溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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「ごめんね?いじわるなことしちゃって。」


ふり返りながら俺が言うと、彼女はあがっていた息を整えて追いついて来た。

諦めたようで、少し表情が柔らかく見える。


「いえ、持っていただいてすみません。・・・家は駅近くの二季条マンションです。」

「あぁ、15階建てのマンションか。」


彼女が言ったマンションは、5年ほど前に出来たマンションだった。

『駅に近い』ということを武器に作られたファミリー向けのマンション。

広くとった3LDKの造りで、防音もしっかりしてた記憶が頭の片隅に残っていた。


(確かうちの会社の傘下が造ってたような・・・。)


そんな記憶を引っ張り出してると、彼女は下から覗き込むようにして俺に聞いてきた。


「あの・・お休みだったのに本当に申し訳ありません・・。」

「え?あぁ、大丈夫。特に用事も無かったし。」


本当は仕事してたなんて口が裂けても言えない俺は、『休み』であることを貫き通すことにした。


(まぁ、視察くらいだから仕事じゃないようなものだし。)


そんなことより彼女のことが知りたくて、話題を振ってみる。


「歩いて買い物に来たって言ってたけど、車はないの?」


自分の車を持ってなかったとしても家族の車を借りることくらいはよくある話だと思った。


「あー・・免許を持ってないんですよ。色々あって取れなくて。」

「そういうことか。なら家族の誰かに連れて行ってもらったらいいんじゃない?」

「父も母も・・兄もみんな忙しくて・・・なかなか頼めないんですよ。」


笑いながら言う彼女。

これ以上この話はやめた方がいいと思った俺は違う話に切り替えてみる。


「そっか。・・ところでこの衣装ケース、何に使うつもりなの?さっき作りたいものがあるって言ってたけど・・これって服を入れるための物じゃないの?」

「あ、それはーーーーー」


彼女はこの衣装ケースを使って何をするつもりなのか説明してくれた。

彼女の説明はわかりやすく、素人の俺でも理解できた。


「へぇー!乾燥剤使ってドライフラワーにするのか。」

「そうなんです。そんな方法聞いちゃったら作りたくなって・・・この前業者さんにお願いして
大量に買わせていただいたんですー。」


その言葉を聞いて、俺はピンときた。


「もしかして・・この前俺が運んだのって・・・」

「そうです、シリカゲルですー。まさか1袋2キロもあるなんて思いもしなくて・・本当に助かりました。ありがとうございます。」


にこっと笑って言う彼女の笑顔は、いつも店で見せてくれる笑顔とは少し違って見えた。

なんというか・・自然な笑顔に見える。


「いや?いつも値段以上のアレンジメント作ってくれてるし。お礼も兼ねて俺ができることをしたまでだよ。」


そう言いながら歩き進めると、彼女は右手を口元に軽くあて、大きい目を少し細めて笑った。


「ふふ。ありがとうございます。・・・思い返せば都築さまが来店されてから1年ですね。」

「・・・もうそんなになる?時が経つのは早いなぁ。」

「都築さまのこと、何も知らないのに知ってるような気になるのはやっぱり・・・週に1度お会いしてるからなんでしょうねー。」

「俺もそう思う。・・・せっかくだから自己紹介でもしとこうか?」


冗談のように言うと、彼女は意外と乗り気で返事をくれた。


「あ、そうですね。」

「え?」

「私の名前は秋篠 ハルです。4年前にここに引っ越してきてお花屋さんでパートしてます。」


その言葉に俺は聞き返した。


「え?パートだったの?てっきり社員さんかと思ってた・・・。」

「パートタイムなんですよ。基本的に朝9時から夕方4時までの勤務ですね。たまに朝8時から夕方5時までの日もありますけど・・もっと短い日もありますし土日はお休みいただいてます。」


彼女の手際の良さは十分知ってるつもりだった。

いつもきれいに整えてくれるアレンジメントに花束。

掃除もテキパキとしてるのに社員じゃなかったなんて驚きだった。


「社員にならないの?秋篠さんの腕なら十分なれるんじゃない?」


そう聞くと彼女は手を振りながら答えた。


「ならないですよ。なる気もないですー。」

「給料とかだいぶ変わると思うけど・・・。」


パートと社員じゃ給料もそうだけど待遇も違うことが多い。

保険やボーナスだって差があるものだ。


「お給料はあまり気にしてないんです。生活できればそれでいいですし・・・。何より大好きなお花に関われるだけで幸せなんで。」


そう言って笑う彼女は、嬉しそうだった。

本当に花が好きで好きで仕方ないらしい。


「そっか。」


そんな話をしながら歩いてるとあっという間に時間は過ぎるもので、気がつけば秋篠さんが住んでるマンションがもう目の前に見えていた。


「どこまで運んでいい?」


衣装ケースを持ち直し、俺は聞いた。

マンションのエントランスまで運ぶのか、エレベーターまで運ぶのか、どこがいいのかわからなかったからだ。

でも・・・彼女は予想外の言葉を言った。






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