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(見つかった・・・!?)


明らかに私の部屋の扉を見ながら叫んだ男の人。

私は急いで扉を閉めて、自分の体でその扉を押さえた。

幸いにもこの部屋の扉は内開き。

座り込んで押さえたら、少しは時間が稼げると思ったのだ。


(諦めて帰ってくれますように・・・!)


そう思って扉が開かないようにドアノブを持った。

回させないようにと思ったけど、扉がすごい勢いで叩かれ始めたのだ。


「誰がいる!?一平か!?それとも藤沼さん・・!?」


ガンガンっ・・!と、叩かれる扉は開く気配がない。

それどころか、私が知ってる名前が叫ばれてることに疑問が出てきたのだ。


(一平さんや藤沼さんを知ってる・・・?この家の人・・・?)


1年近くはお世話になってるけど、私が知らない人がいても不思議ではない。

なぜなら何年も帰らずに仕事をしてる人がいると聞いたことがあったからだ。


(そういう仕事の人が帰ってきたのかな・・・でもそれなら圭一さんが知ってるはず・・・)


圭一さんに聞いた方がいいと思った私はそっと扉から離れた。

連絡しようと思って、スマホを置いてあるベッドに上がり、手を伸ばす。

するとその時、下腹部に激痛が走ったのだ。


「いぃぃっ・・・・!」


久々の生理だから腹痛は仕方がないと思っていたけど、まさかここまで痛みが来るとは思ってなく、私はベッドに倒れ込んだ。

浅い息を繰り返しながら痛みを逃し、収まってくれるのを待つ。


「はぁっ・・・はぁっ・・・・」


幸いにもスマホを取ることができた私は、痛みに耐えながらロックを解除した。

そして圭一さんに電話をかけようとしたとき、私のすぐ近くでさっきの男の人の声が聞こえたのだ。


「お前・・・誰だ・・・?」

「!?・・・いぃ・・・っ。」


振り返ろうにもお腹が痛すぎて振り返れない。

今、この男の人が何をしようとしてるのかわからず、私は恐怖に押し潰されそうになっていた。


(部屋に入ってきた音なんて聞こえなかった・・・・)


誰が入ってきても『ガチャ・・』という音が聞こえてきていたのに、今回は何も聞こえなかったのだ。

そのことからこの男の人が『侵入』に慣れてるのか、はたまた泥棒に慣れてるのか・・・


(どうしよう・・・私、殺される・・・?)


パニックになりそうな状況下に、収まらない腹痛。

私は自分の腕でお腹を抱え、膝を曲げて痛みに耐えた。


「はぁっ・・はぁっ・・・」

「・・・。」


助けを求めたい圭一さんは今いない。

いろいろ考えることがありすぎてもうどうすればいいのかわからなくなった時、ふと私のお腹が温かくなったのだ。


「え・・・?」

「何の腹痛だ?薬は無さそうだし、温めたらマシになるタイプ?」

「え・・?あ・・・?」

「腹が冷え切ってるじゃねーか。だから痛くなるんだ。」


そう言ってこの男の人はベッドに腰かけ、私のお腹と背中に手をあてて温め始めたのだ。


「????」


よくわからない状況に困惑してると、廊下のほうからバタバタと誰かが走ってくる音が聞こえてきた。

その音はどんどん近づいてきて・・・・


「柚香・・っ!!無事か!?」


そう言って部屋に飛び込んできたのは圭一さんだったのだ。


「け・・・・」

「!?・・・柚香から離れろ!!」


そういうと同時に圭一さんは内胸ポケットから銃を取り出してこの男の人に向けたのだ。

それと同時にこの男の人は私のお腹と背中から手を離し、両手を挙げてベッド側の壁に立った。


「・・・俺は何もしてません、組長。」

「おまっ・・・陽太!?なんで家に・・・・」


圭一さんが言った名前に、私は過去の記憶を引っ張り出した。


(陽太さんって・・・確か茉里奈さんと一緒にお金を持ち逃げしたっていう・・・)


確か『陽太』という名前だったことを憶えてる。

圭一さんの喋り方や、この男の人の話し方から考えても、二人は知り合いだ。


「組長、6千万用意しました。前に稼いだ2千万と合わせて8千万。持ち逃げしようとした金、お返しいたします。」

「・・・。」


8千万という金額は、まさにあの持ち逃げ事件の金額だ。

この人は茉里奈さんと一緒に圭一さんを裏切った・・・陽太さんらしい。


「・・・柚香、動けるか?こっち来い。」

「う・・うん・・・・」


突然の事態に痛みがどこかに吹っ飛んだ私は、ゆっくりベッドから下りて圭一さんのところへ行く。

圭一さんは変わらず陽太さんに銃を向けていて、空いてる手で私の体をぎゅっと抱きしめた。


「こっち向け。変な動きしたら即撃つ。」

「わかってます。何もしません。」


陽太さんは両手を挙げたままゆっくりと振り返った。

初めて見る陽太さんは、背がものすごく高く、それでいてガタイのいい人だった。

ツンツンと短髪な髪型からヤンチャなイメージが思い浮かぶけど、『裏切る』ような人には見えなかったのだ。


「・・・金は?」

「食堂に置いてあります。」

「何しに来た?外での受け渡しも可能だっただろ?」

「それは・・・」


陽太さんは両手を挙げたまま、ゆっくり・・ゆっくり・・・床に膝をつきにいった。

そして挙げていた手も床につけ、頭も床に擦りつけるようにして土下座をしたのだ。


「・・・誠に自分勝手だと思っておりますが、また・・組長の下に置いてもらえませんでしょうか。」

「・・・は?」

「組長の温情により、破門されましたが、二度目は首が飛ぶ覚悟です。どうか・・・」

「----っ!!ふざけるな!!二度と面を見せるなと言っただろ!!」

「存じております!言い訳は何もいたしません!命を懸けて・・一条組に尽くします!!」


土下座をしたまま話してるからか、大きい声が床に反射してさらに大きく聞こえる。

体の底から出すような声に驚き私は思わず圭一さんの服をぎゅっと掴んでしまった。


「・・・・藤沼!」

「はい、ここに。」

「外の木に括っとけ!!」

「はい。」


どこからともなく現れた藤沼さんは、土下座してる陽太さんを起こし、背中側で両手を組み留めて部屋から出て行った。

その姿が見えなくなってすぐ、圭一さんは銃をポケットにしまった。


「柚香、悪い・・怖かったな・・・。」


そう言って私の体をぎゅっと抱きしめてくれた圭一さん。

その逞しい腕に少し安心できたものの、この後のことが気になって仕方ない。


「ね・・ねぇ・・・どうなるの・・・?」

「・・・わからない。ちょっといろいろ調べてみる。」

「調べるって・・・・」

「柚香は気にしなくていい。体調を回復させることを優先させて?」

「う・・うん・・・」


圭一さんは私をベッドに寝かせ、また部屋から出て行ってしまった。

耳をすませば、怒号のような声が微かに聞こえる。


(内容までは聞こえないけど・・・多分さっきの陽太さんの発言とかのことで揉めてるんだよねぇ・・。)


もう一度組に入りたいと言っていた陽太さん。

圭一さんは何よりも『裏切り』を嫌うことから、きっと簡単には了承しないだろう。


(それにしてもどうして『戻りたい』なんて言い出してきたのかな・・。)


何か真意があるのか、それともただ戻りたくなってきたのか、その辺りを『調査する』のだろう。


(きっと・・・どうするのかは教えてくれるよね・・・。)


そう信じ、私はずっと眠っていた茶々を抱きしめてゆっくり目を閉じたのだった。




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