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翌日の昼過ぎ。

昨日のことで腰が痛くなってしまった私は、少しぎこちない動きをしながら園田さんと一緒に車に乗っていた。


「どこ行くんですか?」


『出かけよう』とは言われてたものの、どこへ行くかは聞いてなかった。

車の窓の外は高層ビルばかり見える。


「まぁ、相談・・も兼ねてるとこかな?」

「?」


よくわからないまま、車は走り続けた。

そして家を出てちょうど30分くらい立った時、車のスピードが落ち始めたのだ。


「もう着くよ。」


そう言われて前を見ると、見事な高さのタワマンがあったのだ。


「へ・・・?」


『ここではないだろう』と思い直すものの、車はタワマンのエントランスに入っていく。

そして入口の前で園田さんは車を止めたのだ。


「着いたよ。」

「~~~っ・・・た・・タワマンにご用ですか・・・?」


どう考えても縁遠い場所に驚きながら車を降りると、タワマンの中からコンシェルジュが出てきたのだ。


「お待ちしておりました、園田さま。ご案内いたします。」

「あぁ、頼む。この子が使うから、説明は全てこの子に。」

「承知いたしました。」

「!?!?」


園田さんにぐぃっと背中を押され、私はコンシェルジュの人の少し後ろをついて行かされることになってしまった。


「えー、お部屋は25階の最高層になります。エレベーターは専用のがございますので、そちらをご利用くださいませ。」

「最高層!?」

「左様でございます。お仕事場を探されてるとのことで、全てご準備は終わっております。」

「え?準備って・・・・」


コンシェルジュの人について25階に行くと、そこは一部屋しかない階だった。

エレベーターを降りてすぐにある玄関扉に、コンシェルジュの人がカードキーをかざしてる。


「どうぞご覧くださいませ。」


開けてくれた扉をくぐると、中はとてつもない広さだった。

幅の広い廊下に、ゆったりしたリビングダイニング。

壁一面ガラス張りになっていて、そこから見える景色は感嘆の息が漏れるほどきれいなものだった。


「すごい・・・」


全てが『白』で統一された家具がもう配置されていて、どれもこれも高そうだ。


「こっちの部屋がメインなんだよ。」

「?」


園田さんに言われてその部屋を覗きに行く。

白い扉のドアノブに手をかけてガチャ・・と、開くと、そこに驚く物があったのだ。


「え・・・これって・・・・」


部屋の中にあったのは大きな机が一つと椅子が一つ。

あと壁の一角に本棚があり、びっしり本が入っていた。

机の隣にある小さな棚には色とりどりの色鉛筆やクレヨンが詰め込まれていて、机の上にはスケッチブックがある。

そしてその机の椅子に座ると視界に入るであろう場所にはトルソーがいくつも置かれていて、まるでここは・・・


「デザインルーム・・・・?」

「そう。今はうちで仕事してるだろう?切り替えも大事かなと思って用意したんだけど・・・どう?」

「どうって・・・・」

「勝手に用意したし・・・気に入らない?」

「!!」


園田さんは私の為にこの部屋を用意してくれたようだ。

確かに今お世話になってるお家は、仕事とのメリハリはつけにくい。

茶々もいるし、いろんな時間に帰ってくる人にご飯を作ったりしてるからだ。


「やっ・・・!ここ、私の収入で支払えないと思うんですけど・・・・」


どう考えてもタワマン最高層の家賃なんて払えそうになかった。

正規の収入は月だいたい50万くらいあることは園田さんに教えてもらったけど、それでも足りるとは思えないのだ。


「いやいやいや・・・え、柚香、勘違いしてない?」

「?・・・何をですか?」

「『支払い』って・・・俺と一緒にいるんだから1円だって払うことはないんだよ?」

「・・・はい?」


言ってる意味がわからずに首を捻ると、園田さんは後ろ手に頭を掻き始めてしまった。


「・・・だから、柚香は財布の存在はいらないってこと。欲しいものはなんだって買ってやる。このマンションだって柚香に買ったんだから。」

「・・・・はいぃぃぃ!?え・・買った!?」

「そう。もう買ってある。ここにある机も椅子も、柚香の仕事道具になりそうなものも家具も家電も買ってあるんだよ。だから柚香の好きに使えばいい。」


私は開いた口が塞がらなかった。


「え・・・ちなみにお値段聞いても・・・?」

「値段?それは・・・ナイショ。」

「----っ!?」

「あぁ、柚香が気に入らないなら別のとこ買うよ?どっか好きな場所でもある?」


そう聞かれ、私は首をぶんぶんと左右に振った。


「めっ・・・滅相もございません・・・!」

「そう?じゃあ他の部屋も見ようか。」

「はい・・・。」


とんでもない買い物をされてものだと思いながら、もう一つある部屋を覗く。

するとそこには大きいベッドと大きいクローゼットがあった。

これもまた白色で統一されてる。


「疲れたら寝たらいい。家に帰って来たくなかったらここで寝泊まりしてもいいし。」

「すごい・・・。」

「あと、クローゼットはここに一つと玄関横に一つあるから。デザインした服は全部送られてくるんだろ?」

「あ、そうですね。細かい調整に入ったりするときもあるんで、試作をいただいてるんです。」

「増えても大丈夫だよ。大きいクローゼットにしといたから。」

「はは・・・・・」


コンシェルジュの人はインターホンの説明や、備え付けの設備の説明、それにコンシェルジュ直通の内線電話なんかを説明してくれ、部屋からでていってしまった。

園田さんと二人きりになってしまい、どうしたらいいのか困ってると、園田さんは私をソファーに誘ってくれたのだ。


「柚香、ちょっと話・・・いい?」

「?・・・はい。」


真っ白でふかふかのソファーに腰かけると、園田さんは胸ポケットから1枚の紙を取り出した。


「柚香の元同棲相手なんだけど、搾取してた分を支払わせてきた。これが合計金額で柚香の口座に入れてある。」


そう言って見せられた紙には、健太の名前と過去1年間に取られた金額が書かれていた。

その合計は341万円。

結構な額を取られていたみたいだ。


「支払ってくれたんですか?健太・・・。」

「回収は本業だからな。」


そう言ってニヤッと笑った園田さん。

一体どうやって支払わせたのかは考えないようにした。

前に一度だけ、園田さんの服が血だらけで帰って来たことがあったから・・・


(人殺し・・・は、してないって言ってたし・・・。)


私が聞くに耐えない言葉をよく使うと教えてくれていたけど、その言葉は聞いたことがない。

きっと私の耳に入らないようにしてくれてるのだろう。


(大事にされてる・・・。)


そうひしひしと感じてると、園田さんは胸ポケットから細長い箱を出してきた。


「あとこれ・・・つけてくれる?」

「?」


一体何かと思いながら箱を受け取り、蓋を開けてみる。

すると中には一粒真珠のネックレスが入っていたのだ。


「ふぁ!?」

「小さめだけど、柚香に似合うと思う。」


園田さんは箱に入っていたネックレスを取り、私の首につけてくれた。

目では見えないけど、手で触ってネックレスの感触を確認する。


「うん。かわいいよ。」

「----っ!みっ・・見てきていいですか・・・?」

「もちろん。」


私はネックレスが見たくて洗面所に向かった。

大きな鏡に映る私の胸元に、小さい真珠が輝いてる。


(かわいい・・・・。)


思いがけないプレゼントをもらい、私も何か返さないとと思うけど・・・何も思いつかない。

それどころか彼はお金で買えるものは全て買えてしまうだろう。


(うーん・・・あ、そうだ。)


一つだけ、ずっと園田さんに『欲しい』と言われていたことを思い出した私は、洗面所から出て園田さんのところに向かった。


「見てきた?似合ってただろ?」


笑顔でそう言う園田さんの前に立ち、大きく深呼吸をする。


「ふー・・・。」

「?・・・どした?」

「えと・・たくさんありがとう。・・・圭一さん。」

「---っ!」


初めて名前で呼び、恥ずかしさ満点の私は両手で顔を隠した。

でもそれは圭一さんにとっては別の効果をもたらせてしまったようで・・・


「無理、嬉しすぎる・・・。」

「へ・・・?」

「かわいい、無理、好き。」

「!?!?」


語彙力が崩壊してしまった園田さんは、私の手を取ってぐぃっと引っ張った。

急に傾いた体にバランスを崩してしまい、私は圭一さんに向かって倒れ込んでしまったのだ。


「ひゃぁっ・・!?」

「ずっと俺の腕にいて。一生守るから・・・。」

「・・・。」


圭一さんはよく『傍にいて』とか『一生守る』とかの言葉を使う。

それは昔、圭一さんを裏切った人がいるからだと、一平さんが教えてくれたことがあったのだ。

そのことが心の傷になってるようで、私が『消える』ことが怖いらしい。


「大事にしてくれたら・・うれしいです。」


そう答えるのが一番かと思い、口にした。

すると圭一さんは私の髪の毛を指ですくい、耳にひっかけた。


「もちろん。大事にする。」

「ふふ。」


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