溺愛彼氏は経営者!?教えられた夜は明けない日が来る!?

すずなり。

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立っていたのはいつもお店に来てくださる常連さんだった。


「都築さま、いらっしゃいませ。」


都築さまは週に1度のペースで来店されるお客さまだ。

会社で飾るとのお話で、フラワーアレンジメントをよくお買い上げされるのだ。


「今日もお願いできる?」

「いつもありがとうございます。どのようにいたしましょうか?」

「そうだな・・・今日は・・黄色とピンクの小さい花多めでボックスに入れてくれる?できれば赤か白のボックスがいいんだけど・・。」


私はボックスが入ってる棚を開け、都築さまご希望のボックスを取り出した。

白のボックスは大きいのと小さいのがある。

そして赤いボックスはピンク寄りからワインレッドまで結構種類があったのだ。


「うーん・・・どれになさいます?」


カウンターにボックスを全部並べ、都築さまに見せた。


「そうだな・・・」


都築さまがボックスを見てる間に私は花を選びに行った。

ディスプレイしてある花をじっと見つめて感覚で決める。


(ミニバラのピンクと黄色にするとして・・ひまわりも入れてみようかな?)


小さい花たちばかりだとインパクトに欠けるから、少し大きめの花も取ってみた。

グリーンも少し取り、それらをざっと束ねて都築さまに見せる。


「こちらでどうでしょうか?」


都築さまは花を見たあと、カウンターに並べてあったワインレッドのボックスを手に取った。

それを花束に合わせるように、そっと隣に添えた。


「うん。これでお願いするよ。」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」


私はカウンターに出したボックスを棚の中に全てしまった。

そしていつも作業をするバックカウンターではなく、レジ横のカウンターでフラワーアレンジメントの制作に入る。

これは都築さまのご希望なのだ。


「・・・こんなの見て楽しいです?」


フローラルフォームをカットし、水に浸しながら聞いた。

いつもアレンジメントをお買い上げされるけど『作るところを見たい』と言われるようになってからお見せするようになった。

それも他のお客さまがいらっしゃらないからできることだった。


(もしかして・・時間見て来てる?)


わざとお客さまが少ない時間帯を狙って来てるんじゃないかと、そんな考えがふと頭に浮かんだ。

花屋は立地によってお客さまが少ない時間帯が変わる。

一概に『何時が暇』だと言えないお店だけど、私が勤務するお店は大体お昼過ぎに人波が引くことが多いのだ。

でも・・・


(そんなことないか。)


そう思い直し、私は作業を進めた。


「うん?楽しいよ?見てて飽きないし。」


じーっと私の手元を見ながら答えた都築さま。

私は作業の手を止めずに話続けた。


「まぁ・・楽しいならいいんですけど・・・」


都築さまが来店されるようになってもう1年くらいだ。

しょっちゅう会うものだから顔見知りの関係になってしまい、他愛のない話もするようになった。


「今、仕事忙しいんじゃないですか?新しい年度が始まりましたし。」


そう聞くと都築さまは片手で頭を軽く押さえながら答えてくれた。


「そうなんだよねー・・いろんな仕事が入ってきてて、てんやわんやだよ・・・。」


都築さまはこの辺りのオフィスビルで勤務されていて、外回りが多い部署でお仕事をされてると前に聞いたことがあった。

新年度は部署移動や人事異動も多いから、忙しいことは想像できる。


「休める時は休んでくださいね?」


そう言いながら花たちをボックスに入れていき、ボックスフラワーアレンジメントを完成させた。

リボンを取り出してボックスに巻き、巻き終わりに小さいループリボンを作って止める。


「いつ見てもすごいよねー・・・。」


食い入るように見てる都築さまの姿を見て、私は笑いながら答えた。


「ふふっ、『慣れ』ですよ『慣れ』。」

「いやー・・慣れるまでに挫折する自信あるよ。」


都築さまは笑いながら手を振った。

そしてお財布を取り出した。


「いくらになるかな?」


私はお花とボックスの値段を合わせてレジを打つ。


「えーと・・6500円になります。袋に入れますのでちょっとお待ちくださいねー。」


ボックスに透明の蓋をかぶせ、専用の袋に入れた。

そして会計をいただいてお花を手渡す。


「いつもお買い上げありがとうございます。」


持ちやすいように手で底を支え、持ち手の側に手を添えた。

都築さまはお財布をしまい、ボックスフラワーが入った袋を受け取った。


「いつもありがとう。これ・・休憩の時にでも食べて?」


そう言ってどこからともなく小さな紙袋を取り出し、レジ横のカウンターに置いたのだ。


「・・・え!?」

「今日、二人なんでしょ?数はないんだけど・・これ食べて仕事頑張って。じゃ。」


都築さまはそのまま踵を返し、お店を出て行ってしまった。


「え!?ちょっ・・都築さま!?」


私は慌ててその紙袋を手に持ち、カウンターから飛び出た。

そのままお店のドアを出て都築さまを探したけど、道行く人に紛れてしまったのか見つけることはできなかった。


「えー・・どうしよう・・・。」


仕方なく私は店に戻り、レジカウンターに紙袋を置いた。

その時、ちょうど夏美さんがお昼から帰ってきたのだ。


「ハルちゃーん、お昼ありがと。交代するよー・・・って何かあった?」


私がレジカウンターで紙袋を見つめていたからか、笑顔で帰って来た夏美さんは真顔に戻り、スッと私の側に来た。


「夏美さんー・・さっき都築さまがいらしてたんですけど・・・」


私は紙袋を見つめながらさっきのことを夏美さんに話した。

いつも通りアレンジメントの注文を受け、作ってお会計を済ませたあとにこちらを置いて行ってしまったことを・・・。


「あー・・・なるほど・・。」

「すぐにお返ししようと思ったんですけど見つけれなくて・・お店から遠くまで出るわけにもいかないですし・・。」


一人で店番してる時にお店を空けるわけにはいかない。

それもあって探しに行くこともできなかったのだ。


「まぁ・・ご厚意だし・・開けてみようか。」


そう言って夏美さんは紙袋を開けた。

中には手のひらに乗るくらいの大きさの箱が二つ入ってる。

そのうちの一つを夏美さんが開けてみた。


「わ・・!」


箱の中にはクマを模ったチョコが入っていた。

かわいいクマだ。

一粒チョコで結構な大きさだったけど、私はその形に見覚えがあった。


「これ・・『ベアーズ』のチョコじゃないですか・・?」



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