうしようかと思いながらも聞いてみる。

さっき決めたガッツポーズが無駄にならないことを祈るばかりだ。


「好きな人は・・・そうですね、いないです。」

(よし!!)


再びガッツポーズを決めれたところで、彼女は俺にとって不利になるようなことを言った。


「いないというか・・好きな人ができても仕方ないので・・。」

「・・え?」


『仕方ない』という言葉が気になった俺は聞き返した。


「仕方ないって?」


すると彼女は上を見ながら話し始めた。


「まぁ、収入も安定ではないですし、過去の事件もありますし?ストーカー被害にあった女の子なんて相手にしてもらえると思えませんし。」


諦めてるような口調で淡々と話す彼女。

『恋愛を諦めてる』なら・・『チャンス』だと思った。


「あ、1階に着きましたね。どうぞ。」


ちょうどエレベーターが1階に着き、彼女はそう言って開いたドアを押さえた。

その手を取って15階のボタンを押し、ドアを閉める。


「じゃあ・・俺が立候補してもいい?」


そう聞くと彼女は驚いたような顔を見せた。


「・・・へ!?」


ぐんぐん上るエレベーターの中で、彼女は困ったように笑いながら言う。


「いや・・聞いてました?私、収入も安定してませんし、何より4年前にストーカーにーーー」


俺が言ったことを冗談だとでも思ったのか、ペラペラと話続ける彼女。

必死に話し続けるのは・・・動揺してる証拠だ。


「聞いて?秋篠さん。」


優しく話しかけると、彼女の話が止まった。

そしてゆっくりと俯いた。


「今度、ご飯でもいかない?だめなら断ってくれていい。でも・・・『理由』が無いなら断らないで?俺にチャンスを与えて?」

「・・・。」


そう聞いたとき、エレベーターはまた15階に止まった。

開いたドアを手で押さえ、彼女の背中をそっと押してエレベーターから出す。

俺はエレベーターに残ったまま、1階のボタンを押した。

そしてドアが閉まる直前に、彼女に言った。


「来週、お店に行くから。そのとき返事聞かせて?ご飯付き合ってくれるなら・・休みの日を教えて?」


そう伝えたあと、エレベーターのドアは閉まった。



ーーーーー



エレベーターのドアが閉まったあと、私は15階の通路で一歩も動けないまま立っていた。


(立候補って・・え・・?)


言われた言葉の意味はわかっていた。

わかってはいたけど自分の身に起きてることだと認識できるまでに時間がかかってるような気がする。


(え・・私、言ったよね?収入も安定してないし・・ストーカーにもって・・・。)


襲われたわけではないけど、被害にあったことは事実だ。

普通ならこんな女の子、相手にされるはずがない。


(冗談・・だよね?)


そう思うものの、都築さまの表情や言葉から『冗談だった』という選択肢は適切ではない気がした。

本気だとしても俄かには信じがたい。


(どうしたらいいんだろう・・・。)


悩みながら、私は歩き始めた。

今日はもうドライフラワーを作るような気分になれそうもなく、私は家のソファーでごろごろするしかなかった。




ーーーーー



それから4日後。

いつも通り私は花屋で仕事をしていた。

お客さまの波が引き、雑用の時間に入ったから地面にしゃがみ込んで、バケツで吸水させていた花たちの茎を整えてる。


「・・・。」


パキパキと花鋏で切ってると、夏美さんが悲鳴に近いような声を放った。


「きゃぁ!?ハルちゃんどうしたのそれ!?」

「え?」


ふと手元を見ると、持っていた花の茎が無くなってしまっていたのだ。


「わぁ・・!!」


辺りには短い茎がいくつも落ちてる。

そのことから考えると、私は何回も茎を切ってしまって、とうとう花だけにしてしまったようだった。

そしてそれは一輪だけではなく、茎を失くした花たちが五つほどあったのだ。


「す・・すみません・・・。」


謝りながら手で茎たちを集め、ダストボックスに入れる。

茎を失くしてしまったお花たちは余ってる吸水バケツにそっと浮かべた。


「珍しいねぇ、ハルちゃんがそんなことするなんて・・・。」

「すみませんー・・・。」


気を引き締め直して、私は次のバケツに手を伸ばした。

そのとき、夏美さんが私の隣にしゃがみ込んできたのだ。


「ねぇねぇ、なんかあった?」

「!!」


その言葉に、私は持っていた花の茎をありえない位置で落としてしまった。


「あ・・・」

「あーあー・・こりゃ何かあったね。この夏美さんに言ってみな?」


そう言われ、私はこの前の都築さまとのやり取りを夏美さんに話した。

それからどうしたらいいのかわからないまま、4日も経ってることを。


「あー・・なるほどー・・・。」


いくら考えても、自分がどうすればいいのかわからなかった。

このまま都築さまが来店される日が来てしまったらパニックを起こしそうだ。


「ねぇ、ハルちゃんは都築さまのことどう思う?見た目とか、なんでもいいから言ってみて?」

「え・・うーん・・・。」


私はいつも来店される都築さまを思い出した。

スーツに身を包んでること、いつもアレンジメントをお買い上げされること、去年の春くらいから来店されるようになったこと、あと・・・


「いつも優しいですね、話し方もそうですし、視線とか、一つ一つの動作とかも。」


高圧的な態度は見たことがなかった。

大量のシリカゲルを持っていたときは何も言わずに運んでくれたし、先日の大きい衣装ケースだって普通に持ってくれたのだ。

良い印象しかない都築さまを思い出してると、夏美さんがとんでもないことを言った。


「ならさ、ご飯行ってみたら?」


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