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圭一さんと陽太・・・さんの会話を聞いていた私、柚香は二人を交互に見るのに必死だった。

なんだかとんでもない話になってそうな気がして、ハラハラしてる。


「護衛って・・・まさか・・・」


圭一さんがゆっくりと私を見た。

陽太さんが言っていた『護衛』の対象は、どうやら私みたいなのだ。


「へっ・・・!?私・・・!?」

「組長の恋人・・・ひいてはこの組の姐さんになる人ですよね?俺以外に適任はいないと思います!!」


その言葉に、圭一さんは一瞬悩んだような表情を見せた。

その様子に、陽太さんの言葉は本当のようだ。


「俺なら何があっても守れます!!体力だって腕力だってこの組に俺以上の奴はいない!!この命を投げ出してでも守れます!!」


圭一さんの一瞬の表情の変化を見逃さなかったのか、選択肢を削るように詰め寄る陽太さん。

圭一さんは思うところがあるのか、少し考えるようなそぶりを見せてる。


「・・・とりあえずもうしばらく縛られてろ。」

「はい!!・・・あともう一つ、宝永会は残党が組んでます。狙われるのは確実かと。」

「!!・・・柚香、戻るぞ。」


そう言って圭一さんは私の手を掴み、家の中に向かって歩き出したのだった。


「ね・・ねぇ・・圭一さん、さっきのって・・・」


『宝永会』は圭一さんが潰してきたと藤沼さんに聞いていた。

なのに『残党が組んでる』なんて言葉は穏やかではない。


「・・・その情報は掴んである。まだ数人規模だけど確かに残党が集まってるらしい。」

「それって・・・・」

「目的が何なのかがまだハッキリしてないんだよ。会の復活なのか、復習なのか。」

「復習って・・・それって圭一さん・・・?」


『潰した本人』が対象だと考えるのが妥当だ。


「そうだな。俺だろうけど・・・たぶん柚香を狙ってくる。」

「私・・・!?」

「弱いものを狙うのは常套手段だからな。俺の弱点を突くために狙ってくるとは考えてる。」


まさか自分が『対象』になってるなんて思いもせず、私は足を止めた。

私が圭一さんの『弱点』なるということにショックが隠せない。


「わ・・わたし・・・・」


謝ったらいいのかどうしたらいいのかわからずにいると、圭一さんが私の両頬を手で包んだ。


「俺が大事にしてるものが『弱点』として認識されるんだ。柚香のことを一番大事にしてるから・・・」

「そ・・それは嬉しいんだけど・・・・」


喜んでいいのか申し訳なく思っていいのかがわからない。

わかることは私が一条組にとって『荷物』になる可能性が高いということだ。


「・・・柚香は陽太のこと、どう思う?」

「え?陽太さん?」

「そう。確かにあいつは体力と腕力に関してはこの組で一番だ。本意ではないけど、柚香に付けておくにはピッタリだと思う。」

「それは・・・・」


『裏切った人』と呼ばれる人だけど、あの話し方から考えてそんなに悪い人には思えない自分がいた。

それは圭一さんも同じようで・・・


「藤沼に調べさせたんだけど・・・あいつはただ茉里奈に惚れてただけで金を盗ったらしい。」

「そうなの?」

「あぁ。どこかの組に金を流したわけでもないし、情報を売ったわけでもない。茉里奈を逃がして自分は逃げずにすぐに捕まった。船に乗せて金を稼がせたけど・・・」


そこまで言ったあと、圭一さんは少し『わからない』というように首を傾げたのだ。


「あいつ・・・どうやって八千万稼いだんだ?」

「どうやってって・・・え、船で・・じゃないの?」


圭一さんがいう『船』は結構過酷な仕事だと、前に教えてもらったことがあった。

すぐにお金を大量に稼ぐことはできるとも言ってたけど・・・


「いや、あんな短期間では稼げない。最低でも10年は乗せるつもりだったのに・・・」


不思議に思った圭一さんは、食堂に向かって歩き始めた。

その後ろをついていくと、食堂の窓を開けて陽太さんに向かって言葉を投げかけたのだ。


「おい陽太!!」

「?・・・はい?」

「お前、どうやって船で八千万稼いだ?」

「どうやってって・・・船でですけど?」

「バカ言うな。それ以外に収入がないと無理だろ。」


圭一さんの問いに、陽太さんは少し含みのあるような笑みを零し、その真相を話し始めたのだ。


「船は船ですよ。・・・ただ、時々降りて仕入れにいって、船に乗ってるやつらに高額で売り付けてただけです。」

「売り付けてたって・・・何を・・・」

「タバコとか酒がメインでよく売れてました。」


しれっと、まるで『普通のこと』のように話す陽太さんだけど、明らかにおかしいところが一つある。

それは・・・


「いや、待て待て待て・・・『船を降りて』って・・・降りれるようなところないだろ?」


そう、船を『降りる』と言ったところだ。

圭一さんの話では船は遥か沖を航行していて、一度乗れば何年も降りることはできないハズなのだ。


「降りれますよ?泳げばいいだけですから。」


その言葉を聞いて、私と圭一さんの頭の上には『?』しか浮かばない。


「は?」

「え?」

「とりあえずスマホで動かせれるゴムボートをいくつか泳がせといて、近くなったらスマホに通知来るように設定しとくんですよ。で、通知来たら飛び降りてそこまで泳いで近場の港で仕入れるんです。・・・タバコなら400円前後くらいで仕入れれるんで、4万で売って稼いでましたね。近くの船に売りに行くときもありましたし。」


まるで『ちょっとしたおつかい』に行ってきたかのように話す姿に、私は開いた口が塞がらなかった。

それは圭一さんも同じだったようで、ぽかんと口を開けてしまってる。


「あの海を泳いだ!?」

「はい。ちょっと獰猛な魚はいますけど・・・全然大丈夫な海でした。」

「いやいやいや・・・・」


圭一さんの呆れ顔に、『泳ぐ』ということはきっととんでもないことなのだろう。

そんなことをやってしまう陽太さんは、言葉の通り『体力』はずば抜けてそうだ。


「・・・お前を野放しにする方が危険か。」


そう呟いた圭一さんは、私の頭をぽんぽんっと撫でた。


「しばらく陽太を柚香の護衛につける。残党を始末するまでの間、構わないか?」


そう聞かれ、私は陽太さんを見た。

最初に会った時から嫌悪感は抱いてなく、あまり・・悪い人にも見えなかったことから私に異論はない。


「それは大丈夫・・というか、あまり出歩いたりしないから『護衛』という役職はあまり役に立たないかも・・・?」

「念のためだと思ってくれてるだけでいい。俺が守るから。」


そう言うと圭一さんは陽太さんに向かって叫んだ。


「陽太!お前を柚香の護衛につかせる!ちょっとでも不審な行動をとったらその場で撃つ。覚悟を持て!!」

「仰せのままに。」


そう答えると、陽太さんは腕を横に広げ、縛られていた縄をちぎったのだ。


「!?」

「あいつならロープくらい自分でちぎれるんだよ。今まで逃げなかったのは俺への忠誠からと、『逃げない』ことで信用を取り戻すためだ。こっちもわかっててやってた。」

「そ・・そうなんだ・・・」


驚くことばかりで頭の中がついていかない私だけど、ロープから解放された陽太さんが歩み寄ってくるのが見える。


「柚香姐さん、これからよろしくお願いします。」

「えと・・・よろしく・・お願いします・・・。」


こうして私に『護衛』という人が付くことになってしまったのだった。





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